第7巻 番外編

LIGHT NOVEL

番外編5ミアの決意

ミアわたしは……なんて大胆なことをしちゃったの……!?)

もはや裸同然でアルデと一緒にお風呂に入って、その後すぐにアルデは出て行っちゃって……

そうして殿下もユイナスちゃんもリリィ様もいなくなった家族風呂で一人……

わたしは激しすぎるほどに後悔していた!

(こ、このあと……どうやってアルデと顔を合わせればいい!?)

一応バスタオルは巻いていたとはいえ……アルデには、裸を見られたも同然だし!?

しかもそんな恥ずかしい姿を、殿下にもユイナスちゃんにもリリィ様にも見られてしまって!

もう誰にも合わせる顔がないよ!?

「うう……」

なんだか泣きたくなってきて、わたしは思わず、ぶくぶくぶく……と温泉に頭まで浸かってみた。

頭を冷やすべきなのに、これじゃあますます血行がよくなって、余計に恥ずかしさが増した気がする……!

「……はぁ」

ということで観念して、わたしは湯船から顔を出した。

そしてふと、竹垣の仕切りへと視線を向ける。

(殿下は、もう上がったかな……?)

よくよく考えてみれば、殿下は隣のお風呂に入っていたのだ。わたし達の会話が聞こえていたっておかしくなかった。

そんな当然のことに気づかないほど、わたしは舞い上がっていた……というか焦っていたわけでもあるけれど……

(でもまさか、殿下が入ってくるなんて……)

夏のバカンスのときは、水着になるのも恥ずかしがっていたのに。

でもそう言えば、あのときの殿下も、アルデにだけは水着姿を見せていたっけ……

その真意はハッキリしないけど、でも普通に考えるなら、アルデに水着姿を褒めてもらいたいとか、そんな私情しかないはずで……

ということはあのときにはすでに、殿下もアルデのことを……

(ううん、違うよね……殿下は最初から、アルデの事が好きだったわけで……)

でも夏のあのときは、まだそれを自覚していなかったような気がする。いや、自覚していたのだとしても、その身分から自制していたのかもしれない。

どちらなのかは定かではないけれど、けど……

今では、アルデと一緒にお風呂にまで入っちゃったわけで……

(間違いなく殿下は、今はもうアルデへの好意を自覚しているし、だから自制心もなくなっているということになるよね……!?)

もしも殿下が、アルデとの仲を本気で進展させようとしたら、どうなるのだろう……?

王族と平民なんて結ばれるはずがない、と思っていたけど……

吟遊詩人の歌なんかでは、そんなシチュエーションの恋愛歌もあったりもする。っていうかその場合は、主に騎士様と平民の女性という関係が多いけど、それはともかく……

でもそんな歌は大抵が悲恋で……毒を飲んでお互いが死んじゃったりとか……!

だ、だとしたら……

もし現実でも、身分差の恋が悲恋になるとしたら……?

(例えば……駆け落ちとか……!?)

殿下が身分も何もかもを投げ捨てて、アルデを連れてどこか遠くに行ってしまうとか、あり得ない話じゃないよね!?

その先で二人は非業の──

──いや待って?

殿下やアルデが、そんな簡単に、歌通りの悲恋になったりする?

そもそも殿下って、王女様という身分や立場を失ったって、どこででも生きていけそうだし……!

っていうかすでに殿下個人で、街一つを余裕で作ってしまえるくらいの財産があるみたいだし、王女様をやめてもどうにでもなるよね!?

逆にアルデの方は、一人にしておくとすっごく危なっかしいけれど、でも殿下みたいな人がパートナーだったら……

(そもそも働く必要ないし!?)

あ、あれ……?

だとしたら悲恋にはならなくない……?

むしろ、アルデの幸せを考えるなら、いっそ殿下と結ばれたほうが……

(な、何を弱気になってるのよわたし!)

そうかもしれないけど、でもダメだよ!?

そんな理屈でアルデのことを諦めきれるなら……こんな大胆なことはしていない!

「うう……どうすれば、殿下に……」

殿下に勝てるのか? なんて考えるのもおこがましいけど……

でもせめて、殿下に負けないためには、どうすればいいのか……

立場も容姿も性格も財力も、わたしは何もかも負けている。

唯一勝機があるとすれば、それは身分差だったけど……

それすらも、殿下ならどうにでもできそう……

そしてアルデの気持ちも、きっと……

「どうあっても、負けちゃうじゃない……」

わたしは別の意味で涙目になってきて、それを隠したくて再び湯船の中に沈む。

どんなに血の巡りをよくしても、殿下に負けない方策は見つかりそうになかった。

やがてため息と共に湯船から顔を上げる。

「はぁ……もうあがろう……」

そうしてわたしは体を拭いて、脱衣所で着替えをして……

ふと見ると、籠の中の忘れ物に気づく。間違いなくアルデのだよね。

「もう……財布を忘れるなんて危ないなぁ。ああ、守護の指輪もまた付け忘れてる」

もちろん、わたしのせいでよほど慌てていたんだろうけど、アルデは昔っから、こういう雑なところがあって目が離せなかったから……

そう、昔から。

(わたしが唯一、殿下に勝てることがあるとしたら……それは関係性だけ)

幼なじみという関係性。

殿下より、長い時間をアルデと一緒に過ごしてきたという関係性。

つまりは、殿下よりも先にアルデと出会っていたという、ただそれだけの利点。

だとしたら……

「殿下よりも……先に……」

その関係性を、殿下より先に発展させられたなら。

むしろそれしか、もう方法がないなら。

「恥ずかしいなんて、言ってられない……!」

この旅行で、なんとしてもアルデと二人きりになって。

そうして結ばれることができたなら……状況を変えられるかもしれない……!

けどそもそもユイナスちゃんの目があるんじゃ……無理かもしれない。

でもそれでも、わたしは……

「こんなことで、めげてちゃダメだ……!」

そうしてわたしは、アルデのお財布を握り締めて、脱衣所を後にするのだった……!

(番外編終わり。第8章につづく!)

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