LIGHT NOVEL
その相手とはグレナダ姉弟です。
アルデの地元へ向かう道中に知り合った姉弟で、お姉さんはフォッテスさん、弟さんはベラトさんと言います。
そのベラトさんは、領都の武術大会で好成績を収めたことから、王城警備の要である衛士職に推薦したのでした。
王城に戻ってからベラトさんについて確認してみると、無事、衛士試験に受かったとのこと。ですがわたしが戻った直後は忙しすぎて、さらには王城も広いので会えなかったのですが、先日、ようやく時間を作ることが出来てベラトさんと再会できました。
王女としてのわたしと対面して、ベラトさんは以前よりも恐縮していましたが、アルデも立ち会ったことで、最後のほうはいくらか緊張もほぐれたようです。
そのベラトさんによると、姉のフォッテスさんも、今は王都で働いているとのこと。当初は、フォッテスさんは地元に帰ると聞いていましたが、彼女も王都に引っ越したそうです。ベラトさんを心配してのことでしょう。
仲のよい姉弟でいいですね。わたしには姉弟がいないので羨ましくもあります。もっとも、王族に姉弟がいたらロクなことにならないので、わたしは一人っ子でよかったと思いますが。
そんなわけで、ベラトさんとフォッテスさん、そしてアルデを招いて食事会をすることにしました。
本当なら、街中で食事会をしたいところでした。城内での食事会となると、どうしても格式張ってしまいますからね。
しかし街中だとラーフルが渋るのと、わたしの立場的にも今は城を離れることが出来なかったので、やむを得ず王城での食事会となったのでした。
* * *
「フォッテスさん、左右の手足が同時に動いていますよ?」
「は、はひ!? 申し訳ありません!?」
「い、いえ……謝らなくてもいいのですが……」
いやそもそも、ベラトには夜の予定を空けておいてとは言われていた。しかしベラトは、なんの用事なのかは一切説明してくれなかったのだ……!
わたしたち姉弟は、休日はよく王都散策に出歩いていたから、予定を改めて確保しておくなんてちょっと疑問だった。
ま、まさか……姉弟でデートというわけでもないだろうし……
そもそも、王都散策はデートじゃないのかと聞かれたら反論できないけれど、でもわたしもベラトも王都には知人がまったくいないので、休日となると、これまで以上に二人で過ごす時間が増えてしまうのもやむを得ないわけであり……
って、そうじゃない。
とにかくベラトが、何かしらの悪戯というかサプライズというかを企んでいることは分かったのだけれど……
まさか……
王城に来るだなんて思いも寄らないじゃない!
しかもさらに!
あのティアリース殿下に呼ばれただなんて夢にも思うわけがない!
ということでわたしは、ガッチガチに緊張して、左右の手足を思わず同時に動かしながら、王城のエントランスホールをギクシャクしながら歩いていた。
そんなわたしに、ベラトが呆れ顔で言ってくる。
「姉さん、今日はお忍びなんだから、あまり緊張するとティスリさんに失礼だよ」
「そそそ、そうはいってもネ……!?」
こんな豪華で巨大な王城内を歩いていては、緊張するなというほうがおかしい。ベラトは衛士だから、王城には慣れているのかもしれないけれど……そもそも平民のわたしが立ち入っていること自体あり得ないわけで!
そんなことを考えていたら、アルデさんが苦笑しながら言った。
「ベラトだって、ティスリと再会したときはガッチガチだったじゃん」
「そ、それは……仕方ないじゃないですか。一介の衛士に過ぎないぼくが、いきなり王女殿下に拝謁を命じられたんですから。衛士全員が驚いたんですよ?」
「まぁそうだろうけど、ティスリの気ままさには慣れておかないとな」
アルデさんがそんなことを言っていると、殿下が少しむくれた感じで口を挟む。
「わたしがワガママ極まりないかのように言わないでください」
「……え? お前、自覚が──」
「なんですか?」
「いえなんでもありません!」
殿下にギロリと睨まれて、アルデさんはわざとらしく口を閉じる。っていうかアルデさん、以前と変わらず殿下に軽口を叩けるなんてすごいな……!?
殿下の方も、大して気分を害した様子もなく話を続けた。
「そもそも城内では、王女として指示したほうが早いのですよ」
そんなことを言い合ったあと、殿下が申し訳なさそうにこちらを見る。
「それと……ごめんなさいね、フォッテスさん。本当なら街中で食事会をしたかったのですが、今のわたしが外食するとなると大事になってしまうので」
「ももも、問題ありません! むしろ光栄の極みでどうにかなっちゃいそうです!? もちろん殿下の時間を必要以上に割いてもらうわけにもいきませんし!?」
「今日はティスリと呼んでくれませんか? 城内にはなってしまいましたが、お忍びという
「かかか、かしこまりましたティスリ様!?」
「敬称も不要なのですが……」
「ででで、ではせめてさん付けで!?」
などというやりとりをしていたら、食事会の部屋に通された。
事前の説明では小部屋という話だったが……わたしとベラトが住むアパートの何部屋分あるか分からないほどに広かった。
そこの中央に円卓が設置されていて、すでに給仕さんも待機している。準備万端という感じなのだろう。
わたしは、そんな豪華な室内に恐る恐る入り、給仕さんが椅子を引いたり押したりしてくれるのに戸惑いながら、ようやく着席した。
それからでんか──いやティスリさま──じゃなくてティスリさんが言ってくる。
「お二人は、お酒は吞めますか? よい葡萄酒が入っているそうなので、吞めるならお勧めなのですが」
王城で提供される『よい葡萄酒』って……いったいおいくらなのだろうか……? もしかして、外国の貴賓に出すようなヤツなんじゃ……
で、でもでも、ここで断ったらむしろ失礼な気もするし……いったいどう答えればいいの!?
そんな感じにわたしが混乱しているうちに、ベラトが答えてくれた。
「ありがとうございます。ぼくも姉も吞めますので、ぜひ頂きます」
「そうですか。ではお出ししますね」
するとアルデさんがティスリさんに言った。
「ティスリ、分かっていると思うが……」
「ええ、言われるまでもなく分かっています。わたしは呑みませんよ……」
ティスリさんは、なぜか悔しそうな表情でそう答えた。はて、なんでそんな表情になるのだろう……?
わたしには理由がよく分からなかったけど、それを聞く度胸はなかった。
でもまぁ……ちょうどいいかもしれない。
お酒が入れば、少しは緊張がほぐれるかもしれないし。
以前、フェルガナ領都で接したときのような態度になってほしい──とティスリさんが思っているのは分かっているんだけど、でもやっぱり、こうも豪華な内装に囲まれていると、どうしても萎縮してしまう。
あと何よりも、ティスリさんの王女オーラが半端ないし……
わたし、前はいったいどうやってティスリさんと接してたんだっけ……?
わたしが戸惑っていると、すぐにお酒が出されてきた。そうして全員で再会を祝う乾杯をする。
その後のわたしと言えば、緊張をほぐすべく、お酒をハイペースで呑むしかないのだった……
(つづく)
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