第12巻 番外編

LIGHT NOVEL

番外編1オフェルテの遊戯(前編)

ローデシア姉妹と義姉妹になったオフェルテ(わらわ)じゃったが……

(義理の姉として、彼奴(あやつ)らが心配じゃ!)

なぜ心配なのかといえば、その体力のなさなのじゃ。

例えばちょっと庭球をすればすぐにバテるし、帝都内を少し走れば息切れするし……確かに魔法士は机にかじりつく者が多いと聞くが、それにしたって運動不足すぎじゃ!

何しろ運動不足は体によくないというしな。今はまだ若いからいいじゃろうが、これが三十代、四十代……そしておばあちゃんになったとき、あんな体力では果たして生き長らえるかどうか……

もちろん決して、彼奴らをからかって遊びたいなどという心境は一切ない。断じて存在しない。まったくもって微塵も欠片もあり得ないわけじゃ。

妾って、なんて妹思いなのじゃろう……!

ということで、妾はさっそく策を講じることにした!

「えっと……オフェルテ? こんな場所に呼び出して何するつもり……?」

そんなことをつぶやくヒナカは、不審な視線を妾に向けてくる。さらにはソマも、オドオドしながら周囲を見回していた。

「ここ……軍隊の演習場のようですが……」

そうして、妾達三人に同行してきたアルデもぽかんとしながら聞いてきた。

「軍隊の演習でも見学するのか?」

ちなみにティスリは呼んでいない。規格外の彼奴がいると、計画が台無しになるからな。

ということで妾は、帝都警備隊の演習場正門に突っ立つ三人に、とびっきりのウィンクをくれてやる!

演習場の正門でウインクするオフェルテ

「まぁ黙って付いてくるがよい。とっておきのレクリエーションを披露してやるぞ」

「帰る!」

せっかく妾がウィンクを送ったというのに、ヒナカはすぐさま踵を返した!

「おい待てヒナカ!? 妾の好意を無下にするつもりか……!」

「絶対に、わたし達をからかって遊ぶ気でしょ!」

「なぜバレている!?」

「ほらやっぱり!」

「ま、間違えた! 今のは間違えただけじゃ!」

「むしろ本音がダダ漏れなんでしょ! お姉ちゃん! 帰るよ!」

「え……で、でも……」

乗ってきた馬車へ、今にも戻ろうとするヒナカに、ソマはおろおろとするばかり。ソマのほうは、どうやら妾と遊びた──もとい妾の好意を理解してくれているようじゃな。

だから妾は、大仰にため息をついて見せた!

「はぁ……仕方がない。ソマも帰りたいというのならば止めはせんぞ?」

「え……そ、そうなの……?」

「ああ、その代わり……」

そして妾は、相変わらず呆けているアルデに近づくと……

その腕をとった!

「妾は、アルデとふたりっっっきりでレクリエーションを楽しむからな!」

「「……!?」」

妾のその宣言に、ヒナカの顔は引きつって、ソマはさらにアワアワしだす。

そうしてアルデが身じろぎしながら言ってきた。

「い、いやちょっと……!? すぐにくっついてくるなよオフェルテ……!」

「くっくっく……何を戸惑っておる。今はティスリもいないのじゃ。思う存分、妾を堪能するがよかろう?」

「ど、どういう意味だ……!?」

っていうか。

アルデが身じろぎするたびに……むしろ……

(逞しいこの胸に、妾の胸がめちゃくちゃ当たるのじゃがな!?)

いやむしろ当てているのだから……それはそれでいいのじゃが!?

な、なんというか!

わ、妾の繊細な部分までも刺激されて……!

(此奴、もしかしてワザとやっておるのか!?)

思わずドキドキしていたら、ヒナカが割って入ってきた!

「もう! 分かったよ! 一緒に行くからアルデから離れて!」

「ヒナカには左側が空いておるじゃろ?」

「そういう問題じゃない!!」

ということで妾は引き離されて──ちょっと残念なような、でもほっとしたような気持ちになりながらも、いよいよ演習場へと足を踏み入れる。

運動着に着替えてからそのグラウンドに出てみれば……

なぜか、大勢の警備隊員が待ち構えていて、大歓声をもって迎えられた。

演習場に集まった運動着姿のヒナカ、オフェルテ、ソマ

そんな様子に、ソマはポカンとしながら聞いてくる。

「えっと……オフェルテ? これはどういう状況なの……?」

なぜ隊員がこんなに興奮しておるのかは……妾も聞かされていないので首を傾げるしかなかった。

「さぁなぁ……? 妾達を見学したいんじゃろうが……」

するとアルデが言ってくる。

「どういうことだ? オレ達が訓練を視察するんじゃなくて、オレ達が見られるってことか?」

「ふむ……まぁそういうことになるが……」

そして最後に、ヒナカが短い悲鳴をあげた。

「嫌な予感しかしないんですケド!?」

今日は、この姉妹と遊ぶこと──じゃなくて姉妹にトレーニングを付けることが目的だから、隊員達の見学は別に問題ないのじゃが……はて?

不可解な気分になっていると、警備隊長が妾の元に駆け寄ってきて、キビキビと最敬礼をしてから聞いてきた。

「殿下! ぜひとも我らにも、お立ち会いする栄誉をお与えください!」

「もちろん構わぬが……外野から見ていても、別に楽しいものでもないぞ?」

「滅相もございません! 我らにとって、これ以上の学びはございません!」

ふむ……企画した妾以外が見学しても、別に楽しくはないと思うのじゃが。

言ってみれば、子供が公園で遊んでいる姿を眺めているようなものじゃ。一緒に遊ばなくては面白くないわけで……

とはいえ妾達を出迎えた隊員達は、尋常でないほどの熱狂を帯びておるし、ここで断るというのも無粋じゃな。今回のレクリエーションの準備をしてくれた恩もあるし。

ということで妾は頷いた。

「相分かった。立ち会いを許可しよう」

「ありがたき幸せ!」

そうして大歓声がより一層膨れあがったところで、その歓声に負けない声でヒナカが叫んできた──演習場を指差して。

「ねぇちょっとオフェルテ!? あれはなんなの!?」

「ふむ……あれか」

まさしくあれこそが、この日のために妾が準備させた代物。題して──

「──あれはな。『貧弱極まりなくて老後が心配になる姉妹を鍛え上げる障害物』じゃ!」

「意味不明なんだけど!?」

「まったく……お主は理解というものを知らぬな?」

「もうほとんど理解しているけどあえて拒絶してるのよ!?」

大歓声の中、悲鳴を上げるヒナカに妾は自身の心配を話す。さらには当然、妾も一緒に遊──もとい参加するという説明もしたが、ヒナカは──

「余計なお世話なんですケド!?」

──案の定、拒否ってきた。

さらにはソマも悲鳴を上げる。

「わたしたちを心配してくれるのは嬉しいけど! でもいきなりあんな、訳の分からない軍事用の障害物なんか使ったら、わたしたち、老後を待たずに死んじゃうよ!?」

「お姉ちゃん欺されないで! コイツは心配なんて微塵もしてないから!! ただ単に面白がっているだけだから!」

「むぅ……ヒナカは酷いことを言う。妾だって、微塵くらいは心配しておるぞ?」

「微塵の意味分かってる!?」

まぁ拒絶されるのは分かっておったからな。だから妾はニヤリと笑う。

「ならばこうしよう。言ってみればこれは障害物競走なのじゃが──」

「そんな生易しいもんじゃないでしょあの機材は!?」

「──まぁヒナカよ、話は最後まで聞くがよい。例えこれが命を賭した障害物競走(デスゲーム)であったとしても──」

「デスゲームって言ってるじゃん!?」

「──だとしても妾とて鬼ではない。優勝者には、アルデとの一日デート権を進呈しようではないか!」

そうしてアルデに手を向ける妾じゃったが……

当のアルデは、顔をしかめていた。

「いやオレの意見は?」

「妾達のような美女とデートできるお主に、拒否権なんてあるわけなかろう?」

「拒否権くらいあるだろ!?」

しかしアルデには誰も取り合わず、ヒナカがさらに文句を言ってくる。

「優勝者といったって、体力オバケのオフェルテが1位になるに決まってるじゃん……!」

「それも分かっておる。故に妾にはハンディをつけよう」

「ハンディって、どんな?」

「スタートを遅らせるのと同時に、妾にデバフ魔法を掛けて構わぬ」

「デバフって……どのくらい?」

「お主達ができる最大限のをかけて構わぬぞ?」

妾がそういうと、ヒナカはソマに顔を向ける。

「お姉ちゃん……どう? オフェルテを完全拘束できる?」

「い、いや……拘束したら競技にならないんじゃ……」

「でも、なんでもいいって言ってるし」

開き直っているヒナカに、妾は呆れて声を掛けた。

「おいヒナカ。しっかり聞こえておるからな? 両手両足を縛るなど物理的なものはナシじゃぞ?」

「えー? でもお姉ちゃんの魔法だとそれしか用意されていないっていうか」

「まぁソマはそっちのほうが得意じゃろうが……」

「二人とも! わたしをどんな目で見ているのカナ!? アルデさんも顔を引きつらせないでください!?」

と言いながらも、どこか嬉しげに顔を赤らめるソマは……ため息をついてから話を続けた。

「もう……普通のデバフ魔法だって使えます。動きを鈍らせるとか、体力を制限するとか……でもそれが、オフェルテにどの程度効くかは分からないけど」

「そこは実力のうちということじゃな。妾に対して効かぬのならば、それはそれでやむなしということじゃ」

妾がそう説明すると、ヒナカもため息をついてから周りを見回す。

「はぁ……分かったよもう……どのみちこのままじゃ、引っ込みが付かないだろうし」

警備隊員達は、大歓声を上げながら、期待に……というか何かこう、血眼といっても過言ではない眼差しでこの姉妹を見ている……はて? どうにも妙な雰囲気じゃな?

だがいずれにしても、ようやく姉妹が承諾したところで……アルデが言ってきた。

「ならオレも参加するぜ? ちょっと面白そうだし」

そんなアルデに妾は言った。

「そう言うとは思っていたし、別に構わぬが……お主が優勝しても賞品はないぞ?」

「なんでだよ。オレが優勝したら、デートはナシだ、ナシ」

「なんじゃと……!?」

思いも寄らぬその申し出に、妾は数歩後ずさる。

「妾達のような美女とのデートができる機会を、みすみす棒に振るというのか……!?」

その驚愕に、しかしアルデはしれっと言ってくる……!

「棒に振るというか、元よりイヤだと言っているんだが?」

「……!?」

そ、そんな馬鹿な……!?

思わず妾が言葉を失っていると、ふくれっ面になったヒナカが言った。

「…………なんか、ムカついてきた」

それはそうじゃろう! 面と向かって拒否られているのじゃからな!?

この妾をもってしても、ショックのあまり二の句が継げなくなったほどなのじゃから……!

さらには内心でちょっと悲しくなってきていたら、手を腰に当てたヒナカがアルデに言っていた。

「どーせ、ティスリが怖いからとかそんな理由なんでしょ!」

「い、いや……そんなことは……!?」

「じゃあなに!? わたし達のことが嫌いなわけ!?」

「き、嫌いだなんて言ってないだろ……!」

「ならやっぱりティスリの目を気にしてるんだ!」

「くっ……そ、そうだよ! 悪いか……!?」

「開き直った!」

「とにかくオレも参加して、優勝したら拒否権をもらうからな! そうじゃなくっちゃ、お前らが優勝したってデートしないぞ!?」

「ふぅん……なら、優勝したら絶対にデートしてもらうからね!」

「おう、いいぜ? 本当に優勝できたら、だけどな」

得意げに笑うアルデにさらに頬を膨らませるヒナカは……そのふくれっ面のまま妾を見てくる。

「オフェルテ! アルデのハンディは、両手両足の拘束でいいよね!」

「おい待て!?」

妾が答える前に、アルデが大慌てで抗議する。

「足まで拘束されたらそもそも走れないだろ!?」

「ジャンプすれば?」

「さすがに無茶が過ぎるだろ!?」

などと言い合った末……アルデは妾よりさらに遅れてのスタートで、かつ両手を縛ることで話はまとまった。

アルデのやつ……手を縛られてなお、勝算があると見えるな。

いずれにしても……ここまでデートを拒否られるとは思わなんだ……

こうなったら是が非にでも妾が優勝して……デート当日に……

思いっきり煽ってやらねば気がすまぬ!

などと考えているうちに、ソマがデバフ魔法を妾とアルデに掛けて、さらには魔法の縄でアルデの両手を後ろ手に縛った。

「はぁ……はぁ……はぁ……あ、あの……」

その魔法によって魔力はおろか体力まで削られたらしいソマは、息を切らせて言ってくる。

「よ、よくよく考えたら……これってわたしがいちばん不利なのでは……!?」

そんなソマに、ヒナカは得意げに笑ってサムズアップをキメる。

「仕方がないじゃん! わたしは攻勢魔法しか使えないし」

「そ、それはそうだけど……!」

「だいじょーぶ! お姉ちゃんの分までデートを楽しむから!」

「何が大丈夫なのカナ!?」

そんなこんなで──

──悲鳴を上げるソマを引っ張って、妾達はスタートラインに着くのじゃった!

(to be continued…)

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