Extra Edition
だけど美 第1巻 番外編
界港から冥界役場は、転送ポッドを使うので一瞬で辿り着きます。
役場の敷地全体は界港以上にだだっ広いので、わたしは、自分が所属している第三総括審議室の建物内に転送先を設定しました。
第三総括審議室の建物自体は、10階建ての古びた雑居ビルで大した広さもないので、エレシュ係長とすれ違ったりしないかビクビクですョ……
そうしてなんとか係長に遭遇することなく、アウローラちゃんを食堂で見つけることができたのですが──
──わたしは、そこで驚愕の事実を聞かされたのです。
「またわたしの懲戒処分が検討されている、ですって!?」
「うん。さっき、係長同士で話しているのを聞いちゃって。午後からその会議だそうよ?」
「なんで!?」
「いや、なんでっていわれても……」
「これ以上減給されたら給料なくなっちゃいますよ!?」
「減給っていうか、停職とか免職とか的な話っぽいよ?」
「どうして!?」
「いや、どうしてっていわれても……」
アウローラちゃんは、まるで他人事のようにぽやんとしながら受け答えするのみ。うう……この子、見た目は可愛いんですけど、どうにも頼りないのが玉に瑕なんですよ……
「こ、こうしちゃいられません!」
そういうと、わたしは食堂座席から勢いよく立ち上がりました。
「どうするの?」
「どうしましょう!?」
あああ……立ち上がったはいいものの、わたし、いったいどうしたらいいんでせう……
そうしてわたしは頭を抱えて席に座り直しました。そこにアウローラちゃんがいってきます。
「エレシュ係長に謝ってくれば?」
「あの係長が謝って許してくれると思ってるんですか!?」
「思ってないけどダメ元で」
「ダメ元とか!?」
わたしはますます頭を抱えます。
「もうちょっと、もうちょっと何か策はないんですか!?」
「策といわれても……あの係長相手じゃ……」
「あ、そうだ!」
わたしは、対面で座っていたアウローラちゃんの横に移動すると、彼女の両肩をガシッと掴みました。
「アウローラちゃん、そろそろ玉の輿に乗るじゃない!?」
「いや……玉の輿が目的みたいにいわないでよ……」
「でも相手は大富豪なんでしょ!?」
「大富豪ってほどでもないケド……」
「けどお金には困ってないんでしょ!?」
「ま、まぁ……たぶんそうだと……」
「ならわたしを養って!」
「……はい?」
アウローラちゃんは、そのつぶらな瞳をぱちくりさせてから首をかしげます。
「もちろん第二夫人にしてとかそういうんじゃなっくてね!? 名目はなんでもいいのよ! あ、そうだ! わたしを養子にして!!」
「………………はいぃ?」
「養子にしてくれるだけでいいから! そうしたらあとは、こっちで勝手に食っちゃ寝してるから!!」
「あのぅ……ユーリちゃん……」
アウローラちゃんは、にっこり笑って言葉を続けます。
「寝言は寝て言え?」
「ひどひ……!」
親友がこんなに困っているというのに取り付く島もありません!
「ううう……いったいどうすれば……」
お金持ちの男なんて、そうそう都合良く見繕えるはずもないし……というか男と結婚とかしたくないしできればお金持ちの美女と……って、あ!
そういって、わたしは再び勢いよく立ち上がりました。
「いるじゃないですか! お金持ちの男!!」
「……ユーリちゃん、ドタマだいじょーぶ? やっぱり一度病院に……」
「やっぱりってなんですか!?」
わたしはアウローラちゃんに言って聞かせます。
「いるんですよ、お金持ちの男が! だいぶ歳食ってるし下界ではありますが! どぉせ公務員クビになるくらいなら、いっそ、あっちの世界で養子になってやりますョ!?」
「え……? でもユーリちゃん、あなたの担当世界はあと数年で──」
「思いたったが吉日で善は急げです! アウローラちゃん、わたし下界で幸せになるね!」
「ちょ、ちょっとユーリちゃん!?」
アウローラちゃんが名残惜しそうに引き留めてきますが、それを聞いている暇はもうありません。こうしている間にもエレシュ係長に見つかって公務員資格を剥奪されてしまうかもしれませんからね!
そうなる前に異世界で養子になってしまいましょう! そうしましょう!!
こうしてわたしは、「働いたら負けである」という名言を思い出し、それを胸に刻むと冥界役場を後にしたのでした──!
(名言が身に染みるって感じにつづく)
Copyright(C) Naoya Sasaki. All rights reserved.