第9巻 番外編

LIGHT NOVEL

番外編3神威竜の探求

 神威竜と呼ばれるようになってから幾星霜……

 我は、その名にふさわしい最強無敵の存在であった。

 ひとたび咆哮を放てば魔族共は恐れおののき、巨大な翼を羽ばたかせればものの見事に転げ回り、そうしていよいよ魔法を発現しようものなら、その予兆を察知しただけでひれ伏して、我の慈悲を乞い願うばかりであった。

 あのお方……

 ティスリ様が現れるまでは!

 だが今となっては、もはや無念も後悔もない。きっと、あのお方こそが正真正銘の神か、あるいはその化身、その子なのだろうからな。

 そんな気高き存在と相まみえ、まだ命を長らえているだけ僥倖ぎょうこうと言えよう。まったくもって、あのお方の慈悲深さには感服するしかない。

 そもそも、だ。

 先の戦闘を思い出すだけでも、まだ身震いが止まらない。

 無制限な魔力から放たれた、圧倒的なあの攻勢魔法。屍竜は元より空間そのものを火の海にしてしまう規格外の強さ。そうして苛烈極まりないあの眼光……!

 どれを取ってもまさに神か悪魔かの所業にしか思えないが……

 実はあのとき、その強大無比な戦闘能力より……

 よほど戦慄した現象があった。

 あの場の誰一人として気づくことはなかったが……

 我は、この目でしかと見た。

 しかもその現象の結果は……

 今、我の後ろ脚に収まっている。

 つまりはあのお方が『封印の腕輪』と名付けた魔具である!

 もちろん、その機能は途轍とてつもない。あのお方ほどではないにしても、それなりに溢れんばかりである我の魔力を、こうもあっさり封じてしまえる主機能は圧巻である。

 さらにあのお方はおっしゃったのだ──護身以外の魔法発現はできない、と。

 裏を返せば、護身ならば魔法発現できるということであり、ではいったい、どうやって護身か否かを判別しているというのだろうか?

 もしも、我の脚に収まっているあの魔具に知能があれば……それは可能だろう。千変万化する状況判断は、知能なくしてはできないからだ。

 本来、そんな魔具などあり得ないのだが……あのお方の事だ。物言わぬ魔具に知能を宿すことくらい、造作もないのだろう。幾星霜生きてきた我ですら思いも寄らない理論を構築しているに違いない。

 だがしかし……我が畏れたのはそれでもない。

 あの魔具の真に途方もない機能とは……

 伸縮自在のその形状にある!

(我は見た! この目でしかと目撃したのだ! 人の指ほどのサイズしかなかった指輪が、みるみるうちに巨大になるのを!?)

 この世界には摂理というものがある。

 その摂理のどれか一つでも狂ってしまえば、世界はあっさり消滅してしまうかもしれない。

 その摂理の一つに『世界の構成要素は、決して増えることも減ることもない』というものがある。

 つまり、もし魔法によって指輪が巨大化するならば、それと同等の質量をどこからか調達する必要がある。

 それは、指輪の原材料が必要だという話ではない。そもそもあのお方は、指輪を巨大化するとき、どこからも原材料を調達してもいない。

 つまり──

(──あのお方は、無から有を生み出したのだ!!)

 いや違う。そうではない。

 一見するとそう見えてしまうが……あのお方とて世界の摂理を書き換えることはできないはず。いや、それをもできてしまえるかもしれぬが、我ごときを封じる魔具に対して、そこまでの現象を起こすとは考えにくい。

 となれば……

(魔力を物質化したのか!?)

 我もそれを考えたことはある。だがしかし……魔力を物質化するには、摂理としては成立しても、いざそれを発現するとなれば……想像を絶する魔力が必要なのだ!

 それはもしかすると……この世界のすべての魔族が魔力を使い果たしても、到底足りないであろう魔力が必要になる。

 それを、あのお方は──

(──我の爪ほどにもない御身で、しかもあっさりと、息切れ一つすることなくやってのけられたのだ!?)

 これを目の当たりにして、平伏しない存在がいるはずもない!

 だというのに、あのお方の傍らにいることを許されているあの雄──アルデといったか、我をペットにしようとした訳の分からん彼奴あやつは、あれほどの超常現象を目撃したというのに、なぜ呆けているだけなのだ!?

 あれほどの異常事態をまったく理解していないというのか!? 魔法理論を知らずとも、指輪がみるみるうちにデカくなるなど常軌を逸しているであろうが!?

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 い、いかん……思い出しただけで興奮してしまった……

 いったいなぜ彼奴があのお方の傍らにいることを許されているのか、まったくもって理解しかねるが……あのお方のことだ。きっと深遠な思惑があるのだろう。

 いずれにしても我は、あの現象を目撃した時点で悟ったのだ。

 あのお方のペットになれるのであれば、むしろ望外の幸運であると。

 だが惜しむらくは……あのお方は魔族だということか。

 いや後から聞いた話だと実は人類だという話だが、どちらにしても、その寿命は、我にとっては蝋燭の灯火のように短いわけだ。

 あれほどの……軽く人智を凌駕し、もしかしたら神をも超越している存在だというのに、人の身であるが故に、その寿命がわずかしかないとは……

 これはもはや世界の損失であるな……

(ハッ!? そ、そうだ……!)

 ならば我が、あのお方の寿命を延ばして差し上げればいいのでは!?

 あのお方には到底及ばないが、それでも我にだって魔力はある。長く生きたわけだから知見もある。

 その魔力と知見を総動員して、あのお方に……

「不老不死になって頂ければいいではないか!」

 そうすればこの世界は永久に安寧を享受できよう!

 ということで、この日から──

 ──我の不老不死探求は始まったのであった!

(おしまい)

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