LIGHT NOVEL
バカンス中にティスリは……アルデとミアの『意味深なやり取り』を目撃して、その後も気が気じゃありません!
だというのに情勢は急転直下、くすぶっていた陰謀が突如明らかに……!
その陰謀を前にして、アルデとミアが気になるティスリは、果たしていつも通りの天才性を発揮できるのか!?
そんなさなかでも王都はまだ平和そのもので、秋口になると学園祭のシーズンに。
もちろん、ユイナスとリリィの学園でも学園祭が行われるので……そこをティスリとアルデも見学することに。
ただ問題なのは……二人の学園は女子校ということで……
果たしてアルデは、女子校内で上手く立ち回ってハーレムを築けるのか? いやそうではなく、女子校もさることながらミアとの関係はどうなるのか!?
陰謀と色恋が交錯する異世界ラブコメ第5巻、ぜひご一読くださいませ!
昨夜のアレは、一体なんだったのでしょう……?
そんなことを考えていたら、ティスリは一睡もできないまま夜を明かしていました。
「うう……眠いのに眠れませんでした……」
カーテンの隙間から差し込む朝日を見て、わたしは諦めて上体を起こします。
そうしてまた、脳裏に同じ言葉を浮かべてしまいました。
昨夜のアレは、一体なんだったのか……
花火大会に出向く道中の混雑で、わたしたちははぐれてしまいましたが、アルデとミアさん以外はつつがなく合流します。
しかしいくら待っても二人とは合流できないので、守護の指輪に仕込んだ通信機でわたしが呼んでみたところ、アルデは応答しましたがミアさんの応答がありません。
だからわたしは胸騒ぎを覚えました。
もちろんミアさんの身を案じての胸騒ぎです。非常用通信に出ないということは、下手をしたら意識がない状態ということですからね。
けっして絶対に間違っても、アルデとミアさんだけがいないから胸騒ぎを覚えたわけではありません!
ということでわたしは非常時と判断し、指輪の発信魔法を頼りに、二人の元に向かいます。
なぜかどういうわけか不思議なことに、二人の発信源は同じ場所でした………………きっと、運良く合流できたということですね!
しかも不可解なことに林道を外れた森の中でしたが、トイレなんかを探しているうちに道を外れたのでしょう!
そうして。
わたしが、発信源の元に辿り着いたとき。
森の中、ちょっと開けた広場に二人がいて。
ミアさんが、とても真剣に話していました──
──アルデに向かって。
「アレは……何を話していたんでしょう……?」
遠巻きに目撃したわたしでは、ミアさんの話までは聞こえませんでした。魔法を使えば聞くこともできましたが、もちろん人の話を盗み聞きするような真似はできません。
ですがあのシチュエーションと雰囲気で、何か、ただならぬ会話がなされたことは分かりました。
事実、アルデに何かを告げた後のミアさんは、すぐにその場を立ち去ってしまいましたし……
あとに残されたのは、呆然と立ち尽くすアルデのみでしたが……やがてアルデは、後頭部を掻きながら歩き始めました。
ま、まずい……! アルデはわたしのいる場所に向かって歩いています! このままでは鉢合わせをしてしまう!
い、いやでも……わたしは二人を迎えに来ただけであって……別にやましいことも何もないのですが……でもなぜか、アルデと顔を合わせるのは非常にマズイ気がします!
なのでわたしはすぐに引き返そうとして──
──パキンッ。
運悪く、足元の小枝を踏んでしまいました!
「ん、誰だ?」
だからアルデに気づかれました!?
な、何しているのですかわたし!
普段なら、こんなミス絶対しないのに!
さらにあり得ないことに!
「に、にゃあ〜……」
わたしは咄嗟に、猫の鳴きマネなんてしてしまいます!
そんなことで誤魔化せるとでも!?
「なんだ猫か──」
っていうかアルデ、なんて単細胞!
「──とでもいうと思ったか? 後ろ姿が丸見えだぞ、ティスリ」
「ぐっ……!」
誤魔化せたかと一瞬思いましたが、さすがのアルデも、あんな猫の真似では誤魔化せなかったようです……っていうかわたし、後ろ姿まで晒すとはなんたる失態……!
やむを得ないので、わたしは振り返ってアルデを睨みました。
「あなたたちが遅いから迎えに来ただけですからね!? 決して、覗き見していたわけではありませんよ!」
「いやそれ……覗き見してたって言っているようなもんじゃん」
ぐぐっ……! ま、まさかアルデに論破されるなんて!?
っていうかわたし、なぜこれほどまでに動揺しているのですか!?
やむを得ないので、わたしは事実をありのままに伝えることにします!
「し、仕方がないでしょう!? あなたたちが遅いから迎えに来たら、鉢合わせしてしまったのですから! 別に、意図して覗き見したわけではないですからね!?」
「あー……うん、そう……」
アルデは決まり悪く視線を逸らすだけで、わたしが覗き見していたことに怒る様子はありませんでした。
怒るというよりも、むしろ困った感じでした。
だからわたしは気になって、思わず聞いてしまいます。
「それで……あの……何かあったんですか? ミアさん、一人でどこかに行ってしまいましたが……」
「……ん?」
私の問いかけに、アルデは眉をひそめます。
「オレ達の会話を聞いてたんじゃないのか?」
「そ、そこまではしてませんよ! それなりの距離もありましたから、会話までは聞こえていません」
「そうか……」
そうしてアルデは、少し黙考したあと答えてきます。
「いや別に……大したことじゃないんだ。ケンカとかでもないから気にしないでくれ」
「でも、ミアさんが……」
「たぶん、花火会場に向かってると思う。だからオレ達も行こう」
「え……けど……」
わたしの戸惑いには意も介さず、というよりアルデは心ここにあらずという感じで歩いて行ってしまいます。
だからわたしは、それ以上の追求ができるはずもなく……アルデの後を追うしかありませんでした。
そうして花火会場の出入口に戻ってみれば、確かに、ミアさんはすでに到着していました。
そうして、どこかスッキリした笑顔で普通にアルデと話していました。アルデのほうは、なぜか戸惑った感じではありましたが……
もちろん、勝手に盗み見てしまったわたしは、ミアさんに尋ねることもできずに……昨夜は、みんなで花火を見た後、リリィの別荘宅に帰ってきて、あとは特に何もなく就寝となりました……わたしは寝付けなかったわけですが。
やむを得ず、わたしはベッドから降りてカーテンを明けました。
光を浴びてわたしは目を細めますが、眩しい割に今日は曇り空でした。
分厚そうな雲が南国の空を覆っています。もしかしたら一雨降るかもしれません。
南国の青空で、気怠い気分を晴らしたかったのですが、やむを得ません。
わたしは備え付けのバスルームでシャワーを浴びて、寝不足の頭をいくらか起こすと、身支度を調えました。
その後、自室のドアノブに手を掛けて──
──今日のアルデは、普段通りに戻っているかしら……?
そんなことをふと思いながら扉を開け、リビングに向かいます。
しかしリビングにいた人間は、わたしが予想だにしていなかった人物でした。
どうにも寝付けなかったアルデは、気晴らしで早朝トレーニングをしていた。
しかしどれだけ体を動かしても、ミアのことが頭から離れない……しかもそれをティスリに見られていたとか……最悪だ。
ん? でもなんで……ティスリに見られていたことが最悪だと考えているんだオレ?
そりゃ、ティスリが怒るからだが……そもそもなんでティスリに怒られると思ったんだっけ?
だいたいティスリは怒らなかったじゃないか。かなり戸惑ってはいたけれど。でもそれは、会話までは聞いていなかったからか?
だとしたら、会話を聞かれていたらティスリは怒ったのだろうか?
う、う〜ん……何か違う気がする……
ってかそもそも!
ミアのことはどうすりゃいいんだよ!
まさかミアがオレのことを……その……好きだった、だなんてなぁ……
長い付き合いだというのに、そんな素振りは微塵も見せていなかったのに急すぎるだろ……
しかも答えなくていいって……どういうことだ?
こういうのって、ふつー、告られたら、オレも好きだとか付き合おうとか、あるいはごめんなさいとか、そういうのを答えるべきなんじゃないのか?
だというのに答えなくていいって……ならオレはどうしろと!?
「はぁ……駄目だ……帰ろう……」
海岸沿いをいくらランニングしても堂々巡りになってしまうので、オレは諦めてリリィの別荘に戻る。
シャワーを浴びてからリビングに入ると、まだ早朝だというのにティスリが起きていて、さらに見知らぬ顔もあった。
「おはようティスリ……その人は?」
「そういえば、アルデは初対面でしたか。彼女はラーフル・ブルシェンシャフト。わたしの親衛隊長で、今はフェルガナ領主代行も務めています」
「フェルガナって、うちの村の領主? ……ああ、ティスリに代行を押しつけられたっていう気の毒な人か」
そんな彼女──ラーフルは、ソファにも座らず直立不動のまま言ってくる。
「貴殿と会うのは初めてではないのだが──」
「え、そうだったっけ?」
「──状況が状況だったのでやむを得まい。改めてよろしく頼む。それとわたしは気の毒などではない。領主代行などという余りある栄誉に預かることができて、むしろ光栄の極みというものだ」
「余りあったんじゃむしろ大変じゃね?」
「そそそ、そんなことはないぞ!?」
まぁティスリの手前、そう言わざるを得ないのだろう。ここで揚げ足をとったところで意味がないのでオレはスルーしてソファに座った。
「それで、その領主代行様がなんの用なんだ? 南国にまで」
オレのその疑問にはティスリが答えてくる。
「もちろん、楽しい知らせではないでしょうね。転送魔法で飛んでくるくらいですから」
「……そうだろうな」
「リリィにも聞かせたいとのことで、今はリリィの身支度待ちです」
ティスリがそう説明したところでリビングの扉がノックされて、大慌てでリリィが入ってきた。
「も、申し訳ございませんお姉様! お姉様をお待たせしてしまうなんて、このリリィ一生の不覚──」
「まだ早朝ですから構いません。いいから座りなさい」
確かにまだ六時だもんな。他の面子は寝ているし。
ということでリビングに揃ったのは、ティスリ、ラーフル、リリィ、そしてオレの四人。
夜明けにはラーフルが転送魔法でこの別荘に訪れていて、ティスリの起床を待っていたのだそうだ。朝からご苦労なこった。
そして、ティスリが思いのほか早く起きてきたので、リリィが叩き起こされたという構図か。
さらに他の面子には聞かせたくないらしく、早朝だったのは好都合だったようだ。
だとしたら……オレはたまたま居合わせただけだし、この場にいていいのか?
オレと同じ疑問を抱いたのか、ラーフルがティスリに言った。
「殿下。今回の話は極秘事項なのですが、彼には──」
「構いません。アルデはわたしの側近だと思って接しなさい」
「そ、そうですか。かしこまりました」
え、まじで?
今まで護衛やら従者やらただの男避けやら挙げ句の果てに奴隷やら、散々な言われようだったのに、ここに来て王女の側近だとか。
オレの立場、アップダウンが激しすぎない?
なんとなく、ラーフルに嫉妬の眼差しを向けられている気がしないでもないが……まぁ彼女は貴族だし、平民のオレが王女の側近になったら嫉妬の一つや二つも出てくるのだろう。でもオレ、別に出世とかしたいわけじゃないのになぁ……
などと考えていたら、ラーフルが姿勢を正してから話し始めた。
「まず結論から申し上げます。実は……五大貴族のうち、テレジア家を除く貴族が……反乱を起こしました」
ラーフルがそう告げて、数瞬後。
「はぁ!?」
リリィの悲鳴だけが、リビングに反響するのだった。
予想していた回答のうちの一つを聞いて、ティスリは軽くため息をつきました。
その横で、リリィがラーフルに食ってかかっています。
「ははは、反乱!? 五大貴族のうち四家がですの!?」
「はい……そうなります」
「どどど、どういうことなのですか!? 詳しく説明なさい!」
「ハッ……実はこの反乱は、どうやら以前から計画されていたようでして──」
わたし達が統治するこのカルヴァン王国には、五つの大貴族が存在します。建国当時から王家に忠誠を誓った貴族で、そのうちの一つで序列一位がテレジア家──つまりリリィの家となります。
そのテレジア家まで反乱に加わらなかったのは幸いでしたが、しかしそれ以外の貴族は軒並み反乱に加担したわけですか。
そうなるとこの国は『王家とテレジア家の王家連合』VS『四大貴族』という構図になり、それ以外の貴族もどちらかの陣営に与することになるでしょう。
これまでの貴族の憤懣を考えると……多くの貴族が四大貴族側に付くでしょうね。となると、いくら序列一位のテレジア家が残るとしても──
「──勢力図は四対六といったところでしょうか。もちろん、王家とテレジア家が少数という意味ですが」
「さすがは殿下。まさしくそのような状況になりつつあります」
それを聞いたリリィがますます怒りを露わにしました。
「王家側が少数!? なぜですの!? この国の統治者であり、お姉様という稀代の大天才がいる王家側がなぜ不利になるのですか!」
「そ、それは……」
ラーフルが答えにくそうにしていたので、代わりにわたしが答えました。
「かねてからの不満が爆発したということでしょう。わたしの政策は、貴族を締め付けるものが多かったですし」
「何をおっしゃいますかお姉様! お姉様の政策はどれも素晴らしいものだったじゃないですか! おかげで我が国は躍進に次ぐ躍進を遂げ、今では軍事経済ともに他国の追随を許さないほどですわよ!? その躍進により、わたしたち貴族だって多大な恩恵を賜っておりますわ! いったいどこに不満があると!?」
リリィは、たまに貴族らしからぬことを言うのですよね。居丈高の割に、貴族的なプライドに無頓着というか。この辺が、ユイナスさんに好かれている理由なのかもしれませんね……
だからわたしは、まるで平民に説明するかのように言いました。
「貴族とは、実利よりもプライドを取るものなのですよ。いくら豊かになったところで、自分達の利権が削がれるのであれば、まったくもって面白くないのでしょう。そもそも貴族は、基本的にお金に困ったり、食事に飢えたりの経験がありませんからね。だからなおさら利権にこだわるのです」
「ま、まるで理解できませんわ……そもそもなぜお姉様を信じないのです? お姉様を信じないことは、つまり神を信じないのと同義ですのに!」
「それはあまりに荒唐無稽な話ですけれども……彼らにとって利権を奪われることは存在意義を失うことと同じですから、死ねと言われているように聞こえたのでしょう」
「お姉様は、そんなこと一言もいってないではないですか!」
「言わなくても、向こうが勝手にそう捉えたのであれば仕方がありませんよ」
今となっては、貴族の存在意義とはイコール利権でしかありません。つまり現状がどれほど豊かになろうとも利権が脅かされることは、死の恐怖と同義なのです。
その恐怖は幻想だといくら説いても、まったく理解できないほど、恐怖にとらわれているのでしょう。
そうして、この国を二分するような内戦を仕掛けてくる。それが、本当の意味での自滅だとも気づかずに。
わたしはため息をついてから、ラーフルに問いかけました。
「お父──陛下はどうされているのですか?」
「そ、それが……この一報を聞き、寝込んでしまわれまして……」
「はぁ……またふて寝ですか。役に立たない人ですね……」
陛下がわたしを王家追放にしたことによって、反乱の火消しになるかもと淡い期待もしていましたが……結局わたしは視察旅行扱いになっているようですし、意味がありませんでしたか。決断というものができない人ですね、本当に。
「なぁティスリ」
わたしがちょっとした疲れを感じていると、アルデが聞いてきました。
「なんだかお前、こうなることを予想している感じだけど、だとしたら解決策があるってことか?」
意外と目ざといことを言ってくるアルデに、わたしは思わず胸を撥ね上げます。
アルデは……意外とわたしのことを理解しているということなのでしょうか? ある意味お父様よりもずっと分かってくれているというか、いえ別に、お父──陛下のことはどうでもいいのですけれども、なんだか妙な気分になるというか、ちょっとくすぐられた感じで落ち着かないというか──
「ティスリ、どした?」
「な、なんですか!?」
再びアルデに問われて、だからわたしはハッとなって視線をアルデに向けました。
「この状況を予想できていたのか? って聞いたんだが……」
「え、あ、はい……予想はしていましたが……」
い、いけない……どうも昨日の一件から、アルデが絡むと思考が乱れます。
だからわたしはいっとき瞑目して、気分を落ち着かせてから再び口を開きました。
「ただ……このシナリオは、もっと先の想定をしていたのです。それこそ十数年後の想定でした。だから予想外と言えば予想外です。ではなぜ早まったのかと言えば、おそらくは、領主逮捕が引き金でしょうね」
フェルガナの元領主は、四大貴族に名を連ねる中央貴族の出自です。そんな貴族を、王権であっさり逮捕し投獄したとなれば、同じ穴の狢だったら戦々恐々としないわけがないでしょう。
それで反乱計画を早めた、という可能性もありますが、しかしそうであっても行動が早いですね……
わたしが黙考していると、ラーフルが言ってきました。
「殿下、もう一つ報告があるのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、話してください」
「実は、そのフェルガナ領の財政内容を調べていくうちに、不審な点を見つけまして。軍事費の内訳なのですが、武具のみの購入となっているのです」
「武具のみ?」
「はい。兵士増員を行わず武具のみの購入です。これも反乱計画の一つだったのであれば、軍事費増額を気取られないため、段階的に軍備拡張をするためだったのだと思われますが、念のためご報告した次第です」
「なるほど……」
反乱を計画していたのなら、年々軍事費を増額していたのであれば、関係省庁に目をつけられまずいことになるでしょう。
だからある一定の期間は武具のみを購入し、それが一段落したら、次は兵士増員に資金を回す。こうすれば総額は増えませんから、段階的に軍備拡張をすることは可能です。
であったとしても四大貴族は、本当にわたしと事を構えるつもりだったのでしょうか? わたしの戦闘能力は貴族達にも伝わっていたはず。とくに直近では、王城を半壊して見せたのですから、そう簡単に内戦を起こすとも思えないのですが……
まぁあのときは、そこまでは考えてなかったのですけれども……
アルデとの戦いを思い出し、ふとアルデを見ると、神妙な面持ちでわたしたちの会話を聞いていますが……
あれ、本当に反乱のことを考えているのでしょうか?
もしかして、昨晩のことを思い出していたりして……
そもそもアルデは、なんでこんな早朝に起きていたのか……アルデが日々鍛錬をかかさないことは知っていますが、それにしたって、こんな早朝から鍛錬をしていることは希です。
ならやっぱり、わたしと同じように、ミアさんのことが気になって寝付けなかったのでは?
となると昨晩のアレは、いったいどんなやりとりをしていたというのですか……!?
アルデみたいな、鈍感で朴念仁で感受性が死んでいる人間が寝付けないって……ミアさんはいったい何を話したと!?
「あの……殿下?」
ラーフルに声を掛けられ、わたしはハッとします。
「どうかされましたか? アルデ・ラーマのことをじっと見つめて──」
「みみみ、見つめてなどいませんが!?」
「そうでしたか……?」
「見つめていたのなら、それはアレです! 相変わらず、アホ面してるなと思って眺めていただけです!」
「なぜいきなり、オレが非難されるんだ……?」
「と、とにかく!」
アルデの抗議はスルーして、わたしは咳払いをしてから話を続けました。
「いずれにしても、このタイミングで反乱はわたしにとっても予想外です。陛下が役に立たないのであれば……一度、わたしが王都に帰らざるをえないでしょうね」
「ほ、本当ですか殿下!」
わたしの台詞に、ラーフルが喜色を浮かべます。そんなラーフルとは対照的に、わたしはため息交じりに言いました。
「さすがに、このような状況下で『王族追放されたから無関係だ』とは言えません。もっとも被害を受けるのは無辜の民なのですから」
「さすがです殿下! きっと、そういってくださると思っていました!」
飛び上がらんばかりに喜ぶラーフルとは対照的に、わたしはますます気を重くするのでした……
(Kindleに続く)
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