Extra Edition
だけど美 第1巻 番外編
うえぇ……やばひ……飲み過ぎた。
わたしは、必死の思いで呪文を唱え、アルコールの匂いを消臭魔法で打ち消します。この魔法なら、口元で匂いでもかがれない限りは大丈夫なはずです。
さらに魔法で顔の赤みも隠して、千鳥足もなんとか補正します。
これでわたしが、ちょっぴり酔っ払ってしまったことには誰も気づかないハズ……!
ですが酔いの回った状態で魔法を使うと、さらに酔いが回るんです。
宿に付いた頃には、なぜか部屋がぐるんぐるんに回ってました。
なのでわたしはベッドに倒れ込むと……
………………
………………いたっ。
………………いたっ、いたっ。
も、もう、なんなんですか……人がいい気持ちで……寝ているというのに……なんか頬が痛いですョ……
(おいユーリ……いい加減起きろ! もう襲撃者に取り囲まれてるぞ)
うう……急に頭の中にアオイさんの声が……うるさいなぁ……
「むちゃむにゃ……もぅ飲めませんよぅ……」
(おいユーリ! ナニ寝言ほざいてんだ。起きろって、もう襲撃者が来てるんだって!)
「ぐー……ぐー……」
(お……お……おまえ……呑んでやがるな!? 起きろコラ!!)
………………あれ?
やばいです。
なんか知らないけど、アオイさんに呑んでいたことがバレたっぽいです。
「ふにゃぁぁぁ……いっぱいだけ……いっぱいだけだったんれすぅ……」
無理やり上体を抱え起こされて前後に振られ、わたしは目を回しながらも、いいわけ──いえいえ説明を試みます。
「らけどぉ……なんかもうギリギリまで魔力がなくなるとぉ……酔いの回るのがいじょーに早くれ……」
(つーか飲むなっつってただろーーーがぁぁぁ!!!)
うひぃ……念話で叫ぶのやめて……
「いっぱいだけ……いっぱいだけならだいじょーぶと思ってぇ……」
(何を飲んだんだよ!?)
「ウイスキーのロック」
(酔うに決まってんだろオォォォ!?)
その後もアオイさんが何かをわめいているのですが、朦朧としている意識では、もはや念話でも何をいっているのかよく分からなくなりました。
うう……明日から……明日から本気出すから……だから今はもう寝かせて……
なぜか部屋の中で怒号とか金属音とか聞こえますが、そんな騒音も今では心地よい子守歌のように聞こえて……
……来るはずがない。
ちょっと!?
人が寝ようとしているのに、いったい何をしているのですか!?
わたしは文句をいうべく上体を起こします──と。
黒づくめに覆面をした謎の男二人と目が合いました。
ってかダレ!?
「もうコイツでいい!」
いうやいなや、わたしは黒づくめの一人に抱えられると、あっという間に窓の外にその身を躍らせ……ってか落ちる落ちる!
「あ〜れ〜〜〜〜〜〜!」
わたしが悲鳴をあげてるのにも関わらず、誰も助けに来てくれませんョ!?
こんなときのチートだというのに、アオイさんは何をしてるんですか!
わたしが攫われたら変身魔法が使えないってこと、分かってないんですか!?
………………あれ?
なんか、おかしいな??
ですが襲ってくるその激しい衝撃に思考力を奪われます。
どうやらわたしは、見知らぬ男に背負われて、その男は全力疾走しているようなのですが、酔っ払っている身としてはその激しい上下運動は堪える……堪えるよ……いやほんと、やばひ……やばひですよ……?
「も……もぅだめ……」
それが、わたしの発した最後の言葉でした。
「うわ!? なんだこいつ! 吐きやがったぞ!」
「ぎゃあ!? オレの背中で吐くんじゃない!!」
そうしてわたしの意識は昇天したのでした……
(つづいとけ)
Copyright(C) Naoya Sasaki. All rights reserved.