
LIGHT NOVEL

帝都を揺るがす狙撃事件から幕を開ける第11巻。ようやく騒ぎが収まったかと思えば、第一皇女オフェルテのアルデへのご執心は加速するばかりで……!?
その挙げ句に「ティスリとはいったい誰じゃ!」と追及されたアルデが、追い詰められた末に口走ったのは──「ティスリはオレの恋人だ!」というまさかの宣言!? もちろん恋人はフリのはずなのですが、なぜかティスリのほうがノリノリで……!
さらに帝都には、アルデを心配したミアやユイナス、リリィにラーフルまでもが集結! 当然『恋人宣言』も筒抜けとなり、修羅場はもはや収拾がつきません!
そんな大混乱のさなか、いつも孤高で強気なティスリが、これまで一度も見せたことのない弱さを覗かせて……?
美少女8人が入り乱れる、ぼっち王女の異世界ラブコメ第11弾! ぜひご一読くださいませ!
ティスリは飛行魔法で移動しながら……自分の動揺に驚きを隠せないでいました。
(まだ……胸の動悸が収まりません……!)
突然、アルデが狙撃されて、そのすぐ近くにわたしがいることができずに……
もちろん、守護の指輪によりその防御は完璧なのですが、だからといってそれでよしとするわけにもいきません。狙撃されたという状況そのものがまずいのですから……!
とはいえ、この帝都にきてからというもの、そんな事態に陥る予兆はなかったはず。そうなると狙われたのはオフェルテさんということになります。
だとしたら……それはそれでよくありません。皇族のお家騒動に巻き込まれるわけにもいかないのですから。
とはいえお家騒動も推測の域を出ません。暗殺は、予兆なく起きるから暗殺なわけで、こればかりは犯人を捕まえてみないとその動機が分かりません。
だからこそわたし達は、犯行現場であろう時計塔の屋上へと向かっているのですから。
「ね、ねぇティスリ! これっていったい、どういうことなの!?」
一緒に飛んでいるヒナカさんが、少し後ろから疑問を投げかけてきます。わたしはヒナカさんに限らず全員に向かって、風圧に負けない声で言いました。
「まだまったく分かりません! ですが……犯人を捕らえれば予想ができるはずです!」
すると今度はソマさんが聞いてきます。
「犯人はまだ現場にいるのですか!?」
「ええ、そのはずです! 指輪から自動発現した迎撃魔法がヒットしたのは確かですから!」
「そ、そうですか……それにしてもこの指輪……改めてですが凄すぎませんか……?」
最後のほうのソマさんの言葉は、風切り音でよく聞こえませんでしたが、しかしもう問答をしている暇はありません。
犯行現場となった時計塔、その屋上へと到着したのですから。
とはいえ反撃の可能性もありますから、わたしは防御結界を張り巡らせて慎重に距離を詰めます。まだ立ち上っている爆煙へと少しずつ近づいていくと……
真っ先に犯人を見つけたのはアルデでした。
「いた! あそこに人影が倒れているぞ! 着弾地点から左方向だ。吹き飛ばされたっぽいな」
アルデが指差す方向に視線を向けて、わたしも視認します。確かに人影……というか黒焦げになった魔族が一人倒れていることが分かりました。
「向かいましょう。まだ息はあるはずです」
そうしてわたしが魔法を操作して、ゆっくりと犯人へと近づいていきます。
迎撃はまったくの予想外だったのか、どうやら直撃したようです。守護の指輪からの迎撃は、これまでの爆破魔法とは異なり、まったくの手加減ナシですから動けるはずもないのですが……
その魔族の顔が分かるか分からないかほどの距離に近づいても、身じろぎ一つしませんでした。どうやら気を失っているようです。
と、そこで、アルデが首を傾げました。
「あれ……コイツ、どこかで見覚えが……」
顔も煤まみれで真っ黒なので、アルデが分からないのも無理からぬことなのですが……アルデに見覚えがあるということは、ずっと一緒に旅をしてきたわたしも知っているわけで、だから犯人が誰なのかはすぐに分かりました。
なのでわたしが答えを言おうとしたら、ヒナカさんがアルデに聞いていました。
「え? もしかして、アルデの知り合いなの……?」
ソマさんも、大いに驚いているようで目を丸くしています。
「そ、そうなると……狙われたのはアルデさんなのですか……!?」
その二人に、ですがアルデは腕組みをして首を傾げるばかりです。
「いや……どうだったかな……? こうも見事にこんがり焼けて髪の毛もアフロに仕上がっていると……よく分からんな……」
するとヒナカさんが口元を引きつらせました。
「ま、まぁね……もはや痛々しいというより面白いというか……」
さらにソマさんも頷きます。
「ええ……いくらわたしでも、あんな愉快な姿にはなりたくないですね……」
いや別に、ソマさんをこんがり焼く予定はないのですが……なぜ被弾前提で考えているんでしょうか彼女は……
わたしがいささかドン引きしていると、やがて三人の視線がわたしに集まってきます。おそらくは、答えを求めて。
もちろんわたしは、犯人が誰なのかもう分かっています。
ということでわたしはため息をついてから、状況と予想を話し始めました。
アルデとローデシア姉妹は、今、帝国の皇女であるオフェルテの私室に案内されていた。
そうして待ち構えていたオフェルテが、開口一番に言ってくる。
「この度はなんと申し開きをしていいのか分からぬ! ほんっとうに申し訳ない!」
なんで突然、オフェルテが頭を下げてきたのかというと──
──その理由は、昨日の狙撃事件にあった。
神威竜を討伐というか手懐けた功績により、オレ、ソマ、ヒナカはS級冒険者と認定されることになったわけだが、その式典後、凱旋パレードで市中を練り歩くことになる。
ちなみにティスリも認定対象なのだが、ティスリはうちの国、つまり人類圏の王族だ。当然、オフェルテとも面識があり、極秘任務中に王族皇族が鉢合わせしては何かと面倒になることはオレでも分かる。ということでその式典は欠席していたのだ。
だから凱旋パレードに参加したのはオレ達三人と、そしてオフェルテだった。しかも神威竜を同行させて。
移動舞台に乗って、挙げ句の果てには神威竜の手に乗って市中を練り歩き、そうやって大きな公園までやってきたあとは、野外ステージで観客に挨拶をする予定だった。
だがそのステージに上がったところで……狙撃事件は起きた。
もしそのステージに、オレ達平民しか上がっていなければ、今のように大ごとにはなっていなかっただろう。だがしかし、ステージにはオフェルテが上がっていたのだ。
だから当初は、皇女暗殺未遂事件だと誰もが思った。
もちろん舞台挨拶も凱旋パレードも即刻中止。ティスリの指輪で事なきを得たオレ達は、その指輪から放たれたカウンター魔法の着弾地点に急行した。
そうしてオレ達が捕らえた犯人は──
「──まさか、我が兄があのような暴挙に出ようとは夢にも思わなんだ!」
オフェルテの、その悲痛な声が広い私室に反響していた。
そう……オレ達が狙撃現場に急行してみれば、そこにいたのは、かつてうちの王国に内乱を仕掛けた張本人である男……ええっと、名前はなんて言ったっけ?
ああ、そうそう。昨日ティスリに聞いたんだった。ジハルドだったな。とにかくヤツだったのだ。
その時点でジハルドは気絶していたから、オレ達はやむを得ず憲兵隊にヤツの身柄を引き渡した。もっともティスリは、ヤツの顔を見ただけでその犯行動機が分かったらしい。
ティスリによると、おそらくは私怨ではないかということだった。
そういえばオレ、アイツを思いっきり殴ったもんなぁ……その仕返しということなのだろうか? だがいくらなんでも、式典中にそんなことしたら、いくら皇族と言えどもただでは済まないと思うのだが……オフェルテだって壇上にあがっていたのだし。
そもそもアイツ、なんだって帝国にいるんだ? 確かうちの国で捕まってから、でも護送中に逃げ出してスキー場でティスリを襲おうとしたんだよな? それで返り討ちになって再び捕まったんじゃなかったのか?
だいたいジハルドがティスリを襲撃したから、オレは今、魔族圏の帝国に来たわけだし。
その辺はティスリもよく分からないようだったので、憲兵隊の調査待ちとなったのだ。
それでどうやらその調査が一段落したらしく、オレ達は皇城に呼ばれて、しかも皇女であるオフェルテが直々に説明するというので来てみれば……
開口一番、皇女サマはオレ達に頭をさげてきたわけだ。
だからオレは、頬を掻きながらもオフェルテに言った。
「えっと……とりあえず頭を上げてくれ。別にお前が悪いわけじゃないんだし」
「そんなことはない! 妾は皇族であり、身内の罪は妾の罪も同然なのじゃ!」
「いやそんな馬鹿な……」
「だから、お主にはいったいどのように詫びればいいのか皆目見当も付かぬ!」
「だからそんな大げさな……」
「故に!」
そうしてオフェルテは、ぐぐっと一歩踏み出すと、オレを真っ直ぐに見て言い切った……!
「こうなればもはや、妾のこの身を差し出すしかなかろう!?」
「……は?」
「我が兄の不始末を、この妾が身をもって償うと言っておるのじゃ!」
「い、いやいやいや!?」
「アルデよ! この妾のワガママボディを好きにしてよいぞ!!」
「好きにするとは!?」
まったくもって意味不明な妄言を吐いてオレに迫ってくるオフェルテだったが……
その刹那……頭の中に、酷く冷酷な声音が響いていた!
(アルデ。これはいったい、どういうことなのでしょう?)
もちろんティスリの声だ! 通信魔法越しの!!
なぜなら、オフェルテがどのような話をしてくるのか分からなかったから、この場に参加できないティスリにも状況が分かるよう、通信魔法を常時接続していたので……
オフェルテの声はティスリに筒抜けなのだ!?
だからオレは、内心滝汗の思いで悲鳴を上げる!
(どどど、どういうことも何も!?)
(………………なぜ彼の不始末をオフェルテさんが始末するのですか?)
(だ、だからオレに聞かれてもな!?)
(しかもなんです? ナントカボディを好きにする? いったいどういうことなのでしょう?)
(こっちが聞きたいくらいだが!?)
姿は見えないのにもはやゾッとするしかないティスリの声音が脳内で響いているというのに、それに気を取られていたオレは、オフェルテの接近を許してしまう!
だから気づけばオフェルテが、その華奢なのに凹凸が激しくてやわっこいワガママなボディをオレに押しつけながら!
オレの胸元に、人差し指を当てたかと思ったらツツツ……っとなぞり始めた!
「なんじゃアルデ? 何をぼうっとしておるのじゃ?」
「お、おいオフェルテ!?」
「この国の第一皇女にして絶世の美女と名高い妾を、好きにしてよいと言っておるのじゃぞ?」
「そそそ、そんなこと言われても!?」
「もしかして……すでに、妾のあられもない姿を想像して興奮しておるのか?」
「ちちち違うから!?」
むしろティスリの鬼の形相を想像して震え上がっているのだが!?
このあといったいどうやってティスリに言い訳をすればいいのか、オレがまったくノープランでいると、助け船は別の所からやってきた。
「で、殿下! いい加減にしてください!!」
その助け船を出してくれたのは……ヒナカ!
ヒナカは、珍しく余裕のない感じの表情で、ぐっとオフェルテに詰め寄った!
「いくら殿下と言えども、ハーレム内の序列は守っていただかないと! わたし達を差し置いてアルデを誘惑しないでください!」
ハーレム内に序列なんてあるのか……? まぁそう言われてみれば、なんだかんだとヒナカとソマも、ティスリに遠慮していたというか……いや遠慮というか、ティスリの目を盗んでいたというか……
それはてっきり、ティスリの戦闘能力に臆していたのかと思ったのだが、ハーレムって序列とかあるらしい。
っていうか!? オレはヒナカをハーレムに入れた覚えはまったくないのだが!
しかし話は勝手に逸れていく……!
「そ、そうですよ殿下! そういうことをしたいときは、わたし達も混ぜてください!」
「いやお姉ちゃんそうじゃないから!?」
いつものようにソマが見当違いのことを言うのでヒナカが声を荒らげる、と……
それを聞いたオフェルテが、頬をぽっと染めてうつむいていた!?
「え……お、お主……そんな趣味があるのか……? さ、さすがに妾と言えども、そのようなアブノーマルなことは……」
「ほらお姉ちゃん! この皇女サマでもドン引きじゃない!!」
「な、なんで……? 全員一緒のほうが寂しくないし、楽しいし、何よりアルデさんが喜ぶ──」
「なんでオレが喜ぶんだよ!? 嫌に決まってるだろ!」
(アルデ……あとでじっっっくりお話があります)
「ティスリもなんでオレのせいにするんだよ!?」
「のぅアルデ。以前から気になっていたのじゃが、その『ティスリ』という人物は誰じゃ?」
と、いう感じで……
オフェルテと顔を合わせただけで、話がまったく進まなくなるのだった……
ああ……こうしてアルデと相まみえて、オフェルテの自覚はいよいよ鮮明になってしまった……
何しろアルデが、メチャクチャなイケメンに見えるのじゃから!
っていうかアルデにならメチャクチャにされてもいいかもしれない、などと思っているのじゃから!!
な、なんなのだこの気持ちは……?
アルデは妾に、魅了魔法でも掛けたのか……!?
もはや昨日までのアルデとは別人ではないか……!
い、いや……さすがに別人は言い過ぎじゃ。もちろん昨日までのアルデだって、不可思議な魅力があった。どう考えても不遜な態度だというのに、むしろ妾は心地よく感じる……という不可思議な魅力じゃ。
じゃが……
今となっては……
不可思議どころか痛烈過ぎるほどの魅力が溢れ出ておるのじゃ!?
わ、分かっておる。これはあれじゃ……昨日、アルデが身を挺して妾を守ってくれたから……
子供の頃、侍女が読み聞かせしてくれた白馬にまたがった王子様のような、そんなことをアルデがおこなったから! しかも白馬どころか巨竜に乗っかったその直後に!
い、いや……神威竜のことはこの際どうでもいい。
とにかくそんなたわいもないことで、妾ともあろう存在が……
コロッと!
まるでヨチヨチ歩きな赤子のように、コロッと!!
落とされてしまったというのか!?
つまりはこれが恋というものなのか!?
「おーい、オフェルテ? さっきからぼうっとして、どうした?」
「……!?」
ふと我に返ると、妾の目前にアルデが座っている!
先ほど、意を決して伝えた妾の求愛はなぜかすっかり流されて、どうしてか妾達はごく普通にソファに座って、そうしてアルデが事もなげにこちらを見ている!
いったいどういうことなのじゃ!?
妾は、確かに告白したのも同然じゃったよな!?
なのになぜ、あの男は平然としているのじゃ……!
「おい……オフェルテ?」
思考がまたどこかに飛んでいたところに、再びアルデが声を掛けてくる……
「そろそろ、オレ達を呼び出した理由を聞きたいんだが……」
むしろ妾は、アルデの答えを聞きたいのじゃが!?
「オレ達を呼んだのは、狙撃事件の顛末を説明するためなんだろ?」
そのつもりじゃったが、妾の求愛をこうもあっさり無視されると……
説明する気も失せるのじゃがな!?
「なぁ……オフェルテ、どうしたんだよ……?」
「………………」
心底不思議そうにするアルデを見ていると……
なんだか……
無性に腹が立ってくるな!?
「………………分かった。本題に入ろう……」
とはいえ、じゃ。
今この場で、アルデの気持ちを聞くのは……
得策ではない気がする!
それがなぜなのかは分からなかったが、とにかく妾は、釈然としない気持ちを抑え込んで本題に入った。
「先ほども言ったとおり、お主らを狙撃したのは妾の兄、第三皇子に当たるジハルドじゃった」
妾がそういうと、アルデがこくりと頷く。
「ああ、それは分かっているよ。面識があったからな。それでアイツ、なんだって狙撃なんてしたんだ? いやそもそも、どうして帝国に帰ってきてるんだ?」
アルデの矢継ぎ早の質問に、妾は順序だって説明していく。
「まず兄上がなぜ帝国に帰還していたかじゃが、様々な交渉の末、帝国に帰されることになったのじゃ。何かしらの交換条件があるはずじゃが、それについては妾は知らぬ」
「なるほど……ということは、ラーフルがそう判断したってことか」
「ラーフル? また新しい女の名前じゃな? そやつもハーレムメンバーか?」
なぜか面白くない気持ちになって思わずそういうと、アルデはため息をついた。
「だから違うって。そもそもオレにハーレムなんていないからな?」
するとアルデの両脇に座っていた姉妹が声を荒らげる。
「そ、そんなアルデ! 皇女様と知り合ったからってわたし達はもう用済みってこと!?」
「ひ、酷いですアルデさん!? わたし達にご奉仕させるだけさせておいて不要になったらポイだなんて……はぁはぁ……」
「人聞きの悪いこというな!? あとソマはなんで興奮してんだ!?」
ふむ……どういうことじゃ? 知り合ってからこっち、あの姉妹はハーレムメンバーだと言っているのに、アルデはそれを拒否しているが……
もしかして、あまりに変態だから嫌だということか? 確かに姉のソマに関しては、ときおり言動がおかしいとは思うが……
妾が首を傾げていると、アルデが言ってきた。
「と、とにかくラーフルってのはただの知り合いだから! それで帰還理由は分かったけど、ジハルドの犯行動機はなんだったんだよ!」
また話をはぐらかされた気がするが、とはいえ兄上の暴挙についてはさっさと片付けてしまいたかったので、妾は説明を再開する。
「動機じゃがな……妾は事情聴取に立ち会っていないゆえ詳細は分からぬのだが……どうやら、お主を狙ったようなのじゃ」
「ああ……なるほど。やっぱりな」
「なんじゃ? 心当たりがあるのか?」
「いやまぁ……ちょっとな……」
「ちょっととは? 兄上がお主を狙うということは、面識があるということか? ならばなぜじゃ? それにお主は、兄上の動向にも詳しいようじゃし」
「え、えっと……それはその……」
アルデは、なぜか視線を明後日の方向に向けている。まるで、誰かからの助言でも聞いているかのような顔つきじゃな?
妾が眉をひそめていると、アルデがようやく口を開いた。
「けっこう前に、冒険者のクエストで面識ができたんだよ。っていうか、ジハルドはオレについて何も言っていなかったのか?」
「その点は妾も不審に思って、事情聴取にあたった憲兵隊長に聞いてみたのじゃが……どうにも要領を得なくてな……」
「要領を得ない?」
「端的に言えば、兄上は錯乱しているようなのじゃ」
「は、はぁ……?」
「お主達の攻撃を受けたからなのか、あるいは錯乱していたから暗殺なんて真似をしたのか……とにかくまともな情報はしばらく引き出せないらしい」
「そうなのか」
「それで、兄上とはどのようなクエストで知り合ったのじゃ?」
「え、えっと、そ、それは……」
アルデはなぜかしどろもどろになりながらも……だというのに説明は筋が通っていた。
いや筋が通っているというか……そもそも兄上は、人類圏の王国に工作を仕掛けるため長らく帝国を不在にしていたので、だから本当にそのクエストでアルデ達と知り合ったのかは分からないのじゃ。
裏付けを取るには冒険者ギルドへ問い合わせるくらいしかないが、無数にあるクエスト記録を紐解くだけでもかなりの時間がかかるじゃろうし、それで証拠が出てくるとも思えない。兄上がお忍びで活動していれば記録に残るはずもないからじゃ。
だから妾には、アルデが辿々しく話したその内容の真偽を確かめる術はもとよりないわけじゃが……
「まぁ……あの兄上ならば、いわゆる逆恨みでお主を狙うこともあり得るか……」
妾のそのつぶやきに、アルデは呆れた表情になった。
「まじかよ。どんだけ心が狭いんだよ、あの男は」
「プライドが高すぎるのじゃ。さらに野心も大きすぎる。第三皇子では、基本的に皇帝にはなれぬから、功を焦っていたのじゃろうな」
「そんなもんか? メシを食うだけの稼ぎがあれば、それで十分だと思うが……」
「ふふっ……それはアルデだから、そこで満足できるんじゃろうな」
「どういうこと?」
ああ……
こんな他愛ない会話だけで……
どうして妾の胸は、これほどまでに高鳴ってしまうのじゃ……!?
そもそも皇族であれば、高い志を持つほうがよいというのに、「メシが食えればいい」というアルデがなぜか魅力的に見えてどうしようもない!?
だから妾は、その胸の高鳴りを打ち消すかのように言葉を続けた!
「と、とにかくじゃ……! 錯乱の上の逆恨みだったとしても、この事件はそれだけでは済まぬのじゃ」
「え? なんで? アイツが逮捕されればそれでいいんじゃないの?」
皇族という存在に疎いらしいアルデの質問なので、妾は一つずつ丁寧に説明していく。
まず何よりも、皇族が現行犯逮捕されたということが非常にまずい。何かしらの正当な理由を、後付けでも付けなければ権威性が失墜してしまう。
次にアルデは今や国の英雄じゃ。その英雄を皇族が狙い、しかも返り討ちに遭ったことも非常にまずい。不幸中の幸いなのは、見た目の割に大した怪我でもなかったことじゃが……いやむしろ、兄上には悪いが生き残ってしまったほうが問題が大きくなるかもしれぬ。
そして最悪なのは……
妾が、同じ壇上にいたことじゃった。
「あの状況では、兄上がアルデを狙ったのか妾を狙ったのか、もはや区別が付かぬ。しかも大勢の民にまで目撃されているから隠蔽もできぬ。ということは、あれを権力闘争の引き金とみる輩も出てくるじゃろう」
「ああ……なるほどな。ティスリも最初はお家騒動かもって言ってたし──」
「なぁ、アルデよ」
そこで妾は説明を遮って……
アルデをジロリと睨んだ!
「さっきも聞いたし、ずっと気になっているのじゃが。その『ティスリ』とは誰じゃ?」
「……!?」
「どう聞いても女の名前じゃよな?」
「そ、それは──」
「お主は、自分にハーレムはないという。にもかかわらず、お主の周りは女子だらけ。しかも美少女揃いと来た」
「い、いやだから──」
「だいたい、あの狙撃の現場で、突然舞い降りてきた女は誰じゃ?」
「!?」
「ほぼ一瞬と言ってもいい時間じゃったが、妾はしかと覚えておるぞ。しかも妾に勝るとも劣らないあの美貌……どう見ても平民とは思えぬ!」
「い、いやいや!? 平民でも美人はたくさんいるだろ!? この二人だって可愛いじゃん!」
アルデが苦し紛れに話を逸らそうとしていると……姉妹が二人とも乗ってしまう!
「ア、アルデ! わたし達のこと可愛いって思ってくれてたの!?」
「え……い、いやまぁ……そりゃあ客観的に見て、おまいらは美少女だと……」
「アルデさん!? そ、それは本当ですか!? ただの変態だと思ってたのでは!?」
「うん、ソマは変態だとは思うがただの変態ってわけじゃ……」
「なんでわたしだけ変態扱いなんですか!?」
「自覚ないの?」
「ええい! 話を逸らすでない!」
アルデの褒め言葉に反応して身を乗り出す姉妹を一喝すると、妾はギロリとアルデを睨んだ!
「それで『ティスリ』とはいったい誰なんじゃ!?」
問い詰める妾に……アルデは……
その顔を引きつらせた!
(Kindle本に続く)
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