
LIGHT NOVEL

アルデと二人っきりで、魔族の帝国へ逃避行を続けるティスリですが……
パーティに加わった美少女姉妹・ソマとヒナカが、相も変わらずアルデに猛アピール!
焦ったティスリは『恋人勉強』と称し、白昼堂々のデートで偽装カップルを演じて牽制します!
しかし……隙あらばアルデを狙う姉妹とのハーレム(?)関係はこじれるばかり。
そんな中、B級冒険者に昇格したティスリたちパーティを待ち受けていたのは、復讐を目論むゾルガントの卑劣な罠でした。
そうして向かったB級クエストでは罠が続々と現れて……絶体絶命に陥るかと思いきや、ティスリの頭はもはやお花畑で!?
恋の火花散る牽制合戦に大討伐クエスト、さらにその水面下ではティスリの『宿敵たち』も動き出し……独占欲と嫉妬が爆発する、ぼっち王女の異世界ラブコメ第9弾、ぜひご一読くださいませ!
「あの二人、どう見ても付き合ってないよ!」
その朝、ソマ達の家で……ヒナカが文句を言いました。
「でも……戦闘時は、ふたりとも息ピッタリだったけど……」
「だからと言って付き合っているとは言えないでしょう!?」
「それはまぁ……そうだけど……」
先日、初心者用ダンジョンだというのに人面樹と鉢合わせてしまい、でもティスリさんと、そして何よりアルデさんのおかげでわたしたちは一命を取り留めます。
それでわたしたち姉妹はアルデさんの虜になってしまい──いえ元々憧れの気持ちはあったのですが、何しろティスリさんがどうにもわたしたちを認めてくれなかったので……憧れと共に諦めの感情もあったのです。少なくともわたしのほうは。
でもあんな……人面樹だなんてとんでもない魔物相手にも怯むことなく、わたしを助けるため勇猛果敢に、アルデさん(とティスリさん)が戦ってくれるなんて……!
しかもその後、わたしを荷物でも扱うかのように放り投げてくれて!?
最近の運送屋さんだって、あんな乱暴に荷物を扱ったりしないというのに……!
だからわたしは、もうすっかりアルデさんに参ってしまって……
人面樹討伐から一夜明けた早朝から、ヒナカと共にアルデさんが泊まる宿屋へご奉仕をしに伺ったのだけれど……やっぱりティスリさんに邪魔されてしまいました。
さらにその晩は、アルデさんのディナーをお手伝いしようと思っただけなのに、なんだったらご一緒にわたしたちもいかが? とちょっとお勧めしようとしただけなのに、またもやティスリさんに阻まれてしまって……
ということで今、わたしたちはティスリさん対策会議をしているのでした。
「ちょっとお姉ちゃん、聞いてる?」
ここ最近のことを思い出していたら、ヒナカの話を聞いていなかったようで、わたしは改めて聞き返しました。
「えっと……ごめん、なんだっけ?」
「だから、どうしてティスリがあんなにわたしたちを邪険にするのかを考えないと、この先ずっと、アルデを独占されっぱなしだよって話」
「う〜ん……そうよねぇ……とはいえティスリさんに対抗できる気がしないんだけど……」
「それは……そうだけど……」
とにかくティスリさんは、常軌を逸する存在なのです。
天才……とひと言で片付けるには、あまりに天才過ぎるというか。
先の戦闘だって、人面樹を内側から焼くとかなんですか……!? さすがのわたしでも、そんなことされたら死んじゃいますから、ちっとも嬉しくないですよ……!
さらには、魔法発現中だというのに別の魔法を使ったり、戦闘中だというのにあっさり魔法開発したり……もう無茶苦茶です。
アルデさんがぼそっと言ってた、あの辺一帯をクレーター化するとか……ティスリさん本人は否定してましたが、本当は楽々とできるんじゃないでしょうか……
そんな推測をするにつれ、わたしは身震いをしました。
「それにあの美貌……太刀打ちできないよ……」
「うぐ……そ、それはそうだけど……」
「超人的な才能と、女神的な美貌を兼ね揃えているなんて……神様はえこひいき過ぎるよね……」
その美しすぎる容姿はもちろんのこと、小さくて華奢な体だというのに、出るところは目を見張るほど出ていて、くびれているところは芸術品のようにくびれていて……
この帝国の、ぜんぜん働いていないお貴族様夫人やそのご令嬢だって、あんな美貌を保っている人なんていませんよ。冒険者稼業なんて荒事をやっているさなか、いったいどうやってあんな美しさを保持しているのでしょうか……
……こんど聞いてみようかな?
わたしがそんなことを考えていたら、ヒナカがグッと拳を握りました。
「で、でも! わたしたちだって別に負けてないし!?」
「いや……明らかに負けてるでしょ……」
「ぬぐぐ……け、けどけど! だからと言って劣ってるわけじゃないもん! それに!」
そうしてヒナカは、握り拳を作ったまま立ち上がります。
「アルデは絶対、質より量なのよ間違いなく!」
「まぁそれは……そんな節があるけれど……」
例えばアルデさんは、クエストだというのにわたしたちがミニスカで出向くと、唖然としながらも数秒ほどわたしたちの太ももをじっと見つめて、だからティスリさんに睨まれて、それでようやくハッとしてから目を逸らしますし……
あとわたしたちが抱きついても、決して避けようとしませんし。戦闘では、文字通り目にも見えないほどの体捌きをするというのに。
だからわたしは、ぽつりとつぶやきます。
「質より量を好むのに、どうしてわたしたちを受け入れてくれないのかな?」
「そ、それは……きっとあれよ……ティスリに何か弱みを掴まれているとか……」
「そうかしら? そんな感じには見えなかったけど……ティスリさんの戦闘能力に怖がっている、というふうにも見えないし……」
「まぁそれは、そうかもだけど……そもそもアルデだって強いし、いざとなればティスリから逃げればいいよね?」
「そうだよね……」
だというのに一緒にいるということは、つまり……
「やっぱり、アルデさんもティスリさんのことが好きなのかしら……?」
「そ、それは……けどそれで、わたしたちを好きになってくれないのは違くない!?」
「そうだよね……」
「わたしたち、この街ではいちばんモテてきたよね!?」
「そ、それは主にヒナカだけで、わたしはついでというか……」
「何言ってるのよお姉ちゃん! お姉ちゃん目当ての冒険者やら魔具店の親父やら八百屋の小僧まで、その他諸々たくさんいたよ!」
「そ、そうかな……?」
「そんな有象無象を足蹴にして、いつか現れる王子様を夢見てきたんじゃないわたしたちは!」
「ヒナカは適当にからかってただけだよね……?」
でも確かにわたしは、王子様を夢見てきた。大人になるにつれ、本当はそんな人は現れないと分かっていたけれど……
でも、なぜかとんでもない奇跡が起きて……
アルデさんという王子様が、いま目の前にいる……!
「うう……やっぱりアルデさんのこと、諦めきれないよ……」
「なんで諦める必要があるのよ!」
「アルデさんなら、そのうちきっと、わたしを足蹴にしてくれるのに……!」
「そ、そぉかな……?」
「なんなら……ティスリさんのプレッシャーで堪ったストレスの捌け口にだってなるよわたしは!?」
「お、お姉ちゃん……? ちょ、ちょっと落ち着いて……とりあえず話を戻そう……?」
いつの間にか肩で息をして立ち上がっていたわたしは、ヒナカと一緒に着席するとため息をついた。
「はぁ……アルデさんがわたしたちを囲ってくれないのには、きっと何か理由があると思うのだけれど……例えばトラウマとか……」
「う〜ん……あのアルデにトラウマがあるとも思えないしなぁ……どっちかっていうと、何も考えてなさそう」
「いやでも、アルデさんだって成人男性なんだし、何も考えていないはずは……」
「いやいや……アルデのことだから、体だけが成長して心は子供のままかもよ?」
「そんなことあり得る?」
「あり得るよ! だからわたしたちをえっちな目で凝視しているのに、ティスリが怖くて……あ、そうか! もしかしてティスリってアルデのお母さん代わりなんじゃない!? なぁんにも考えてない脳ミソすっかすかのアルデだから、そんなティスリを無条件に受け入れているというか、初めて出会った女性がティスリだから刷り込まれているというか!」
「ね、ねぇヒナカ? あなたもアルデさんのことが好きなのよね……?」
「もちろんだよ! 少年心をいつまでも忘れない男性ってステキ!」
「とてもそうは聞こえなかったのだけど……」
「とにかく!」
そうしてヒナカは、テーブルをばんっと叩いた。
「こんなウジウジ考えてても埒があかないよ! どのみちティスリには対抗できないんだし!」
「それはそうだけど……ならどうするつもりなの?」
「もちろん、行動あるのみ! ティスリの目が届かないところで、アルデと既成事実を作っちゃえばこっちのものだって!」
「けどあの二人、ずっと一緒にいるじゃない。片時も離れないよ?」
「くっ……そ、そうよね……パーティメンバーだからって、普通、あんな一緒にいる? 宿屋だって隣の部屋だよ? ビジネスパーティだったら、宿屋を変えることだってあるのに──あ!」
と、そこでヒナカはハッとして頭を抱えた。
「だとしたら……わたしたちのほうがマズいよ!」
「どういうこと?」
「だってこの街に実家があるわたしたちは、物理的にアルデと離れてるじゃん! ティスリは、壁一枚隔てただけの隣で寝起きしているのに!」
「それはまぁ……そうだけど」
そう言われてわたしはリビングを見回す。
わたしたちの家は街の郊外にある、ごくありふれた一軒家だった。両親は冒険者ギルドの職員をやっていて、若い頃からコツコツがんばって貯金して、それでようやくこの家を買ったのだという。
ちなみに両親は、ここ一年ほどは都市部のほうへ回されている。これも近年の魔物活性化が原因で、都市部の冒険者ギルドは人手が足りないそうだ。
いずれにしても実家があるから、領主様のご子息であるゾルガント様が手を回して仕事を干されても、なんとかギリギリの生活を送れていたわけだけど。
などと考えていたら──
「あっ……そうだ!」
──ヒナカが不敵に笑っていた。
「ふっふっふ……敵に塩を送るとはまさにこのことだね!」
「えっと……どういうこと?」
「わたしたち、アルデのパーティに入れたことで、当面の収入には困らなくなったじゃん? 人面樹討伐の報酬なんて美味しすぎたし」
「ええ……そうね」
人面樹討伐では、わたしたち、いいところなかったのに、アルデさんもティスリさんも気前よく報酬を山分けしてくれたのだ。普通ならそんなことあり得ないのに。しかもわたしたちが金欠だったのを見かねたのか色まで付けてくれたらしく、一夜にして、しばらくクエストを受けなくても生活に困らないほどになっていた。
「だとしたらさ……」
そうしてヒナカは、ニヤリと笑う。
「せっかくもらったお塩は、有効活用しないとねぇ?」
そんなヒナカに向かって、わたしは首を傾げるしかないのだった……
アルデは……朝食も喉を通らないほど焦っていた……!
「さてアルデ……例のお詫びの件ですが」
「……!!」
なぜならティスリが、先の戦闘でオレが口走ってしまった「オレにできることならなんでもするから!」という台詞を……
真に受けていたからである!
人面樹の討伐時、オレはローデシア姉妹にデレデレしていたとのことで……オレはまったくそんなつもりは微塵もなかったのだが……
しかしティスリは「恋人の(フリをする)自分を放っておいて、ローデシア姉妹を助けに行った!」ことがどうやら気に入らなかったらしい。
でもそんなこと言ったって……どう考えたってティスリは人面樹なんかに負けるとは思えなかったし、事実、人面樹の枝や蔦がティスリに近づくだけで、灰になって消滅していたし……
しかしオレのその態度そのものが勘に障ったらしい。ならどうしろと……?
とはいえ、ティスリにヘソを曲げられたら厄介極まりないのはこれまで通りだから、オレは思わず「オレにできることならなんでもするから!」と口走ってしまったわけだ!
はっきり言って!
その場を乗り切るためだけの方便だったのだが!!
だがティスリはそれをしっかり覚えていて、今朝になって持ち出してきたので……
オレは朝食も喉を通らなくなった次第である!
いやまぁ実際には一人前はしっかり食べ終えていて、お代わりしようと思ったらその話を切り出され、お代わりが喉を通らなくなってしまっただけなのだが。
などとオレが内心でヒヤヒヤしていると、ティスリがいよいよ言ってきた!
「いろいろ考えたのですが……恋人勉強がいいと思った次第です」
「は……? 恋人勉強……?」
その単語だけでは意味が分からず、オレは首を傾げるしかない。そんなオレに、ティスリは得意げな顔になるのだった……!
「そうです。恋人勉強です」
「えっと……いったい何をどう勉強すると……?」
「これまでのアルデを見ていると、どうやら恋人関係というものがよく分かっていないようですからね。だからその勉強をしてもらおうというわけです」
「は、はぁ……?」
そりゃあまぁ……恋人なんていたことのないオレは、その関係性を分かっていないと言われても反論できないが……
「でもいったい、どうやって勉強するっていうんだ?」
まさかそんな学校やら教材やらがあるはずもないし。そもそも勉強ってことは誰かに教わることになるのだろうが……
「だいたい先生はどうするんだ? ティスリが教えてくれるのか?」
「わ、わたしですか……!?」
オレがそう聞いただけで、ティスリの頬が赤くなる……オレ、そんなに変なこと聞いただろうか?
「も、もちろんわたしも教えますが……ただ、わたしも分からないこともあったりなかったりなので……」
「ティスリに分からないことなんてあるの?」
「ありますよ! 誰だって初めての経験は分からないことだらけ──」
と、そこまで言ったところで、ティスリはハッとなったかと思ったら咳払いを一つして言い直した。
「──わ、分からないことはありませんが、でも恋人関係というのは千差万別だという話ですから、わたし以外の知見も有益なのです!」
「は、はぁ……?」
そんなに千差万別なら、勉強したところで結局分からないのでは……?
とオレは思うも、まぁいいかと思い直す。
何しろ「いったいどんな無理難題を押しつけられるのか」とヒヤヒヤしていたわけだからな。そうでなくて安心したのだ。
例えば、ローデシア姉妹には手切れ金を渡してパーティ解消だとか言い出されたら、さすがにかわいそうだと思うし。あるいは姉妹を付け狙う元凶……なんて名前だったっけ? とにかくその領主の息子とかいうヤツをしばきに行くと言われても困るし。
そんな無理難題に比べて恋人の勉強をする程度だったら、ぜんぜんお安いご用だろう。
だからオレは頷いた。
「恋人勉強はいいけど──」
「い、いいのですか!?」
「──は?」
なぜかティスリが驚いたので、オレは首を傾げるしかない。
「なんでそんなに驚く? 言い出したのはティスリのほうだろ」
「そそそ、そうですが……! でもその相手はわたしですよ……」
「え? そりゃそうだろ」
いやまぁローデシア姉妹もいるにはいるが、もともと、あの姉妹にオレがデレデレした(そんなつもりはないが)のが原因なのに、姉妹で勉強するわけにもいかないだろう。
だから消去法で考えてもティスリしかいないというのに、なぜかティスリはいよいよ耳まで赤くなっていた。
「そ、そうですか……わ、わたしがいいんですね……?」
「え? いやまぁお前しかいないし……」
オレが戸惑いがちにそう言うと、今度のティスリは頬を膨らませる……忙しないやつだなぁ?
「むぅ……まさにそういうところですよ……!」
「え……?」
「そういうところが、アルデの勉強不足な点なのです!」
「え、ええ……?」
いったい今の受け答えのどこに問題があったのか、オレにはさっぱり分からなかったので、もはや唖然とするしかない。まぁだからこその勉強不足ということなのだろうが……
「悪いんだが……本当にまったく全然分からん。とりあえず今の会話のどこに問題があるのか教えてくれ」
「で、ですから……」
そうしてティスリは、ちょっと視線を逸らせた。
「そういうときは『まぁお前しかいないし』ではなく『むしろお前がいいんだよ』くらい言うべきなんです……! それが恋人というものです……!!」
「む……な、なるほど……」
き、聞いただけでこそばゆくなってくるな……!?
オレが思わず頬を掻いていると、真っ赤になったままティスリが……熱弁し出す!
「つまりアルデは……紳士的な振る舞いを身につけ、いつ何時もわたしを気遣い、エスコートし、気の利いた台詞でわたしを心地よくする……そういう所作を身につけるために勉強するのです……!」
「へ、へぇ……」
「そしてわたしに対してスマートな立ち振る舞いが身に付けば、間違いなく、ローデシア姉妹への痛烈な牽制となるでしょう!」
「ほ、ほぅ……」
「もちろんこれはアルデの勉強であって『わたしだって、ちょっとはアルデに構われたい』などと考えての思いつきではまったくもってありませんので! 分かりましたか!?」
「わ、分かったけど……」
さっきは無理難題じゃなくてよかったと胸を撫で下ろしたばかりだが……
(無理難題じゃなくても……なんだか面倒そうだな……)
「いま面倒だとか思いませんでした!?」
「思ってないが!?」
やっぱりティスリは読心術が使えるだろ!?
滅多なことを考えられないとオレは肝を冷やしながらも、話題を逸らすべく問いかけた。
「理屈は分かったけど……でもいったいどうやって勉強すんの? ティスリに教えてもらうにしても千差万別なんだろ」
「それはですね……」
ティスリ曰く、まず街中に出て恋人の観察をしたり、あるいは恋愛劇でも見てその立ち振る舞いを学んだり、あわよくばカップルと知り合って話をいろいろ聞いてみたり、だそうだ。
っていうか……魔族とは関わらない方針じゃなかったっけ? いやまぁローデシア姉妹とはすでにガッツリ絡んでいるし、そもそも魔族圏に来てから、偵察らしい偵察は何もしていないわけだが……
きっとティスリのことだから、こういう何気ない日常から、魔族のことを事細やかに偵察できているんだろう。
そもそもこの恋人勉強は詫びの一環だし……未だに、詫びなくちゃいけない理由には納得いかないが、やむを得ないと言ったところか。
「まぁ……分かったよ」
だからオレがしぶしぶ頷くと、不服感がまたもやティスリに伝わってしまったらしい。
「……なんですか。不満げですね?」
「いや……不満というわけではないんだが……」
オレは言葉を濁すと、改めてティスリを見た。
本当に不満ではないのだが……強いていえば、心配といったところか……
なぜならば。
宿屋の大衆食堂に座るティスリは……それはもう輝いて見えるからだ……!
今は、王侯貴族のように着飾っているわけでもないのに、もはやオーラが違うというか、まさに場違いというほどに異彩を放っている。つまりはどう見てもただの町娘や女冒険者には見えないほどキレイなわけだ……!
幸いこの宿屋に客は少ないらしく、今も食堂はオレ達だけだから衆目は集めていないが……ティスリと旅をする間、男どもの視線が実に鬱陶しかったわけで……
(だから……そんな美少女相手に、恋人のなんたるかを勉強することになったら……)
しかもこれはあくまでも、姉妹を欺くためのフリ、つまりは演技なわけで……それをいつまで続けるかは分からんが、四六時中、そんなことをしていたら……
(それって……ただの生殺しじゃね!?)
包み隠さず言ってしまえば、ティスリと演技をしているうちに、オレがちょっとムラムラッと来てしまっても……ティスリには手を出せないということであり……!
そもそもティスリはうちの国の王女殿下なんだぞ!? なんかもうぜんぜんそんな風に見えなくなっているけれども!
しかし賢いオレは覚えているのだ!
ティスリに手を出したらどんな目に遭うのかを!!
(王都の旅館で手を出しそうになっただけで……監獄送りのうえに下手したら極刑だったもんな……!)
つまりどんなにフリをしたとしても。どんなに名演技を身につけたとしても……
さらにはティスリが、どれほど可愛くても美人でもスタイル抜群で胸がデカくて……あ、そう言えばその旅館ではティスリのあられもない姿を見たし、南国バカンスではティスリの水着姿も見たし、さらにはこの前の温泉なんてバスタオル一枚で……胸の谷間や魅惑的な太ももがバッチリ露わになってて、ということはオレってけっこうティスリの際どい姿を見ているな!?
オマケに昨夜なんて「せめてシャワーを……」とか言ってたんだぞ姉妹が突入してくる直前に!?
あのときオレが誤解していなければ、もしかしたら今ごろは……ってそうじゃない!
だからティスリに手を出したら、そのときはよくても、のちのちオレの首が物理的にすっ飛ぶんだっての!
つまりはティスリと恋人ごっこをするということは、オレにとっては針のむしろであり据え膳であり命がけなのだ!?
などと考えていたら、ティスリが……
なんだかちょっと、悲しそうな感じで言ってくる……!
「……そんなに、わたしと恋人のフリは……イヤですか……?」
「……!?」
だ、だから!?
最近のコイツはなんなの!?
以前はメチャクチャ強気で、超絶天才美少女とか自分で言っちゃって、「わたしに敵う存在なんて一人もいない」みたいな顔をしていたくせに!
なんか最近はときどき、縋ってくるかのような顔になるの、ほんと何!?
だからオレは、戸惑いながらも声を出す。
「イ、イヤじゃないって……言ってるだろ……」
「じゃあ……わたしとでいいんですか……?」
そんな……弱々しげな上目遣いで見られたら……まじでこっちが勘違いしそうになるじゃん!?
でもティスリのことだから──『夜のお楽しみ』を、カードゲームなどのレクリエーションと勘違いしてたくらいだから!
その上目遣いもシャワーの件も、きっと何かの勘違いのはずなのだ!!
だからオレは、我慢に我慢を重ねて口だけを動かす!
「も、もちろんいいに決まってるだろ……」
「そ、そうですか……」
そうしてティスリは、ホッとしたかのような、それでいて嬉しさを隠しきれないような顔になって……!
(だ、だからやめろって!? そんな表情されたら、大抵の男だったら勘違いして自制心を失うからな!?)
ということでオレは内心で悲鳴を上げまくる!
そんなオレにはまったく気づかず、ティスリは──
「で、では……今日はクエストもありませんし、さっそく恋人勉強をしに街へと出向きましょう……!」
──実に嬉しそうな笑顔を向けてくるなぁ!?
「お、おう! さっそく行こうか……!」
そんなわけでオレは……
思わずティスリを抱き締めそうになるのを、すんでのところで我慢するのだった!
ティスリは、この街のメインストリートを歩きながら、今日のプランを説明していました。
もちろんそのプランとは……デ、デ、デ……
(アルデとデートとか、なんだか気恥ずかしいです!?)
だいたい、これまでアルデとはずっと一緒に旅をしてきたわけで、離ればなれになったときは内乱のときくらいですから、今までだって常にデートだったと言えなくもない、かもしれませんが!
「おーいティスリ? そのデートプランの続きは?」
わたしが『デート』という単語に四苦八苦しているというのに、アルデは事もなげにデートと言ってきましたよ!?
「………………アルデは、気負ったりしないのですか?」
「え? 何を……?」
「………………べ、別になんでもありませんっ!」
な、なんだか一人であたふたしているのが馬鹿らしくなってきました!
ということでわたしは咳払いをしてからそのプランについて説明を続けます!
「午前中は、街を散策しながら、カップル達の様子を観察しましょう。昼時になったら軽食を取ったのち、メインは演劇鑑賞です。そしてその後はディナーとなります」
「ふむ、なるほどな」
「ちなみにアルデは、演劇を見たことあるのですか?」
「え? ああ。以前に王都でミ──いやないが!?」
アルデは何かを言いかけて、そして即座に言葉を止めましたが……
もちろんこのわたしがそれを見逃すはずもありません!
「へぇ……そうですか……ミアさんと見に行っていたんですね……」
「いやあのな!?」
「ふぅん……このわたしに隠し事ですか……れっきとした恋人、のフリをしているこのわたしに……」
「い、いやいや!? 『れっきとした恋人のフリ』も意味わからんが、そもそもそのときはフリもしていなかったろ!?」
「へぇ……アルデは、恋人のフリをする相手がいなければ、別に他の女性と演劇を見に行ってもいいと……?」
「ダメなの!?」
「………………」
………………くぅ!
こ、ここは抑えなさいわたし……!
いつもこんな感じでアルデを責めるから、ケンカになってしまうのではないですか……!
こ、ここは冷静に……冷静になって……
せっかくのデート、なんですから……!
そうしてわたしは、今にも暴走しそうになる感情をなんとか抑え込んで言いました……!
「だ、だから……そういうところなのです……!」
「え、えっと……何がそういうところなんだ?」
「で、ですから……! デ、デ、デ……」
「で?」
どうしても、アルデの前でデートという言葉が出てきません……!?
だからわたしは別の言葉に言い換えます!
「こ、こういう女性と二人きりのときに、他の女性を匂わせるような発言はNGということなのですよ……!」
「お、おお……そうなのか……それはすまん……」
よ、よし……! なんとか穏便に体裁を取り繕えました……!
咄嗟のケンカ回避策ではありましたが、恋愛勉強という方便はいいかもしれません! なぜならアルデが失言する度に、わたしが指導という形で指摘すればケンカにならず済むわけですから!
まぁ………………ミアさんと演劇を見に行った事実は消えませんが。
で、ですが今はそこを掘り返したいわけじゃありませんし……!
だからわたしは、その思考から離れるためにもアルデに指導を続けます!
「とにかくその演劇で、アルデは、恋人のなんたるかをしっかり勉強してくださいよ?」
「お、おお……そうだな……」
「間違っても寝たりしてはダメですからね?」
「わ、分かってるって……!」
どうもアルデは恋愛劇に関心がないようですし、そもそもああいう演劇は女性向けに作られていますから、一般的な男性であってもそこまで興味は持てないようです。だからなおさら、アルデが本当に起きていられるのか怪しくなってきましたね……
などとわたしが怪しんでいるのを悟ったのか、アルデが急に話題を変えてきました。
「ところでさ、オレたち付けられているが……気づいているか?」
「え? ああ……もちろん気づいていますよ。ローデシア姉妹ですよね」
「どうする? 撒いておくか?」
「そうですね……」
せっかくのデートだというのに、あの姉妹に邪魔されるのも本意ではありませんが……
(ですがここはむしろ、わたしたちの仲を見せつけるべきでは……!?)
今はアルデの恋人勉強中ですから、当然、アルデは普段とは打って変わって積極的になってくれるはず。
だとしたら、このまま付けられていたほうがあの二人への牽制となるでしょう。もし邪魔してきたら、そのときに逃げればいいだけですし。
特にヒナカさんには、常日頃からアルデのことで揶揄されていますからね……! ここはちょっとした意趣返しをしたところで文句を言われる筋合いもないはずです。
ソマさんには申し訳ない気もしますが……いえ……彼女のことだから……
もしかしたら喜ぶとか……?
ソマさんの心理はちょっとよく分かりませんでしたが、いずれにしてもわたしはアルデに言いました。
「放っておきましょう。そのうち飽きて帰りますよ」
「そうか? お前が気にしないというならいいけど……」
「それよりも」
そしてわたしは、横を歩くアルデを見上げます。
さっそく後ろの二人に、アルデとの仲を誇示するために……!
「アルデ、後ろよりも前を見てください」
「え……前?」
「そうです。わたしたちの前方十メートル先に、カップルが歩いています」
「ああ……そうだな」
「あのカップルは、どうしていますか?」
「そりゃあ歩いているだろ」
「違いますよ、もう……! どうやって歩いているかと聞いているのです……!」
「どうやってって……ええっと………………」
そうしてアルデは、なんだか照れくさそうな顔になりました!
「手を……繋いでいるが……」
「で、ですね……!?」
「えっと……つまり……」
「今日は何を目的としていましたか……!?」
「わ、分かったよ……」
そうしてアルデは、ちょっと躊躇う仕草をしながらも……
それでもわたしの手を取りました……!
「……!?」
分かっているのに、わたしは思わず肩を撥ね上げてしまいます……!
「な、なんだよ……イヤなのか……?」
少しふてくされた感じで言ってくるアルデに、わたしは小さく首を振りました……!
「イ、イヤではありませんよ……仕方なくではありますが……!」
「そうかい。まぁ、手を繋ぐなんて今さらだしな?」
そ、それは確かに、今さらではありますが……!
だいたいわたしたちは、手を繋ぐどころか腕を絡めたり、いわんや抱き合ったりまでしていますけどね!?
で、でもそれは……酔っていたり空を飛んだり、あるいは何かから逃げたりしているときだったから……
こうやって、酔ってもいないで街を歩きながら……それはもう恋人のように手を繋ぐなんて……
初めてで……!
それにアルデのほうから手を繋いでくれたなんて、それこそ初めてですし! わたしが催促はしましたが……!
わたしは、自分でも顔が熱くなるのに気づきながらも、アルデをこっそり見上げます。
するとアルデも照れくさそうにしていました!
「な、なんですかその顔。やっぱり嫌がってませんか?」
「だ、だから……嫌じゃないって……でもなんというか……こそばゆいというか……」
「なんでこそばゆいんですか」
「な、なんでと言われても……!」
「恋人勉強中なんですから、そういう感情をちゃんと言葉にしなくちゃなんですよ」
「そ、そうなのか……!? とはいえ、だけどな……!?」
アルデはどうにも逡巡してしまいますが……わたしはすでに会話どころではなくなっていました!
(ア、アルデが近い……近いです……!)
今までだって隣を歩いていたというのに、手を繋ぐと……その距離感がぐっと縮まるのです!
だからさっきから、たまに肩と肩が触れあったりしているんですが!?
なんだかもうアルデの体温まで感じ取れるかのようです……!
(うう……心臓が爆発しそうです……!)
でもきっと、これで後ろの姉妹達は、絶対悔しがっているはず……!
アルデと手を繋ぐ気恥ずかしさと、後ろの姉妹に一泡吹かせられた清々しさと、そしてなんとも言えない心地よさとくすぐったさで……わたしがどうにかなりそうになっていると……
まるでダメ押しのようにアルデが言ってきました!
「オ、オレだって男だから……こうやって異性と手を繋いでたらドキドキするだろ、そりゃ……」
「……!? そ、それはつまり……」
つまりわたしを、異性として意識しているってことですか!?
ですが、それをアルデに聞きたくても……
「そ……そうですか……」
もはやか細い声しか出ないのでした!
(Kindle本に続く)
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