第9巻 番外編

LIGHT NOVEL

番外編1ティスリの名案

 ティスリわたしはその晩、宿屋の個室で枕を抱えて……

 めちゃくちゃ考えていました!

 それはもう……国政を執り仕切っていた頃より遙かに頭を使って! 新しい魔法を考案するより頭をフル回転させて!!

 なぜならわたしにとっては、どんな政策よりも、どんな魔法理論よりも難解だからです!

 では、この超絶天才美少女であるわたしであっても難解と言わせしめる事案とは、一体何か……

 それは……

(いったいアルデに、どんなことをしてもらいましょう!?)

 この件こそが、わたしを最大に悩ませている事案なのでした!

 それを思うだけで、わたしは思わずベッドの上で、脚をバタバタさせてしまうほどです!

 だってあのアルデが!

 先のダンジョン攻略のときに!!

「オレにできることならなんでもするから!」

 と言ってくれたから!

 なんでもするということは、極論をいえば……

 「わたしと男女交際しなさい」と命令すれば、有無を言わせずお付き合いさせられるということだから!!

(ま、待ちなさいわたし……さ、さすがにそれは……時期尚早というか厚顔無恥というか……)

 いくらなんでも、何かの交換条件で男女交際をスタートさせるのは……なんだか違う気がします……

 でもあのアルデならいいのでは? どのみちアルデは人権とか理解していないでしょうし? と思わなくもないのですが……

 でもやっぱり、そういうのはよくないと思うのです。

 であれば、いったいアルデに何をしてもらうべきか……

(やっぱり、デートとかでしょうか……でもそれでは一回限りになってしまいますし……プレゼントを希望したとしても、特に欲しいものもありませんし……)

 そもそも、よくよく考えてみれば。

 アルデと旅をしてからこっち、ある意味、毎日がデートというか……!?

 魔族のこの街に来てからも、初日から観光気分でしたし、だいたいわたしとアルデとでは、冒険者のクエストだってちょっとした余興というかアトラクションみたいなものですし。

 わたしは、いつだったか読んだその手の叙情詩を思い出してみます。そこまで熱心に読み込んだわけではないので、ごく一般的な知識くらいしか持ち合わせていないのですが……

(あの手の物語は、お泊まりデートがクライマックスになること多かったですよね。ですが……)

 今のわたしとアルデでは、毎日がお泊まりデートのようなものですし……!

 そもそも、アルデの故郷に行くときだってお泊まりデートでしたし、なんだったら王都でも旅館でお泊まりしましたし、あげくの果てにあのときは──

(──あられもない姿を見られてしまいましたし!?)

 あられもないと言えば、水着姿も見られたというか見せてしまったし、今にして思えば何がどうしてそうなったのかサッパリですが……一緒に入浴までしてしまいましたし!?

(わ、わたしって……意外と脇が甘くありませんか!?)

 だというのにまだお付き合いもしていないとは──

(──いったいなぜなのですか!?)

 あまりに大きなその疑問に、思わず悲鳴を上げそうになりましたが……わたしはぐっと堪えてその声を飲み込みます。

 薄い壁一枚隔てた隣にはアルデが寝ているのです……まぁアルデは、一度寝付いたらテコでも起きませんが、まだ寝入る前だったなら不審に思われてしまいます。

 どういうわけか、これだけ色々起きているというのに……アルデとまだお付き合いどころか両思いにもなれていない可能性があって、わたしとしてはまったくもって不本意でしかないのですが……

 でもだからこそ、この好機を十全に活かさなくてはならなくて……

(いったん、素直になって考えてみましょう……わたしが本当に望むものは、一体何か……)

 そ、それは……

 それはその……

 ア、アルデと……

 なんというか……

 アルデもわたしと同じ気持ちになってほしいというか……

 例えば今……わたしはアルデのことを考えているわけですが、隣のアルデも、今この瞬間に、わたしのことを思っていてほしいというか、でもそんなことを要求したところで人の心はコントロールできませんし、きっとアルデのことだから、三歩歩いたら忘れるに決まっていますし……

(ならばまず、忘れられない思い出を作ればいいのでは?)

 ですがわたしが知っている叙情詩的イベントは、お付き合いもしていないのに、なぜか一通りこなしていますし……

 あれ以上の思い出となると……

 わたしが強烈に覚えている出来事は……

(ミアさんみたいに誘惑するとか!?)

 ダ、ダメです!?

 そ、それだけはいくらなんでもできません!

 いやすでに酔った勢いで色々やらかした気がしますが、でもそれは酔った勢いだったからで!?

 ですがあのときアルデは、いったいわたしのことをどう思ったのでしょうか!?

 まさか……はしたない痴女だと思われていたりして!?

(やっぱり……ダメです……これ以上、痴女と思われるわけにはいきません……)

 実行するなら、なにかこう……せめて可愛らしい部屋着を着るとか……いやでもそんな服、わたしは持っていませんし……

 なのでいったんは、視点を変えてみましょう。

 普段からわたしとアルデは……デートっぽいことをしており、それ以上を求めることもできないのであれば……

 お邪魔虫を排除するとか?

 となると目下の問題は、あのローデシア姉妹ですが……

 姉妹を相手にするなと言ったところで、むしろ姉妹がより過激なアプローチをしてくるだけでしょうし、いわんや『なんでもする』を理由にパーティ解散などと言ったら、アルデの心証が悪くなりますし……

 だとしたら、現状維持をしながらも、あの姉妹を牽制する手段とは、何か?

(わたしとアルデの仲を、今以上に見せつけられれば……)

 ですがこれまでにも、あの二人には見せつけているはずなのですが、一向にお構いなしなのはなぜなのでしょうか?

 魔族の文化が一夫多妻だからでしょうか?

 でもそれだけではないような……

(やはりこの手のイベントは……いかにわたしと言えども情報も経験も足りません。勉強不足は否めないわけで……)

 何しろ、すべてが初体験なのです。

 っていうか、政治や魔法や経済やその他諸々も初体験だったときもあったのに、そのすべてが手に取るように分かったのですが、どういうわけかアルデのことだけが分かりません。

 なぜなのでしょう……?

 ですがここでめげていても仕方がありません。

 勉強不足であるならば勉強あるのみ、なのですが……大した教材もありませんし……

(せめて、誰かに教わることができれば………………あっ!)

 そこでふと、わたしは気づきます。

 街中には、男女交際をしている恋人たちで溢れていることに。

 ご教示を願うとしたら、それはもちろん経験者が先生となるわけですが、だとしたらそういった方々は街中に溢れています。

 ただもちろん、彼ら彼女らに聞いて回ったりしたらおかしな人ではありますが……

(遠巻きに観察しているだけでも、勉強になるのでは?)

 学問においては観察も立派な勉強です。講義を受けることができず、デートという実験をしているのに進展がないなら、あとは観察くらいしかないでしょう。

 なら早速、明日にでも市中の恋人を観察してきましょうか?

(いや……待ってください……それはわたし一人でやらなくても、アルデと一緒でもいいのでは?)

 どうせ勉強するなら、アルデと一緒のほうが手間が省けます。

 それに恋人を観察しにいくとなると、そういった場所に出向くわけですから、一人だと入りづらい場合もあるでしょうし、アルデとなら楽しむこともできて一石二鳥です。

 さらに……

(あの姉妹への牽制にもなるのでは!?)

 あの姉妹のことですから、わたしとアルデが出掛けたら、ほぼ間違いなく付けてくることでしょう。その際、世間の恋人を模倣したわたしとアルデの仲を姉妹に見せつけることができたなら……

 きっと、よりリアリティが出せるはず!

(もしかしたら……姉妹が一向に諦めてくれないのは、恋人としてのリアリティが足りなかったからかもしれません!)

 しかも、しかもです……

 アルデへの命令──もといお願いを「恋人のフリを上達するための勉強」とすれば……

(一回切りのお願いで終わることもありません!!)

 わたしとアルデは恋人のなんたるかを理解し、姉妹にはリアリティを伴った牽制ができて、さらにその最中もわたしは楽しい。しかも『勉強』ですから継続性がある!

 そうしてあわよくば、アルデが恋人っぽいことを覚えて、ひょっとしたらわたしをチヤホヤしてくれて、むしろわたしのことを意識せざるを得なくなるかもですよ!?

 アルデへのお願いという一石で……何鳥も落とせる名案ではないですか!!

 そうして隙あらば、恋人のフリから済し崩し的に本当の恋人になってしまっても不思議ではありません!

「さ、さすがはわたしです……! 図らずもこれほどの名案を閃くとは!」

 よし、これを『恋人勉強』と名付けます!

 そしてさっそく、明日アルデに提案しましょう!!

「うふふ……明日が楽しみです……」

 そうしてわたしはベッドに潜り込み……

 楽しみすぎて、また一睡もできなかったのでした!

(おしまい)

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