第11巻 番外編

LIGHT NOVEL

番外編2リリィと簀巻き

ああ!? リリィわたしの手足を拘束し、悲鳴も上げられない状態にして……

いったいどうするつもりなのでしょうかお二人とも!?

ようやくお姉様と再会できたと思ったら、ユイナスがお姉様を激しく糾弾し、だからわたしはそのお姉様を助けるために立ち上がったというのに、なぜかお姉様はわたしを簀巻きになさって……

つまりアレですか!?

ユイナスに立ち向かった勇敢なわたしへのご褒美ということですか!?

なんとも憎らしい演出ですわお姉様!? いえお姉様が憎いなんてあるはずもありませんが、好きすぎていっそ憎く思えて逆に大好きなのですわ!?

なぜわたしは、お姉様に簀巻きにされたことで、これほどまでに喜んでしまうのか?

おそらく常人には理解されないことなのでしょう。

わたしも薄々は気づいています。

ですが、世の中の大半の人々は、人間の本質というものをまったく理解していないから、だからわたしのこの性質も理解できないのです。

人間の本質──それはすなわち孤独を避けたいということに他なりません。

人は独りでは生きていけないのですから。常に誰かに支えられながら、そうしてまた誰かを支えながら生きていくものです。

だというのにお姉様は、そんな人間の本質すらも超越されてしまっています。

お姉様だったら、本気で独りぼっちでも生きていけそうな、そんな気がするのです。

いえ!

そんな気がするのではないですね! その通りなのです!!

だってお姉様は現人神ですから! もはや人ではありませんから!!

ですが……

わたしはお姉様ほどには強くありませんし……

お姉様と比べたら、わたしなんて地べたを這い回るアリ程度の存在ですから、であればなおさら、お姉様を求めてしまうのも致し方ないこと。

だからこそ!

こうして!

お姉様自らの手でわたしを簀巻きにしてくださるということが!

何よりも、お姉様の関心を引けているということであり、わたしの存在証明なのです!!

すなわち簀巻きになっている今のわたしは、独りぼっちじゃありません!

荒縄でぐるぐる巻きにされ、幸福そうなリリィ

お姉様の記憶の中に、このリリィ・テレジアという存在がしっかりと刻み込まれている、その証拠がこの簀巻きなのですから!!

今やお姉様の思考は、わたしのことでいっぱいに違いありません!

そんなわたしが興奮のあまり「むー! むむむー!!」と唸っているとユイナスが言いました!

「ああもう! なんだかリリィのせいで興ざめだわ! ちょっとティスリ!」

「は、はいっ……!?」

「アイツ、むーむーうるさいから黙らせてよ! 魔法でなんとでもできるでしょ!?」

「わ、分かりました……!」

お姉様が頷くや否や、強烈な睡魔が襲ってきました!

「む……むむぅん……!」

くっ……! な、なんたること……

『お姉様に思われていることの喜びを噛みしめる』ことすら許してくださらないなんて……!

いったいどこまで、ご褒美を頂けますの!?

そう考えたら!

この睡魔も吹き飛ぶというものですわ!!

そんなわたしに向かって、お姉様がつぶやきました!

「か、完全に寝付かない……?」

ええもちろんですわお姉様! ここで寝付いてしまったら、この絶頂の幸せがなくなってしまうのですから!!

そう……ここで眠ってしまっては……

まるで『死にかけの虫けらを見ているかのような視線』を感じられなくなってしまうではありませんか!

「むむぅん……むむむぅ〜ん……」

ああお姉様! もっと……もっとその蔑むかのような哀れむかのようなそんな視線をくださいまし!?

この哀れな虫けらに、さらなる魔法をかけてくださいませ!?

とはいえさすがはお姉様の魔法です! わたしの視界は徐々に霞み始めています!!

「うぅん……むぅぅん……」

嫌ですわお姉様……ここで意識を失うなんて……お姉様の蔑みと哀れみがもらえなくなってしまうなんて……そんなもったいない……!

などと思ったのも束の間、お姉様の新たな魔法ごほうびが発現されました!

ですがご褒美は、わたし自身に作用するものではなく……わたしの周囲に展開された結界魔法で……

せっかくのお姉様の視線を、遮ってしまいます!

わたしは小さめの真っ黒な結界魔法の中に入れられてしまい、外を見ることもできなければ声を聞くこともできません!

真夜中になったかのような暗闇と静寂の中に、簀巻きになったわたし独りが取り残されてしまいました!

(そ、そんなお姉様……!? もはや蔑みの視線もやめてしまわれるなんて──)

──お姉様のご褒美バリエーションはどこまで豊かなのですか!?

この段階で放置プレイだなんて!

やはりお姉様は──

(──分かってらっしゃいますわ!!)

 

* * *

 

ふと、目が覚めると……

わたしはソファの上に寝ていました。

「あ、あれ……? わたしは、いったい……」

何か途轍もなくいい思いをしていた気がするのですが、寝ていたせいか記憶が曖昧です……

「なんだリリィ、もう目が覚めたの?」

対面のソファを見ると……そこには嫌そうな顔をしているユイナスが、紅茶片手にそう言ってきました。

その向かいにはお姉様が座っていて……なんだか普段の凜々しいお姿と打って変わって所在なさげですわ。

そもそもわたしは、ユイナスがなぜあんな嫌そうな顔を向けてくるのか、そしてお姉様がどうしてしょんぼりなさっているのか、さっぱり分からないのですが……

ですが……ユイナスにああやって睨まれていると……

………………なんだかとっても、ゾクゾクしますわね?

そんな身震いする快感を押し込めて、わたしはユイナスに聞きました。

「えっと……わたし、寝てたんですの?」

「ええ、そうね」

「いったい、どうして……」

「あんたがわたしの邪魔をするからでしょ……!」

はて、邪魔とはなんのことでしょうか?

そもそもわたしは、どうしてここに……っていうかここはどこですの?

なぜかご立腹のユイナスに色々聞いても、さらに怒らせてしまうだけのようなので、わたしはおぼろげになった記憶をたぐり寄せてみました。

ああ、そうですわ……ここはお姉様が滞在する旅館の客室で、わたし達は確か、お姉様がここから外出されないよう引き留めるために来たはず。

だというのに、どうしてわたしが寝てしまったのか、旅館に来てからのことがさっぱり思い出せないのですが、それはともかく……

「えっと……それで今は、いったいどういう状況なんです?」

わたしは、お姉様とユイナスを交互に見ると、ユイナスのほうから言ってきました。

「お兄ちゃんもティスリも、国に帰るってことになったのよ」

「えっ……!? ほ、本当ですか!?」

わたしがお姉様を見つめると、お姉様は小さく頷きます。ユイナスはそんなお姉様を眺めながら、苦々しそうに話を続けました。

「こっちにも落ち度があったからね。やむを得ずティスリのことは許したのよ」

「ユイナスにも落ち度って……」

わたしは、呆れ返ってユイナスに言いました。

「あなたは落ち度だらけでしょう?」

「あんたに言われたくないわよ!? ってか落ち度だらけって何!?」

「なぜわたしに言われたくないのですか、失礼ですね」

「だからそれはこっちの台詞! 自分の胸に聞いてみなさいよ!!」

「はぁ……?」

さっきからユイナスは、いったい何に怒っているのやら……

直前の記憶が曖昧なのは不思議ですけれども、もしかして、お姉様を引き留めている最中にわたしが寝てしまったので、それで怒っているのでしょうか?

たしかに昨晩は、お姉様に会えるという喜びのあまり、なかなか寝付けなかったのですけれども……

まぁいずれにしても、ユイナスが怒っているのはいつものことですからね。

「まったくユイナスは、本当にいつも怒りん坊さんですね」

「あんたが怒らせる真似ばかりするからでしょ!?」

「そんなことしていませんよ。あなたのそれは、生来の気の短さなのでしょう」

「自分のことを棚に上げてよくも言えたわね!? もう分かった! 表出ろ!」

「ユ、ユイナスさん……ここは落ちついて……リリィをなじっても意味がありませんし……」

「分かってるけど腹立つのよコイツ! 今回だってなんにも役に立ってないし!!」

お姉様が止めに入っても止まらないユイナスを見て、わたしは……

あえて挑発するかのように大きなため息をつきます!

「本当にまったく……ユイナスはとことん短気ですわねぇ」

「なにおう!? わたしが短気ならあんたは変態でしょ!」

「まったく意味不明ですわぁ?」

わたしが変態だなんて、ユイナスはいったい何を言い出すのやら。まるで根拠のないことを言われても、怒りの気持ちすら湧いてきません。

むしろ……

ああやって怒っているユイナスを見ていると……

見ていると……

なぜだか妙に……

息が荒くなるだけなのですからね!

(おしまい。番外編3へ!)

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