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孤高のクーデレ王女がご執心!? オレは王城追放の平民なのに、なぜか二人っきりで逃避行!Vol.8

孤高のクーデレ王女がご執心!? オレは王城追放の平民なのに、なぜか二人っきりで逃避行!Vol.8

猛吹雪の山小屋で、アルデとミアの際どいシーン(!)を目撃してしまったティスリ。

あまりの驚愕と嫉妬でパニックになった彼女は、アルデを抱えてそのまま空へと飛び去ってしまいます。

そうして気づけば、二人は国境付近の宿場街へ。

「このままではアルデをミアに取られてしまう!」と危惧したティスリは、魔族の国への極秘任務を捏造。なし崩し的に、二人っきりで(愛の?)逃避行が(ようやく?)始まります!

そして舞台は魔族の帝国へ。しかしそこは『信じがたい文化』が当たり前の国でした……!

さらに、アルデの実力に惚れ込んだ双子の美少女が登場したりして、逃避行はさらに混沌を極め……そんなさなか、勢い余ったティスリが放った起死回生の打開策とは!?

独占欲が増大する、ぼっち王女の異世界ラブコメ第8弾! ぜひご一読くださいませ!

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第1話 間違いなく、ミアとの絡みは見られていたよな?

そのときのアルデオレは、ミアと共にスキー場で道に迷っていた。さらに周囲は猛吹雪。

だが運良く山小屋を見つけることができたので、そこで吹雪をやり過ごそうとしたところ……なぜかミアが服を脱ぎ始めて!?

しかも……しかもである。

どうしてかその場にやってきたティスリに、その光景をばっっっちり目撃される!

そうしてオレは死を覚悟したわけだが……

次の瞬間、ティスリに抱きつかれたかと思ったら、そのままぴゅーっと空を飛び始めたのだ。

こうして気づけば、オレとティスリの二人だけで、見知らぬ宿場町に立っていた。

「………………」

「………………」

馬を休める程度の小さな宿場町らしく、今は冬なのもあってか出入口には人の姿はない。日はすでに暮れていて、点在する街灯がもの悲しげに灯っていた。雪がやんでいることから、スキー場のあった山からはだいぶ離れているようだが……

いったいなぜ、いきなりこんな場所に?

だからオレは、うつむいたままのティスリに……意を決して話しかけた。

「あの、ティスリ……? どうしてこんな場所に──」

オレが話し終える前に、ティスリはくるりと背を向けてしまう。

「とりあえず……宿を探しましょう」

「え……?」

「それと、わたしたちの服装もなんとかしないと」

オレとティスリはスキー用衣服のままだ。服については、防寒着ということでまだ見られるかもしれないが、スキーブーツは歩きにくくて仕方がない。ティスリは普通のブーツに履き替えていたようだが、いずれにしても変えたほうがいいとは思うが……

いやだがそんなことよりも、どうしてスキー場からすっ飛んできたのか? というほうが気になるのだが……

しかしそれを問いかける間もなく、ティスリがスタスタと宿場町に入っていってしまう。だからオレも、歩きにくいブーツで足を進める羽目になった。

そしてオレ達は、旅装を扱っている道具店で衣服と靴を購入。スキー中だったオレは小銭しか持っていなかったので、やむを得ず支払いはティスリにしてもらった。

その後に宿屋を取って、それぞれの部屋へと案内されたのだが……

「あ、あの……ティスリ?」

その個室に入る直前、オレが声を掛けると……

ティスリは、こちらを見ないまま言ってくる。

「諸々の事情は、明日話します」

「……え?」

「今日は疲れましたので、わたしはもう休みます……おやすみなさい」

「お、おう……」

そうしてティスリは、飛んできてからこっち一度もオレと目を合わせないまま、部屋に入ってしまった。

(な、なんなんだ……?)

間違いなく、ミアとの絡みは見られていたよな?

それとも一瞬だったから、ミアが毛布一枚の姿だったとは気づかなかったのだろうか? まぁ確かに、あんな寒い小屋で、毛布の下は裸だったなんて思いも寄らない気もするが……

(だとしたら単に……ミアのことに気づいていないとか……?)

いやだとしても、あの山小屋からこの宿場街まで飛んできた理由が分からない。なんの変哲もないごく普通の宿場町のようだし……

しかし今考えても答えが出るはずもない。

(仕方ない……明日まで待つとするか……)

とりあえず、ミアの件はお咎め無しのようだし……

ということでオレは、首を傾げながらも宿屋の客室に入るのだった。

第2話 わたしに決まってますが!?

少し前までティスリわたしには、通信魔法の着信が断続的に入っていました。

おそらく相手は、ラーフルでしょうけれども……

それが分かっていてわたしは、即席で着信拒否魔法を作りました。もちろん、所在地を確認する機能もオフにできます。

これでわたしには着信が聞こえなくなり、ラーフルには『おかけになった守護の指輪は、魔法の届かない場所にあるためかかりません』というメッセージが聞こえるはずです。

ちなみにアルデは、相も変わらず守護の指輪を装備し忘れていましたから通信はできません。明日までに新しい指輪を作って渡す必要がありますが……もういっそ、本当に、外せない機能をつけましょうかね……!?

そもそもアルデが守護の指輪を装備していれば、こんなことにはならなかったのですから……!

そう……こんなことには……

アルデとミアさんが遭難して……そして吹雪の中の山小屋で……

二人きりになって……!

(しかもあのときの……ミアさんは……)

毛布でその身を包んではいましたが……

どう見ても、毛布の下は何も着ていませんでしたよね!?

床に衣服や下着が散乱してましたし!?

いったいなぜ、あんなことになっていたのでしょうね!!

(い、いけない……いつもこうやって、イライラしてアルデに当たるから……!)

い、いい加減……冷静になりましょう……

もしあの状況で、アルデがミアさんに手を伸ばしていようものなら、わたしは……

思わずアルデをこんがりウェルダンしていたかもしれませんが、どう見ても、アルデはミアさんから逃げようとしていました。

だからわたしは、咄嗟に機転を効かせて、そのアルデの望みを叶えるべく、飛行魔法であの場所から離脱したのです。偶然ですがラーフルも同行させていましたから、ミアさんの救助はラーフルが行うことでしょう。吹雪も止めていますし。

だから明日、アルデにはそのことを説明すればいいわけで……

つまり「あなたはミアさんから逃げようとしていたでしょう? だから飛んできたのです」と言えばいいだけ。

そうとだけ言えば済む話なのです……

…………。

……………………。

………………………………。

(いや済みませんよね!?)

だとしても、なぜこんな遠くの宿場街まで来たのか、その説明になっていません!

改めて飛行距離と方角を考えてみれば、ここはもう王国の国境付近じゃないですか!?

仮に「ミアさんから逃げるため」と説明したところで、アルデのことだから「じゃあもうピンチは脱したからみんなの元に帰ろうぜ」と言うに決まっています!

わたしは帰りたくないのに──

「──って!? なんでわたしは帰りたくないんですか!?」

あまりに突飛な考えを思いうかべてしまい、わたしは思わず声を出してしまいました!

ま、まずいです……この宿の壁は薄そうですから、声を出したら隣のアルデに聞こえてしまう恐れがあります……!

だからわたしは、しばらく息を潜めて隣の気配を探りますが──

──アルデはあのとき、何を考えていたのでしょう?

山小屋で、ミアさんに迫られていたときに……

いやそもそも、ミアさんはどうしてあんな行動を……?

いえ、分かっています。どうしてなのかは。

たぶん……というより間違いなく、ミアさんもアルデの事が好きだから……

(はっ!? わたし、ミアさんもとか考えてませんでしたか!?)

『ミアさんも』という言葉遣いは、『ミアさんの他にも、アルデに好意を寄せている人がいる』という並列と追加のニュアンスを含んでいます! だとしたらわたしは誰を想定しての並列と追加なのでしょうね!?

(わたしに決まってますが!?)

そう、わたしですよ!? 何か文句ありますか!?

「はぁ……はぁ……はぁ……」

頭の中でワタワタしていただけなのに、顔が火照って汗がドッと噴き出してきました……だからわたしはため息をついてから立ち上がります。

(つ、疲れました……シャワーでも浴びましょう……)

今日は、吹雪をとめるために結構な魔力を使いましたが、その疲れよりもアルデのことを考えているほうがよっぽど疲れますね……などと思いながら、わたしは部屋に備え付けのシャワールームに入ります。

着替えは、さきほどアルデの旅装を整えた時に買いました。それを脱衣所に置いてから、わたしは衣服を脱ぐとシャワーを浴び始めます。

「………………」

こうしてシャワーを浴びていると、やっぱりどうしても、ミアさんの行動を思い出してしまうのですが……

温泉のときといい、山小屋のときといい、いくらなんでも大胆過ぎませんか……!?

ミアさんって、あんなに大胆でしたっけ!? もっと奥ゆかしくて控えめな印象だったのですが……

ですがもし、本来は大人しい性格なのにもかかわらず、それでもああしてアルデにアプローチしているとしたら、それは……

(そこまでしないと、アルデは気づかないということですか……!?)

た、確かに……それはあり得ます……!

だってわたしがこれほど好意を寄せているのに、アルデはぜんぜん気づく素振りもないし!

そもそも!

出会った最初の頃だって、こうして二人で飛んで王城から抜け出したじゃないですか! その時点でちょっとは意識されてもよくないですか!?

今思い返せば、あの時点でわたしはすでに……アルデのことが好きだった気がしないでもないのに!?

しかもそのあと、アルデの故郷に行くまではほとんど二人旅で、いろんなところで恋人や夫婦扱いされても、アルデはぜんぜん動じる素振りすらなくて!?

た、確かに……わたしはちょっとだけ……ほんのわずかに……素直じゃなかったかもしれないですが……!

でもこんな超絶天才美少女と二人旅なのですから、少しは意識してくれたってよかったでしょう!?

むしろわたしが素直になれなかったのは、アルデにぜんぜんその気が感じられなかったからという可能性もなくはないわけで!

(……いずれにしても、だとしたら……)

あの大人しいミアさんが、しかもアルデの幼馴染みで、アルデのことをよく知っているはずのミアさんが……あそこまで大胆な行動を取る必要性を感じていたならば……

(わたしも、同じ事をやらないとダメってことですか!?)

そそそ、そんなことできるわけありません!?

だいたいなんでわたしから、そんなことをしなくちゃならないんですか!?

このままだって別にわたしは十分なわけで……

そうしてまた思考をグルグルさせていると、シャワーの湯が止まってしまいます。どうやら貯水槽の湯を使い切ってしまったようです。

(もしも……あのとき……山小屋の二人をわたしが捜し出せなかったら……)

今ごろ、どうなっていたのでしょうか……

アルデはミアさんから逃げているようでしたが……でも逃げ場はありませんでした。吹雪の中、ミアさんを山小屋において外に出るわけにもいかないでしょう。

だとしたら、あのままにしていたら、二人は……

「……結ばれていた?」

そんな発想が出てきた途端、わたしの背筋に何か冷たい感覚が走って……

まるで、心にぽっかり穴が空いたかのように思えました……!

(そ、そんな仮定の話で何を感じているんですかわたしは!? 今はそうなっていないのだから問題ないでしょう……!?)

でも、仮定の話だというのに……

どうしても、心が静まりません……!

(だ、大丈夫です……今はもう、ミアさんはここにいないのですから……)

わたしは体を拭いてから、シャワールームを出てパジャマに着替えると、魔法で髪の毛を乾かします。

小さな化粧台には卓上鏡しかありませんでしたが、そこを覗き込んで見ると、酷く焦っているわたしの顔がありました。

(どうして、こんな気持ちになるの……?)

ふと、壁の向こうのアルデを見ます。

もちろん姿なんて見えません。でもアルデは、この薄い壁の向こうにいるわけで……

もう、寝てしまったでしょうか?

寝るにはまだ早い時間ですが、でもアルデのことだから寝ているかもしれません。

アルデは一度寝たらテコでも起きないですが、寝たふりをしているときもあるんですよね……

けど、もし寝ていないのだとしたら……

今からわたしが……

訪ねたら……

アルデは、どんなふうになりますか?

ミアさんみたいに、逃げられてしまいますか?

それとも……

(はっ!? な、何をしているんですかわたしは!?)

気づけばわたしは、なぜか廊下に出ていて──

──枕を抱え、アルデの部屋をノックしようとしていました!

(ままま、まるでアルデと一緒に寝ようとしているみたいじゃないですか!?)

寝るといっても、別に変な意味はないですけどね!?

ただ同じベッドで、それこそ文字通りぐっすり眠るだけで!?

いやだから!?

いったいどういう理由で一緒に寝ると!?

ぎりぎり我に返ったわたしは、慌てて自室に戻ります。幸い、廊下に他の宿泊客はいませんでしたから、わたしの妙な行動は誰にも目撃されずにすみました……

(と、とにかく寝ましょう……! 一晩明ければ、こんな妙な気分も収まるはず……)

そして明日になって、アルデと顔を合わせれば──

(──いやだから、どうしてこの宿場街に来たのか、その理由を考えねばならないのでしょう!?)

などと悶々としていたら。

気づけば夜が明けていたのでした……

第3話 遭難したあなたとミアさんを

ティスリわたしは、『この宿場街に来た理由』を一晩かけて考えに考え抜きました。

そうして翌朝、宿屋一階の食堂でアルデと朝食を取る際に、いよいよその理由を話します。

「実は、極秘任務が発生したのです……!」

「え? 極秘任務?」

パンをかじりながら、あっけにとられるアルデに向かって、わたしは神妙な面持ちで頷きました。

「はい。遭難したあなたとミアさんを捜しているときに──」

そうしてわたしは、徹夜して考え出した理由をアルデに伝えようと話を切り出したところで……

『遭難したあなたとミアさん』の言葉に、アルデの頬が微妙に引きつった瞬間を見逃しませんでした!

「ああ……そういえば……」

わたしは目をスッと細めます。

「あなたとミアさんは、山小屋で何をしていたんですか?」

「……!?」

わたしのそのひと言で、アルデが椅子を押し倒して立ち上がりました!

そんなアルデを見て、わたしはますます目を細めます!

「なんだかわたしには、とっっってもイケナイことをしていたように見えたのですが?」

「ままま、待てティスリ!?」

そうしてアルデは、両手をワタワタさせながら言い訳してきます!

「オ、オレは何もしていない! 本当だ!!」

「へぇ……?」

宿屋の食堂は、わたしたち以外のお客さんはいませんでしたが、なんとなく、厨房の向こうから視線を感じます。

が、しかし……今はそんなことどうでもいいのです!

「アルデが何もしていないというのに、どうして、床の上にミアさんの衣服や下着が散乱していたんでしょうね?」

「……っ!?」

「おかしいですよね? あんな寒いさなかで衣服や下着を脱ぐはずもないというのに」

「オ、オレもそうだと思ってたぞ!? でもミアが言うには、濡れた衣服を着ていると体温が奪われるんだとか!? だからミアが自主的に脱いだのであってオレは何もしていないぞ!?」

「ふぅん……とはいえ毛布一枚しかないのでは、結局寒いですよね?」

「うん! そうだと思う! だからオレは──」

「そう言えばユイナスさんが言っていたのですが」

そしてわたしも、ゆらり……と立ち上がります!

「人肌で温め合えば、暖を取れるそうですよ?」

「ままま待てティスリ! 落ち着けって!?」

「わたしは至極落ち着いていますが?」

「じゃあなんで、片手に炎を持っているのかな!?」

「暖を取ろうかと」

「宿屋なんだから十分に暖かいだろ!?」

そうしてアルデは、いつでも逃げ出せるような体勢になりつつも、わたしに言ってきます。

「と、とにかくオレはまきを探してたんだよ!? でもミアが勝手に服を脱ぎ始めて! だいたいオレは着衣のままだったろ! ユイナスが妙なことを言っていたようだが、断じてそんなことはしていないから!?」

「………………」

もちろん、分かっています。

ここでアルデをこれ以上責めたら、もしかしたら……

アルデに嫌われてしまうかもしれない、ということは……!

これまでだって、だいたいこんな感じでアルデを責めて、でもいま考えてみたら、アルデはそこまで悪くなかった気がしなくもないわけで!?

だから今も、アルデを責めるのはお門違いなのでしょう!

で、でも……

じゃあ怒りが消えるのかと言えばそんなことないわけで!?

「なら……」

だからわたしは『ちょうどいい感じにウェルダンとなるだけで、後遺症は残らないですよ?』的な即席魔法をぐっと抑え込んで……問いかけました。

「もしわたしが駆けつけなかったら……あなたはどうしていたんですか……!」

「も、もちろん薪を探し続けてたさ!」

「その薪がなかったら?」

「え、えっと……そのときは……とにかく何か燃えるものをだな!?」

「あんなに吹雪いていたのに、燃えるものなんてあるわけないでしょう?」

「そ、それはそうだが……!」

「じゃあやっぱり、人肌で温め合うしかなかったじゃないですか……! それをしないとしたらどうするつもりだったんですか……!?」

わたしがアルデをきっと睨むと、アルデは困ったように視線を逸らします。

「それはその……実は、薪以外のことはあまり考えてなかったんだけど……」

「だけど!?」

「なんというか……どのみちお前が、すぐ助けに来てくれるだろうと思ってたから……」

「……!?」

「だからとにかく、先走るミアをなだめてたんだよ。ミアはきっと、凍死するかもしれない恐怖から焦っていただけだと思うから……」

「………………」

確かに……

あの瞬間を思い返してみても、アルデの言うことはその通りで……

それにあのとき、わたしのことを考えてくれていたとは、思いも寄らず……

(あんな状況でもわたしに想いを馳せてくれていたなんて……な、なんだかこそばゆいというか……いえそういうことではなく!?)

とにかくミアさんは、凍死の恐怖から衣服を脱いだわけじゃないと思いますが……その意図すらアルデに伝わっていないのだとしたら……

(これ以上……この話を続けるのは得策ではありません……!)

なぜならこの話を深掘りすればするほど、ミアさんの秘めたる想いに(いやもう秘めてもいないでしょうがとにかくそんな感じの想いに)、アルデが気づく可能性が高まるわけで……!

だいたいこんな話を続けるほど、アルデに嫌われるだけです……!

だからわたしは、大きくと息を吐くと……魔法を収めてなんとか着席しました。

「……分かりました。あなたに妙な気はなかったと信じます……」

「お、おう……そうか……それは助かるよ……」

そうして一触即発だった雰囲気はなんとか霧散していき……

でも気まずさだけは残っていて……

だからか、アルデは咳払いをしてから言ってきました。

「そ、それで……極秘任務ってなんだ?」

「……え?」

「いやだから、この宿場街に来たのは極秘任務だからって、さっき言ったじゃないか」

「あ、ああ……そうでした」

わたしは、徹夜で考えたその言い訳──もとい理由をアルデに話し始めます。

「実は、あなた方を捜しているとき、ジハルドに遭遇したのです」

「ジハルド……って誰だっけ?」

「もう……あなたの村を襲おうとした指揮官ですよ」

「ああ、あのいけ好かない魔族野郎か。でも確か、ヤツは解放したんじゃなかったっけ? それで国に帰したって」

「ええ、そのはずでしたが、なぜかわたしを追ってあのスキー場にいたのです。そしてあなた達を捜しているときに遭遇して、彼は攻撃を仕掛けてきました」

「まじかよ。それでどうしたんだ?」

「もちろん撃退しましたが、その後のことは──」

そう言えば、その後どうするかはまったく考えていませんでした。彼の魔法は向こう数カ月ほど封印されますので、ラーフルでも捕らえるのは容易でしょうけれども……

「──その後のことは、ラーフルに任せましょう」

「うん、青ざめるアイツの顔が目に浮かぶようだよ」

「大丈夫ですよ。彼女は自分の能力を過小評価していますが、その気になれば、どんな任務も遂行できるほどに能力が高いのです。領主代行や特命大臣も経験しましたから、政務にも精通したことでしょう」

「そうか。お前がそういうなら安心だな」

「ええ……ああ、そうです。であれば新たな役職を与えた方がラーフルも動きやすいですから、摂政に任命しておきましょう」

「摂政ってどんな役職なんだ?」

「端的に言えば、王族の次に偉いということですね。陛下は元より不在ですし、これからわたしもまた王城を空けますので、そんな状況ではラーフルが最高指導者、つまり国王みたいなものになります」

「そりゃすごいな。ならラーフルも動きやすそうだ」

「そうですね。ということでジハルドの処置はラーフルに任せることにして、わたしたちはかの帝国──ジハルドの出身国であるヴァルザーク帝国で潜入調査をします。なぜ帝国は我が国に手を出してきたのか、その理由を探るために。この宿場街に来たのは、その道中であるからに過ぎません」

もちろん帝国の思惑はもう分かっているのですが、たぶんアルデには分からないでしょうし、だからこの辻褄合わせは完璧と言っていいでしょう! アルデが脳筋で助かりますね!

しかしこの完璧な辻褄合わせに、アルデは首を傾げるばかりでした。

「なるほどな。けど潜入調査って……何をするんだ?」

アルデは素朴な疑問といった感じで聞いてきましたが……

何をするかまでは考えていませんでした!

「え、えっと……それは……」

だって潜入調査なんてするつもりはまったくなくて!

もっと言えばヴァルザーク帝国に行くつもりすらなくて!?

この話は、ミアさんの元に帰りたくないから……そのための辻褄合わせに過ぎないのですから!!

だからわたしは、歯切れを悪くしながらもなんとか答えます……

「それはその……潜入調査ですよ……」

「いやだから、具体的には?」

「え、えっと……例えば……」

やむを得ずわたしは、ごく一般的な潜入調査の内容を説明し始めました。

「まずは国状を知ることが何よりも重要です。そのためには……帝国の代表的な都や街を見て回る必要がありますね。可能であれば帝都も見たいところです。そうして市井の民の声を聞き、政治体制や文化面、さらには人類に対する感情面も確認することが重要でしょう……」

な、なんだか……こんな具体的に説明をすると……

本当に、帝国に行かねばならなくなりそうですが……

帝国のことは、わたしもそこまで詳しくはないのですが、帝国を始めとする魔族圏の文化に、どうしてもわたしには理解しかねるものがあるので……

できればアルデは……連れて行きたくないというか……

しかしそんなわたしの心境なんて知るはずもないアルデは神妙に頷きました。

「なるほどな。あの男が攻撃を仕掛けてきたというのなら、急いで帝国に向かったほうがよさそうだな」

「え、ええ……そうなのです」

「けどわざわざ王女がやることなのか、それ? 諜報部とかに任せればいいんじゃないの?」

「えっ!? えっと……そ、それは……魔族圏ともなると危険な任務ですから、安易に家臣を向かわせるわけにもいかないでしょう?」

「なるほどな。だったら王女であったとしても、最強のティスリが自ら出向いたほうがいいわけか」

「そ、その通りです……」

いやだから、元々出向く気はなかったんですけどね!? そもそも魔族圏と言っても、王侯貴族と会ったりでもしない限り、大して危険もないわけで……

このままだと、本当に帝国に向かわないと怪しまれそうだと思っていると、アルデがさらに聞いてきました。

「極秘任務なのは分かったけど、だったらなおさら、いちど王都に帰ったほうがよくないか?」

「え……?」

思いも寄らないことを言われて、わたしは首を傾げます。

そんなわたしにアルデが真面目な顔つきで言ってきました。

「いやだって、オレは着の身着のままなわけで、とりあえずの衣服は整えたけど、剣も何ももっていないじゃん。路銀もないし。見た感じ、お前もなんだか旅支度をしているとは思えないし」

「そ、それは……」

「だから一度王都に帰って、せめて装備くらいは整えた方がいいんじゃね?」

いや王都に帰ったら、下手をしたらミアさんと鉢合わせしてしまうかもですし!?

だとしたら、こんな辻褄合わせをしている意味がありません……!

「だ、だめです……」

だからぽつりとそう零すわたしに、アルデは眉をひそめます。

「だめって、なんで?」

「え、えっと……それは……」

わたしは頭を高速回転させて……そして閃きました!

「ジハルドが、わたしの所在を把握していたということは……何かしらの方法でわたしの動向を探っていたことになります。となると王城に帰ったりしたら、またもや動向がバレる恐れがあるわけです……! そしてバレてしまっては極秘任務になりません!」

「ふむ……お前の魔法でもその辺を誤魔化すことは無理なのか?」

「そ、そうですね!? あちらもさすがは魔族ですし、そんな魔法の攻防をしているくらいなら、ジハルドが倒れている今、すぐさま旅立ったほうがいいというわけです!」

「なるほど……まぁ相手も魔法に精通した魔族だしな」

「ええ、その通りですよ……! それに装備は道中で揃えれば済む話です。まだ自国内ですから銀行もありますし」

「まぁそうだな。しかしそうなると……」

そうしてアルデが、深いため息をついてからぼやきました。

「ユイナスが、怒るだろうなぁ……」

「え……?」

思わぬ名前が出てきて、わたしは反射的に聞き返しました。

「ユイナスさん……ですか?」

「ああ。ほらアイツ、いつまで経っても兄離れしないだろ? それで王都の学校にまで転校してきたんだし。なのにオレが王都を長期不在にするとなると、すげえ怒るだろうなと思ってさ。いちど帰って説明したほうがまだマシだと考えたんだが」

「………………!」

た、確かに……そうです!

ミアさんの衝撃的な行動に気を取られすぎて、ユイナスさんのことまで気が回っていませんでした!

で、でも……

やっぱりこのまま、ミアさんとアルデを王都で一緒にさせておくわけには……

だからわたしは、恐る恐るアルデに確認します。

「ユ、ユイナスさんは……どのくらい怒ると思いますか?」

「う〜ん……そうだなぁ……」

そうしてアルデは、少し虚空を見上げてから……答えてきました。

「まぁひと言でいえば、激怒?」

「王都にはもう帰れないかもしれません……!」

ああ……なんだかどんどん、状況は悪化しているような……

でもやっぱり、だからといってこのまま王都に帰る気にはなれず……

結局わたしは、帝国行きを決めるのでした……

(Kindleに続く)

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