LIGHT NOVEL
主人公を意識しているくせにクールを決め込むも、照れすぎて赤面したり、嫉妬でツンツンしたり……そんなクーデレ美少女を愛でながら、ボケとツッコミを楽しむ軽快ラブコメです!
しかも彼女は、最強で天才で、だからこそ、王女様だというのに貴族からも疎まれている孤高のぼっち。
なので国王(父親)も彼女の扱いに困り果て、「ちょっと外の世界を見てきなさい」と言い出す始末。
すると王女様は「もはや王族追放ですね。お世話になりました」という感じでクール全開です。
そうして……
そんな王女様と、単なる平民に過ぎない主人公(しかも追放平民)は出会ってしまい……
知り合ってすぐ酒場に繰り出したかと思えば、ジョッキ半分で王女様は酔い潰れ、宿屋で主人公が彼女を介抱していたら「見ず知らずの男に手籠めにされた!」と勝手に勘違い。
なんとかその誤解を正してみれば、王女様の巧みな話術で、どういうわけか主人公が謝罪するハメに。親切心で介抱していたはずなのに。
それでも王女様は、なぜか主人公と行動を共にし続けた結果……高級旅館で一晩明かすことに!?
などなど、ぼっち王女のクーデレに主人公は翻弄されまくり。
果たして主人公は、クーデレぼっち王女を素直にすることが出来るのか!?
ぜひご一読くださいませ。
【Coming Soon】
「つまり、王族から追放ということですか」
「誰もそんなことは言っておらんだろう!?」
「分かりました。では出ていきます。今までお世話になりました」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
きびすを返したわたしに、お父様が慌てて声を掛けてきます。
ですがわたしは無視をして、お父様の執務室を出て行こうとしましたが、お父様の側近に行く手を阻まれてしまいました。
わたしは仕方なく振り返ると言いました。
「今さらなんのご用でしょう? わたしはすでに勘当された身だというのに」
「だから追放とか勘当とか言ってないだろう!? なぜそうなるのだ!」
「わたしにとっては言われたも同然ですが?」
「ぜんぜん違う! わしは『ちょっと外の世界を見てきなさい』と言っただけだろうが!」
「カルヴァン王国第一王位継承者にして王家唯一の嫡女であり、おまけに超絶天才美少女であるわたしが──」
「いやお前、自分で超絶天才美少女とか」
「──そ・ん・な・わたしが、外の世界を見る必要などありません。ゆえに王族追放だと判断したわけですが?」
「ほんと……そういうところなんだよ、まじで……」
お父様は盛大にため息をついてから言ってきました。
「確かに、今この国が繁栄しているのはお前のおかげだということは、誰もが認めることだ。お前が文武両道の天才だということは間違いない」
「美少女をお忘れですよ?」
「いやだから……そういうことを自分でいうものじゃないんだよ……」
「謙虚とは、行きすぎると嫌みになるものです」
「そういう話をしたいのではない! とにかく、お前が天才なのは認めるが、だからこそなのだ」
「と、言いますと?」
「お前は……天才であるがゆえに、臣民は元より王侯貴族の感情というものがまるで分かっておらぬ」
「そうですか。ではさようなら」
「おい待たぬか!?」
わたしは再び退室しようとしたのですが、やはり執務室の扉は閉ざされたまま。側近が三人も、両開き扉の前で立ちはだかります。
彼らを蹴散らして出ていってもよかったのですが、王族追放された身では誰も庇ってくれないでしょう。そうなると、追っ手を巻くのがいささか面倒ですね。
冷静なわたしはそう判断すると、やむを得ず、再びお父様と対峙しました。
「お父様は、いったい何をおっしゃりたいのです?」
「いや……もうぶっちゃけるよ……」
お父様は、なぜか疲れ果てた感じで言ってきます。疲れているのはわたしのほうだというのに、優しいわたしは文句一つ言わずに耳を傾けました。
「お前、人の気持ちがぜんぜん分かってないから、王宮を出て見聞を広めてこい」
「それで?」
「え……?」
わたしの問いに、しかしお父様は言葉を詰まらせます。
仕方なく、わたしはため息交じりに補足しました。
「つまり結論としては、わたしがこの王宮から出て行くことに変わりないわけでしょう?」
「ま、まぁ……そうだが……」
「だからお世話になりました、と言ったのですが?」
「いやだからその物言いでは、お前はもう二度と帰って来ないかのような──」
「ええ、二度と帰ってくるつもりはありませんよ? 勘当の上、王族追放なのですから」
「な、なぁ……もしかして、怒ってる?」
「何をおっしゃってるのです? 人の気持ちが分からず無神経でデリカシーのないKY娘と罵られたくらいで、わたしが怒るとでも?」
「怒ってるよねそれ! しかもそこまで言ってないが!?」
「というわけでお父様。これまでお世話になりました。もう二度とお会いすることもないでしょうけれどもお元気で」
そうしてわたしは三度きびすを返すと、通せんぼしていた側近に睨みをきかせます。
さすがに三度目の顔は持ち合わせていないですよ? という気迫を放つと、側近達は青ざめて道を空けました。
「お、おい! 待つんだ!!」
背後からお父様……いえ、かつてお父様だった国王が声を掛けてきますが、わたしは無視を決め込み執務室を出ます。
こうしてこの日──カルヴァン王国第一王女として国のために尽力してきたわたしは、理不尽にも王族追放されたのでした。
さて、これからどうしましょうか。
わたし個人でいえば、今や、一生掛けても使い切れないほどに私財もありますし、だから慌てて仕事をする必要もないのですけれど。
しばらくは休暇と思って、様々な場所を観光でもして回りましょうか──
──などと、このときは考えていたのですが。
まさかこのあと、追放された王城に舞い戻るはめになり、いわんや無能な王侯貴族を巻き込んでの大乱闘になることなど、いかに超絶天才美少女のわたしと言えども、さすがに夢にも思っていなかったのでした。
しかもたった一人の男──甲斐性無しで平凡で冴えなくて、この王城から追放されたアイツのせいで!
「え? 今なんとおっしゃいましたか?」
「聞こえなかったのか? お前は
「はぁ……!?」
王城裏門に呼びつけられたと思ったら、
そうして彼らが開口一番に放った言葉が
常日頃、彼らには何かと嫌がらせを受けてはいたが、努力に努力を重ねて、やっとの思いで就けた王城勤務。先輩たちの身勝手で、追放なんてされるわけにはいかなかった。
オレのクニには、病気がちな両親と、腹を空かせた妹と、愛くるしいわんこがいる。ここで職を失ったら、家族に仕送りをすることができなくなるのだ。
「な、なぜです!? オレは追放になるような失敗をした覚えはありませんよ!?」
そもそも彼らに、オレを追放するような権限はないはずだ。だからオレは食い下がるも、しかし先輩の一人──リゴールがニヤニヤしながら書面を広げた。
「そ、それは……!」
正式な辞令の書面だった。
しかもそこに『アルデ・ラーマを追放に処す』と書かれている。
つまりオレの追放は決定済みだった。
「ど、どうしてですか! いったい何を理由に追放だというのです!?」
リゴールは、引き続きのニヤケ顔で言ってくる。
「どうしても何も、この神聖な王城に、平民無勢であるお前が立ち入っていること自体、間違いだったんだよ」
リゴールを始めとするこの先輩達は、全員が貴族の出である。だから、平民出身のオレと同じ仕事をするのが我慢ならなかったのだろう。これまでにも再三に渡り嫌がらせを受けていた理由も同じだ。
しかし──稀代の天才と謳われている王女殿下の発案により、衛士という仕事は、実力があるなら身分を問わず召し上げられることになったはずだ。だからこそオレは死ヌ気でがんばって勉強と鍛錬に励み、衛士試験に合格したのだ。
なのでオレは抵抗を試みる。
「オレがこの場にいることが間違いだというのは、王女殿下が間違っていると言っているのも同義ですよ!?」
「はぁ? 何をほざいてやがる」
「優秀な平民を召し上げるのは王女殿下の意向であるはずだ! それを間違いなどと言うのなら不敬罪にも値する!」
「くくく……バカかお前は」
オレのその主張に、しかしリゴールは臆することなく言ってくる。
「だれも王女殿下の批判なんてしていないだろう? お前がこの場にいること自体が間違いだと言っているんだよ、なぜなら無能だからだ」
「今さっき、平民無勢といいましたよね!?」
「はて? そんなこと言ったっけ?」
リゴールがわざとらしく肩をすくめると、周囲の面子に視線を送る。
「言ってねぇよなぁ?」
「ああ、オレも聞いてないぞ」
「きっとそこの馬鹿が勘違いしてんだろ」
「っていうか、王女殿下批判をしているのはアイツだよなぁ?」
「そうだな。殿下の施策を間違いだと今言っていたな」
……くっ! 話にならない!
どうせここで押し問答していても、もはや意味はないだろう。そもそも、正式な通知書が発行された時点で、オレの負けは確定なのだ。
一体どうやって書類を発行したのかは知らないが……きっと、ないことばかりをでっち上げて上官の了承を得たのだろう。
そんなリゴール達は、終始ニヤつきながら言ってくる。
「さぁてアルデよ、どうする? お前はもう衛士でも何でもないわけだから、まだこの場にとどまろうとするなら逮捕せざるをえないぞ?」
「…………!」
もしもこの場に、超優秀だと言われている王女殿下が居合わせてくれたなら話はまったく変わるだろうが、そんなはずがあるわけない。リゴール達も含めたオレたち下っ端は、王女殿下のお姿すら目にしたことがないのだから。
特にこの国の王女殿下は、人前に姿を現さないことで有名だ。まぁ確かに、わずか16歳で国政を取り仕切るほどだから、身バレしたら暗殺やら何やらで大変に物騒なのだろう。
いずれにしても、だ。
王女が助けてくれるなんて、そんなありもしない妄想に取り付かれるほどにオレは切羽詰まっていた。
しかし反撃の糸口は見つけられない。拳を握りしめるしかなかった。
「わ……分かりました……」
ここで引き下がらないのなら、リゴール達なら本当にオレを逮捕するだろう。
職を失った上に冤罪にまでなったら、もはや仕送りの心配をするどころではない。
「今まで……お世話になりました……!」
そういって、オレはリゴール達に背を向ける。
背後から、ゲラゲラと笑う声が聞こえてきた。
田舎でがんばって勉強し続け、やっとの思いで入隊できた衛士だが……正式な辞令まで出されてはどうにもならない。
何年もの努力が水泡に帰してしまい、オレは悔しさに身を震わせながら王城裏門を後にする。
「あなた、本当にそれでいいのですか?」
すると唐突に、横から声が聞こえてきた。
王城裏門付近は広大な裏庭になっているのだが……
声の主は、裏庭に生える木々の陰に隠れていた。
「ちょ、ちょっと君!? いったいどこから入り込んだの……!?」
城壁の外とはいえ、ここはまだ王城管轄の庭園だ。関係者以外がむやみやたらと入ってきていい場所ではない。
だからオレは慌てながらも、しかし嘲笑している先輩達に気づかれるわけにはいかないから、声を潜めてその少女に言った。
「あの衛士たちに見つからないように、樹々に隠れながら庭園を出なさい……!」
リゴール達はオレの姿に注目しているだろうから、少女には気づかないはずだ。
「分かりました」
少女がそう言ってくると、オレはあえて彼女から離れて歩いて行く。
そうして──
──先輩達の嘲笑も聞こえなくなり、裏庭も抜けて大通りにさしかかると、さきほどの少女が木の陰からひょっこりと現れた。
どうやらリゴール達には見つからずにやり過ごせたようだ。オレは安堵の吐息をはいた。
「ふぅ……まったく……ダメだよ。無断で王城裏庭に入ってきては」
「あなた、もう衛士ではないんでしょう? であれば注意される言われはないと思いますが」
「う……言われてみれば確かにその通りだけど……」
「それであなた、名前は?」
急に名前を聞かれて、オレはちょっと戸惑いながらも答える。なんだか話の間合いが掴みづらいコだな……
「アルデ・ラーマ。カルヴァン王国の衛士……をやっていた者デス……」
「そ。わたしは……ティスリ・レイド。超絶天才美少女です」
「は、はぁ……?」
「それでアルデ。あなたは理不尽な理由で衛士を
「よくはないが……しかし、正式な辞令が出てしまってはどうすることも出来ないし……」
「そうですか。情けないことですね」
「ぐっ……!」
なんだかこの子、オレの心をガリガリえぐってくるんだが……(涙)
言い返す言葉も見つからないオレだったが、なんとか反論したくて彼女──ティスリを睨んでみた。
「……!?」
と、そこで気づく。
自分のことを美少女というだけあって、ティスリは息を呑むほどに美しかった。
さっき裏庭で出会った時は慌てていたから、彼女の顔をよく見ていなかったのだ。
しっとりと艶やかな髪の毛はゆったりとウェーブが掛かっていて、背中の中程まであるロング。二本の編み込みを後ろで束ねたハーフアップだ。
目は大きな二重で強い意志を感じられる。肌も雪のように白く、スタイルなんて出るところは出ているのに華奢な感じで、手に触れるだけで壊れてしまいそうだった。
こりゃ……どう考えても平民ではないだろう。平民なら、日々の労働で、女性だってもっと逞しくなっているはずだし。
貴族だとしたら、別に慌てて裏庭を出てくる必要なかったか──と思いながらもオレは襟を正した。
「も、申し訳ありませんティスリ様。まさか貴族の方だとは露知らず……」
「何を言っているのかしら? わたしはただの平民ですよ」
「いやそんな……身なりだっていいですし……」
「身なりのいい平民もいるでしょう?」
「それはえーと……政商の方とかなら……」
「そう──実はわたし、政商の娘なんです」
なるほど……だから王城付近にいたってわけか。
とはいえ政商ともなれば、身分が高いことに違いない。平民出で田舎出身のオレなんかが失礼をしたら、あっさり首を飛ばされるほどには。
そんなことを考えて寒気を覚えているとティスリが言った。
「それでアルデ。あなたは理不尽に追放されて、これからどうされるのですか?」
「ど、どうと言われても……」
なんだかこの子、やたらと追放について言ってくるな……今はそれに触れて欲しくないのに……
そもそも突然のことで、これからどうしたらいいのかオレだってまるで考えられないのだ。
そんな心境だったからか、オレはつい本音を言ってしまう。
「仕方がないので……とりあえず今日は呑んだくれようかと……」
「なるほど。現実逃避というわけですか」
「うぐっ……!!」
この子は、何かオレに恨みでもあるのだろうか? 初対面のはずだが……(涙)
オレが呻いていると、ティスリが言ってきた。
「ではご一緒しましょう。酒場とやらに連れて行ってください」
「は、はぁ……!?」
いきなりそんなことを言われて、オレは思わず目を見張る。そして慌てて制止した。
「ちょ、ちょっと待ってくださいティスリ様。下町の酒場なんて、あなたのようなお方が──」
「アルデ。わたしは平民だと言ったはずです」
「し、しかし……」
「ですから、もっと砕けた感じに接してください」
「は、はぁ……?」
「あなたがそうやってかしこまっていると、むしろ目立ってしまうのですよ?」
「確かに……そう言われてみればそうかもですが……」
「ですから敬称も敬語も無しで。ああ、わたしの口調は癖ですからお気になさらず。あなたに敬意を払っているわけでもありませんので」
「そ、そぉですか……」
思わず口元が引きつりそうになるが、ここは我慢がまん……
オレが苛立ちを抑え込んでいると、ティスリはなおも言ってきた。
「さぁ酒場に連れて行ってください。案内料として、わたしがご馳走しますから」
こうして、オレは政商の娘に根負けするのだった。
これくらい強引でないと、政商なんてやっていられないのだろうが……
何を好き好んで、身分が上の人間と一緒にいなくてはならないのか。下手をすれば(物理的に)クビが飛ぶというのに。
果たしてオレは、五体満足で今日一日を乗り切れるのか? ってか生命の危機を感じながらのヤケ酒ってどういう状況だよ?
オレの足取りはますます重くなるのだった……
(Kindleに続く)
【Coming Soon】
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