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ついに学園都市へと辿り着いたアオイたちだが、そこで出会うメンツときたら、ヘンタイ学園長に百合っコ悪役令嬢にと、とても残念なメンツばかり……
このまま放っておいたら異世界は崩壊するというのに、カオスで愉快な日常にますます拍車がかかる第二巻!
ぜひご一読ください(^^)
ドゴオォォォォォン!!
轟音と振動、そして天井と床が逆になったかのような横揺れに、船内で給仕をしていたメイド達が悲鳴をあげる。
(敵襲か!?)
赤ん坊のオレはティファに抱っこされながらも、ティファとユーリに念話を飛ばした。
「おそらくは! ユーリさん、変身魔法の準備を!」
ティファが的確な指示を飛ばすが、しかし。
振り返っても見回しても、さっきまでいたはずのユーリがどこにもいない。
……おい。
(アオイさん! すごい! 見てくださいアレ! 巨大イカですよ、巨大イカ!!)
そして大はしゃぎするユーリの声が、念話を通して聞こえてきた。
オレは尋ねる。
(……お前、今どこにいんの?)
(甲板ですよ甲板! 何事かと思って真っ先に上がってくれば、巨大イカがこの船に絡みついてるんですよ! それでその巨大な触手が船体を絡め取って、あろうことかこのわたしの胴体に……ってキャーーーー!?)
(おまいはいったい、何をしとんのんじゃーーー!?)
ユーリとオレの絶叫が重なる。
「まずいわ! とにかく甲板に行かないと!」
(ティファ! オレも連れてってくれ!)
オレを抱っこしたティファは客室から甲板へと駆け上がる。
そうして甲板に上がって見た光景は、まさに地獄絵図さながらだった。
水平線の向こうまで黒雲に覆われ、ひっきりなしに稲妻が走り豪雨と強風が海全体を包み込んでいる。もちろん大波は常に船体を打ち付けて、この帆船を今にも打ち壊そうとしているかのようだ。
そしてその甲板の切っ先には、この船の何倍もあろうかという巨大なイカの三角ヒレが見えていた。
(い、異世界……すげぇな……)
これまでの道中で、様々な魔物を撃退してきたオレだが、さすがにこの巨大イカのスケールには圧倒される。
港町でセドリックという貴族をおどし……もとい交渉してゲットしたこの帆船は、全長約六〇メートルほどの美麗な帆船だ。さすがは貴族という風格がある。
だがその帆船を余裕で絡め取るほどのサイズなのだ。正面にうねうね動く触手一本とっても、高層ビルを作る鉄筋コンクリなみにぶっとい。
あんな触手をどうやって動かしているのだろう、と唖然とするがそれはともかく、その触手の先っぽには──ユーリが絡め取られていた。
日本のビルで言えば五階分くらいの高さに持ち上げられているだろうか?
分厚い雨雲のせいで夜かと思うほど暗いのでユーリのシルエットしか見えないし、稲妻の爆音と嵐の風切り音とで、ユーリの悲鳴も聞こえてこない。
ティファが念話を接続し直すと、さっそくユーリの絶叫が頭脳に直接叩き込まれた。
(助けて! アオイさん助けてーーー!!)
(バカヤロウ! なんだって甲板なんかに出てきたんだ!!)
(だってだって! お外がどうなってるのか気になっちゃって!!)
(気になるも何も、どう考えても襲撃だろうが!?)
あのバカは……本当に、なんというか……なんでこんなにバカなんだ……
港町から出航してからこっち三日間は、天候にも恵まれ、オレたちのお世話にとあてがわれたメイドさん達には
それがよくなかったのだろう。ユーリの元気が有り余っていたのだ。
だから目を離すとすぐに、それはまるで糸の切れたタコのように(まぁいま目前にいるのはイカだが)すぐにどこかへ行きやがる。
オレが深い深いため息をついていると、大泣きしながらユーリが言ってきた。
(助けて! ほんっと助けてアオイさん!! 食べられる! 食べられちゃうから!?)
(助けろって言っても、お前がいなくちゃ変身できないだろーが)
(そぉでじだあぁぁぁぁぁ!?)
オレは、この異世界にチート転生してきたわけだが、あのユーリのせいでひ弱な赤ん坊のまま。だからユーリにしか使えない変身魔法で、戦いの度に、本来の姿である美少女に変身するのだが。
あのアホの子が、それをことごとく邪魔してくるのだ。
オレの隣でじっとさえしていればいいというのに、なぜにソレができないのか……
(ど、ど、どぉしたら!? どうしたらいいんですかアオイさん!? うあ!? 今このイカと目が合いましたよ!?)
(どうしろもこうしろも……)
オレは、もう一度ため息をついてから言ってやった。
(いったん冥界に帰還すればいいだろ?)
(ぎゃーーー!? イカが!? このイカが!? なんか口らしきところをあんぐり開けてますよーーーー!?)
(だから、冥界に帰還しろってば)
(ひゃーーー!? 近づいてる!? わたし、口元に寄せられてるうぅぅぅーーー!)
(だ・か・ら!)
オレは、ユーリに向けて念話ボリュームを最大音量にした。
(冥界に帰還しろよ!?)
(………………キュゥ……)
へんじがない。もはや しかばね のようだ。
(ティファ……アイツ、どうしたん?)
(どうも、アオイちゃんの声に驚いて気絶したようね)
(なんなんだよ! アイツはホントに、なんなんだ!?)
どうして、人の足を引っ張ることにかけてだけは天才的なんだ!?
(ティファ! なんとかならないか!?)
「やってみるわ!」
ティファは即座に
巨大イカに向かって十数枚もの風の刃が放たれたが、そのすべてが触手によってなぎ払われてしまった。
「くっ! やっぱり、無傷ってわけにはいかないかも……」
(時間がない! ひと思いにやってくれ!)
「分かったわ!」
言うやいなや、ティファは手早く詠唱を終えて発動する。
「
連続発動の初動は、広範囲に電撃を食らわせる上級魔法!
あの巨大イカは、それでもちょっと静電気を感じる程度だろうが、触手がなんどか痙攣し、いい感じにユーリをぼとりと落としてくれた。
次いで風の幕がそのユーリを見事キャッチ。オレたちの元へと運んでくる。
(おーい、生きてるかー?)
髪の毛を見事にアフロにさせて、ユーリは目を回していた。
ティファの回復魔法により、ユーリはかろうじて意識を取り戻す。
(さぁ早く変身魔法を!)
「う……うう……あ、あいかわらず……ひとづかいのあらい……」
(いいから変身魔法を唱えろってば!?)
「……ト、ト、
そして、オレの体は目映く発光して──
「
──美少女の姿に戻るや否や、一気に防御呪文を展開、迫り来る巨大な触手を弾き飛ばす。
「ったく、世話掛けさせやがって!」
口調こそ荒いが、まるで自分の声ではないかのような美しい声音と。
スラリと長い手足と。
そうして誰もが見惚れるほどの美貌とに。
雨にずぶ濡れでも、いやだからこそ、まさに水も滴るという出で立ちで。
美少女と化したオレは、甲板のド真ん中に悠然とその歩を進めてから、言ってやる。
「さぁ──死にたいのならかかってこいや! このバケモノが!!」
港町ルーデスでの一件が落ち着き、オレことアオイ、アホの子ユーリ、オレの母だけど姉扱いを望んでいるのでそういうことにしているティファは、当初からの目的地である学園都市マージエに向かってようやく旅立つことができた。
学園都市までは航路が最短ということだったので、ルーデス領主のセドリックに帆船を用意させて航海に繰り出したのが三日前の話。
それまでの道中で知り合った商人の娘クラハも一緒に来たがっていたのだが、何しろクラハには戦闘能力がない。本来なら、無敵であるはずのオレが余裕でクラハを守れるはずなのだが、ユーリによる凡ミスで未だ赤ん坊だ。
だからチート能力を発揮するには美少女に変身する必要があるのだが、その変身魔法はユーリにしか使えない。そしてその変身魔法は、魔法が得意なティファがサポートしても一日小一時間程度。
そんなきわどい状況で、戦力にならない娘さんを連れてくるわけにもいかず、また連れてくる理由もなかったので、クラハとは港町でいったん別れることになった。
そうして繰り出した航海は最初は順調だったが、今日に入って嵐に見舞われ、そしてつい先ほど巨大イカと遭遇したというわけだ。
「あのぅ……アオイさん?」
さきほどの巨大イカも無事撃退できて、一段落ついた時分。
パーティのキーパーソンでありながら、最大のウィークポイントであり元凶であり癌細胞であるユーリが言ってくる。
「わたしの体にくくりつけられているコレは、なんなのですか?」
(ハーネスとリードだよ。最近、子供にも使うんだろ?)
「賛否両論巻き起こす発言ですからソレ!? しかもわたし、そんな幼児じゃないし!」
船内で使われている縄を少し拝借して、ユーリの肩から胴体にかけてその縄で縛り、そこから垂れ下がった縄は客室の柱に括りつけておいた。
頑丈な縄だから、ハーネスというよりもはや拘束具にも見える。よくて、猿回しの縄的な何かに。
ユーリの抗議に、赤ん坊に戻っているオレは白い目で睨み付けながら念話越しに言ってやる。
(うるさい。ところ構わずうろちょろ出歩くやつなんざ幼児と一緒だ。この航海中は、そのハーネスをはずすんじゃないぞ)
「そんなひどひ!? ちょっとミスっただけで罪人扱いですか!?」
(なんなら、この船に備わっている牢屋に入れておいてもいいんだが?)
「相変わらずの残虐非道! わたしがいなくちゃアオイさんはただの赤ちゃんなんだから、もっと厚遇すべきでは!?」
(我が社の待遇にご不満なら、どうぞ退社して頂いて構いませんが?)
「ぐ、ぐぅ……!」
ユーリは、港町の一件で多大な犯罪を犯している。犯罪と言っても、ユーリの出身地である冥界での犯罪歴だが。
その罪を、なんとか揉み消す条件がオレたちとの同行なのだ。
だから同行しなくなったらその罪状は隠しきれないものになる、よって同行中になんとしてもこの世界に平和を取り戻すように、というのがユーリの上司、エレシュさんからの言づてだ。
そんなわけでもし、ユーリが職務放棄しようものなら、それはもう大変な実刑が降りかかってくるそうだ。
なんでも、地獄に落とされて一兆六六五三億一二五〇万年いたぶられるらしい。
(オレのイビリと地獄のイビリ、どっちが幸せかよくよく考えろよ?)
「ううう……もうわたしには、安住の地はないということなのでしょうか……」
嘘くさい涙をハラハラと流しながら、ユーリはその場にヨレヨレと座り込む。
そんな芝居がかったユーリは無視して、オレはティファに尋ねた。
(海上は、強力な魔物が多いんだったっけか。念のため、どんな魔物と遭遇しそうか、知っている限りでいいので教えてくれないか?)
「そうね……海上では、海の中からはもちろん、空から飛来する魔物にも気をつけないといけないわ。例えば──」
「ちょっと!? 無視しないでくださいよアオイさん!」
学園都市マージエまでは約一週間といったところだ。
その間は、襲撃対策はもちろんだが、クラハとの約束でもある自動車開発も進めておきたいし、やかましいユーリを黙らせなくちゃだし、何かとせわしない航路になりそうだな……とオレは思うのだった。
航海中、海の中や空から飛来する魔物達をバッサバッサと倒し続け、オレたちはついに学園都市ルーデスにやってきた。
魔物が
そうして学園都市に降り立つと、そこはまるでヨーロッパ旅行にでも来たかのようだった。
石畳の道路に石造りの家屋敷。その屋根は橙色や青色に彩られていて、所々突き出た尖塔がある。この世界の教会だろうか?
港から続くメインストリートは多くの人が行き交い賑わいを見せていて、露天が所狭しと並べられていたり、小洒落たカフェやレストランなどの飲食店も充実している。酒場兼食堂が一軒しかなかった港町ルーデスとは雲泥の差だった。
そんな都市は、巨大な丘陵の上で賑わっており、遠く霞んで見えるその頂上に、学園都市と呼ばれる所以でもあるマージエ魔法学園があるそうだ。
徒歩で行くと数時間はかかる距離なので、オレたちは馬車を使うことにした。
セドリックから軍資金は十分にもらっているので、そこそこ散財しても向こう数年はお金に困ることもない。
(おお……まさに中世ヨーロッパといった街中だなぁ)
馬車の窓から街中を眺めつつ、オレはそんなことを思っていた。それが、繋げっぱなしの念話で伝わってしまったようで、ティファが小さく笑う。
「ふふ。窓に張り付いちゃって。そういうところは子供らしくて安心するわ、アオイちゃん」
(い、いや……別に張り付いてるわけじゃないけど……)
ほんとすみません、中身はあなたよりだいぶ年上のおっさんなんです。
そんなおっさんが海外旅行気分に浮かれているのは小っ恥ずかしさを感じるなぁ。
照れるオレにティファが続けた。
「でもわたしも、こんな大きな街に来たのは初めてだから、ちょっと興奮するわ」
それに同意したかのようにユーリが言ってきた。
「これまでは、ティファさんの集落から始まって、地平線と空しか見えない平原に、こぢんまりとした港町でしたからねぇ。あ、そうだ! きっと美味しいモノもたくさんあるでしょうから、食べに行きましょうよ!」
(学園での手続きを済ませてからな)
学園都市に到着してからは、さすがに人目があるのでユーリからハーネスは外したが、こいつ、一日と立たず迷子になりそうだな……
ユーリに煩わされている時間は全然ないというのに。
(お前、この街に来た目的を忘れるんじゃないぞ、ほんと)
「分かってますよ、大丈夫ですってば」
オレは、この国最高と謳われる魔法学園で、様々な資料を漁りたいわけだが、それもこれもユーリの変身魔法をどうにかするためだ。
ユーリ以外でも使える変身魔法を編み出すか、はたまた、オレの無限ともいえる魔力をユーリに供給することで、変身魔法の永久機関を作り出すか、そのどちらかを達成したいわけだ。
そうすれば、オレの美少女としての──つまりチーターとしての活動時間は飛躍的にアップするので、今後の展開が加速できる。
そのためには魔法学園に入学しなくてはならないので、手っ取り早く生徒になろうと考えた。
魔法学園への入学条件は三つある。
まず学費。ただしこれは超優秀な成績を収めることで免除になるそうだ。
次に身元の証明。魔法学園は身分差なく門戸を開いているそうだが、そうは言っても全くの身元不明人を引き受けるわけにもいなかい。だから「どこそこ村の誰それさん」だという証明が必要になる。
通常は、ちゃんとした両親の元に生まれれば身元証明はできるはずなのだが、なにせオレたちはこの世界では部外者だ。身元証明するすべが何もない。
だがそのことはあらかじめ分かっていたので、これもセドリックに後ろ盾となってもらった。思いのほか便利な男だな、アイツ。
そしてあとは、もちろん入試の突破だ。
それと、オレたち固有の問題が二つある。
問題の一つ目は、オレ自身が赤ん坊だということ。
だがこれは、試しに赤ん坊のまま入学手続きを進めてみることにした。
魔法学園の話をセドリックやティファから聞くに、この世界では日本と違って飛び級が当たり前だそうだから、なんか上手い理由を付けて超天才児ということにすれば、意外にも入学できそうな雰囲気なのだ。
そもそも念話を使えば赤ん坊の身でも意思疎通はできるのだから、その辺上手く立ち回れば入学できそうな気がする。
そうして問題二つ目は……またしてもユーリだ。
(お前……本当に魔法学園の編入試験、突破できるのか?)
馬車で小一時間ほど揺られ、魔法学園に辿り着いたオレは、キャンパス内を移動しながら聞いた。
「まったくアオイさん、いくらなんでもわたしを見くびりすぎでは?」
ユーリは、小憎たらしくも肩をすくめながら言ってくる。
「この世界のあらゆる魔法を扱えるこのわたしですよ?」
(でもお前、ほとんどの魔法を発動できないじゃん、ってかあらゆる魔法つったって、冥界役職上の特権であってお前の実力でもないじゃん)
「何を言っているのやらアオイさん? 発動できなかろうと特権であろうと、知っていることは事実なんですから。聞けば、魔法学園の編入試験は筆記試験だけとのことじゃないですか。そんなの余裕ですよ、ヨユー」
まったくもって、不合格のフラグとしか思えない発言なんだが。
まぁ……以前に試したことのある魔法検定と違って、今回は実技がないそうだからなんとか乗り切れる、のだろうか?
ちなみにハイエルフであるティファは、たぶん大丈夫とのこと。オレとしては、この三人組でないと満足に活動することができないので、不本意ながらユーリにも付いてきてもらわねば何かと困るのだが……
そんな、一抹以上の不安を抱えて魔法学園の門戸を叩き、雑多な手続きを終えてその数日後。
オレたちは、編入試験を受験して──
──ご期待通りに、ユーリだけが落っこちたのだった。
(Kindle本に続く)
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