
LIGHT NOVEL
「だから! ティスリってのはオレの恋人なんだよ!!」
常に猛烈なアプローチをしている
アルデはオフェルテ殿下にそう言い切った!
先日の凱旋パレード中、わたし達は狙撃にあって、その犯人が殿下の兄であると明かされたあと……
アルデがツルッと口を滑らせて、っていうかもうなんども滑らせている気がするけど、とにもかくにもティスリの名前を言ってしまったら、殿下が執拗にそのことを聞いてきた。
そうしてたぶんティスリと通信していたアルデは、追い詰められていよいよ「ティスリはオレの恋人だ」と宣言したわけである!
(面白くない!)

だってこんなの、ぜったいティスリに言わされてるだけじゃん!
苦悶に歪むアルデの顔を見たって、間違いなくそうだって!
そもそも恋人宣言するのに、なんであんな、首を絞められて息も絶え絶えのような表情になるのよ! ふつーはならないでしょう!? いやわたしが大げさにそう見えているだけかもしんないけど!!
ということでやり場のない怒りを抱えていると……殿下がこっちを見てきた。
「お主らは……アルデと常に行動を共にしているのじゃろう? 本当のことなのか?」
そう問われて、わたしは困ってお姉ちゃんを見る。
お姉ちゃんもどう答えていいのか分からないようだけど……
(ここでお姉ちゃんに話させると、またぞろ変な方向に話が転がりそうな気がする……)
主に、お姉ちゃんの特殊な変態的嗜好のほうへと……
だからわたしは、アイコンタクトで「わたしが話すから!」と伝えた後に殿下へと視線を戻した。
「まぁ……いちおう、そういうことになっているようです」
「いちおうとはどういうことじゃ?」
「えっと……」
それはもちろん、アルデとティスリの恋仲というのがどうにも怪しいからなんですケド!?
それに……なんかわたしから口にしたら、怪しくても公認してしまったかのようで嫌だからなんですケド!?
(いやでも……落ちついてわたし……もしここで「わたしたちは怪しんでますけど」……なんて言ってしまったら……)
当然、オフェルテ殿下だって怪しむはず!
だとしたら、アルデへ今以上にぐいぐい迫る可能性は否めない! 否めないというか間違いなくそうなるはず……!
だからわたしは、断腸の思いで小さく頷いた!
「いえ……やっぱり、正真正銘の恋人です、ハイ……」
「ヒナカよ、なぜそんなに不服そうなのじゃ?」
「そ、それは……!」
すると今度はわたしの代わりにお姉ちゃんが答える。
「悲しいからですぅ……アルデさんはハーレムを取らないというし、なのに恋人がいるしで……」
そんなお姉ちゃんの言葉に、わたしは思わずお姉ちゃんを見た。
(お姉ちゃん……悲しいなんて感情あったの!?)
アルデと他の人がイチャイチャしてたら、むしろ喜びそうなのに!
我が姉のことながらあまりに意外なその発言にわたしが驚いていると、殿下は勝手に納得してくれていた。
「ふむ……そういうことか……」
その後、殿下は結局のところアルデとティスリの恋仲を認めたようだけど、「妾の側から離れないでほしい」なんて懇願してくるあたり……
まるっきり諦める気ないなこれは!?
いやもちろん、一夫多妻制なのだから、アルデに恋人がいるからって諦める必要性はぜんぜんないんだけど、曲がりなりにも皇族なんだし、平民のアルデにそこまで入れ込んでしまうのもどうかと思うのよね。
そもそもの身分差があるんだから、その殿下がアルデのハーレムに入れるわけがないのだ。
だったら安心していればいいじゃないと考えたいところだが……しかし事実はその逆! アルデのハーレムに入れないからこそ、まずいことになりかねない。
そのまずいこととは……
(むしろ殿下が、アルデを囲ってしまうかもしれなくて!)
つまりは逆ハーレムということなのである!
そうなったら、下手をすると皇城から出してもらえないかもしれない。もちろん逆ハーレムの園にわたし達が入れてもらえるはずもない。そうしてアルデとオフェルテ殿下は、二人っきりなのかあるいは男を侍らせるのかは知らないけど、とにかくまったりゆったり、甘いひとときを……
(やめやめ!? 想像するだけで悲しくなってきた!?)
ということでわたしは……
帰りの馬車でめっきりしょげていると、同乗していたアルデが声を掛けてくる。
「どうしたんだヒナカ? ずいぶんと元気がないじゃんか」
「……!?」
ま、まさかアルデが……
わたしのことを心配してくれるなんて!
だからわたしは、感動で目頭がちょっと熱くなった!
「朴念仁で激ニブで超鈍感なアルデが、わたしのことを心配してくれるの!?」
「あー、やっぱ心配するのやめるわ」
「なんでよ!? 今のわたしはとっても感激しているのに!」
「感激と同時に罵倒するとは、いい根性してるな?」
「ああごめん! 感激のあまりつい本音が!」
「ところでソマ、今日の晩飯はなんだと思う?」
「そうですね、昨日はお肉料理でしたから今日はお魚──」
「ちょっと無視しないでよ!? わたしはお姉ちゃんみたいに喜ばないけど!?」
「わたしも喜ばないけど!?」
抗議してくるお姉ちゃんはスルーして、アルデの手を取ってぐいぐい引っ張っていると……アルデがため息交じりに言ってくる。
「いやもう元気になったようだが……とりあえず、何か気がかりなことでもあったりするのか?」
「気がかりって……そりゃあね……」
「あるのか? なら言ってみろよ。まぁオレに解決できるのかは分からんが……あるいはティスリに相談するとか」
いやいやいや……そのティスリとアルデの恋仲が懸念点だというのに、ティスリに相談するわけにもいかないでしょ。アルデの鈍感さは健在ということか……はぁ……
わたしはいささか呆れながらも、念のためアルデに聞いた。
「ティスリだけど、まだ通信が繋がってるの?」
「いや、オフェルテとの話し合いが終わったからもう切れているけど」
「ふぅん……そうなんだ……」
それならということで、わたしはアルデをじっと見つめる。
「アルデとティスリの恋仲の件、なんだけどさ……」
「お、おう? ど、どうしたんだ今さら?」
「………………」
その話を出すだけで、アルデは明らかに狼狽え始める!
まるで『ウソがばれそうな子供』のように!!
「アルデの態度を見ていると、どーーー考えても……恋仲は嘘なんだよね」
「!?」
わたしがそう言うと、狭い馬車内だというのにアルデは大いにのけぞった! さらにはお姉ちゃんも目を丸くして声を上げる!
「そ、そうなのヒナカ!?」
うん、お姉ちゃんも負けず劣らず鈍いんだよなぁ……というかお姉ちゃんの場合は……
「ティスリが恋人のほうが嬉しいお姉ちゃんは気づかないだろうけどさ……」
「べべべ、別にわたしは嬉しくないよ!? さっきだって悲しいって言ったじゃない!」
「その悲しさがいいんでしょう?」
「どういうこと!? あ、もちろん、ティスリさんがわたしたちのハーレム入りを認めてくれるなら、ぜんぜんいいんだけど……なかなか認めてくれないし……」
まぁ……それはわたしもそうなんだけど、でもなんというか……
もしティスリが認めてくれたとしても、最近は……
(なんだかとっても……気が気じゃないんだよね!?)
だって、ハーレムメンバーが増えれば増えるほど、わたしとアルデの時間は減っていくわけだし……
アルデと腕を組みながら街中をブラブラしたくても、有象無象のハーレムメンバーが後ろからついてきたら気分台無しだし……
そうなると、二人きりになりたいときは交代制になってしまって、もしアルデに五人のハーレムメンバーがいたとしたら、平日は持ち回りで土日は全員で、みたいなことになる……!
いや実際には仕事もしなくちゃだから、平日になるともっと時間は限られるわけで……
(いやいや待て待て。アルデに今以上のハーレムメンバーができるって前提がおかしいでしょ……!)
だけどもし、ティスリとオフェルテ殿下とわたしとお姉ちゃんがハーレムに入ったら……それだけでもすでに四人なのだ。ここにあと一人か二人くらい加わっても、状況としてはあり得る話だし……そもそも……
(なぜかそんな予感がするし!?)
その漠然とした不安を払拭したくて、わたしはアルデに言っていた。
「それでアルデは、ティスリとの恋仲をどう思ってるの!?」
「どどど、どうって!?」
「本当は別れたいとか恋人やめたいとか! あるいは尻に敷かれて困ってるとか!!」
「いや、そんなことは思っていないが!?」
「なら本当は恋人のフリなのにあんまり突っ込まれても困るとか!」
「まぁそれは………………いやそんなことないゾ!?」
「いま妙に間がなかった?」
「ないない!? オレとティスリは仲睦まじい……それってやつだよ!」
「それとは?」
「分かってるのに聞いてくるなよ!?」
むー………………
アルデの反応を見る限り、やっぱり……
『ウソがばれないよう必死に取り繕う子供』どころか『浮気がバレそうな浮気男』にしか見えないのに……!
しかしわたしの追及も空しく、馬車は旅館へと着いてしまう。
旅館にはティスリもいるから、偽恋人疑惑をこれ以上突きつけるわけにもいかないだろう。
「よ、よし着いたな! さっさと降りて、ティスリも交えて作戦会議をしようぜ!」
だからかアルデは、馬車をそそくさと降りて客室に向かってしまう。
「はぁ……まったく……めちゃくちゃ怪しいのに、だいたいティスリと一緒だから……追及できない……」
慌てて逃げるアルデの背中を見つめながら、わたしがそうぼやくと……お姉ちゃんが言ってきた。
「ねぇヒナカ。二人の仲を疑うよりも、ティスリさんに認めてもらうほうが早いんじゃない?」
「そうかなぁ……認めてもらえる気がしないけど……」
「でもやっぱりわたしは『みんな一緒』がいいよ」
「………………」

字面としては平等で理想的で至極真っ当な話に聞こえるんだけど……
お姉ちゃん的には……どうせ……
「……そうやってえっちの時も一緒だっていいたいんでしょ?」
「うん! 勉強にもなるし!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ……」
やっぱりうちの姉はアブノーマルが過ぎるので、ぜんぜん参考にならない。
そもそも、ティスリがわたし達を認めてくれるなんて、そんな未来は想像すらできないし……
「あ〜あ……アルデとティスリの恋人関係っていうのがフリだとか偽物だとかが分かれば、手立ても出てくるのになぁ……」
ということでわたしは、そんなことをぼやきながら。
ティスリが待つ客室へと向かうのだった。
(おしまい。番外編2へ!)
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