第7巻 番外編

LIGHT NOVEL

番外編3リリィの励まし

 リリィわたしは、アルデの腕にぶら下がるようにしがみつくユイナスを見て……ため息をつきました。

 せっかく、遊園地という珍しい場所に来たものの……

 ユイナスはアルデにべったりで、わたしのことなんて一顧だにしません。

(これでは、ユイナスと遊ぶのは無理そうですわね……)

 元々、タイミングを見計らって別行動をする手はずにはなっているのですが、そうであったとしても、いえだからこそ、四人一緒にいるうちに色々楽しみたかったのに──

 ──などと考えていることに気づいて、わたしはハッとなりました!

(い、いや別に……ユイナスとだけ遊びたいわけじゃないのですが!?)

 そもそもです。二手に別れたりしたら、お姉様はアルデのことが気になって、わたしと遊園地を楽しむどころではなくなるはず。

 だからわたしは、そんなお姉様をなだめすかして、可能な限り合流を引き延ばさねばならないのですが……ぜんぜん乗り気になれません。

(だいたい、お姉様の気を逸らすなんて無理ですし、わたしになんのメリットもありませんし……)

 とはいえ、ユイナスには大きな負い目がありますから、例えメリットがなくてもわたしは従わざるを得ないわけで……

 そう考えると……

 なんだか……

 妙な気分になってくるのはなぜでしょう……!?

 などと考えていたら、ユイナスが言っていました。

「ねぇお兄ちゃん! 次はお化け屋敷に行こうよ!」

「は? お前、お化けとか苦手だろ?」

 そう──ユイナスはどうやらお化けが苦手なようなのです。この作戦を考え出したときも、それはもう苦虫を噛みしめるがごとくの表情で、まさに苦渋の決断といった感じでしたし。

 まだ計画段階からそんな状態でしたから、いよいよお化け屋敷に向かおうとしている今、ユイナスの声は震えていますし、なんだったら膝だってガクブルじゃないですか……

 ですがそうまでしても、お化け屋敷に行かねばならない理由があるのです。

 その理由とは……

 二手に別れるには、お化け屋敷くらいしかその口実がないからです。

 お化け屋敷はペアで入場する仕組みとのこと。だからユイナスとアルデ、わたしとお姉様でペアになって、そこではぐれたとすれば自然と別行動になるというわけなのです。

 そんなに上手くいくとも思えませんが……しかしこれ以外の案もなかったですし……

 にしてもまだ遊園地に来たばかりだというのに、すぐさま作戦を実行しようとするなんて……気が早すぎでは? もうちょっと、みんなで楽しんだっていいでしょうに……

 しかしわたしに拒否権はありませんから、結局お化け屋敷に行くことになって、ですがアルデはユイナスとのペアを渋っています。そしてわたしとユイナスを眺めながら言ってきました。

「お前ら仲良しなんだから、一緒に入れば?」

「なんでよ! リリィと一緒にお化け屋敷とか最悪でしょ!? 何が面白いのよ!!」

 ひ、酷い……!

 ここまでユイナスに協力しているというのに、その言いようはあんまりでは!?

 しかも、わたしはその場で思わず四つん這いになってしまったというのに、誰一人気に掛けてくれないのですが!?

 な、なんだかもう……どぉでもよくなってきたような……

(もう……このまま帰ろうかしら……)

 などと考えていたら、お姉様が声を掛けてくれました!

「ほらリリィ、そんなところでいじけてないで、わたしたちも行きますよ」

「お、お姉様……!」

 やはりお姉様は女神様ですわ!

 もうユイナスなんて知りません! こうなったら徹底的にお姉様と楽しみます!!

 というわけで、お姉様のおかげでなんとか気力を持ち直したわたしは、お化け屋敷に入ったわけですが……

 断続的に、ユイナスの悲痛な叫び声が聞こえてきます。

 あの子……本当に大丈夫ですの……?

 そうしてヤキモキしながらお化け屋敷を出てみれば、出口の待合広場にユイナス達の姿はありませんでした。

 どうやら、怖がりながらもなんとか別行動にはなったようですわね。

 だからわたしは、二人を捜そうとするお姉様をなんとかやり過ごしながら歩いていると……

 目前に、アルデの姿が。

 え……? なんでアルデは一人で歩いているのですか?

 お姉様も不審に思ったのかアルデに尋ねると……

「いや実はなぁ……あまりに大泣きするから、非常口からお化け屋敷を出て、あっちのベンチで落ち着かせてたとこだ」

 な、何をしておりますのあの子は!?

 っていうか大泣きって大丈夫ですの!? だいたいアルデは、なんで大泣きしている女の子を放っておくのですか!

「お姉様! わたし、一足先に向かいますわね!」

 焦ったわたしは、お姉様にそう言うと走り出します。

 そうして人混みを掻き分けて、アルデの言う大広場に来てみれば……

 その隅のベンチで、一人、目を赤く腫らした美少女が座っていて……

(な……なんて……)

 なんて可愛いんですの!?

 ユイナスには申し訳ないですが、ああやってしおらしくしているほうが、断然いいと思いますケド!?

 そもそもユイナスは、お姉様に勝るとも劣らないほどの美少女ですし、黙ってさえいれば、誰もが見惚れるほどに可愛いのです……! 事実、今もめちゃくちゃ衆目を集めていますし、ちょっと向こうではカップルの男性がユイナスに目を奪われて、お相手の女性に張り倒されてますわ!

 さらに今は、涙目になっている儚げな美少女という感じですし……普段の勝ち気な性格を知るわたしは、そのギャップも相まって目眩がするほどです!?

(はっ!? いけない! 人の弱みにつけ込んで、こんなことを考えるなんて──)

 いっとき呆然としていたわたしですが、なんとか正気に返るとユイナスの元に駆けつけました。

「ユイナス……大丈夫ですの?」

 わたしがそう声を掛けると、ユイナスは泣き顔のままこちらを向いてきて──

「……何よ……笑いに来たの?」

 ──えっぐ、えっぐと嗚咽を零しながらも、いつも通りの憎まれ口を叩いてきます。

「まったく……そんな口が利けるなら、大丈夫そうですわね」

 だからわたしはため息をついてからユイナスの横に座って、ハンカチを差し出しました。

「ほら、自分のハンカチはもう使い物にならないでしょう? これで涙を拭いてください」

「………………」

 そうしてユイナスは、無言でわたしのハンカチを受けとります。

 ユイナスが涙を拭き終えてから、わたしは話しかけました。

「少しは落ち着きましたか?」

「………………おぢづがない……」

「はぁ……まったく……そこまで怖いなら、お化け屋敷なんてやめておけばよかったのに」

「だっで……だいじょーぶだとおもっだんだもん……!」

 お化け屋敷という単語を聞いただけで怖さを思い出したのか、ユイナスが再び震え始めてしまいます……!

「あ、ああもう! 言ってるそばから……! とにかく何か楽しいことを考えてくださいな、ね?」

「だのじいごと……?」

「そうですわ……例えば……わ、わたしと一緒に、美味しいスイーツを食べるとか?」

「うう……!」

「なんでますます震えるんですの!?」

 そんなやりとりが何度かありましたが、ユイナスはどうにか落ち着いてくれたようで、だからわたしはほっと旨を撫で下ろします。

「それでユイナス、このあとはどうしますの?」

「………………」

「こうして合流してしまっては、改めて別行動をするのは難しいと思いますが……」

「………………もういい」

「え?」

「今日は、全員一緒でいい……」

「ほ、本当ですの……!?」

「何よ……わたしと一緒じゃ嫌だとでもいいたいの……?」

「そ、そんなことあるわけないじゃないですか……!」

 むしろ四人一緒のほうが嬉しいというか……!?

 もっと言えばこのままユイナスを連れて帰ってもいいというか!?

 儚げなユイナスを見ていると、なんだか頭が真っ白になっていき……

 気づけばわたしは、ユイナスの片手を握っていました!?

「……なに?」

 涙目のまま、ちょっと不審そうな視線を向けてくるユイナス。

 ま、まずいですわ!?

 ここで妙なことを口走ったら、ユイナスのことですからわたしを避けてしまうかも!?

 だからわたしは、必死に言い訳を考えます!

「い、いやほら……!? 泣いているときは、手を握ると泣き止むと言いますし!」

「…………子供扱い、しないでよ……」

 ユイナスはつんっと目を逸らしますが……

 しかし手を振りほどこうとはしてきません!

 えっ……!?

 い、いいんですの!?

 このまま手を繋いでいても、オッケーってことなんですの!?

 そ、それはつまり……

 ユイナスは……

 わたしを受け入れてくれているということで!?

 い、いやいや!? 待ちなさいわたし!

 今のユイナスはまともな精神状態ではないのですから、側に入れくれればきっと誰でもいいに決まってますわ!?

 これがお姉様であったとしても、なされるがままに身を委ねるはず!

 ユイナス、なんて節操のない子!

 で、ですが……

 吊り橋効果という話も聞いたことがありますし……

 人が恐怖で萎縮しているときに、頼れる存在がいるだけで、その相手のことを……

(だ、だとしたら……)

 もうちょっとこー……

 ユイナスを励ますためにも……

 た、例えば……

(抱き締めたりしてもいいってことですか!?)

 そう考えた途端、体が妙にウズウズしてきて、まだ震えているユイナスの華奢な肩や、その首筋、そして透き通るかのような肌や赤いままの目を見る度に……!?

「……?」

 ユイナスが、不思議そうにこちらを見てきます!

 普段なら、こんなにユイナスと接近することはないのですが……

 心細いのか、いつでもキスできる距離なのに拒否られません!?

「ユ、ユイナス……!?」

 ついにわたしは辛抱堪らなくなって、ユイナスを抱き締めようとした──

 ──そのとき。

「あっ……!?」

 ユイナスが、ふいっと向こうを見てしまいます!

「ティ、ティスリのヤツ……!」

 つられてわたしもそちらを見ると、お姉様とアルデが連れ立って歩いてくるところでした。その手荷物から、どうやらランチを購入してきたようです。

 うん、どう見ても仲良しカップルという感じですわね?

「わたしが不調なのをいいことに! 隙あらばお兄ちゃんを口説いて!!」

 そうしてユイナスは、わたしの手を離すと……

「あっ……」

 まだ震える膝を無理やり動かして、二人のもとに走っていってしまいました……

「………………」

 そう……ですわよね……

 結局ユイナスは、アルデが好きなんですもんね……

 どんなに怯えていても、アルデがいればいいわけで──

 ──ってぇ!?

(わ、わたし、何を考えてましたか今まで!?)

 そこでようやく、わたしは我に返ります!

(確かにユイナスは美少女ですが、それだけですわよ!?)

 なのにわたしは……

 ユイナスの手を握りしめたり!?

 間近にあるユイナスの唇に見蕩れたり!?

 いわんや!

 ユイナスを抱き締めようとしてませんでしたか!?

(わたしはお姉様に忠誠を誓った身! そんなこと、あり得るはずがありません!?)

 あり得たとしても一時の気の迷いですわ!

 だからわたしは、その気の迷いを振り払うべく……

 ユイナスのあとを追うかのように、お姉様達に駆け寄るのでした!

(おしまい)

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