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孤高のクーデレ王女がご執心!? オレは王城追放の平民なのに、なぜか二人っきりで逃避行!Vol.10

孤高のクーデレ王女がご執心!? オレは王城追放の平民なのに、なぜか二人っきりで逃避行!Vol.10

魔族の帝国でS級冒険者へと昇格したアルデとティスリ一行に、皇族から叙勲式の召見が舞い込みます。

舞台はヴァルザーク帝国の帝都。叙勲式や晩餐会、派手な凱旋パレードなどなど……イベントがフルコースで降ってきます!

そうして満を持して現れたのが、帝国の第一皇女・オフェルテ!

輝く金髪に勝ち気な笑み、一人称は『妾(わらわ)』というこのワガママ皇女、なんと初対面からアルデにご執心で……!?

そんな状況を見てもいないティスリは、野生の直感なのか胸騒ぎをビシバシ感じとっていよいよ収まらず、独占欲もマックスへ。果たしてアルデは、この大舞台を無事に乗り切ることができるのか!?

ちなみにソマとヒナカは『とっても恥ずかしい姿』で叙勲式の余興を盛り上げます!

ハーレムバトルがいよいよ国家規模へ拡大する、ぼっち王女の異世界ラブコメ第10弾! ぜひご一読くださいませ!

試し読み

第1話 むしろお二人には、このパーティに残ってもらわねば困ります

「皇族からの召見しょうけんですか……これは困りましたね」

 神威竜しんいりゅうを手懐けてから数日後、アルデオレ達は早くもS級に昇格することが決まった。

 神威竜の件や、その後に領主の息子……名前は忘れたが、とにかくそいつの逮捕もぜんぶティスリの功績なのだが、S級はパーティ全体に授与されるという。さらには勲章までもらえるとか。

 だからその叙勲式のために、オレ達はこの国の中枢である皇城に呼ばれていた。ということで宿屋の食堂で、ティスリとオレ、そして一緒の冒険者パーティとして活動しているローデシア姉妹でそのことを話しているわけだが……

 ヒナカが不思議そうに聞いていた。

「なんでティスリが困るの? 皇族に何か因縁でもあるわけ?」

「ええまぁ……わたしほどになると、皇族とも関わりができるのですよ」

「完膚なきまでの自画自賛なのに、ティスリが言うともはや嫌みにも聞こえないのよね……」

「それはそうでしょう、事実を言っているのですから。もし知りたいのなら話してもいいですよ? 深く詮索しないほうがいいとは思いますが、身の破滅を覚悟するというのならば……」

「い、いいよ!? 貴族の厄介そうな話なんて聞きたくもないから!?」

 ヒナカにも、そして双子の姉であるソマにも、オレ達の素性はまだ明かしていない。なんだかもう隠すことでもない気がしてきたが、これまで話すきっかけもなかったのだ。ふたりとも、オレ達がこの帝国のナントカ領出身だということをすっかり信じているようだし。

 とはいえこちらも、魔族圏であるこの帝国には極秘任務で来ているわけだからな。二人のことを信用していないわけじゃないが、やはりおいそれと国家機密を話すのはよくないのだろう。

 だが……この帝国にきてからこっち、極秘らしい任務はまったくもって一切合切やっていない気がするのだが……そもそもどういう任務なのか、オレ自身、未だによく分かっていないし。

 ティスリは別に隠しているふうでもなく、魔族の文化も調査対象だとも聞いている。だからこうして魔族のソマとヒナカと接しているのも調査と言えばそうなのだが……

 それに冒険者になったところで、魔族側の戦闘能力も把握しつつある。さらにこちらには魔物がいて、その魔物は対人戦と違って、意表を突く攻撃をしてくるから、むしろ魔族より魔物に要注意だというのは大きな発見だろう。

 初心者用ダンジョンで討伐した人面樹とか、もはや訳の分からない存在だったしな。女性を舐め回して養分を取るとか……変態にしか思えん。

 だから情報収集としてはけっこうな収穫があるはずなのだが……今回の極秘任務がなぜこんなにも腑に落ちないのか、本当に謎だ……

 いずれにしてもティスリのことだから、いろいろ考えてのことなのだろう。性格はともかく頭脳だけはズバ抜けているわけだし、オレが理解できないだけなのだと思う……たぶんだけど。

 などと考えていたら、今度はソマが話していた。

「もしかしてティスリさん、皇城に出向かないつもりですか? 召見を受けたのに……さすがにまずいですよ」

「ええ、もちろんまずいことは分かっていますが……」

 極秘任務として、うちの国の王女であるティスリ自らが他国に来ているわけだから、皇族には当然秘密だ。そもそも一国の王女が勝手に他国に来ているなんて、例えそれが観光だったとしてもバレたら大騒ぎだろう。

 だというのに今は任務としてきているのだから、なおさらまずい。皇族ともなれば、ティスリと面識のある連中もいるのだろうしな。

 ということでティスリは、帝国皇族とは顔を合わせたくないのだろうが……

 そのティスリは、しばらくローデシア姉妹を見つめている。そんな視線に姉妹は狼狽え始めた。

「な、なんですかティスリさん……なんだか剣呑な雰囲気を感じますよ……!?」

「ソマさんは、むしろ嬉しいのでしょう?」

「酷い誤解ですが!? わたしが嬉しいのは、アルデさんに足蹴にされることだけですよ!」

「………………別に誤解でもないと思うのですが」

「お姉ちゃんはともかく、何かよからぬ事を企んでいるでしょうティスリは!」

「……………………………………………………………………………………別に?」

「沈黙が長すぎるでしょ!?」

「安心してください。お二人の身の安全は保障します」

「身の安全以外は保障しないってことでしょそれ!?」

「いずれにしても──」

 抗議をする二人を無視して、ティスリは立ち上がった。

「──よい案を思いつきました。アルデ、まずはギルドに行きましょう」

「ん? 行くのは構わないけどギルドで何を──」

 オレがそう問いかけたところで、姉妹が割って入ってくる。

「わたし達にとっては悪い案ですよね!?」

「きっとまたパーティ解散だとか言うに決まってる!」

「言いませんよ、そんなこと」

 そうしてティスリは、肩をすくめてから姉妹に言った。

「むしろお二人には、このパーティに残ってもらわねば困ります」

「ええ!? ティスリさんが、そんなことを言ってくれるなんて……」

「欺されないでお姉ちゃん! 絶対に何か裏があるんだから!」

「あら? わたしを信じられないというのなら解散でもいいのですが……」

「そこまで言ってないでしょ!?」

「とにかく」

 そうしてティスリは姉妹に背を向ける。

「名案の裏付けをするためにも、ギルドに行ってきます。お二人は付いてこなくていいですよ。わたしとアルデがいれば十分ですから」

「ご一緒しますよ……! ティスリさんの名案が気になりますし……」

「そうだよ! わたし達に内緒で何かをされてはたまらないからね!」

 やれやれ……

 コイツらは、相変わらず仲が悪いというか、なんというか……

 別に険悪ってほどじゃあないんだけどな。

 いったいどうして、こんなにソリが合わないんだ?

 そんなことを考えながらも、オレはため息をついてから立ち上がるのだった。

第2話 カリスマというより聖性やら慈愛やら母性やらがありすぎて

 ラーフルわたしは、ヴァルザーク帝都の旅館で、広いスイートルームをウロウロ歩き回っていた。

 なぜならば……

 つい先日、出奔された殿下の手がかりを見つけたからだ……!

 どうやら殿下は、魔族圏のこの帝国に訪れているらしい。その意図までは分からないが……殿下のことだ、間違いなく何重もの意図を張り巡らせているのだろう。魔族圏の中でも、このヴァルザーク帝国に来ていることがその象徴だと思える。

 そんな隙のない殿下の手がかりを見つけられたのは、たんなる偶然に過ぎない。この帝国の第三皇子で大罪人でもあるジハルドを護送するために、わたしはこの地に足を踏み入れたのだから。

 そうして束の間の休暇を取っているとき、さらなる幸運が訪れる。それは噂話の形でもたらされ、その噂とは……

 最近、S級冒険者に昇格するパーティが現れたとか。

 そのパーティの功績は、神話級の魔物である神威竜を封印、あるいは討伐しただとか、はたまたペットにしただとか。

 さすがに、神話級の存在をペットにしたというのは誰も信じていないようだったが……しかし殿下であればその程度あっさりとやってのけるだろう。

 だとしたら、残る問題はその噂が本当なのか誇張なのかということなのだが……そこの真偽を確かめる術はない。

 とはいえ、だ。そのS級授与式──いや今や事態はさらに大ごとになっていて、冒険者の昇級どころか勲章まで授与されるそうだから叙勲式と言った方がいいだろうが、いずれにしてもその式典に参加すれば真偽はハッキリする。

 だから今は、殿下を見つけられることを前提に事を進めるべきだ。この好機を逃すと、わたしはまた殿下に対して後手に回ってしまうのだから。

 そして殿下発見後に問題となるのは、殿下の説得だ。最終的にはアルデから「そろそろ国に帰ろうぜ」と言わせる必要があるが、そのアルデの理解をどうにか得なければならない。

 さらにはその間、殿下をこの場に押しとどめておく必要もある。魔法一つでどこにでも行けてしまえるお方で、その魔法を封じることは誰にもできないのだから、話術でなんとかしなければならないのだ。

 ではそのために最適な人材とは、誰か?

 一人がユイナス嬢で、もう一人がミア嬢だ。

 まずユイナス嬢は、殿下のお気に入りだ。今回、そのユイナス嬢に黙って殿下はアルデを連れ出してしまったのだ。当然、兄を慕いすぎているユイナス嬢は激怒している。

 そんなユイナス嬢が、殿下の前に現れたらどうなるか? しかも唐突に。

 さすがの殿下も仰天するだろうし、ユイナス嬢は烈火のごとく怒るに違いない。殿下はなぜかユイナス嬢に嫌われたくないらしいから、最終的には、またアルデを連れてどこかに行ってしまう、という暴挙はしないはずだ。

 魔法の力では、この世界の誰一人として殿下に敵わないが、この心理戦ならばユイナス嬢が勝てるはず……

 そうして殿下をこの地に引き留めている間に、ミア嬢にアルデを説得してもらうのだ。

 ミア嬢なら、アルデの思考回路は熟知しているだろう(もっとも思考回路なんて存在しなくて反射神経だけで生きているようなヤツだが!)。

 さらにはミア嬢は情に訴えることも上手い(もちろん本人は、政治的な手法でそうしているわけではないだろうが)。

 それにもし、わたしがアルデと対峙したら、これまでの鬱憤を晴らすべくケンカ腰になってしまうことは自覚しているから、だったらなおさらミア嬢が適任だ。

 だがしかし……

(本当に、あんないいコを政治利用なんてしていいのか……?)

 これが、旅館の広いスイートをウロウロしている理由だった……!

 殿下が出奔されてからこっち、わたしはミア嬢と度々会食するようになっていた。最初のきっかけは、スキーリゾート地で色々あったから、その事後処理と覚悟の確認だった。

 なんの覚悟を確認したかったのかと言えば、「あの殿下を相手に、本当にアルデを賭けて闘うつもりなのか?」という覚悟だった。

 だから最初の会食時では、わたしは実に姑息にも、ミア嬢を利用する気満々でいた。

 そんなわたしに、ミア嬢はなんの迷いもなく「諦めたくない」と言ったのだ。

 その真摯な覚悟を前にして……わたしは心が洗われる思いだった……

 だからそれ以降、わたしは時間を見つけてはミア嬢と会食するようになり、最近では守護の指輪の通信魔法で度々話し合うようになっていた。

 いや、話し合いなんておこがましいな。貴族連中の毒に冒されて薄汚れたわたしの懺悔を聞いてくれて、いや聞くどころか浄化してくれたというか……!?

 その懺悔のたびにわたしは「こんな純真無垢な人間が存在するのか……!?」と心が洗われるのだから!

 ミア嬢はとても素直で、真面目で、一途で……おまけに容姿も抜群だ。着飾った貴族でも、あそこまで美しい人間はまずいない。そもそもあの美しさは内面を反映してのことだから、権謀術数を張り巡らせる貴族には到底真似できない気品なのだ……!

 王侯貴族でも、外面内面問わずミア嬢に対抗できるのは殿下だけと言ってもいいだろう。だからこそ、わたしはミア嬢を利用しようとしたわけで……!

(いや、だが待て……利用するという下心があったとしても、だ……)

 そもそもミア嬢に殿下の行方を知らせないのは、それはそれで不誠実ではないか?

 ここしばらくずっと、わたしはミア嬢の世話になりっぱなしだった。もしミア嬢がわたしの懺悔を聞いてくれなかったなら、下手をしたら国政の舵取りを誤って、またぞろ内乱勃発していたかもしれないのだ……!

 だというのにこの情報を伏せるというのは……酷すぎるだろう。

 なぜならミア嬢が最も望んでいることは、アルデとの再会なのだから。

 そしてそれは、殿下の行方が分かれば必然的に叶う望みでもある。

 しかもミア嬢は、それ以上に望んでいないのも……いい。実にいい。

 殿下とアルデの仲を引き裂きたいとか、アルデを独占したいとか、そういったことは一切言わないし、おくびにも出さないし、本気で考えてもいないようなのだ……! これが貴族だったら手練手管を使ってなんとしてもアルデを手中に収めるだろうに!

 あのような無辜の臣民には、ぜひとも幸せになってほしいと切に願う。

 だからミア嬢の幸せを願う身としては、殿下の行方は知らせるべきだ。

 しかしそうなると……結果的にミア嬢を政治利用することになってしまう……なぜなら殿下は王女なのだから!

「くっ……もはや考えていても埒があかない……!」

 気づけば夜の九時を回っている。これ以上迷っていたら、時間帯としても迷惑になってしまう。

 だからわたしはやむを得ず、通信魔法の回線を開く。

 数コール後、ミア嬢が出たようだった。

(はい、ミアです。ラーフル様ですか?)

「ああ、わたしだ……その、すまないな。最近は毎日のように連絡してしまって……」

(うふふ、ぜんぜん構いませんよ。最初の会食時はさすがに緊張してしまいましたが、最近は楽しいくらいです)

「そうか……それは助かるよ……」

 うう……本当にいいコだ。彼女はいつも、適切なタイミングで一番欲しい言葉を言ってくれる。本当に、ただの村長補佐だったのか? きっと司教とかになれば信者が激増すること間違いないだろうな……

(ラーフル様、旅先ではいかがですか? 確か今日は、帝国との初交渉だったんですよね?)

「覚えていたのか?」

(もちろんです。先日聞いたばかりですし……あ、もしかして、聞かなかったことにしたほうがよかったですか……!?)

「いや、そんなことはない。ちょっと驚いただけだ」

 まさかわたしの雑談を覚えてくれているなんて……彼女は頭脳も非常に明瞭だな。それになんだかちょっと嬉しいし……

 なぜ喜びが込み上げてくるのかはよく分からなかったが、ひとまずわたしは話を続けた。

「その交渉会議だったんだが、実は初日で話がまとまったよ」

(そうなんですか!? おめでとうございます! ラーフル様の手腕には驚くばかりです)

「世辞はやめてくれ……」

(お世辞でもなんでもありませんよ! 本当に驚いているんですから!)

 面と向かっていなくても、ミア嬢が素で驚いていることがよく分かる。これが貴族相手だったら、何を企んでいるのかと勘ぐらねばならないところだが、ミア嬢にはそんな詮索は一切不要だから、だからわたしは単純な喜びを感じているのかもしれないな。

 それでリラックスしてしまったわたしは、むしろ意地悪な質問をしてしまう。

「どんな結果になったか、ミア嬢には分かるか?」

(え、ええ……!? えっと……分かりません。わたしは一介の臣民に過ぎませんし……)

「そんなことはないだろう? 一介の臣民ならば、序列一位であるテレジア家の臣下になんてなれないしな」

(そ、それは……たまたまリリィ様と知り合えただけで……それだって殿下が導いてくださったから……)

「そうは言っても、実力がなくては召し上げられることはないさ。その実力をもって、交渉の顛末を予想していただきたいな」

(うう……今日のラーフル様は、ちょっと意地悪です……)

「ふふ……すまんすまん」

 ああ……なんだろう……

 最近はもはや、ミア嬢のいろんな声を聞くだけで心がなごむ……

 ……………………もしかして、ミア嬢の声質には麻薬的な効力が?

 などと馬鹿なことを考えるのはこの辺にしておかないと。きっと、この先の話を切り出したくないから先送りにしているだけなのだ。

 ということでわたしは、いよいよ本題を切り出すことにした。

「実はな……最近、この帝国には英雄というか女傑が生まれたそうなんだ」

(英雄……ですか?)

「ああ……歴史に名を刻むほどの偉業を成し遂げたという。そしてその叙勲式が近々ある。今回の引き渡し条件は、叙勲式への参加と、その英雄との面会ということにしたのだ」

(参加と面会……? 殿下の暗殺を企てたという話でしたし、それはあまりに軽い交渉条件だと思うのですが……でもそうではないんですよね?)

「もちろんだ。なぜならその英雄に面会できることこそが、最大の国益になるかもしれないのだからな」

(国益に……? ………………そ、それはまさか!?)

「さすがに察しがいいな。そのまさかだよ」

(その英雄様は……で、殿下なのですか!?)

「まだ決まったわけではない。しかしその功績を聞くにつれ、それが本当だとするならば殿下以外には考えられないのだ……」

 そうしてわたしがその英雄の功績を列挙すると、ミア嬢も理解したようだった。

(確かに……神話級の存在を手懐けるなんて……殿下以外にあり得ないですね……)

「ああ、そうなのだ。もちろんその噂が誇張されている可能性もあるが、だからこそ確認したい。それには叙勲式がうってつけだ。だが敵対寸前でしかも魔族の帝国に、人類側の王族代理人は普通参加できないからな。それを交渉材料としたわけだ」

(なるほど……そういうことでしたか……それならば納得です)

「それで、なのだが……」

 そうしてわたしは生唾を呑み込んでから……いよいよ覚悟を決めて話し始める。

「殿下が見つかった場合、まず間違いなく、アルデも見つかるわけだが……」

(…………!)

「今のわたしなら、ミア嬢をこちらに召致するだけの権限がある」

(え……!?)

「ミア嬢は、アルデと再会したいだろうか?」

 くそ……また貴族のよくないところが、無意識に……!

 こんな言い回しをしたら、ミア嬢なら間違いなく……

(も、もちろんです! 今すぐにでも会いたいです!)

 わたしの予想通り、ミア嬢は即座に肯定してきた。これでは誘導尋問ではないか……

 だからわたしは、取って付けたかのように言葉を続けた。

「だが、王族代理人としてあなたを召致するということは、必然的に、あなたを政治に巻き込むことになってしまうんだぞ……?」

(もちろん承知しています! むしろわたしがラーフル様のお役に立てるなら本望です……! しかもアルデに会わせてくれるのですから、後悔なんてしようもありません!)

「本当に……いいのか? このやりとりだって、わたしが望む方向に誘導しているわけで……」

 猛烈な後ろめたさを感じて、わたしはついそんなことを言ってしまう。

 もちろんその答えも、わたしは分かっているというのに……

(ぜんぜん構いません。むしろ、こうやってわたしを気遣って、お心を痛めていらっしゃるラーフル様のほうが心配ですよ。どうか、わたしなんて気にせず、国のためになることをなさってください)

「…………!」

 くっ……!

 そんなことを言ってくれることが分かっているのに、どうしてこうも……

 救われた気分になってしまうのだろう!?

 いやもう本当に、彼女は司祭になるべきでは!? けれども彼女を司祭にしたらカリスマというより聖性やら慈愛やら母性やらがありすぎて熱狂的なファンというか狂信者が続出するかもしれない!?

 とにかくわたしは、そんなミア嬢に……礼を述べるしかなくなっていた。

「あ、ありがとう……この大恩はいつか必ず報いるつもりだ……!」

(大恩なんて、そんな……むしろお礼を言いたいのはわたしのほうですよ?)

 と、そんな形で……結局わたしは……

 ミア嬢の慈愛に縋る形で、彼女を召致することにした。

 渡航方法も、すでに帝国側と話を付けていて、帝国の転送ゲート網を借りることになっている。転送魔法士はかなりの人数が必要になるが、それはこちら持ちだ。転送ゲートを中継していけば、ミア嬢は数日以内にこの帝都に来ることができるだろう。

 殿下なら一人で一瞬なのだが、並みの転送魔法士では魔力が足りないから大人数で中継するしかないのだ。

 そんな段取りを伝えたあとは雑談が始まって……気づけば午前零時を回っていた。だからわたしは、名残惜しさを感じつつも通信を終えた。

 その後にシャワーを浴びて就寝しようとしたところで……思い出す。

(あ……しまった。ユイナス嬢に連絡するのを忘れていたな……)

 ミア嬢のことで頭がいっぱいになっていたせいか、本当にすっかり忘れていた。時間も時間だから今から連絡するのは非常識だろうし……

(そもそも、ユイナス嬢とは大して面識もないし、わたしが直接連絡するのははばかられるな……)

 だとしたら……ユイナス嬢はリリィ様と懇意にしているし、テレジア家経由で約束を取り付けるか。明日にでもその手配をしておこう。

 いずれにしても、ユイナス嬢も政治利用することになってしまうが……

 そこは不思議なもので、なぜかまったくもって罪悪感を覚えない。

(まぁユイナス嬢の場合は、なぜか王侯貴族のウケがいいからな……政治に巻き込まれても、殿下やリリィ様が全力で守るだろうし。あるいは彼女の性格か……まぁいいや……)

 ということで、ようやく肩の荷を下ろせたわたしはまどろみ始めるも……

 その中でも、今回の幸運を噛みしめる。

 とにかく、今はあの殿下に先手を打てるかもしれない千載一遇の好機──いや千の千乗に一遇くらいの好機なのだ。

 なぜならこれは、本当にただの偶然だからだ。つまり意図が介在していないので、殿下が気づけるはずもない……はず……

 いやしかし、あの殿下のことだ……幸運の女神の采配すらも、自らの実力で打ち破るのか……

 だからといって……この好機を見過ごせるはずもなく……

 わたしは……ウダウダ考えながら眠りについていた。

第3話 なんだか……懐いてくる大型犬のようですね……

 S級昇進の知らせを受けてから数日後、ティスリわたしは、アルデとローデシア姉妹オマケを伴って帝都へとやってきました。

 そうしてその帝都へと続く街道で、ソマさんがぽかんとしながら言いました。

「相変わらず、ティスリさんの飛行魔法は凄いですね……わずか小一時間ほどで帝都に到着するんですから……」

「馬車に揺られての長距離移動は疲れますからね。効率的でしょう?」

「いや……普通は飛行魔法のほうが疲れるんですが……」

 そんなことを話していると、ヒナカさんが街道前方に視線を向けてため息をつきました。

「早く到着したのはいいけど……さすがは帝都、すっごい待ち行列だよ。あれじゃあ入れるのは、何時間後になることやら……」

 わたし達はあまり目立たないよう、帝都からけっこう離れた場所に着地したのですが、それでも長蛇の列が見えます。入都審査を受けているのでしょう。商隊が混じっていることから、タイミングも悪かったかもしれません。

 ですがおそらく、あの行列に並ぶことはないはずなので、わたしは全員に向かって言いました。

「皇族からの招待状があるのですから、門番兵に見せてみましょう。それで通してくれるはずです」

 しばらく歩いて行列の最後尾に到着したわたし達は、そこにいた門番兵に招待状を見せました。

 その直後、門番兵は目を見開きます。

「こ、この招待状は……!?」

 門番兵はすぐ状況を理解したのか、わたし達に最敬礼を送ってきました。

「お待ちしておりました! もちろん入都審査は不要ですので、こちらへどうぞ!」

 どうやら連絡は行き届いているようですね。指示系統は統制が取れているのでしょう。

 ということでわたし達は、行列から外れて城門へと案内されます。するとヒナカさんがつぶやきました。

「お、おお……この特別感……なんだか癖になりそう……!」

 さらにソマさんが聞いてきました。

「ティスリさん、この手の対応にお詳しいんですね。わたし達では、招待状を見せるなんて思いつきませんでしたよ?」

 確かに、皇族からの招待状なんて普通は受けとらないでしょうし、それが通行証も兼ねるなんて思い至らないかもしれませんね。

 だからわたしは頷いてから答えました。

「先日も言いましたが、王侯貴族には関わりがありますからね。とくに今回は皇族の家紋入りですから、通行証や身分証代わりになるのですよ」

 するとアルデが思い出したかのように言いました。

「ああ……そういえば前にリリィが、家紋入りのペンダントを見せただけで周囲がひれ伏してたもんな」

「ええ。国によって効力に多少の違いはあるでしょうけれども、だいたい同じ効果だといっていいでしょう」

 そんなことを話していたら、ヒナカさんが意外そうな顔をアルデに向けます。

「え……? アルデも、貴族に知り合いがいるの……!?」

「ん? ああ……そうだな……」

 そこでアルデはチラリとこちらを見てきます。身分を隠していることを気にしてのことでしょう。

 わたしとしても、もうそんなに隠さなくてもいいと思っているので、小さく頷くと、アルデは話し始めました。

「知り合いと言えば知り合いかな? オレの妹が、妙にその貴族と仲がよかったりするぞ」

「ま、まじで……? いやアルデに妹がいるってのも初耳だし、その妹ちゃんとも仲がいいって……家族ぐるみってこと? アルデって平民なんだよね……?」

「おお。紛う方なきただの平民だぞ。ひょんなことから知り合ってなぁ」

「どんなひょんなのよ、それは……」

「えーっと……」

 そうしてアルデはまたわたしを見てきます。

 なんだか……懐いてくる大型犬のようですね……

 ですがわたしが何かを言う前に、アルデの視線に気づいたヒナカさんが声を上げました。

「あっ! もしかしてティスリ絡み!? ならいいから! 余計な話は聞かないことにしているので!?」

 なんだか、ヒナカさんを必要以上に警戒させてしまったようですが……まぁ今はよしとしておきましょう。

 どちらにしろ、王侯貴族とはのちのち嫌というほど関わることになるのですから……ふふふ……

 わたしがそんな事を考えていたら、わたしの話を聞きたくないヒナカさんが話題を変えていました。

「ねぇアルデ! それより妹ちゃんのことが気になるよ!」

 さらにソマさんも言葉を重ねます。

「そうですね、わたしもすごく気になります……!」

「え……なんで?」

「それはもちろん、好きな人のことは何でも知りたいんだよ!」

「そうですよ! それが乙女心というものなのですよ……!」

「そ、そうか……」

「もう、言わせんなってば!」

「ちょ、ちょっと恥ずかしいです……!」

 などと言いながら、ヒナカさんはアルデの背中をバシバシ叩き、ソマさんはモジモジするもスルーされて喜んでいました。

「………………」

 わたしの少し前を歩くその三人を見ながら……わたしは思います。

(今は我慢するべきです……ここでまたケンカをしては……このあとの作戦に支障が出るかもしれませんし……!)

 だからわたしは、ぎゅっと拳を握り締め、沈黙を守ります……!

 そんなやりとりをしているうちに城門を抜けて──石畳の広場が目の前に開けました。

 入都したばかりの商隊や旅人たちが至るところで談笑などをしていますが、それでも広場には、馬車が何十台も行き交えるほどに広大です。

 そして広場の奥から、一本の大通りがまっすぐに伸びています。三月でもまだまだ寒いこの地方では、外套をまとった人々が絶え間なく往来していました。そんな大通りの両サイドには様々な商店が並びます。

 その大通りは徐々に登り坂になっていき──終着点には、荘厳華麗な皇城がそびえていました。

「うひゃぁ……さすが帝都、すごい広さだね……!」

 感嘆の声を上げるヒナカさんに、わたしは聞きました。

「ヒナカさん達は、帝都は初めてなのですか?」

「そりゃそうだよ。冒険者と言ったって、方々に旅をするパーティは希だしね」

「特にわたし達は二人でしたから、なおさらです」

「なるほど……そういうものですか」

 確かに、職業として考えるなら旅をしてクエストをこなしていくというのは非効率です。依頼がなくなったりでもしない限り、慣れた土地で似たようなクエストを受けているほうが、効率はもちろん安全性も格段に上がるでしょう。

 それに姉妹はパーティメンバーに恵まれなかったとのことですし……だからといってわたしとアルデに付きまとわれては敵わないわけですが。

 でも今はいいです。今回はそれを逆手に取るのですから、この姉妹も役に立つというものです。

 などとわたしが考えていたら、わたし達を案内してくれた門番兵が言ってきました。

「まずは、帝都の旅館・琥珀宮こはくきゅうに向かわれるのがよろしいかと思います。場所は分かりますか?」

 その質問にはわたしが答えました。

「ええ、招待状に地図も同封されていましたので分かります。案内ありがとうございます」

 ということで門番兵とはそこで別れ、わたし達は旅館へと向かいます。

 その道中、街路樹が等間隔に植えられている広い歩道を歩きながら、ソマさんが小首を傾げました。

「それにしても……街中でいろんな作業していますが、これからお祭りでもあるのでしょうか?」

 そんなつぶやきに答えたのはヒナカさんでした。

「何言ってるのよ、お姉ちゃん。これはきっとパレードの準備だよ」

「パレード……あっ!? それってわたし達の!?」

「きっとそうだよ! 叙勲式のプログラムに『凱旋パレードで都を練り歩く』って書いてあったじゃん!」

 確かに、大通りで様々な作業が行われているのはパレードの準備なのでしょうけれども、『練り歩く』とは書かれていませんでしたが……

 その言葉遣いにいささか呆れていると、ソマさんがワタワタとし始めます。

「わ、わたし達のための準備ってこと……!?」

「そりゃそうでしょう? なんといっても帝国の災厄である神威竜をペットにしたんだし」

「それをしたのはティスリさんでしょう……!? なのにこんな仰々しく祝われるのは気が引けるというか……」

「んもう、お姉ちゃんは相変わらず小心者だねぇ。変態さんなのに」

「変態は余計っていうか違うけど!?」

「あ、そうそう、それでティスリは──」

「わたしの抗議をスルーしないで!?」

「──ティスリは結局どうするの? 叙勲式への参加」

 ソマさんの抗議はあくまでもスルーして、ヒナカさんがわたしに聞いてきます。

 この二人にもアルデにも、わたしがどうするかはまだ説明していないのです。アルデに話していないのは、なんだかうっかり口を滑らせてしまいそうだったからですが。だからギルドへの事前確認のときも、わたしの考えをバレないように済ませています。

 とはいえ、もう帝都まで来たならこちらのものです。なぜなら彼女達に、今すぐ地元へ帰る術はないのですから……!

 だからわたしは、内面の策略を悟られないよう涼しい顔を作ります。

「歩きながら話すようなことでもありませんし、落ちついてから話しますよ。旅館についてから」

「まぁ確かに。あ、でも今日はせっかく帝都に来たんだし、観光したいな〜」

 そうしてヒナカさんは、すぐさま話題を変えてアルデを見ました。

「ねぇねぇアルデ、旅館に荷物を置いたら、さっそく帝都デートしようよ!」

 そのヒナカさんに負けじとソマさんも声を上げます。

「ヒナカだけずるいっ! もちろんわたしもご一緒していいですよね、アルデさん……!」

「え、ああ……まぁ……その……なんだ……?」

 そうしてアルデは、少し後ろを黙って歩くわたしにチラチラと視線を向けてきますが………………

 ………………美少女姉妹にチヤホヤされて、いい気なものですね!

 でも作戦遂行のため我慢しなくてはならないわたしは、さらに拳を握り締め、ついっと視線を逸らします!

 ですが……

 これは、やっぱりよくない態度なのでは?

 で、でも……姉妹の前では恋人なわけですし……そもそも、恋人(のフリ)であるわたしを捨て置いて、二人が両脇を歩くという状況もいかがなものかと思いますし……!

 だから今こそここで、これまでの恋人勉強の成果を発揮してもらいたいわけですが……!

 期待と不満で結局苛立ちを覚えていると……いよいよアルデが口を開きます……!

「そ、その……もちろんティスリも行くよな……?」

「………………!」

 そこは「今日はティスリと二人っきりでデートするんだよ」と言うべきでしょう!? 二人の前では恋人なのですから!!

 などと言いそうになるも、やっぱり我慢なのです……!

「ティ、ティスリ……?」

「………………」

「どうかな? みんなで観光とか……」

「………………」

「あっ! なら叙勲式参加の件を旅館で話し合うか!?」

「落第です!!」

「なんで!?」

 ということでわたしは、これ以上我慢できそうになくて、三人の先をズンズン進むしかなくなるのでした……

(Kindle本につづく)

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