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38歳SE職の独身男・アオイは、突然の交通事故でチート美少女に転生してしまい……
百合ラブコメを体験しつつも、崩壊寸前の異世界を救うため無双もする!
はずだったのですが、チートを上回るほどのポンコツなヒロインが付いてきて……
そのヒロインのせいで、チート発現は20分!?
さらにヒロイン以外にも多くの美女・美少女が登場しますが……好きなあのコのためだけに、『世界の存亡』と『乙女の愛憎』を賭けた百合バトル展開に!?
そんな状況で、果たして主人公は、美しくも華麗に無双して、世界崩壊を止められるのか!? ぜひご一読くださいませ!
転生を果たすとオレは美少女だった。
「な、なんて美しいんだ……」
鏡に映る自分の姿を見て、オレは息を呑んで惚れ惚れしてしまう。
金髪ロングは神々しいまでに輝いて、大きなブルーアイは美しくも力強い意識を宿している。
うっすらと上気する頬は透き通るようだし、唇の潤いといったらもう垂涎ものだ。
もちろんスタイルも彫刻のように整っている。
もはや美少女なんて生ぬるい。天使や女神といっても過言ではないだろう。ずっと見ていると魂を抜かれそうだ。
……と、別にオレはナルシストではない。
転生前は男だったのだから仕方ないのだ。鏡に映るその姿は、まったくの別人に見えるのだから。
「………………っていうか」
自身の姿に見惚れ、しばし沈黙したあとオレはつぶやいた。
「………………なんで女子?」
オレの名前は
そう、いまはもう過去の名前だ。つい小一時間ほど前に交通事故であっけなく死んでしまった。
そうして気づけばお役所の中だった。
間違えないよう繰り返しておく。死んだらお役所の中にいた。
いや、オレだって何がどうなっているのか分からなかった。半死半生で幽体離脱しているなら病院だろうし、死んでしまったなら完全離脱して葬儀場だろう。んでオレは幽霊になって、その辺にぷかぷか浮いて親や親戚を眺めている……というのが相場ではなかろうか?
なのに、くどいようだが死んだらお役所の中だった。
いったい何がどうなっている?
「では次の方、横瀬蒼生さーん、横瀬さーん」
お役所内の待合席で、オレは呆然と座っていたら突然呼ばれた。
反射的に起ち上がると、声のするほうに歩いて行く。人で溢れかえっているので受付までいくのにも一苦労だった。
やはりどう見ても、役所や銀行にある受付カウンターだった。そのカウンター越しに、スーツを着た女性公務員(?)がにっこりと笑っていた。
「横瀬さんですね。冥界役場へようこそ!」
「……は? 冥界?」
「はい、ここは冥界ですよ〜。私は閻魔係をしておりますユーリと申します。どうぞよろしく」
「……え、えんまがかり……?」
「はい。ここに来た皆さんは誰しも驚かれるので順をおって説明しておりますが、まず横瀬さん、あなたはお亡くなりになったのはお分かりですか?」
「ええまぁ……高速道路で事故に遭って……」
「なら話は早いですね。人間は、死ぬとこの冥界役場にやってくるのです。そうして生前の行いによって、天国に逝くか地獄に逝くか、はたまた輪廻転生するかが決まります」
「え……? つまりここってあの世?」
「ですよー。あの世というと、皆さんもっと仰々しい場所をイメージされているようですが違うのです。何しろ、下界は人口爆発だというのに冥界は経費削減ですからね。効率的に審判を下さないと、とてもじゃないけど業務が回らないんです」
「せ、世知辛いですね……」
「そうなんですよ、ご理解頂けたようで何よりです。ではサクッと審判しちゃいましょう。この鏡を覗いてください」
そういうと閻魔係のユーリは手鏡を渡してきた。
オレはあっけにとられて、いわれるままに手鏡を覗き込む。
しかしその手鏡にオレの姿は映らなかった。その代わりに、ユーリがパソコン(?)を眺めながら「ふむふむ」と意味ありげな声を漏らす。
どうやらこの手鏡によって、オレから何かしらの情報を引き出して、無線か何かで接続されたユーリのパソコン(?)に情報が送信されているようだ。
「横瀬さんは、可も無く不可も無くな人生を歩まれたようですねー……とくに大きな徳を積んだわけでもなければ、罪を犯したわけでもないようですし。これならまぁ転生して、人生もっかいやり直せ、という感じですかねー……」
妙に腹立たしいそのいいようにオレは顔をしかめる……と、ユーリは「おお!?」という驚きの声を上げた。
「こ、これは……これはもしかしたら……」
ユーリが急に慌てふためくと、キーボード(?)をカシャカシャと勢いよくタイピングし始める。
オレは、何が起こったのかと不安になる。まさか、気づかないうちにとんでもない罪を犯していて地獄行き、とかじゃないよな……?
そんな不安を感じていると、ユーリはいきなりガバッと立ち上がった。
「おめでとうございまーーーーーす!!」
そうして、どこからともなく取り出したハンドベルをカランコロンと高らかに鳴らした。まるで、商店街の福引きで一等賞を当てたがごとくの勢いで。
周囲の市民──もとい死民が一斉にこちらを見た。
「横瀬さん! おめでとぉうございまぁす!」
「は、はぁ……?」
「あなたはなんと、死者ナンバーのキリ番ゲットしたラッキーガイです!」
「えーと……そ、そうなんですか?」
「ということで横瀬さんには、才能ポイント一万点が付与されます!」
なんというか、オレはさっぱり意味が分からず首をかしげるしかないのだった。
天国とか地獄とか、表現は違えどどちらの宗教も同じような世界観を示し、また、マンガやラノベでもその手のネタで溢れかえっている。
『みんなの意見は案外正しい』とか『集合知』とかの考え方があるが、洋の東西を問わず死生観がここまで似通っているからには元ネタは共通なのだ、とユーリはいう。
そのユーリがハンドベルをけたたましく鳴らしてからひととき後。
オレは、役場の奥にある応接間に通されて世界の成り立ちについて説明を受けていた。
「つまりですね、日本人になじみのある表現をするなら、人間は輪廻転生を繰り返してたますぃを磨いていくわけです。磨くということは徳を積むということですね。そうしてたますぃがピッカピカになったら人間卒業して天国へ。悪逆非道の限りを尽くすとドス黒く染まって地獄へ。こういうわけです」
そんなループを幾星霜も繰り返している状況こそが『世界の成り立ち』だという。
もしオレがいま死んでいなければ、新興宗教の勧誘か何かかと思ってドン引きしているところだ。
ユーリが続けた。
「ですが規則正しく回る世界にも、ときとしてカンフル剤が必要なのですよ。そうしないと同じパターンを繰り返すだけになり、世界は停滞してしまいますので」
「はぁ……そんなものですか」
「ええ。だから私たち冥界では、死者ナンバーでキリ番ゲットした人をテキトーに選んでいるわけです」
「いあやの……いい加減にも程があるとか、キリ番ゲットとか古すぎて死語だとか、ツッコミどころが満載すぎるんですが……」
「いいんですよ。カンフル剤的人材は、どぉせ最強天才のチート属性になるのだから誰でもいいし、ここは死後の世界なんだから死語上等ですよ」
「オヤジギャグか!」
「まぁいずれにしても横瀬さんがラッキーなことに変わりはありませんから。ちゃちゃっとキャラメイキングして転生しちゃってくださいな」
ユーリはそういいながら『転生攻略ガイド』と書かれた書籍を手渡してくる。どうにも実感が沸かないが、オレはとりあえずページをめくった。
「おお……なんかRPGみたいだな」
その本は、まんまゲームの攻略ガイドブックだった。
様々な種族の短所長所に、ステイタスの細かな属性や数値、いろんなスキルが列挙されている。っていうかこの本を読破するだけでも丸一日かかりそうだが……
オレは飛ばし読みをしながらユーリに尋ねた。
「エルフとかドワーフとかコボルトとか、ファンタジー色満載の種族まで書かれているんですが、こういうのにも転生できるんですか?」
「ええ。横瀬さんに転生して頂く世界はそういう感じの場所ですので」
その説明でオレは『種族などを選べても転生先は選べない』ということに気づく。であれば転生先をちゃんと把握して、最適な種族を選びたいところだが……
そんな思考の先を読むかのようにユーリがいった。
「ああ、そんなに悩まなくていいですよ。先ほどもいいましたが、キリ番ゲット転生者は最強天才のチートになるので、あらゆるステイタスはカンストしてます。何しろ振り分ける才能ポイントが一万点もありますからね。だからドワーフより力強いエルフとか、エルフより魔法達者なコボルトとか、そういうキャラになります。ということでキャラの見た目で選んじゃってください」
み、身も蓋もないな……
本来ならば、その才能ポイントとやらを、いろいろ熟考しながら各ステイタスに割り振っていくのだろうが、そういう楽しみはないらしい。まぁ強くてニューゲームみたいなものか。
見た目で選ぶなら、やっぱり人間かエルフかだよなぁ。ドワーフやコボルトは論外だ。猫耳などの獣人系もちょっと惹かれるけど、コトは次の一生を左右する選択だから、ここは無難にしておいたほうが良さそうだ。
人間かエルフか、どちらにするか迷ったオレは尋ねた。
「さっきチラリといってましたが、次の世界には魔法があるんですか?」
「そうですね。手のひらから火の玉とか出せますよ」
「おお……それはすごい。それって人間でもできるんです?」
「あ、魔法が使えるのはエルフなどの精霊種だけでしたね」
おい! オレは内心突っ込む。
種族の違い、けっこうありそうじゃん! せっかく異世界に転生するんだから、手のひらから火の玉とか出してみたいじゃないか。
どうにもこの人(?)、いい加減だなぁ……
「このガイドブック、やっぱり熟読してもいいですかね? なにせ来世一生のことですし」
「ええ、いいですよ。じゃあ決まったら呼んでくださいね。あ、そうだ。ついでにこれも読んでおいてください」
ユーリはもう一冊の書籍を手渡してくる。その書籍名にはこうあった。
『【その日】から読む本 突然の幸福に戸惑わないために』
どうやらここ冥界では、キリ番ゲット転生は宝くじの高額当選的扱いらしい……
人の一生がかかっているというのにどうにも軽いノリに、喜んでいいはずのオレはため息をつくしかなかった。
転生ガイドブックを丸一日かけて熟読し、さらにもう一日かけて熟考した結果、オレはエルフになった──
──美少女の。
「………………なんで女子?」
オレは姿鏡から視線を外し、応接間でクルリと一回転してからユーリに向かって問いかける。自分の美声にもびっくりだ。
美しいオレの声に、ユーリはハッとしたように我に返る。女性であるユーリまで、オレの姿に見とれていたらしい。
ユーリは口ごもり、まるでいま思いついたかのような言い訳をし始めた。
「あー……そのあの……えーとですね……あ、ほら! エルフといったらパツキン美少女じゃないですか!」
「意味分からんわ!!」
怒りのあまり敬語が抜けたが、ユーリはお構いなしに言葉を続ける。
「美少女はお得ですよ〜? なにせ男性が放っておきません。どこにいってもチヤホヤされます!」
「男が男にチヤホヤれて嬉しいわけないだろ!?」
「いやでも……あ、ほら! 温泉回とか期待大ですよ! 女の子たちと一緒に堂々と温泉に入れちゃうんですよ!?」
「温泉回ってなんだよ!?」
「それに女性同士なら、なんら気を使うことなくキャッキャウフフができるんですよ! 横瀬さん、資料によるとあなた、高校は男子校で大学は情報工学部でしょ? 職場もSEの男ばかりで女っ気まるで無し! お亡くなりになるまでに魔法使いを極め、そろそろ賢者確定男だったじゃないですか!」
「余計なお世話だ! ってかそんなことまでバレるのかあの世は!?」
「そんな賢者確定男が、生まれ変わっただけで女子とまともに会話できると?」
「う……いやそれは……」
「ほらご覧なさい! でも女子同士なら問題ありません! しかもそれほどの美貌なら女子だって放っておきませんからね! ということで女子にしました!!」
「絶対いま考えただろその言い訳! いいから性別を元に戻せ!」
「いやあの、キリ番ゲット特典は一回限りでして。元には戻せません」
「ま……まぢかよ!? お前のミスだろう!?」
「いえミスとかではなく。あ、この特典は性別が変わる仕様なんですよ」
「いま『あ、』っていったろ!?」
「いってません」
「いいからとにかく上司と掛け合えよ!?」
「えー、イヤですよ。めっちゃ怒られちゃうじゃないですか」
「めっちゃ怒られるほどにミスったんだろうが!?」
「ミスってません」
「もういい分かった!」
オレはユーリに見切りを付け、応接間を出ようとドアノブに手をかける。
しかしドアノブは回らなかった。
背後からユーリが声をかけてくる。
「転生しちゃったら、もうここから出られませんよ〜?」
「監禁するつもりか!?」
「監禁なんてしませんよ。ここから下界に下りられるわけですし?」
「こ……この女……」
「まぁまぁ横瀬さん、そんなに怒らないで。過ぎてしまった過去より、希望溢れる未来を見ましょう!」
「お前がいうなよ!?」
「性別が変わったくらいいいじゃないですか」
「いいわけあるか!」
「しょうがないですから、私からちょっとしたボーナスを差し上げますよ」
「おい、今度は賄賂か?」
「そんな賄賂だなんて人聞きの悪い。ちょっとしたおわb……いえ、私からの餞別です」
「いまお詫びっていいかけたろ?」
「いいかけてません」
ユーリからのお詫び、もとい賄賂はこうだった。
転生者とは本来、前世の記憶を消滅して赤ちゃんからやり直すそうだ。いまの姿は「成長したらこうなりますよ」というサンプルでしかないらしい。
だがユーリは、記憶消去を免除するという。
オレは念を押すかのように強い口調でユーリに詰め寄る。
「つまり、オレの記憶はそのままに転生させてくれるってことか?」
「はい、そうです。本当は、これから私が記憶消去を施すのですが、それはしないでおいてあげましょう。そうすれば、次の世界では本当に女の子達と思う存分キャッキャウフフできますし、なんだったら自分の体だけでもいろいろできちゃいますし?」
いわれてオレは思わず自分の胸を見る。
たわわに実る二つのバストにゴクリと生唾を飲んだ。
い、いや……仕方がないじゃないか! オレは本当にナルシストでもなんでもないのだが、体はもう全然別人なのだ。まるで、見知らぬ美少女の中に憑依してしまったかのような感覚なのだ。
ユーリがにんまりといやらしい笑みを向けてくる。
「どぉですか? 見た目はオンナ、頭脳はスケベも悪くないでしょう?」
「スケベいうな」
「まぁどのみち、横瀬さんには選択肢ないんですけどね? これ以上駄々をこねるなら、私からの餞別も無しにして、心身共に女子になって頂きますが?」
「こ……コイツ……」
最後は脅迫ときた。性別が変わって記憶も失って転生したら、もはやオレはオレではなくなってしまうだろう。この脅迫は「お前を殺す」といわれているのも同然だった。
睨み付けるオレに、ユーリは一筋の冷や汗を垂らしながらもスマホを差し出してきた。
「ほら、オマケにスマホも付けちゃいますから。私との友だち登録も済んでます。何か困ったことがあったら、神さまといっても過言ではない私に相談できちゃうんですよ? すごくないですか?」
「お前、なんの権限もない下っ端だろうが?」
「ひ、ひどひ! すごく優秀だからなかなか現場から離れられないほどなんですからね!」
「無能だからポジションが上がらないだけだろう?」
「ち、違いますよ! とにかく横瀬さんには選択肢がないんですからね!」
オレは盛大にため息をついた。
確かにこれ以上、ユーリの機嫌を損ねてもいいことなさそうだ。本当に、性別を変えられたあげく記憶消去されては身も蓋もない。
オレはやむを得ず、ユーリからそのスマホを受け取った。
これが了承の合図となる。
ユーリは、ハンカチで冷や汗を拭いながら言葉を付け足す。多少は罪悪感を抱いているのだろう。
「まぁいずれにしても、横瀬さんが来世で大活躍できるのは間違いないですから。ぜひ、男どもを手玉にとって、女の子とキャッキャウフフしつつ来世を楽しんでくださいね!」
にっこりと笑うユーリのその顔が、急にくしゃりとゆがんで見えた。
いや、ユーリの顔がゆがんだのではなく、オレの視界が揺らいでいるのだろう。
強烈な睡魔と共に、オレはいよいよ異世界に転生するのだと悟ったのだった。
(Kindle本に続く)
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