
LIGHT NOVEL
その日の朝、
どういうわけかティスリは、オレではなく姉妹に矛先を向けてくれたので、オレは事なきを得た。
しかしその後にさらなる事実が判明し、今まさに、オレの部屋で緊急会議なるものが開催されているのだが……
宿屋の狭い寝室に、女性が三人も密集すると……
なんというか……
とても甘い匂いを感じるというか、まるで酒でも呑んだ心地になるというか……
「だから!? アルデの隣に引っ越してきたとはどういうことですか!」
などと妙なことを考えていたら、ティスリがいよいよ悲鳴のような声を上げる。
なぜかと言えば、なかなか自宅に帰ろうとしないローデシア姉妹に、ティスリがしつこく聞いてみれば、なんと、この宿屋に引っ越してきたという。
ローデシア姉妹はこの街が地元だと言うから、自宅があるはずだが……それが借家なのか持ち家なのかまでは聞いていないけど。
借家だったら、もしかして家賃が払えず追い出されたとか? いやけど、この前のダンジョンクエスト報酬で、二人はかなり潤ったはずだが……
などとオレが心配していると、ヒナカがしれっと言っていた。
「いやだって、ティスリばっかりアルデとずっと一緒でずるいじゃん? だからわたしたちも近くに住もうと思って」
そんなヒナカに、ティスリは一喝した。
「意味が分かりません! わたしとアルデは恋人なんですから、常に一緒なのは当然でしょう!?」
ま、まぁ……恋人のフリではあるのだが……
怒っているティスリは気づいていないようだが、面と向かってそう言われると、やっぱりなんだか照れくさいなぁ……
そんなことを考えていたら、ヒナカがオレを見ながら言ってくる。
「アルデは嫌がっているようだけど?」
「そうなのですか!?」
驚くティスリに、オレは慌てて首を振った。
「ち、違うって!? 嫌だなんて言ってないだろ!? ただちょっと照れくさいというか……」
「へぇ〜?」
オレのその弁明に、ヒナカがニヤリと笑みを浮かべる……!
「ふつ〜、恋人関係を照れくさいなんて思わないはずだけどぉ〜?」
ぐっ……し、しまった……!
せっかく演技の勉強をしてきたというのに、思わず言ってしまった本音で早くもボロが出そうだ……!
だからオレは、慌てる内心を押し殺し、習得したばかりの名演技を披露する!
「そ、そんなことないぞぉ〜? い、い、い…………………………………………………………………………………………………………………………としの? 人を? 思えば? 誰しも照れくさくなるものさ!」
オレのその、舞台役者も真っ青になるであろう迫真の台詞に、ティスリとヒナカと、あとついでにソマもしばし呆然としてから……
まずヒナカが言った。
「いま、なんて?」
つぎにソマ。
「都市の人を思う?」
最後にティスリ。
「だからなんで疑問形なんですか!」
まったく持って心外な感想に、オレは顔をしかめた。
「お前ら鑑賞力ゼロだろ?」
「「「アルデの演技力がゼロなのよ(です)!」」」
「なんでだよ!? 舞台役者も真っ青だろ!」
「「「違う意味でそうでしょうね!」」」
う〜〜〜む……
この三人、どうしてこういう意見だけは、まったくもって同じなのだろうか?
「そ、そもそも……」
オレが首を傾げていると、ティスリが話を続けていた。
「アルデは演技なんてしていません。本心だからこそ、むしろ恥ずかしがっているのです。つまりは……わ、わたしを……意識している証拠です……!」
むっ……
ま、まぁ……
そりゃあな……?
ティスリは、誰がどう見たって紛う方なき美少女だし、胸もデカいし脚も長いし、意識するなというほうが無理な話ではあるのだが……
な、なんだろう……
なんでこんなにムズムズするんだ……!?
「やっぱり、アルデは嫌がってるじゃん」
オレがムズムズしていると、ヒナカが呆れ顔で言ってくるので、ティスリはさらにムキになる。
「だから違いますってば!? アルデも! 感情をすぐ顔に出さないでくださいよ!?」
「そ、そうは言われても……」
そもそもティスリだって、めちゃくちゃ焦った感情を顔に出しまくってるし……あの余裕の無さが、ヒナカに勘づかれているんじゃないのか?
いやまぁ……そんなこと言ったら絶対に怒るから言わんけど……
ということでオレが黙っていると、今度はソマがティスリに言った。
「ティスリさんのお怒りはごもっともだと思います。ですからわたしたち──」
そうしてソマは、拳を握って立ち上がる。
「──ただのお隣さんになるつもりはありません! 全身全霊を懸けて、お二人にご奉仕をさせていただきます!」
「聞いてないけど!?」
事前に打ち合わせもしていなかったらしく、ヒナカは大いに驚くも……興奮するソマは止まらない。
「お二人が起きる前に朝食を準備し、日の出と共にお二人を優しく起こし、お二人が朝食を食べているその間に素早くベッドメイキングとお洗濯を済ませて、もちろんパーティメンバーとしてクエストに同行してお二人の身代わりになっては攻撃を防ぎ、帰ってくればすぐさま夕食を作ってお二人をお持てなし、その間わたしたちはお部屋の掃除を──」
「いやいや! そのほとんどは宿屋の人にやってもらえばよくない!? あと身代わりって何!?」
「──そうしてお二人がご入浴の際にはお背中をお流しします!」
「アルデ担当はわたしだからね!」
「だからなんでそうなるんですか!?」
訳の分からんことを言うソマに、嫌だと言っている割に風呂だけは一緒に入ると言い張るヒナカに、相変わらず怒っているティスリに……
これ、いったいどうやって収拾を付ければいいんだろう……?
ローデシア姉妹を自宅に帰さない限り、どうにもならない気がするが……
「もう分かりましたよ!」
そうしてティスリも立ち上がる。
「ならあなた方は、この宿屋で寝泊まりしててください! わたしとアルデは別の宿屋を使いますから!」
そんなティスリに、着席したソマがきょとんと言った。
「え……でもこの街には、宿屋はここしかありませんよ?」
「ならば別の街の宿屋にします!」
すると今度はヒナカが声を上げる。
「この街を出て行くってこと!? ということはまたパーティ解散って話!?」
「違います! わたしの飛行魔法や転送魔法があれば、クエストのときだけあなた方と合流できると言っているのです! これならパーティ解散する必要もありませんよね!?」
なるほど。普通なら、街を行き来するだけで数日かかるかもしれないのだから、そんな非効率なことできるわけないが……
ティスリなら、いともたやすくできるだろうな。何しろうちの村と王都とを一瞬で行き来できるようなヤツなのだから。
そんなことを思い出していたら……ローデシア姉妹がオレを見てきた……!
「アルデさん……そんなに……わたしたちと一緒にいたくないのですか……?」
「せっかくパーティになったのに……そんな、ビジネスライクな感じでいたいってこと……?」
うぐっ……
そ、そんな……
悲しそうな目で見つめられては……
「ま、待て待て。言い出しているのはティスリであってオレでは……」
「わたしたちは、アルデさんの意見が聞きたいのです……!」
「そうだね……もしアルデが、わたしたちと距離を置きたいというのなら……我慢するよ……」
くっ……!?
だ、だから……
そんな泣き出しそうな顔で見つめられても……!
その代わりティスリは……今にも頭から角を生やしそうだし!?
だ、だが……ここは……
「な、なぁ……ティスリ……」
オレは断腸の思いでティスリに言った!
「いや何も、そこまでしなくても……仲間なわけだし……」
「…………!」
オレとしては、ここでティスリがいつもの理詰めでオレを言い負かしてくれるのなら、やむを得ずといった
なぜかティスリは……
言い返してこないだと……!?
「………………わ、分かりましたよ……!」
そうしてティスリは、苦渋に満ちた顔で着席する。
「ですがもし、あなた方が今朝のような所業に出たときは、宿屋変更どころか、パーティ解散も待ったなしですからね!? この約束を守ってくださいよ!」
「も、もちろんです……! わたしのはご奉仕に過ぎませんから!」
「はぁい、守りま〜す! とはいえ合意の上だとどうなっちゃうかな〜?」
「ぜんぜん守る気ないじゃないですか!? ソマさん、また何か曲解しているでしょう! あとヒナカさんは合意じゃなくてもやる気満々でしょう!?」
とまぁそんな感じで、オレたちはこの街の宿屋滞留と相成った。
それにしても、ほんと……
ここんところのティスリは、なんというか聞き分けがいいな。怒りんぼではあるけれども。
いったいどういう風の吹き回しなのか……ちょっと怖くもあるが、でもローデシア姉妹が関わっていないときはすこぶる上機嫌だしな。
今回の件で、ティスリには我慢を強いてしまったようだから、できるだけ、どこかでガス抜きをさせてやろうと思うのだった。
っていうか、ティスリってどうすればガス抜きできるんだろうなぁ?
(つづく?)
Copyright(C) Naoya Sasaki. All rights reserved.