なお屋

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お酒は、人並みにたしなむ程度ですョ?

 その酒場の中は、喧騒とお酒の匂いで充満してました。

 うひゃ〜〜〜! 久しぶりの酒場ですよ!

 思えばこちらの世界に来てからというもの、アルコールの一滴も呑んでいないじゃないですか。

 別にわたし、三度のご飯よりお酒が好き、というわけではないですけど、冥界にいた頃は同僚のアウローラちゃんと週4〜5回は飲みにいってましたからねー。

 そうしてよく、エレシュ係長のダメ出しをしてあげたものです。もちろん本人は同席していませんが。

 だというのに!

 異世界に飛ばされる直前の飲み会で、アウローラちゃんてば寿退社するだなんていい出す始末!

 しかもそのお相手と来たら、どこぞのベンチャー社長で資産数百億を持ってるというのですよ!?

 なんで!?

 ただの地方公務員のわたしたちが、どうしてそんなシャチョーと知り合ったのですか!?

 本人からは「バーで飲んでたら声をかけられて」なんてのろけを聞かされましたが、わたしだってバーに行ってるのに、誰一人声をかけてきませんよ!?

 つまりバーでナンパされるはずがないんです!

 アウローラちゃんは絶対何かをかくしていますョ!?

 ううう……アウローラちゃんはこれからの余生ずっと食っちゃ寝だというのに、どうしてわたしはこんな危険地帯で右往左往して魔力を搾り取られなくちゃいけないんですか……

 こんなん、飲まなくちゃやってられませんよ!

 この港町に着いてからというもの、ドン底の魔力を回復するため寝っぱなしで、ようやく魔力が回復したかと思ったら、うさんくさいおっさんとの交渉に付き合わされる始末。

 せっかくの異世界だというのに観光する暇も、美味しいモノを食べる暇もありゃしません。

 だというのに「今日は飲むふりだけでアルコールは絶対飲むな」とアオイさんがいうんですよ?

 相変わらずの横暴っぷりですよ!

 もー、こっちとしては飲まなくちゃやっていられないというのにぃ……

 しかもこんな、ウイスキーグラスにウーロン茶入れられたら、まさに蛇の生殺しじゃないですかぁ……

 ………………まぁ一杯くらい、いいんじゃね?

 ここまでの道中も、わたし、変身魔法使いまくってすごく活躍したし。

 いわば、自分へのご褒美!

 それにそんな、ぐでんぐでんになるまで呑みたいなんて思ってませんしね。

 そもそも酒は百薬の長なんです。適度に呑めば魔力もぐいぐい回復ってなものですよ!

 そうしてわたしは、口元をちょっとほころばせながら席を立ちました。

「あ〜、ちょっとお手洗いですよ」

 そういって、お手洗いに行くフリをしてすかさず物陰に隠れます。

「あ、ちょっとちょっと、そこの店員さん、ちょっとこっちに」

「はい、なんですか?」

「わたし、あそこのテーブル席なんですが、ウイスキーを一杯持ってきてください」

「え? でもお連れさんに、今日はぜんぶソフトドリンクでとお願いされてますが……」

「いいのいいの、一杯だけ、一杯だけだから。あ、それと、伝票にはウイスキーじゃなくてウーロン茶って書いてね? もちろんウイスキーの価格でいいから」

「は、はぁ……? まぁ、分かりました」

 その後数分で、待望のウイスキーが運ばれてきました! うひょ〜〜〜!

 チラリとアオイさんを盗み見しますが、なんか、男性客に言い寄られてわたしからは注意が外れてますね。

 ティファさんとクラハちゃんも見てみましたが……この二人も男性客が言い寄ってきてますね。

 ……………………わたしは、当たりをキョロキョロ見渡します。

 男性客は、誰もわたしに目を合わせようとはしません。

 なんでよ!?

(くそーーー!? いいもん、いいもん! こうなったらヤケ酒だもん!!)

 わたしはウイスキーのロックをカッとあおりました。

 ッくはーーー! ひっさびさのお酒が五臓六腑に染み渡ります!

 そうしてわたしは、また席を立ちました。

 男どもにナンパされているアオイさんたちは、わたしに見向きもしません。そうしてわたしは、またトイレに行くフリをして物陰に隠れました。

「店員さん、そこな店員さん……!」

「は、はぁ? なんですか?」

「あのお酒飲み終わったら、またウイスキーもってきて!」

「え? さっき一杯だけって……」

「いいの! ウイスキーの一杯や二杯で、わたし酔ったりしないから! とにかく、飲み終わったらどんどんウイスキーを持ってきてね!」

 ふんだ!

 アウローラちゃんといい、アオイさんたちといい、この店の男どもといい!

 みんなわたしをのけ者にして!

 今日は、ひっさびさにがっつり呑みまくってやるんだからーーー!

(つづこう)

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