
LIGHT NOVEL

「アルデのことを好いているヤツは手を上げろ!!」
今巻は、オフェルテのひと言で……美女美少女たちの想いが一斉に噴き出します!
もちろんティスリだって負けてはいられませんが、肝心のアルデは相変わらずの鈍感ぶりで……!?
そんなさなか……ティスリが、二人っきりの旅館客室でグッと積極的に! 隣にぴったり座ったり、料理を食べさせてくれたり……いつになく素直なクーデレ王女に、アルデの理性が試されて!?
一方のオフェルテも黙って見ているはずがなく、アルデを手に入れるため大胆な一手に! ミアもユイナスもローデシア姉妹も入り乱れ、恋の争奪戦はますます大混乱!
近いのに、なかなか伝わらない二人の想い……その距離は、今度こそ縮まるのでしょうか?
そんな感じで甘さも修羅場も加速する、ぼっち王女の異世界ラブコメ第12弾! ぜひご一読くださいませ!!
オフェルテは、アルデのすぐ間近に立つ女──その途轍もない美貌をもつ女についての記憶が、はっきりと蘇っていた!
(彼奴はティアリース……カルヴァン王国の王女じゃないか!)
アルデは、なぜか時計塔の最上階に登っていた。だから妾もそこまで上がってみれば……さらになぜか、カルヴァンの王女と二人っきり!
まったくもって意味が分からなかったが……妾とティアリースは知らぬ仲でもなかった。もっとも、何かの時の晩餐会で顔を合わせた程度ではあったが。
さらに、そのカルヴァン王国まで乗り込んだジハルド兄上──だがそのときの作戦は失敗し、そのあげくにこの時計塔からアルデを暗殺しようとした兄上から、ティアリースのことをよく聞かされていたのじゃ。だから会った回数は少なかったとしても忘れたことはなかった。
さらには尋常でない実力と功績の噂が、常に我が国にまで届いておったからな。
そしてこの時計塔は、その兄上がアルデを狙撃した場所でもあった。だから妾の中で、一気に記憶が繋がったというわけなのじゃ。
おそらくは、アルデ達がしきりに言っていた『ティスリ』とは、ティアリースのことなのじゃろう。お忍びで活動するときの偽名か幼名といったところか。
だが……そのティスリのことが分かったところで、疑問は深まるばかりじゃった!
「な、なぜアルデが……カルヴァン王国の王女と一緒なのじゃ……!」
妾のその問いかけに、アルデは「あー……それは……」と気まずそうに言葉を詰まらせる。ティスリのほうは、急にやってきた妾達に驚いて、唖然とするばかりのようじゃった。
っていうか……
(距離! あの二人の距離が妙に近い! どういうことじゃ!?)
アルデとティスリは、まるでつい今し方まで、抱き合っていたかのような距離感じゃな! アルデがちょっと腕を回せば、あの細腰をいつでも抱き寄せられる、そんな近さじゃ!
仮にあの二人が主従関係だったとしても、あんな当たり前のように接近しているなんてありえるか!? 妾だって、あそこまでごく自然に近づけたことはないんじゃぞ!
にわかにイラッとした妾が、とにかく二人を離そうとしたとき──
──妾の横から、一歩前に出た存在がいた。
「ティスリ……追い詰めたわよ!」
此奴は……アルデの妹であったな。名前は確かユイナスだったか。
さきほど、ラーフル殿にごく簡単に紹介されていたのを思い出していると、そのユイナスがさらに一歩前に出ていた。
「不利になったらすぐ逃げるって、なんなのよあんた! しかもいつもいつもお兄ちゃんを連れ出して! っていうかお兄ちゃんから離れなさいよ!!」
「ままま、待ってくださいユイナスさん!?」
ユイナスのその言葉に、ティスリは大いに慌てた感じでアルデと距離を取った。
「こ、今回はわたしが連れ出したのではなく、アルデが勝手に付いてきたというか……」
「あんたが連れ出そうがお兄ちゃんが勝手をしようが、わたしの元からお兄ちゃんがいなくなったらあんたのせいなのよ!」
いや……それはさすがに理不尽ではないか? そもそもティスリは天才だという話じゃし、こんな訳の分からない言いがかりには屈しないはず──
「ほ、本当に違うんですユイナスさん! どちらにしてもアルデをまた連れ出そうとしたわけではなくて……とにかくアルデはお返ししますから、どうか怒りを収めてください!?」
──と思ったのになぁ? なぜかティスリは、大慌てで完膚なきまでに屈していた。
もしかして噂は当てにならないというヤツか?
いったいなぜ、カルヴァン王国の王女がこんなところにいるのかという疑問より、二人のそのやりとりに妾が唖然としていると……アルデが口を開いた。
「そもそも、オレがティスリに付いているのは護衛としての役目なんだから、ユイナスには関係ないだろ」
「関係あるもん! 家族を顧みないで仕事ばかりしているなんて大問題でしょ!」
「いやまぁ……それはそうかもしれないが……」
あっという間にアルデが妹に言い負かされていると……なぜかティスリは、よろよろと後退したかと思ったら……背を向けて膝を抱えていた。
「あれ? おいティスリ、どうした……」
「………………いいんです。どぉせ……そんなことだろうと思っていました」
「えっと……そんなこととは?」
「アルデは……わたしに仕事として付き添っていたってことですよね……! さっき言ってた『お前が行くというから一緒に来たんだ』という言葉も、仕事だからという意味なんですよね!」
「いやまぁ……それはもちろんそうなんだが、なんというか──」
アルデが何かを弁明しようとしていたら、ユイナスが声を張り上げる。
「そんなの当たり前でしょ! あんたとお兄ちゃんなんて、仕事上の繋がり以外あるわけないじゃない! そもそもお兄ちゃんが繋がっているのは家族であるわたしだけなんだから!!」
そんな妹に、アルデは顔をしかめた。
「いや妹よ……それだとまるで、オレに友達がいないかのような……」
「え? いないでしょ?」
「いやいるけど!?」
「村に住んでたときだって、ナーヴィンくらいとしか話してないじゃん」
「んなわけあるか!?」
ふむ……そうか。アルデは友人が少ないのか。
であればその辺の寂しさを慰めることができれば、あるいは……
などと考えていると、リリィという大貴族の娘が言っていた。
「ユイナス、いい加減になさってください。お姉様をあんなに凹ませてしまって……」
「なによ? 事実を言ったまでなんだから、それで凹むのはティスリの勝手でしょ」
「それはそうかもしれませんが………………ああ! 凹んでいるお姉様、なんてレアなんですの!?」
「あんたのそのビョーキ、もはや正気を疑うまでもなく致命傷よね……」
「病気ではありませんわ!? っていうか正気を疑うまでもなく致命傷とは!? ハァハァ……!」
「………………」
あのリリィとかいう娘は、いったい何が言いたかったんじゃ? アルデはアルデで、あっちで膝を抱えるティスリを慰めている様子じゃし……
いやだから、誰か妾に説明してくれぬか?
ということで説明を求めてローデシア姉妹を見てみれば、姉妹は小難しそうな顔つきで相談事をしていた。
「ねぇお姉ちゃん、これからどうする? ティスリはただの仕事仲間だったわけだし……!」
「そうだったとしても……わたしはやっぱり、みんな一緒に仲良くがいちばんいいんじゃないかと思うよ?」
「表面上はいいこと言ってるけど……それってあれでしょ、夜のアレコレもみんな一緒って意味なんでしょ?」
「それはもちろんそうだよ」
「………………」
どうやら……妾があまり聞かぬほうがいい話をしているようじゃな? というかソマは本当に人として大丈夫なのか?
仕方がないので、面識は薄いがラーフル殿を見てみると……
ラーフル殿も、連れ立っている女性に言っていた。
「ミア嬢! ここはチャンスだ! このままアルデに攻勢を掛けよう……!」
「こ、攻勢ですか……!? で、でもどうやって……」
「えーっと……それは………………キスとか?」
「それは違うと思うのですが!?」
ラーフル殿と話しているあの女子もアルデのことを好いているらしいな?
アルデは一体……どれほど女子を囲っているというのじゃ!?
やっぱりイラついた妾は、収まりが付かないその現場でずいっと前に出た!
「おいアルデよ!」
「え……なんだ……?」
相変わらず、膝を抱えるティスリを中腰でなだめていたアルデが、体を起こしてこちらを見た。
「お主のハーレムは、いったい何人いるのじゃ!」
「はぁ!? いやだからオレは──」
「妾も含めた八人全員がお主のハーレムなのか!?」
「だから違うってば!? あとさらっと自分を含めるな!」
あれ? 妾が知りたいことはハーレムメンバーの件じゃったか……?
なぜかしっくり来ない気分になりながらも、でも気になるのに違いはないので、妾はさらに問い詰める……!
「ならばここにいる全員に問うぞ! アルデのことを好いているヤツは手を上げろ!!」
「オフェルテは何を言ってんだ!?」
なぜか恐れおののくアルデじゃったが……それに構わず真っ先に手を上げたのは、ユイナスとソマとヒナカじゃった!
「ちょっとあんたら!? よくも恥ずかしげもなく手を上げられたわね!?」
「妹ちゃんが手を上げているのはおかしくない!?」
「すすす、すみません! もっと罵ってください!?」
「わたしはおかしくないし! おかしいのはあんたの姉よ!」
「それはそう!」
「庇ってもくれないの!?」
ということで三人がぎゃあぎゃあ騒いでいると、呆然とした表情でラーフル殿がこちらを見ていた。
「オ、オフェルテ殿下……? な、なぜ挙手なさっているのでしょう?」
「ん? そういえばラーフル殿には話していなかったが……いや待て、そちらの女子も手を上げているな?」
ラーフル殿の隣に居た女子は、顔を真っ赤にしながらも小さく手を上げていた!
だから妾は視線を鋭くしてその女子を見た。
「そのほう、名をなんと申す? そしてアルデのなんなのじゃ……!?」
するとその女子は、大いに慌てながらも言ってくる……!
「すすす、すみませんっ……! わ、わたしはミア・ミズーリと申しまして、アルデとは幼馴染で──」
ミアと名乗った女子がそこまで話したところで、またぞろユイナスが食ってかかっていた!
「ミア! あんた、いよいよ臆面もなくなったのね!?」
「ユイナスちゃんだって手を上げてるじゃない!」
「わたしは妹だから当然でしょ!」
「いや妹だったらなおさらおかしいんだよ!?」
ミアと名乗った女性は、それでユイナスと言い合いを始める……っていうかアルデの妹は、やたらと喧嘩っぱやいな?
「あ、あの……オフェルテ殿下……? それでその挙手はいったい……」
ミアとユイナスの喧嘩が始まってしまったので、呆然としているラーフル殿が再び問いかけてきた。
「無論、妾もアルデを好いておるからじゃが?」
「………………!?」
だから妾が即答すると、ラーフル殿は思いっきりショックを受けたようで、数歩後じさった後──
「おいアルデ!? 貴様いったい、どれほど女をたぶらかせば気がすむんだ!?」
「オレのせいじゃないだろ!?」
──ラーフル殿は、向こうのアルデを非難し始めた。
ふむ……そういうラーフル殿は手を上げていないな。さらにはリリィも。そのリリィは、ユイナスを窘めようとして逆に叱責を受けて……なぜか興奮しておる……
ま、まぁ……よい。
いずれにしても、自己申告としては、ソマ、ヒナカ、ミア……そしてなぜか妹であるユイナスの四人。
そして肝心のティスリはというと……
いつの間にか立ち上がっていた彼奴は、アルデの少し後ろで……
この状況に驚いた感じでまごまごしながらも、アルデをチラチラ見つつ、しかし……
手を上げたそうにしながらも上げていなかった!
アルデは、ラーフル殿と文句と弁明の応酬をしているから気づいていないようじゃが!
(なんじゃ、はっきりせんヤツじゃな……)
兄上から聞いていた話によると、カルヴァン王国の王女は、鬼神のごとき戦力を有し、神仙のごとき智謀を巡らせると聞いておったが……
まるでウブな乙女ではないか。
これはあれか? 兄上の目がくらんでいたか、やっぱり噂は当てにならないかのどちらかであったか? いやしかし、皇族の中ではかなり優秀であったはずのジハルド兄上がものの見事に敗退しているし……
妾が眉をひそめていると、アルデがいよいよ声を張り上げた!
「と、とにかくだ! オレはハーレムなんて作っていないし、今後も作る気はないから!」
すると女子達から大ブーイングの嵐が巻き起こる!
「当たり前でしょお兄ちゃん! お兄ちゃんはわたしだけのものなんだから!!」
「妹ちゃん! それはだいぶ違くない!?」
「そ、そうですよ!? アルデさんはみんなのものというより全員がアルデさんのものというか!?」
「あんたら姉妹は何言ってんの!?」
「ユイナス、だからいい加減に落ちつきなさいな……」
「リリィは黙ってて! そもそも落ちついてなんていられるか! あとミア! いよいよ本性を現したわね!?」
「ほ、本性も何も……」
「でも残念でした! お兄ちゃんはわたしだけのものなんだから!!」
「いい加減、妹にしか見られていないことを認めようよ、ユイナスちゃん……」
「んなわけあるか!?」
いったい、どうなったらこの場は収まるのじゃ……?
焚きつけた妾も妾だが、あまりにも収拾が付かなくなってしまい……
妾は途方に暮れるのじゃった……
や、やはり……オフェルテさんはアルデのことが好きだったんですね!?
躊躇いもなく挙手をしたその姿を見て……ティスリは呆然と立ち尽くしました!
でも言われてみれば──というか言われなくても納得なのです! だってアルデとオフェルテさんが出会ってからこっち、何かと呼び出されていたのですから!
形式上は身辺警護──つまりお家騒動に絡めていましたが、今のところ皇族達に表立った動きはありませんし、そもそも先日の狙撃はアルデを狙ったわけですし、何よりオフェルテさんの身辺警護は常に厳重のはず!
にもかかわらずアルデを呼び出すなんて……好意以外の何物でもなかったのです!
そしてミアさん!
やっぱりアルデのことが好きだったのですね!?
もちろん、ミアさんの態度からそれは分かっていましたが……でもこうして思いっきり意思表示されてしまうと、なんだか後頭部を殴られたかのようなショックを感じます……!
それにソマさんもヒナカさんも、相変わらずハッキリと好意を表明していますし……! ユイナスさんについては元からではありましたが……
(いずれにしてもアルデは、いくらなんでもモテすぎでは!?)
いったいどうしてアルデは、これほど異性に慕われているのですか!?
だってあのアルデですよ!?
普段からデリカシーがなくて雑で鈍くて……こっちがいくら好意を伝えようとしてもぜんぜん気づかなくて、だからわたしはいつもいつも振り回されて!?
さっきだって、わたしを抱きしめてから「お前が行くというから一緒に来たんだ」なんて言ったくせに! わたしが勘違いしないよう自戒していたのに、それでもそう言ってくれたのに!!
今さっきの、ユイナスさんへの説明だと……
(まるっきり完全に仕事だからわたしと一緒に魔族圏へ来たということですよね!? 仕事だから!!)
ええそうですよね! 分かっていました! 分かっていましたとも!!
だってあのアルデが……
わたしと離ればなれになりたくないから、とか……
わたしといつも一緒にいたいから、とか……
いわんや、わたしのことが好きだから、なんて……!
そんな理由で一緒に来てくれたはずないのですから!!
(分かっていたのに……どうしてこんなショックを受けているのですかわたし!?)
そんなわたしに、まるで追い打ちをかけるかのように……オフェルテさんが突然「アルデのことを好いているヤツは手を上げろ」などと言い出して!
オフェルテさんもミアさんも手を上げて!
ついでにローデシア姉妹もユイナスさんも手を上げて!
これ以上……出遅れるわけにはいきません!!
だって……
わたしだって……
(アルデのことが好きなんですから!?)
だからわたしは、もはや石化魔法でも受けたのかというほど硬直している右手を無理やり動かして……!
なんとか胸元まで持ち上げると、ゆっくりと……ゆっくりと……
でもアルデがどんな反応をするのか怖くて見ていられなくて……!
だから両目をギュッとつぶってから──
──胸元で、小さく手を上げました!
「だから! オレはハーレムなんて作るつもりはこれっぽっちもないんだってば!?」
「ならこの有象無象はなんなのよお兄ちゃん!?」
「さっきから言ってるじゃん! 旅先で知り合っただけだって!?」
「おいアルデ! 妾は決死の思いで告白したのにスルーか!? スルーなのか!?」
「いやオフェルテはいつもの冗談──」
「アルデ! わたしたち姉妹は冗談じゃないからね! いつも茶化してるけど本気だよ!?」
「そうですよアルデさん! むしろこの場でスルーされるのはさすがにツラいですよ!?」
「ヒナカもソマも今はちょっと黙っててくれないか!?」
「ひどひ!? 好意を伝えている女性をまるで足蹴にするかのように!」
「ヒナカそれいいね! アルデさん本当に足蹴にしてください!?」
「だぁぁぁぁ!? 意味わからん!?」
「アルデ……わたしの気持ちを知っていながら、こんなたくさんの人達と……」
「うぉいミア!? 何を勘違いしてんだ!?」
「アルデ貴様! そこに直れ! 殿下をたぶらかしミア嬢を悲しませるなど言語道断!」
「ラーフルは剣に手を掛けるな!」
「いっそ、切ってしまえばこの場が収まるのではなくて?」
「リリィは不吉なこというな!?」
………………?
わたしが……決死の思いで手を上げたというのに……
あっちで喚いているアルデの声は、いっこうにわたしを呼んでくれないので……わたしはうっすらと目を開けます。
するとアルデは──
「…………!!」
──まるでこっちを見ていませんでした!
そんなアルデが、さらなる大声を上げました!
「とにかく! ハーレムの件はナシだナシ!! オレは絶対に認めないからな!?」
わたしのことはまるっきり放置して、アルデがそんな宣言をします!
しかしオフェルテさんは引き下がりません!
「ならばアルデは、この中から誰か一人を選ぶというのじゃな!?」
「えっ……!?」
「ハーレムを作らないということはそういうことなのであろう!? では誰を選ぶのじゃ!」
「だ、誰をって……!?」
「これほど美女美少女が揃っておるのじゃ! まさか誰も選ばないなんてことはなかろう!?」
「い、いやだから!?」
「さぁ選ぶがよいアルデ! いま挙手した中から、お主が好きな女子を!!」
「選べと言われても!?」
っていうか!
わたしも手を上げているのですが!!
しかしアルデは元より誰もこっちを見ないので、わたしの挙手がぜんぜん目に入っていません!
「あの……ティスリ様?」
と、そこへ……
背後から不意に声を掛けられました。
わたしの背後にはもうテラスの手すりしかなく、その向こうは空中なのですが……
そこにさっきから、ずっと浮かんでいる神威竜の存在を、わたしはすっかり忘れていました!
「なんでしたら、我が全員を黙らせましょうか?」
「い、いえ……大丈夫です……!」
そしてわたしは、ずっと上げ続けていた片手をさっと引っ込めます!
っていうか……
わたしの意思表示を理解したのが神威竜だけだなんて……
あまりに悲しすぎるのですが!?
「と、とにかくだ!」
思わず涙目になっていると、アルデが再び大声を上げていました!
「今は誰が誰を好きだなんて言っている場合じゃないだろ!?」
女性全員に、もはや睨まれていると言っても過言ではないアルデがそういうと……
「そうよ! お兄ちゃんはどうせわたしを選ぶんだから!」
「いや妹ちゃん、それはなくない……?」
「なんでよ!? わたし以外あり得ないでしょ!」
「ああユイナスさん! その視線はヒナカではなくわたしに向けてください!?」
「あんたはいったいなんなのよ!?」
「ユイナス! どうしてそのヒトばかり構いますの!? わたしだって罵られたいですわ!」
「リリィはマジでなんなの!?」
「おいアルデ! お前、この期に及んではぐらかすつもりか!」
「ラーフルも何言ってんだ!? はぐらかすとかそういう話じゃなく──」
「アルデがハーレムを拒否るからこういうことになるのじゃ! 大人しく受け入れるがいい!」
「いやなんでオレが責められてんの!?」
「あ、あのう……!」
わたし一人を除け者にして、いっそ楽しそうなほどの混乱に終止符を打ったのは……
物静かなはずのミアさんでした!
「み、皆さん! この流れはまずいと思うのです……!」
その謎めいた言葉に、全員がミアさんを見ました!
「まずいとは、なぜじゃ?」
そう問いかけるオフェルテさんに、ミアさんは……
なぜかこちらにチラリと視線を向けてきます。
「……?」
わたしがその意図を測りかねているうちに、ミアさんは話し始めてしまいました。
「あ、あの……皆さん、ちょっとあっちでいいですか……?」
そしてミアさんは、広い時計塔テラスの奥の方を指差します。
「あ、それとアルデは……ティスリさんのケアをお願い」
「え……? あ、ああ……分かったけど……」
そうしてミアさんは全員を引き連れて──いえユイナスさんは「なんでお兄ちゃんとティスリを二人っきりにするのよ!?」と暴れていましたが、ミアさんが何事かを耳打ちすると、むくれた感じではありましたが、全員一緒に、テラスの奥の方へと歩いて行きます。
「ふぅ……ミアのおかげで助かったぜ……」
などとつぶやきながら、アルデがこちらに戻ってきますが……
「…………それであの……ティスリ?」
わたしと目が合うや否や……
「オレは本当に、ハーレムなんて作るつもりは、まったくもってこれっぽっちもないからな……!?」
なぜか開口一番、そんな言い訳をしてきました!
「もう……知りませんよ!」
だからなおさら腹立たしくなって、わたしはアルデに背中を向けます!
「いや待てティスリ! オレは何も悪くないだろ!?」
そうしてわたしの背後で、アルデが何か焦ったように言い訳を重ねていると……
ふと、神威竜と目が合います。
「あの……ティスリ様? 我はそろそろ帰ってもいいでしょうか?」
「………………ええ、ご苦労様でした」
なぜか魔物に呆れられるという、訳の分からない状況になるのでした!
ミアが声を掛けて、アルデとティスリさんを除く全員をテラスの端っこまで誘導すると、もの凄く怒っているユイナスちゃんが言ってきた。
「それでいったい、何を話したいわけミアは。しょーもないことだったら承知しないからね!」
ユイナスちゃんには「このままだと、アルデはティスリさんに取られちゃうから」と耳打ちして、なんとか連れてきたんだけど、それは方便ではなく紛れもない事実だと思う。
だからわたしは、意を決して全員に言った。
「もしアルデに、誰を選ぶのか問い詰めたら……選ばれるのはティスリさんになってしまうと思うんです」
わたしのその話によって全員に緊張が走る。
その緊張感を破ってきたのもまたユイナスちゃんだった。
「な、なんでよ!? なんでそんなことになるのよ!」
なんでと言われても……わたしは上手く答えられない。だってアルデを見ていれば分かることだし……
だからわたしは言葉を濁すしかなかった。
「なんでと言われても……そういうものだとしか……」
「意味分かんない! お兄ちゃんに選ばせたら、選ばれるのはわたしに決まってるじゃない!」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「なんで全員黙るのよ!?」
この辺の機微への疎さに関しては、ある意味でアルデ譲りなのかもしれない。やっぱり兄妹といったところなのかしら……
わたしがちょっと唖然としていたら、オフェルテ殿下がわたしに言葉をかけてこられた。
「つまりは何か? お主は、アルデが本当に好きな相手はあそこの女……ティスリだと言いたいのか?」
「恐れながら殿下……仰せの通りにございます。ですが状況はそれ以上に混迷を極めておりまして……」
「堅苦しい言葉遣いはしなくてよい。それで混迷とはどういうことじゃ?」
「は、はい……では不躾ながら手短にお話しいたします」
本当はこういうことは、あまり言葉にしたくはないんだけど……だって言葉にしたら実現してしまいそうで……
でも今の流れはすごくまずいと思ったので、わたしは小さく息を吐いてから話を続けた。
「アルデはまだ、自分の気持ちを自覚してないのだと思います」
わたしのその言葉に、殿下は眉をひそめる。
「自覚していない? それはどういうことじゃ?」
「アルデは、人の好意に疎いところがありまして……」
わたしがそう言いかけると、ヒナカさんが大いに頷いた。
「分かる! アルデって、もはや鈍いなんてもんじゃないよね! ステータスを剣術に全振りしたせいで、恋愛の神経がなくなったんじゃないかって思えるくらいだよ!!」
そんなヒナカさんに、殿下は眉をひそめた。
「いやヒナカよ、そんなまさか……」
「殿下だって思うところありますよね!? ここ数日、一緒にいただけでも!」
「…………まぁ……なくはないが……」
やっぱり殿下も薄々気づいていたのか渋い顔になると……そこへソマさんが身を乗り出した。
「でもそこがいいんじゃないですか! あの無自覚からくる突き放されたひと言がグッとくるというか!」
「ソマは少し黙っててくれるか?」
「殿下に冷たくされても嬉しくないですよ!?」
えーっと………………話を続けてもいいのかな、これ……
わたしが戸惑っていると、殿下は再びわたしを見た。
「思うところがなくはないが……では仮にアルデがティスリを好きだとして、無自覚だと何がまずいのじゃ? むしろ無自覚である今だからこそ、先に妾との仲を自覚させればいいのではないか?」
さらりと『妾との仲』なんて言ってくる殿下に気圧されながらも……わたしは意見を伝える。
「もちろん殿下が言われている可能性もありますが……わたしの見立てでは、そうは言っても現状でアルデに選んでもらったら、むしろティスリさんへの恋心を自覚してしまうのではないかと……」
「ふむ……なるほどな……」
殿下は難しい顔をしながらも訥々と話し始める。
「アルデにとっては、恋愛などこれまで考えてもいなかったのじゃろう。そこに妾が『誰かを選べ』と言ったら、これまで自覚していなかった感情が意識に上がってくる。無論そこには、ティスリだって候補に入るわけか」
殿下のその理解に、わたしは頷く。
「はい。そうです。強制的に選ぶことになったら……誰が好きなのかを自覚せざるを得ません。そしてそのとき……わたしは、ティスリさんが選ばれる可能性がいちばん高いと思うのです」
わたしのその具申に、殿下は腕組みをしながら考えていた。
時計塔の最上階は、けっこうな高さがあったけど、街の喧騒は風にのって届いてくる。そのざわついてしかも冷たい風に身震いをしていたら……いよいよ殿下が口を開いた。
「お主は確か……アルデの幼馴染と言っていたな?」
「はい、そうです」
「ということは……アルデと最も付き合いの長いのは、お主ということなのだな?」
「そうですね……付き合いの長さならそうなります」
横からユイナスちゃんが「わたしのほうが長い──」と言いかけて、リリィ様に「皇族の話に口を挟むんじゃありません!?」と注意されていた。
そんなユイナスちゃんに、殿下は苦笑を向ける。
「アルデの妹──ユイナスと言ったな。この場合、肉親は除外じゃ」
「……分かったわよ」
そのお言葉に、ユイナスちゃんはムスッとしながらそっぽを向く……っていうか、この国の皇女様にあんな態度を取って大丈夫なのか、わたしは気が気じゃないよ……
でも殿下はその失礼な態度を気にした様子もなく、再びわたしに向き直った。
「相分かった。幼少の頃から付き合いがあるお主の意見、聞き入れよう」
「ありがとうございます、殿下」
「むしろ礼を言うのはこちらじゃ。感謝するぞ。危うく見切り発車でアルデの心を射止め損なうところであった。とはいえ、な……」
そうして殿下は、あちらで待機しているアルデと……そしてティスリさんを眺める。
遠く離れているから、何を話しているのかは分からないけれど……
ティスリさんが腕組みしてそっぽを向いて、アルデが必死に弁明している感じで……だからケンカしているはずなのに、なぜかとても仲良く見えるな……!
そんな二人に視線を向けながら、殿下はぽつりとつぶやいた。
「お主の言うことが本当であれば、妾たちはどうやってアルデを攻めるのじゃ?」
「そ、それは……」
そう──結局わたしの案は、状況を先延ばしにするしかない。無意識にでもアルデがすでに心を決めているのだとしたら……どう足掻いてもティスリさんには勝てないのだ。
ただでさえ……途方もない才能と、そしてあり得ない美貌を持っているというのに……!
わたしが答えに詰まっていると、ソマさんが挙手をした。
「だからやっぱり、みんな仲良くですよ!」
わたしは『みんな仲良く』の意味が分からなくて……首を傾げていると、ヒナカさんが口を開く。
「もう……お姉ちゃん! 夜は別々だって言ってるじゃん!」
「え……? いや今のは、みんな仲良くアルデさんのハーレムに入りましょうという意味だったんだけど……」
「ままま、紛らわしい言い方しないで!?」
さらにユイナスちゃんが「そんなのダメに決まってるでしょ!?」などと怒り始めたが……
えっと……
そう言えば先ほどから、確かに『ハーレム』って単語をアルデが連発していたけれど……
てっきり、何かの比喩か冗談かと思っていたわたしは、思わず聞き返していた。
「あの、ソマさん? さきほどからちょっと気になっていたんですが……それはいったい、どういうことですか?」
するとソマさんは、ぽかんとしたまま答えてくる。
「え? 言葉そのままの意味ですよ? アルデさんのハーレムにみんなで入って、アルデさんに一緒に可愛がってもらえば万事解決という意味です」
「???」
改めて説明されても……意味がさっぱり分からない……! もちろん言葉の意味自体はわかるけどどういう状況!?
だからわたしが言葉を失っていると……隣にいたラーフル様が、そっと耳打ちしてくれた!
「あの……ミア嬢。大変言いにくいことなのだが……この魔族圏は一夫多妻制なのだ」
「……え?」
「だからつまり……男性はハーレムを作ることが当然だと見なされている」
「ええ!?」
まったく予期せぬカルチャーギャップに、わたしは思わず悲鳴をあげてしまう!
どどど、どういうこと!?
ならソマさんが言うことが実現したら……
オフェルテ殿下に、ソマさんにヒナカさん、そして何よりも、ティスリさん……下手をしたらユイナスちゃんまで……ついでにわたしも……
みんなアルデと結婚するってこと!?
それって一体、どういう状況なの!?
わたしの理解が追いつかないでいると、なんとなく面白くなさそうな殿下が言っていた。
「だとしても……ティスリはダメじゃ」
唐突に名指しをした殿下に、ソマさんが不安げに聞いていた。
「え……ど、どうしてです殿下? ティスリさんは、本当はわたし達のパーティメンバー……というよりむしろ、わたし達姉妹がティスリさんとアルデさんのパーティに加えてもらっているんです。そのティスリさんを仲間ハズレにするなんて……」
さらにはヒナカさんも、顔をしかめながら言っていた。
「そもそも、あのティスリを仲間ハズレになんてできませんよ、殿下。もうこうなったら白状しますが、あの神威竜を……ってあれ? 神威竜がいなくなってる……まぁいいか。とにかく、あの怪物を手懐けたのはティスリなんですよ?」
「ふむ……なるほどな。噂は本物ということか」
「噂? ティスリが単身で神威竜を手懐けたなんて噂、流れてましたっけ?」
「いや、そうではない」
そうして殿下は……なぜか……
ラーフル様を見る。
「ラーフル殿」
「はっ……いかがなさいましたか、殿下」
「あのティスリという女子は、貴国の王女、ティアリースなのであろう?」
「……!」
そう問いかけられて、ラーフル様は……
思わずといった感じで視線を逸らした!
(Kindle本につづく)
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