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第1話
フルーレとお買い物

「このお祭りも、今日で見納めですね」

 お台場でアストリッドと派手にバトルをした翌12月25日。

 旺真とフルーレは近所の商店街を歩き、フルーレが商店街の装飾を眺めてそんなことを言った。

 旺真が苦笑しながら答える。

「クリスマスは今日で終わりだけど、明日からは年末年始が始まるから、賑やかなのは変わらないぞ」

「そうなのですか? この時季の人間界は、ずっとお祭りなのですね!」

 今歩いている商店街は、12月に入ってすぐにクリスマス装飾が施されていたから、日本の慣習をよく知らないフルーレにしてみれば、1ヶ月近くずっとお祭りに感じられたのだろう。

 旺真にしてみれば、12月は年末進行という地獄の季節、というイメージしかなかったが、世間的にはこの雰囲気を楽しんでいる人も多いのかもしれない。

 だから旺真は頷いてから言った。

「そうだな、年末年始は毎年賑やかだよ。ちなみに魔界には年末年始はなかったのか?」

「暦の切り替わりを祝うという風習は、少なくともわたくしの国にはありませんね。その代わり、お父様の生誕祭がありましたので、このクリスマスというお祭りも、そのようなものだと理解していたのですが」

「まぁ……当たらずとも遠からず、かな? そもそもクリスマスがイエスの誕生日って話には諸説あるらしいけど」

「そうなのですか。いずれにしてもクリスマスは、賑やかで綺麗で、とても素敵ですね」

 フルーレの飛来から始まり、退職だ修行だ襲撃だと休む暇もなかったので仕方が無いことではあるが、もうちょっとフルーレを観光にでも連れて行ってやればよかったと旺真は思った。

 クリスマスのイルミネーションが綺麗な場所は都内にもたくさんあったのだから。

 ただ姫君であるフルーレからすれば、そういう光景は見慣れていて、今いる市井の雰囲気のほうが珍しく、だから楽しいのかもしれないが。

 そんなことを考えながら、旺真はふと気になって聞いてみる。

「親父さんの誕生日は、どんなことをやるんだ?」

「父の生誕祭……ですか……」

 旺真のその質問に、フルーレの表情が少し曇る。

 旺真は首をかしげつつも付け足した。

「いや、言いにくいことならいいんだけど……」

 お祭りに言いにくい内容があるのか旺真は見当もつかなかったが、しかしフルーレは首を横に振った。

「いえ、言いにくいというわけではないですが。こちらのクリスマスと比べたら、華やかさの欠片もないお祭りでして……」

 嘆息付いてから、フルーレは話を続ける。

「メインの催し物は闘技大会ですね。国を挙げての一大イベントで、毎年のことですから、出場する闘士のほとんどはこれを専業としています」

 旺真は、日本でも年末に行われる格闘技特番を思い浮かべる。もっとも、旺真自身も格闘技はあまり興味がないので、きちんと見たことはないのだが。

「女性はあまり興味が持てないのかもだけど、それで盛り上がる男は多いんじゃないか?」

「ええ、そのようですが……わたくしには、ちょっと見ていられないくらい痛々しくて……毎年死者も出ますし」

 そう聞かされて、旺真は口を引きつらせた。

「えっ……死者まで出るの?」

「それはそうでしょう? 実戦なのですから」

「いや、すまん。日本の格闘技とはまるで違うわソレ……」

 しかも、人間より遙かに運動能力の高い魔族が戦うのだから、それは想像を絶する格闘戦に違いない。専業闘士というのは、文字通り命をかけて戦っているのだろう。

 そんな想像をして、旺真はぽつりと感想を述べた。

「確かに、そんな血みどろな祭りはイヤかもな……」

「ええ……ですが父の生誕祭ですから、出席しないわけにもいかず。毎年、アストリッドに魔法を掛けてもらって、コロシアムに列席している間は、見聞きできないようにしてもらってますわ。兄弟姉妹にはバレているようですが」

「う〜ん……どうにも魔界というところは、物騒なイメージしか沸かないな……まぁ人間界こちらでも、物騒な国はたくさんあるけどさ」

「そうですか。なら、わたくしがこの国を選んだのは正解でしたね。旺真とも知り合えましたし」

「え……?」

 旺真はぽかんとしてフルーレの顔を見る。

 最初は、素直な感想を述べただけだったらしいフルーレは、しかし今の発言はけっこう意味深であるということに、少ししてから気づいたようだ。

 徐々に頬を赤らめながら言ってきた。

「ち、違いますよ!? なんでも言うことを聞いてくれる都合のいい人が見つかって良かった、っていう意味ですからね!?」

「あー……へいへい。ですよねー……どうせオレは、会社からも都合良く扱われていましたしね……」

「あ、いやその……旺真? とはいえわたくしは助かっていますし……」

 冗談でねて見せると、フルーレがワタワタと慌てながらフォローを入れてくる。

 口では従者だ奴隷だと言っていても、結局のところフルーレは、旺真をそんなふうに扱ったことはないし、もともとそんなことができる気質でもないのだろう。

 旺真は、拗ねたフリをやめて苦笑を返す。

「冗談だ冗談。オレもフルーレと出会えてよかったと思ってるよ」

「ちょ……!? な、何を突然……!」

 フルーレを真っ赤にさせながら、クリスマスで賑わう商店街を旺真は歩いて行った。

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