
LIGHT NOVEL
庭球で、アルデに完膚なきまでに敗退した
ソマとヒナカと、あと庭球の女性コーチを招集していた!
「なんとかアルデに勝ちたいのじゃ。いい方法はないか?」
庭球場で、アルデを除いてそんな相談を持ちかけた妾に、ヒナカが呆れ顔で言ってきた。
「もう……アルデに聞かれたくない相談事があるというから何かと思えば……そんなどぉでもいいことを……」
ぼやくヒナカに、妾はキッと視線を向ける。
「何を言うか! 如何にアルデがS級冒険者の英雄とはいえ庭球は初心者。にもかかわらず妾が負けたとあっては面目丸潰れなのじゃ!」
「殿下は負けず嫌いなんだから……とはいえ、あのアルデに運動神経で勝つなんて無理だと思うけど……お姉ちゃん、何か作戦ある?」
「作戦も何も……そもそもアルデさんが本気になったら、わたし達じゃその姿すら目で追えないんですよ? 殿下も闘技場で見てましたよね?」
「それは確かにそうなのじゃが……とはいえあれは剣術だったからであろう? 庭球コートは闘技場よりずっと狭いし、不慣れな
とはいえ、アルデの運動神経を間近で見てきたこの二人では、端から諦めているようで大した案も出てこない。そもそもこの二人は魔法士だから、運動は専門外でもあるのだろう。
ということで妾は、庭球の女性コーチを見た。先日の試合で、コーチには審判をお願いしていたから、アルデのプレイも十分に知っている。その上でプロ目線の回答となれば、素人姉妹とは違った意見がもらえるかもしれぬ。
期待に胸を膨らませていると、そのコーチは神妙な面持ちで言ってきた。
「そうですね……アルデ様の身体能力は、確かに尋常ではありませんでした。教えたことを一瞬で吸収し、練習してもいないのに聞いた通りに体を動かせる……あれは、わたし達プロ選手から見たら脅威です」
「ふむ……そうなのか?」
「はい。本来ならば、どんな選手であっても練習が必要です。絶え間ない反復練習により、少しずつ、思ったとおりの動きができるようになります。だというのにアルデ様は、聞いた瞬間から体を動かせるのです。しかも正確無比に。あの天性の才能があるからこそ、御前試合でも圧倒されたのでしょう」
「なるほど……うちの近衛隊エースに勝ったのは伊達ではないということか」
「ええ。もちろんゼクスト様だってすごい運動神経であることは言うまでもありません。しかしアルデ様は、ゼクスト様をも圧倒的に凌駕するほどの才能をお持ちなのです……! わたしも御前試合を見ておりましたが、動体視力にはいささかの自信があるわたしでさえ、アルデ様の剣さばきは見えませんでした……!」
「そ、そうなのか……?」
「そうなのです! でも剣筋は見えなくとも、その体捌きはかろうじて目で追うことができて……その無駄のない動きは、それはもう優雅としか言いようがなくて!」
「ほ、ほう……?」
「しかも先日の庭球では、畑違いということでその速度を抑えられていたのでしょう! だからアルデ様の動作がよく見えましたが、たとえ動きがゆっくりであったとしてもやはり無駄がなく洗練されたその動作にわたしは目を見張るしかなく──!」
「な、なぁ……コーチよ……」
どんどん興奮してくる女性コーチに、妾は引きつらせた顔を向ける。
「お主まさか、アルデに惚れたのではなかろうな?」
「な……!?」
そしたらコーチは真っ赤になった。
「ななな、何を言っておられるのですか殿下!? わたしのような庭球しかやってこなかった行き遅れ女がアルデ様に惚れるなんて、そんなおこがましい!」
そんな台詞を聞いていたヒナカが、ジト目をコーチに向ける。
「否定はしないんですね……」
「ももも申し訳ありませんヒナカ様!? わたしのような
するとソマが一歩前に出てきた。
「大丈夫ですよコーチ! みんなで一緒に可愛がってもらいましょう!」
「かかか可愛がってもらうとは!?」
「お姉ちゃんの妄言は聞かなくていいですから!」
「でも庭球女のわたしでもハーレムに入れてもらえるならいっそ恥を忍んで!?」
「そうですよ恥ずかしがる必要なんてありません! みんな仲良く同時にプレイしましょう!!」
「お姉ちゃんは黙ってて!?」
「プレイって庭球じゃないですよね!?」
「コーチも真に受けないで!!」
………………なるほどな?
アルデはこうやって、無意識のうちに女性をたぶらかしておるのか。まったく許せんヤツじゃな……
いや……そのたぶらかされた女性の中に妾も入っておるのじゃが……!
とはいえこれ以上たぶらかされては堪らないので……妾はコーチに向かって言うのじゃった!
「コーチよ。お主は世界ランク一位を目指している現役の選手でもあるのじゃぞ? そんな色恋にうつつを抜かしている場合か?」
「うっ……そ、それは……」
「故にお主のハーレム入りは却下じゃ却下!」
「す、すみません……」
妾が裁定を下すと、ヒナカが不服そうに言ってくる。
「なんで殿下に決定権があるんですか!」
「なんでも何も、お主達だって別にハーレムメンバーじゃなかったのじゃろう?」
「うぐっ……そ、それは……そうですケド……」
「ならばこの中で、もっとも身分の高い妾が決めることのどこに違和感が?」
「くぅ……こ、これだから身分の高い人が身近にいると……!」
「まぁそう言うでない。妾がアルデのハーレムに入った暁には、これまでのよしみでお主らは邪険にせんぞ?」
「なんだか納得いきませんケド!?」
怒るヒナカのすぐ横で、ソマは「みんなで仲良くプレイすればいいのに……」と不思議そうに首を傾げていたが……それには妾も賛同しかねるな……
いずれにしても、新たなハーレムメンバー候補はなんとか阻止できたので、妾は胸を撫で下ろしつつコーチに聞いた。
「話がだいぶ逸れたが……それで結局、庭球でアルデに勝てる可能性はあるのか?」
「あ、はい……それですが……」
いささか気落ちしていたコーチではあったが、庭球の話になると顔を引き締めて言ってくる。
「アルデ様は、飛んできたボールを的確に打ち返しますが、打った後はあまり気が回っていないご様子でした。有効エリア内に打ち返すだけということですね。つまりルールを素直に解釈してらっしゃるのだと思います」
「なるほど……! そもそもアルデは庭球が初めてじゃし、様々なテクニックや駆け引きはぜんぜん知らないわけじゃな!?」
「はい、その通りだと思われます」
さすがはプロじゃ! たしなみ程度に習っているだけの妾とは着眼点が違うな!
それにこれは、アルデが得意とする剣術にも通じるところがある。つまり向かってくるボールは敵の刀身みたいなものなのじゃろう、アルデにとっては。だからそれを弾くのは、アルデにはお手のものと見える。
しかし弾いた先については、剣術にはなんの技術もないはずじゃ。何しろ刀身はすっ飛んでいかないのじゃからな! そんな攻撃であれば、むしろ弓矢や遠当ての技術が近いのかもしれぬ。
そこで妾は姉妹を見た。
「アルデは、弓矢についてはどうなのじゃ?」
姉妹は顔を見合わせてから、ソマから答えてくる。
「いえ、クエスト中に弓矢を使うところはみたことないですね。だから実力は分かりかねます……」
「ふむ……投擲などの攻撃はどうじゃ?」
今度はヒナカが答えてきた。
「それも見たことないですね。そもそもアルデは剣しか装備していませんし……」
「なるほどな……」
もし遠距離攻撃を得意としているならば、その武器を携帯していてもおかしくはないはず。しかし一緒にクエストをしていた姉妹が、そういった装備や攻撃を一度も見たことがないとするならば、少なくとも専門ではないはずじゃ。
もっとも、だからアルデが遠距離攻撃を苦手としているのかは分からぬが……そこは試してみないと分からぬな。
いずれにしてもコーチの見立てでは、来たボールを単純に打ち返していただけのようじゃし……
「よし! アルデを打ち負かす方針が決まったぞ!」
ということで妾は、拳を握り締めて立ち上がるのじゃった!
* * *
午後から庭球場に呼び出された
オフェルテが、両手を腰に当てて待ち構えていた。
「ふっふっふ……ここで会ったが百年目なのじゃ!」
「いや……昨日も会ってるじゃん」
「それは言葉の綾というものじゃ! 先日、ワンゲームも取れずに敗退した雪辱を、今こそ果たさせてもらうぞ!」
「は、はぁ……?」
なんであんなに熱くなってんだ、アイツは?
まぁいいか。別に怒っているわけではなさそうで、むしろ楽しそうだし。
ということでオレは、再びラケットという得物を握らされてコートなる場所に立った。
「では行くぞアルデ!」
「おう、どんとこい」
ということでゲームが始まる。
今回のオフェルテは、ずいぶんと左右にボールを打ってくるな。でもこんな狭いコートでは、左右に走らされたところで追いつけないはずもないが。
オレの体力切れを狙っているのだろうか? だが草原を何時間も全力疾走でもしない限り、オレは体力切れになんてならないぞ?
ということでオレが長期戦を覚悟していたら、ふいに。
オフェルテのボールがネットに当たって、それでこちら側にポトンと落ちた。
「フィフティーン・ラブ!」
「え……?」
審判の声に、オレは目を瞬く。どうやらオフェルテに得点が入ったらしいが……
「ふふふ! どうじゃアルデ! 妾の技能は!」
「今のわざとやったのか?」
「もちろんじゃ! ネットに当てて失速させるという高等テクじゃぞ!」
なるほど……ネットに当たったら無効か何かかと思ったが、問題ないのか。
「どうじゃアルデ! 真似できるなら真似してもよいのじゃぞ!」
「いやぁ……それは……無理かな?」
「なんで無理なのじゃ!」
「オレ、遠距離攻撃は苦手なんだよ。だから──」
「やはり、そうなのか!」
なぜかオフェルテは、オレの苦手分野を分かっていたようで、だから会心の笑みを浮かべた。
「くくく……そうかそうか! そうではないかと思っていたのじゃ!」
「へぇ……バレてたのか? よく見抜いたな」
「簡単なことじゃ! アルデの返球はどれも一本調子じゃからな! 見れば分かるのじゃ!」
「なるほど、そういうことか」
確かにオレは、有効エリアって場所からボールを出さないように打っているだけだ。それなりに広いから、打ち返すだけなら問題ないが、さっきオフェルテがやったように、ラインギリギリを狙って打ち返そうとしたら……狙いがそれてアウトになってしまう恐れもある。
だから常に、エリアのど真ん中に打っていたわけだが……
「アルデアルデー!」
オレが感心していると、コート端で見学していたヒナカが言ってきた。
「見抜いたのはあそこのコーチで、オフェルテじゃないからね!」
「え? そうなの?」
コート脇の高い椅子に座っていた審判を見ると、なぜか彼女は顔を真っ赤にしながら言ってくる。
「い、いえいえ! わたしは殿下にちょっとした助言をしたまでですから!?」
「こらヒナカ! 余計なことを言うでない!」
などと言葉の応酬が始まり、さらにソマが──
「アルデさーん、そちらの美人コーチさんも、アルデさんのハーレムに入りたいって──」
「言ってませんよソマさん!? 何を突然カミングアウトしてくれてるんですか!?」
──えーと……なんだか混沌としてきたな?
「あの……」
どうしていいか分からずオレがその審判さんを見ると、彼女は顔を真っ赤にして言ってきた。
「ききき、気にしないでください!? 叶わぬ恋であることは重々承知ですから!?」
「は、はぁ……?」
「ととと、とにかくゲームを再開しましょう! 両者、位置についてください!」
まぁ……気にしなくていいというなら気にしないけど。
ということでオレはラケットを構えてオフェルテを見ると……
なんだか………………
炎を背負ってらっしゃる、かのようだな?
「おのれアルデめ! いつ
「ちょ!? どういう理屈だそれは!? 誤解にもほどがある!」
いったいなぜオレが怒られる羽目に!?
だが言い返したくてもボールが飛んできたので、やむを得ずオレは打ち返す!
ボールがネットに当たってもいいように、オレは前へと移動していたのだが、その途端──
「あっ……!」
──今度はボールを高く打たれて、オレの頭上を越えてしまう。ラケットを伸ばしても届きそうにない。
「サーティ・ラブ!」
ということでまたしてもポイントを取られてしまう。
ネットの向こうでオフェルテがふんすと鼻を鳴らしていた。
「どうじゃアルデ! これに懲りたら妾に無断でハーレムメンバーを加えないことじゃな!」
「いやいや!? なんでハーレムがあること前提で話してるんだ!」
「何を言っておる? 妾というハーレムメンバーを従えておきながら──」
「従えてねぇ!」
「ならばこうしようではないか」
そうしてオフェルテは、ニヤリと笑う……!
「この試合で妾が勝ったら、妾をお主のハーレムに迎え入れるがよい!」
「はぁ!?」
オレが思わず声を上げて、外野からはソマの悲鳴とヒナカのブーイングが聞こえてくるも、オフェルテは構わず話を進めてしまう!
「もっとも身分差というものがあるゆえ、とりあえずはハーレムごっこで我慢してやろうじゃないか」
「いやいや!? ごっこだとしても──」
「まぁお主がどうしてもというのなら、一代限りの叙爵をして、あの手この手の手練手管を使いまくれば正式なハーレムに入れることも不可能では──」
「オレは望んでいないが!?」
「ふふ……まったくお主は無欲な男じゃな」
「いや欲とかそういう話じゃなくて……!」
もちろん叙爵とかは面倒そうなので勘弁なのに違いはないが、そもそもハーレムなんてものを打ち立てて、そこにオフェルテを加えようものなら──
──どう考えたって、ティスリに黒焦げにされるのである!!
しかしオレの焦りなんて気にもせず、オフェルテが話を勝手に進めてしまう!
「まぁよい。とにかく妾が勝ったらハーレムに入れよ。約束じゃぞ!」
「あ、おいちょっと──!?」
しかしオフェルテがボールを打ってきて、撤回要求する間もなくゲームが始まってしまう!
ちっ……仕方がない!
ただの遊びだからとのんびりやっていたが……これは真剣にやらざるを得なくなったぞ!
何しろオレの……命運が掛かっているんだからな!
ということでオレは、まるでティスリに覗き見られているかのような気分になりながら、戦闘時と同じくらいに全力で庭球を行うのだった!
* * *
(な、なんなのじゃアルデのヤツは……!?)
妾がハーレム入りの賭けを言い渡してから……
アルデはいきなり、その動きの鋭さを増した!
「くそっ……! こうなったら!」
とはいえアルデの返球は相変わらず単調じゃ! だから妾は、ボールをネットに当てて再びのドロップインを狙う!
しかし……!
「おっと!」
やや後方に構えていたアルデは猛烈なスピードで突進!
「なっ!?」
安々とボールを拾うと打ち返してきよった!?
あまりの驚きに妾の反応は遅れてしまい……結果、その返球を受けることができず失点してしまう!
呆然とする妾に、アルデが不敵に笑ってくる……!
「オフェルテ。同じ手は通じないぜ」
しかし作戦を看破されたことよりも、妾は……
アルデの身体能力に驚愕するしかない!
「お、お主いま、いったいどれだけのスピードで走ったのじゃ!?」
「はぁ? そんなの分かるわけないだろ」
「いやいやいや!? 今の加速度は、世界記録を優に超えているかもしれぬぞ!?」
「そうなのか? 走る速さなんて測ったことないからなぁ?」
妾は思わず審判役のコーチを見る。もちろん反則を疑ったわけではなく、いま目の前でアルデが起こした現象が、一体どれほど超常的だったのかを確認したかったからなのじゃが……
コーチは、もはや得点のコールもできないまま呆然とするだけじゃった! それだけで、いったいどれほどの現象だったかがすぐ分かるほどに!
「ほらオフェルテ。さっさと試合を再開しようぜ」
アルデのその声に、ようやく我に返った妾は……動揺を隠せないまま、サーブの構えを取る。
(くっ……ドロップインも見破られたとなると……ならば左右に留まらず前後にも振り回してやろう!)
どのみち返球は読みやすいのじゃ。アルデがラインを攻めてきたことは一度もない。
だからその分、どう考えたって……
移動量が少なくて済む妾のほうが圧倒的に有利。
のはずなのじゃが!?
「ハァ! ハァ! ハァ……!!」
「おーいどうしたオフェルテ? 息が上がってるぞー」
ロングラリーの末に打ち負けたのは……妾のほうじゃった!
しかもアルデのヤツ、息一つ乱しておらん!!
「お主の体力は……どうなっておるのじゃ!?」
思わず叫んだ妾に、アルデはきょとんとした顔を向けてきた!
「どうなってるって……こんな狭い場所を行ったり来たりするだけで、疲れたりしないだろ?」
「普通は疲れるんじゃがな!?」
と、そんな感じで……
結局は、妾の完敗。
足腰立たなくなった妾がその場でへたり込んで、それで試合終了とあいなってしまった……
「ハァ! ハァ! ハァ!!」
「おーいオフェルテ、大丈夫か?」
もはや妾が立ち上がれないというのに、アルデは軽い足取りでこっちのコートにやってくる……!
「お、お主……化物か……!?」
「大げさだなぁ。そもそも男女で体力差だってあるし、この勝負自体が無茶だったんだろ」
「男女差だけの問題じゃなかろう……!?」
まったく此奴は何を言っておるのじゃ! そもそも場所の広さと体力とは関係なかろう!? アルデのことじゃから、『狭い場所=たくさん動かなくていい』という思い込みで、疲れを忘れているのではなかろうか!?
そんなアルデは、どこかホッとしたかのような顔つきで言ってくる!
「とにかく、この勝負はオレの勝ちだからな。オフェルテのハーレム入りはナシだぞ? そもそもハーレムなんて作った覚えもないが」
「むぅ……」
ほとんど冗談じゃったのだが、思いっきり念を押されてしまい……妾はすっごく面白くない!
いやまぁ本音を言えば、アルデに勝ったらそれを口実にデートの一つでも取り付けようとは思っていたのじゃが……
まさか技量を凌駕するほどの体力お化けじゃったとは……
「分かった……妾の負けじゃ……」
「おお、案外素直じゃん」
「こうもコテンパンにやられてしまってはな。だがそのせいで……」
そして妾は、恨めしそうにアルデを見つめる。
「もはや、足腰立たぬ状態じゃ」
「そうなのか? なら担架でも持ってくるか?」
「何を言っておるんじゃ、お主は……」
そうして妾は、ため息をついてから……
アルデに両手を向ける。
「……?」
「ほれ」
「……えーと……なに?」
「妾が立てなくなったのはお主のせいなのじゃから、お主が責任をもって肩を貸すが良い!」
「え、ええ……?」
それでも戸惑うアルデに妾が頬を膨らませると……アルデは後頭部を掻きながらぼやいた。
「まったく……仕方がないなぁ……」
そしてアルデは、妾の両手を引っ張って──
──と、そこで、妾は気づく。
(あっ……! し、しまった! 今は激しく動いたばかりで汗が……!)
だから妾は、立ち上がったタイミングで身をよじる!
「ちょ、ちょっと待ってくれアルデ! やっぱり──」
足腰立たなくなっていたのは本当じゃったから、身をよじった拍子に妾はバランスを崩してしまい──
「おっと? オフェルテ、本当に立てなかったのかよ」
──アルデに抱き留められてしまう!
(ちちち、近い近い! いや近いのはいいのじゃが!?)
しかし運動したばかりだからして、汗が──
「しかたない。とりあえず医務室に行くか?」
──などと思っていたら!
アルデが妾を抱き上げたじゃと!?

「!?!?」
こ、これは……噂に聞く……噂というか侍女から聞いたことのある……
お姫様抱っこというヤツでは!?
皇女がお姫様抱っことはこれいかに!?
「おいおいオフェルテ、なんだか顔も赤くなってきてるぞ? 運動しすぎて熱でも出したのか?」
熱が出ているとすればそれはお主のせいじゃがな!?
だがそんなこと言えるはずもない!
「そ、そうかもしれぬな……」
「ならヤバいじゃんか。やっぱり医務室にいこう」
ということで、アルデにお姫様抱っこをされながら、そしてソマとヒナカの激しい悲鳴とブーイングを浴びながら……
妾は、心ここにあらずという感じで、皇城内へとお姫様抱っこで連れて行かれるのじゃった!
(おしまい。番外編5へ!)
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