
LIGHT NOVEL
まったく……まったくアルデは!
なんでいつも理解がズレるんでしょうね!?
(だいたい……男性の客室に女性が訪問して、それで二人っきりで食事をしていたら……普通は気づくでしょう!?)
もちろんわたしの意図は、ローデシア姉妹に夕食を邪魔されないためなのですが、しかし状況的にはアルデが何かを勘違いしても致し方ないわけで……!
(なのにアルデは、勘違いしないどころかまるっきり明後日の方向に勘違いする始末……!)
そもそもアルデが寝入る様子をわたしが見守っていて、いったいなんのわだかまりが消えると!?
男性客室に女性がぽつんと一人でいて、いわんや寝入る男性をじーっと見つめているなんて、間抜けにもほどがあるでしょう!?
(はぁ………………というか、またアルデとケンカしてしまいました……)
ひとしきり怒ったわたしは……またもや後悔の念に悩みます。
(いったいどうして……アルデの前だと……あんな態度になってしまうのでしょう……ミアさんみたいに、もっと素直になりたいのに……)
わたしがミアさんほどに素直で優しくあったならば……きっとこれほどこじれたりはしないはずなのです。
そんなことは、もう分かっています。分かっているのです。
(ですが……分かっていても歯止めが利かないから困っているわけで!?)
うう……このままでは本当に、アルデに嫌われてしまうかも……
などと思い悩んでいたら、廊下から賑やかな声が聞こえてきました!
『やっほーアルデ! 夜のお楽しみをしに来たよ!!』
『って!? なんでお前ら勝手に扉を!』
『わたしたち、ここの主人とは顔見知りでして』
『だとしても鍵を渡すとかどうかして──』
「あなたたち!」
気づけばわたしは、廊下に飛び出していました!
そして当然、目前にはローデシア姉妹の姿が……!
「わぉ、ティスリってばアルデの部屋の隣なの!?」
またぞろヒナカさんがニヤリと笑ってくるので……わたしは警戒しながら頷きます。
「そうですが……それが何か?」
「何かって、隣同士なら夜這いのし放題じゃん!」
「…………!」
いきなり恥ずかしいことを言われて、だからか思わずアルデを見ると──
「あ……さっきのシャワーとかって、そういう……」
──なんでこのタイミングで気づくんですか!?
わたしの声にならない悲鳴をよそに、ヒナカさんがアルデに食ってかかります!
「ちょ、ちょっと待って!? 今なんて言った!? もしかしてもう事後なの!?」
「ななな、なんの事後だ!?」
「いやだから夜のお楽しみの」
「んなわけあるか!?」
と、そのとき隣室から「おい、うるさいぞ!」と怒鳴られてしまい……
廊下で騒いでいたわたしたちが全面的に悪いので、謝罪をしてからとりあえずアルデの部屋に入りました。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
アルデの部屋は一人用ですから、四人もいると過密と言ってもいいでしょう。
椅子も二脚しかないので、わたしとアルデがその椅子に座り、ローデシア姉妹はベッドに腰掛けました。
そして何を思ったのか、ソマさんがぽっと頬を赤らめて言いました……!
「も、もしかして……今夜はこのまま四人で……!?」
いったい何を四人で行う気なんでしょうね!?
さらにヒナカさんがにわかに慌て出します!
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってお姉ちゃん! さすがのわたしも初体験からそんなアブノーマルな──」
「だから待てって!? おまいらいったい何を想像して──」
「いやだから四人同時にえっ──」
「いや言わなくていい! 頼むから言わないでくれ!?」
もはや顔も上げられなくなったわたしは、下を向いてぷるぷる震えるしかなくなっていると、アルデが呆れた感じで二人に言っていました。
「で、お前ら本当にいったい何しに来たんだ。人の部屋の扉を勝手に開けて」
「いやだから、夜のお楽しみをしようと思ってね?」
「ほぅ……ならヒナカは、今からここで、本当に四人で楽しみたいと?」
「アルデが望むなら……いいよ?」
「いきなり真顔で赤くなるなよ!?」
慌てふためくアルデに、ソマさんが説明します。
「夕食をご一緒しようと思ったのですが、お二人は、今日はルームサービスを使ったと主人に聞きまして……」
一見するとまっとうな話をしているように見えるのですが……その後に続く言葉はぜんぜんまともではありませんでした……!
「だから部屋の鍵を借りました」
「いやいやいや!?」
アルデは身を乗り出して抗議します。
「だからって鍵を借りるな!? この宿のプライバシーはどうなってんだ!」
「す、すみません……出来心だったんです……!」
「出来心と言われても!?」
「わたしはどんな罰でも受けます! ですから妹は、ヒナカだけはご勘弁頂けないでしょうか!?」
「なんでオレが悪役なの!?」
「悪役らしく拘束してくれてもいいんですよ!?」
「だからなんでだ!?」
この二人の悪ノリを……いえ、ソマさんに至っては悪ノリでもなんでもなく至極真剣な気がしますが、いずれにしてもいったいこの二人はどうすればいいのか……
このままだと、ずっとこうやって邪魔されかねません!
もういっそ、魔法で眠らせてその辺に放りだしますかね!?
いやでも、あまりに酷いことをすると、アルデにドン引きのうえ嫌われてしまうかもしれないし……!
だとしたら、魔法は使わず、何か強制力のある約束ができればいいのですが……
「ねぇねぇアルデ、夜のお楽しみ、しよ〜よ〜」
「ヒナカ、お前の魂胆は読めてるからな? そうやってからかっているくせに、その本心はびびってるんだろ?」
「そんなことないよ〜? アルデにならすべてを捧げてもいいって思ってるし!」
「ぐっ……でもダンジョンでの戦闘中、服を脱がされて恥ずかしがってたじゃん……!」
「あれはいきなりだったからね。でも今は覚悟完了してるから!」
「するなよ!?」
「アルデさん、わたしも覚悟完了済みですよ……!」
「ソマまで妙なこと言ってくるな!?」
「妙なことじゃないです……! わたしもヒナカも真剣なんです! なんでしたら今ここで一糸まとわぬ姿になって証明を──」
「ししししなくていい!? もしかしてお前ら酔ってる!?」
「軽く一杯呑んできただけだよ〜。そうしたらこうしようよ!」
「どうするんだ!?」
「わたしたちとアルデで何かゲームでもして、アルデが勝ったらわたしたちを好きにしていいよ!」
「なんで勝ったのに望んでいないことを!?」
「ならわたしたちが勝ったらアルデさんを好きにします!」
「ソマまで何言ってんの!? ってかそれだと勝率が──ってティスリ!?」
すっくと立ち上がったわたしに、アルデが大いに慌てました!
「ままま、待てティスリ! こんなところで魔法でもぶっ放したらとんでもないことに──」
「しませんよそんなこと!?」
そしてわたしは、姉妹をギロリと睨み付けます!
「いいでしょう……その勝負、乗ってあげます!」
わたしがそう断言すると、ヒナカさんが驚きの声を上げました!
「わぉ! ティスリってば意外とノリいいじゃん! でもいいのかな〜? 大切なアルデを、わたしたちに取られちゃうかもだよ?」
「わたしは負けませんから問題ありません! その代わり、あなたたちが負けたらわたしの言うことを聞くこと! いいですね!?」
「それは条件しだいかな〜? 未来永劫、アルデを口説くなとか言われても聞けないし」
「ならば今夜はわたしの言うことを聞く! いいですね!?」
「それならいいけど、わたしたちが勝つ場合だってあるの、忘れてない?」
「忘れてません! どうせ勝つのはわたしというだけです!」
「ほほう……大した自信だね? それで勝負の方法は?」
「少し待っていなさい!」
そしてわたしはいったん自室に戻ると、買っておいたトランプを取り出します。アルデと夜のお楽しみ──じゃなくてレクリエーション用に買っておいたのです。
まさかこんな形で使うことになるとは思っていませんでしたが……やむを得ないでしょう。
そうしてわたしは三人の元に戻ると、声高らかに宣言しました!
「ポーカーで勝負です! そして勝者が敗者全員に命令をできる、命令は今夜限りのものに限る、これでどうですか!」
わたしのその話に、ヒナカさんは意味ありげに口元を緩めました!
「ほう……いいのかな? この街で、ポーカーの女王と呼ばれたのはわたしだよ?」
「知りませんよそんなの! そっちこそいいんですね!?」
するとソマさんが不安そうに言いました。
「いやヒナカちゃん……わたしたち、賭け事なんてしたことないじゃない」
「だいじょーぶだよ。あんなの時の運だって。じゃんけんみたいなものだって」
これはもはや楽勝でしょう。ポーカーの神髄は知能戦、つまり手札の読み合いにあるのですから!
わたしが勝利を確信していると、アルデが手を上げてきました。
「なぁ……オレはポーカーなんてやったこともないんだが……」
「ならアルデは不参加で構いませんよ」
「いやけどそれだと、お前が不利じゃないの?」
「確率的にはそうですが、問題ありません。ぜっっったいに負けませんから!」
かくして二対一のポーカーは開始され──
──あっさりわたしが勝ちました!
「ティスリさん、強すぎます!?」
「魔法でわたしたちの手札を見てるんじゃないの!?」
「そんなことしませんよ! 自分の手札と場にある手札、それらをすべて覚えておけば、あとはあなた方の打ち方がぜんぶ答えになるのです!」
「何を言っているのですかティスリさん!?」
「全部覚えるなんて不可能なんだけど!」
「とにかく! わたしの勝ちは揺らがないのですから、あなた方は早くこの場から──」
「お願いしますティスリさん! もう一回、もう一回だけ勝負を!?」
「イカサマだー! 八百長だー! ぶーぶー!」
「見苦しいですよ二人とも!?」
そんなことを言い合っているうちに「なんだか楽しそうだな。オレもやってみたいんだが」などとアルデが言ってきて、だから結局再戦になってしまいます!
「えーと……ティスリ、これって役になってる?」
「いえ、これはまだカードが足りず……っていうか、対戦相手のわたしに見せてはだめでしょう?」
「そうは言っても、オレはまだ初心者だから……」
「アルデさん、僭越ながらわたしがご指導しましょうか?」
「ちょっとお姉ちゃん! それはずるい──あ、ならわたしとお姉ちゃんとアルデで協力して、ティスリを打ち負かそう!」
「なんでそうなるんですか!?」
「でもティスリにはちょうどいいハンディじゃね?」
「初心者三人が束になったってハンディにもなりませんよ!」
「くっそー、いったなティスリ。アルデ、みんなで協力してティスリを倒そう!」
「いいな! こういう勝負事でティスリに勝ってみたいと思ってたところだ!」
「がんばりましょうねアルデさん! 負けたらわたしが脱ぎますから大丈夫ですよ!!」
「脱衣ポーカーじゃねぇ!?」
「っていうか、なんでわたしが敵役になってるんですか!?」
と、そんな感じで……
気づけば本当に、四人で夜のお楽しみを夜通しやるはめになって……
ずっと勝ち続けたのはわたしだというのに、わたしの要求はまったく承諾されないのでした……
(番外編おわり。第9巻につづく!)
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