
LIGHT NOVEL
結局、ローデシア姉妹は宿屋に居着いてしまい……
なぜ不満がくすぶり続けるのか?
それは……
「アルデ! おはよう!」
「おはようございます、アルデさん……!」
朝イチから姉妹と顔を合わせる羽目になるので、もうほとんど一つ屋根の下で暮らしているようなものですし……
「ひぃ〜! デッカいカエルが!! カエルが!?」
「アルデさん助けてください〜〜〜!?」
当然クエスト中は同じパーティなのですから常に行動を共にしていますし……
「今日もよくがんばったよね、わたしたち! アルデ、わたしの活躍見てくれた!?」
「ああ、アルデさん……クエストの疲れを癒やすためにもお背中を……」
もちろん帰宅してからも、ずっと姉妹と顔を合わせっぱなしです!
しかも!
「じゃあ、今夜もアルデの部屋に入り浸ろう! ほらティスリも行くよ〜」
「うふふ……なんだか合宿みたいで楽しいですね!」
という感じで、わたしをも巻き込んで、もはやおはようからおやすみまでアルデとわたしと姉妹は常に一緒なのです!
下手をするとこのまま『ゆりかごから墓場まで』なんてことになりかねませんよ!? いや知り合ったのはごく最近ではありますが!
それ以前に、これはもはやハーレム生活では!?
アルデもなんだかんだと楽しそうですし!!
というわけで……わたしは……
不満を募らせるばかりなのでした!
ちりりりり〜ん……ちりりりり〜ん……
っと、思わず自室で七転八倒しそうになっていた夜、ふいにベル音が響きます──わたしの脳内だけで。
(こ、これは……守護の指輪の通信魔法!?)
当然、ラーフルその他の通信魔法は着信拒否をしていますから、だとしたら残るはローデシア姉妹か……それとも……!?
(も、もしもし?)
(あ〜、ティスリか? オレだけど……)
アアア、アルデ!?
まさかアルデから通信してきてくれるなんて!?
いったい全体どうなってしまったんでしょう!?
そもそもアルデから通信してきたことなんて……初めてではないですか!?
ですがわたしは、その内心の動揺は悟られないよう冷静に答えます!
(ど、どうかしたのですか? アルデが通信魔法なんて珍しい……というより初めてですよね?)
(ああ……そうだっけか? 普段使っていないと忘れがちだからなぁ……)
それはアルデが鳥頭だからでは──というまっとうな疑念は思いっきり飲み込みました!
(そ、そうですか……それで、滅多に通信してこないアルデが、いったいどうしたのですか?)
(いやまぁ……なんというかだな……)
こ、これは……もしかすると……
特に用事はないけれど、でもわたしの声が聞きたくて……ということでしょうか!?
そもそも、その手の叙情詩の場合は手紙のやりとりなのですが、気軽に通信が使える環境であれば、そのほうが合理的ですし!
だとしたら、さきほど言ってしまったわたしの質問は逆効果かもしれません……!
(あ、あの……アルデ? 特に用事がないのなら、それでもいいのですが……)
(え……?)
(い、いやあの……このまま雑談するのでも構いませんよ……!?)
(そうか? けどもう時間も時間だしな……)
ふと時計を見ると、確かに午前零時を回っています。最近は、姉妹のせいで時間を無駄に消費することが多くなったので……
いえ、アルデとの時間は無駄ではないのですが、そこに姉妹が入ると無駄になりがちというか……
だって余計なのが二人もいたら、アルデとおしゃべりできる時間が減ってしまいますし……!
だからちょっとでもこうしてお話ししていたいのに……アルデは用件を切り出してしまいます。
(実はさ……姉妹のことで、お前には何かと迷惑かけてるんじゃないかと思ってな)
(ええ、それはまったくその通りです。いつ何時もわたしたちに付きまとわれるようになってしまいましたから、どうしたものかと)
(いやあの……そこは『そんなことありませんよ』という場面では? 社交辞令だったとしても……)
(ですが事実ですし)
それに少しは、アルデにも自覚してほしいですし。わたしがどんなに寂し──いえ迷惑な想いをしているのかを!
(そ、そうか……ならなおさらなんだけどさ)
(ええ……?)
(次の休みにでも、姉妹を巻いて遊びにでも行くか?)
(……ええ?)
そしてわたしの思考は、ぱたりと止まりました。
* * *
ここ最近のティスリは、猛烈に、
人の機微に聡い
とにかくティスリは、あの姉妹のことになると目くじら立てるからなぁ。それがなんでなのかは未だによく分からんが。
そもそも姉妹が宿屋に引っ越してきたとき、ちょっとはティスリのガス抜きが必要かもしれん、と思ってもいたのだ。あれからしばらく経って、そのガスがいよいよ堪りに堪っている様子だったから、オレはその提案をした。
だがティスリの言うとおり、このところ、姉妹とずっと一緒だったから話を切り出せなかったのだ。ティスリの部屋を訪問しようにも壁が薄いこの宿屋ではバレそうだし、オレの部屋から出て行くときに呼び止めてもダメだろうし。
そこでオレは、守護の指輪の通信魔法を思い出したわけである。
それにしてもあれだな……あの通信魔法って、あんなにこそばゆかったのか……
面と向かってなら普通に話せているというのに、どういうわけか通信だとなんだか妙に照れくさくなる。なんでだ?
いずれにしてもオレはガス抜きの話をして、ティスリはどうしてか激しく驚いていたようだが、最終的には了承した。了承というか快諾だった。
ということでクエストを休みにしたその日、まずティスリが姉妹に言った。
「わたしたち、今日はこれから二人っっっきりでデートをします」
「はぁ!?」「えぇ!?」
ティスリのその宣言に、ヒナカとソマが大いに驚く。
「ちょ、なんで二人っきりなのよ!? わたしたちも連れてってよ!」
「そうですよ……同じハーレム仲間じゃないですか……!」
「パーティ仲間ですよ!? ハーレムではありません!」
ソマが巧妙に仲間の定義を言い換えるも、賢いティスリには通じなかった。
「だいたいわたしとアルデは……こ、恋人……なのですから、休日に二人きりでデートするのは当然なのですよ!」
「ねぇ……なんでティスリとアルデは、ちょいちょい『恋人』を言い淀むの?」
「き、気にしないでください!?」
どうやらティスリも、未だに恋人のフリは照れくさいらしい。ならあんまりオレのことを責められないと思うが……
「とにかく! わたしとアルデは、別の街まで飛んで行って、そこでデートしますから! あなたたちは連れて行きませんからね!?」
「くっ!? そんなのおーぼーだ! 待遇改善を要求する!」
「置いていかれてしまっては……わたしたち、ショックのあまり身売りするしか!?」
「プライベートに待遇改善は関係ありません! あとソマさんのそれはもはや脅迫ですからね!?」
などと十数分は言い合っていたのだが……
埒があかないと悟ったのか、ティスリがオレの手を取った。
「もう! 付いてきたいのなら、いっこうに構いませんよ! わたしの飛行魔法に付いて来られるのならばですが!」
「ひ、ひどひ!? わたしたちが魔法で敵わないことを知っててそれ言う!?」
「ああ……愛しの人を目の前で略奪されるなんて……ご褒美ですか!?」
「悔しいなら精進してくださいっていうかご褒美ではないです!」
と、そんな感じで……
オレとティスリは、身支度もそこそこに、ぴゅーっと宿屋を飛び出してしまう。
文字通り飛行して。姉妹の声もみるみるうちに消えていった。
「ふぅ……まったく……あの姉妹は本当にわがままなのですから……」
飛行中、そんな感じで愚痴るティスリだったが、でもどこか楽しそうでもあった。
ということで、オレとティスリは、元の街よりそこそこ大きい街へと到着する。すでに冒険者の身分もあるから、出入口での検問もあっさり通ることができた。
「さてと……それでは………………ああ、あそこの広場がちょうどいいです。あそこで待ち合わせをしましょう」
街に入ると、ティスリが妙なことを言ってきたのでオレは首を傾げた。
「は? すでに一緒にいるのに待ち合わせって、なんで?」
するとティスリは、ちょっと頬を赤らめて言ってくる。
「こ、こういうのは……手順というものが重要なのですよ。だいたい姉妹から逃げるように飛んできたのでは気分台無しですし」
「ふむ、そんなものか。なら分かったよ」
まぁこれも恋人勉強の一環なのだろう。恋人関係というものは、しきたりみたいなのがたくさんあるらしいからな。
ということでオレたちは、一時間後に広場で落ち合うことになった。
その間、オレは軽食を食べたり、街をぶらぶら見て回る。
姉妹の地元より大きな街なので、その大通りもひっきりなしに馬車が走っていた。道行く魔族も大勢いてなかなかに活気がある。相変わらず建物の屋根は尖塔が多くて、その先端には丸っこいオブジェが着いているのは、最近では見慣れた風景になっていた。
そんな様子を見て回ってから広場に戻ってくると、その数分後、ちょうどティスリも戻ってきて、小走りでこっちに──
──って?
あれ? アイツ……衣服が替わってないか?
そのティスリは、ちょっと息を弾ませながら言ってくる。
「お、お待たせしました……思ったより時間がかかってしまって……」
「いや、オレも今来たところだから構わないけど……お前、なんか服が替わってない?」
「あ、えっ……き、気づいたのですか……?」
いやまぁ……そりゃあ気づくだろ? 一時間前と服装が違っていれば……
不思議な気分になっているオレはさらに指摘する。
「それに髪型も違うし……」
「ええっ……わ、分かるのですか……!?」
「いやそりゃあ……髪の毛がアップになってるんだし……」
「そ、そうですか……アルデには気づかれないものとばかり……」
「いやおまいさん、オレのこと馬鹿にしすぎでは?」
「そ、そういう意味で言ったのではないですよ……!」
間違い探しゲームだって、こんな分かりやすく変わっていたらそりゃ気づくだろ。いったいティスリは、何を考えているのやら……
それに、なぜかもの凄く嬉しそうだし……
………………ま、まぁ、いっか。
なぜ喜んでいるのかは分からないけれど、今日はティスリのガス抜きなんだし、本人が楽しそうならば。
そうして二人で歩き始めたら、ティスリが言ってくる。
「ちょうど、アルデが好きそうな演劇が開催されるそうなのです。午後からとのことなので、今日はそれを見に行きましょう」
「そういえば、演劇を見る約束もしてたもんな」
「ええ、そうですよ」
「しかもわざわざ調べてくれたの? この短時間で?」
「た、たまたまですよ……!? 服飾店の店員さんにたまたま聞いたら、たまたま答えてくれただけですから!?」
「それってたまたまじゃなくって、わざわざというのでは?」
「そ、それはいいですから!? 気にしないでください……!」
そんな感じで、ティスリは終始浮かれっぱなしだった。
そんなティスリを見ていると……
な、なんだろう……
なんだかもの凄く、くすぐったい気分になるな……!?
だがしかし。
これも恋人勉強というのであれば……
この前の勉強結果を見せねばなるまい……!
ということでオレは、ティスリの手を取った!
「……!?」
「な、なんだよ……お前がそうしろって言ったんじゃん……」
「そ、そうですが……!?」
「いやなら離すけど?」
「い、いいですこのままで! ぜんぜん嫌じゃないですから……!?」
と、そんな調子で……
その日、ティスリは非常に上機嫌だった。
(ここ最近は、ずいぶんと我慢させてたみたいだし、楽しめているみたいでよかったわ)
それに、ティスリの笑顔を見ていると……
こっちまで嬉しくなるのだから……
ほんと、不思議なもんだな。
(第10巻につづく!)
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