
LIGHT NOVEL
神威竜封印のため、
今は差し迫った危機もないので、そんなに慌てて作る必要もなかったのですが、この指輪は連絡用でもありますし。
でもわたしなら、呪文を唱えることもなく念じるだけで通信魔法は使えるのですが、しかしアルデの脱着を禁止しているのに、制作者本人が外しているというのも示しがつかないですし……
それに、なんというか……
この指輪は……
今となっては……
(わたしとアルデを繋ぐ象徴というか……!?)
い、いやだって……世間的に常識的に一般的に考えても、指輪というものはそういうものでしょう……!?
そもそもこの指輪は、当初、わたしの男性避けのために付けていたわけですから、わたしとアルデの関係を周囲に明示するためには、健やかなるときも病めるときも富めるときも貧しきときも、例え死が二人を分かったとしても!
ずっと装着していなければならないのですから!
(だというのに、なぜか──)
──どういうわけか、アルデの女避けにはぜんぜん役立っていませんが!
(むしろ……守護の指輪を姉妹に与えたことで、なんだかハーレム的な繋がりをむしろ暗示しているというか!?)
だからわたしは、姉妹に指輪を渡したくなかったのに……
でも魔物に襲われたあとの状況で、いちおう守護の機能もオマケでついてくるお得な指輪を渡さないとあっては、アルデに冷たい人間だと思われかねませんし……
っていうかあの指輪は、姉妹以外にもいろいろ渡してしまっていて、なんだったらミアさんも同じものを付けていますから、なんだか本当にハーレムの象徴みたいな感じになってませんか……!?
(はぁ……指輪に守護機能を付けたのは失敗でした……)
とはいえ利便性を考えたら指輪が最適なことに違いはないのですが……
いやだったら、指輪の象徴的な意味合いを塗り替えればいいだけのはず。
であればそのためには、何が必要か……
わたしはふと、指輪を受けとったときの姉妹を思い出していました。
「……ふっふっふ……そうです、そうしましょう………………ソマさんとヒナカさんには、きっちりリベンジしないとですしね……」
そうしてわたしは夜明けとともに……
自室のデスクから立ち上がるのでした!
* * *
その道中、ソマがオレに聞いてきた。
「アルデさん、いったいどちらに向かわれているのですか?」
「いやオレも、どこに向かっているのかは分からなくて……いまティスリに通信で道案内されているところ」
するとティスリが頭の中だけで言ってくる。どうやら姉妹にも通信を繋いだらしい。
(心配しなくても、もうすぐ着きますし、ちゃんとご馳走も用意していますよ)
「ご馳走? ということは祝い事か何かか?」
(ええ、そのようなものです)
はて……? 今日、何かの祝い事なんてあったっけ? ティスリの誕生日は12月のはずだし、オレもまだだし。
「あ、もしかしてソマとヒナカの誕生日とか?」
しかし二人とも首を振って、そのあとヒナカが口を開く。
「なんだか怪しい……ティスリが何かを企んでいるときは、ロクなことないんだから……しかもわたし達まで誘うなんて」
ヒナカのそのぼやきに、ティスリが心外そうに言ってきた。
(失礼ですね、そんなことありませんよ。来たくないなら来なくてもいいのですよ?)
「い、行くわよもう……それにアルデと一緒にいられるなら、わたしはどこにだって行くんだからね〜」
「アルデさん、もちろんわたしもですよ!?」
「お、おう……そうか……」
(所構わずアルデに粉をかけないでください……!)
そんなやりとりをしながらオレ達は歩いて行き……
そうして辿り着いたのは、歴史を感じる教会だった。
その正面玄関に突っ立って、オレと姉妹は顔を見合わせる。
「教会? どういうことだ……?」
オレの疑問に、ソマも首を傾げる。
「ティスリさんって、何かの信仰をお持ちだったんですか?」
「いや、聞いたことないけど……」
するとヒナカが、はっとしたような顔になる。
「ま、まさかティスリのヤツ……!?」
「ヒナカ? 何か分かったのか?」
「アルデ逃げて!? きっとティスリは──」
ヒナカが何か言いかけようとしたところで、しかし教会の大きな両開きの扉がゆっくりと空いていく。
そうして中からは、なんだか厳かな演奏と賛美歌が聞こえてきた。
「なんだこれ……?」
オレは思わずその中に入り込むと、ヒナカに手をひっぱられる。
「ダ、ダメだってアルデ!」
「え、なんで? とくに危険はなさそうだけど」
「危険はなくても危機はあるのよ!」
「いやだからなんの?」
オレ達が出入口で揉めていると、神父さんがゆっくりとこちらに近づいてきた。
「アルデ様ですね?」
「あ、はい。そうですが……」
「お待ちしておりました。どうぞ祭壇前にお越しください」
「え、あ、はい」
「アルデ、ダメだってば!?」
ヒナカがうるさく制止するけど、やっぱり危険なんて感じられないし、そもそもティスリがやってるなら問題があるはずもない。
だからオレはその制止の声を振り切って、教会中央にひかれたレッドカーペットをツカツカと歩いて行き……
やがて祭壇前へと辿り着く。
ふてくされた感じで追ってくるヒナカと、ポカンとしたソマも祭壇前に到着すると、やがて演奏も鳴り止んだ。
そうして司会者っぽい女性が朗々と声を上げる。
「ティスリ様、ご入場です〜〜〜」
すると舞台袖っぽい場所から……
「へ……?」
なんだかめっちゃドレスアップしたティスリがしずしずと出てきた……!
紫色を基調としたそのドレスは、そういうことに疎いオレでも一目で分かるほど手の込んだものだった。布が何枚も重ねられているし、だというのに華美でもなく、ティスリの美しさをめちゃくちゃ際立たせている……!
あと胸元とか太ももとかはシースルーで、全体的に清楚なのにそこだけエロい!!
さらに髪の毛も普段と違ってアップにまとめていて、なんだか目鼻立ちもぜんぜん違うような……あ、これは化粧のせいか?
とにかく普段から美少女だということはオレも認めるが、今はそれに輪を掛けて美貌が際立っていた!
これは……いったいなんのイベントだ……?
あ、そういえば……
女性が記念日的なことを言い出しているのに、男がそれをぜんぜん覚えていないと、女性は烈火のように怒るって……
いつだったかナーヴィンに聞いたことがあるぞ……!?
だとしたらオレは今日……死ヌのでは!?
ということでオレが冷や汗ダラダラになっていると、ティスリのその想像を絶する美貌にしばし絶句していたらしいヒナカは、なんとか立ち直ったのか拳を握り締めて一歩踏み出す!
「ちょ、ちょっとティスリ! なんのつもり!? これじゃあまるで結婚式じゃん!」
その台詞にはさすがにオレも驚いた!
「結婚式!?」
しかしティスリは首を横に振る。
「違いますよ。そんなわけないでしょう?」
するとソマが疑問を口にする。
「な、ならこのイベントはいったいなんなのですか……?」
だがティスリは、その疑問には答えずに……
ゆっくりと……
ゆっくりと……
オレに近づいてくる!
「ソマさんとヒナカさんは、黙って見ていてください。すぐ終わりますから」
すぐ終わる!?
オレをこんがり焼くのがすぐ終わると!?
オレは念のため、いつでも逃げられるように身構えるが……
(あれ? ティスリのヤツ、ぜんぜん戦闘モードにならないな?)
その立ち振る舞いから、戦闘が起こる気配も魔法発現する様子もまったく見受けられない。
そもそも、あんな煌びやかなドレスを着ているのに、いきなり戦闘をするというのも変な話か……?
あ、もしかして!
オレがなんの記念日か思い出せていないことにまだ気づいていないと!?
ならば……
オレのやることは、ただ一つ……
とにかくなんとか、ティスリの話に合わせるのみ!
ということでオレが覚悟を決めていると、着飾ったティスリが、いよいよ目前にまでやってきた!
そうして恥ずかしそうに視線を外しながら、オレに向かって聞いてくる!
「あの……アルデ……このドレスは、どうでしょうか……?」

その表情だけを見ていたら、もはや天使のようなのになぁ!?
その天使のお顔が悪鬼のそれに変わらないよう、オレは生唾を呑み込んでからゆっくりと答えた。
「す……すごく……いいと思うぞ……?」
するとティスリは、ちょっと拗ねたように言ってくる!
「もう……そういうと思ってました。アルデは服装に関心ないですもんね」
「す、すまん……!?」
「いいですよ。分かっていましたから……」
そうしてオレを見上げてくるティスリは……
まるで酒にでも酔っているかのようにウットリしていた!!
と、そこで我慢の限界に達したのか、ヒナカが野次を飛ばしてくる。
「結婚式じゃないのにウェディングドレスなんて着たら、婚期が遅れるんだからね!!」
「だからこれはウェディングドレスではありません。ただのドレスです」
するとソマも悲鳴じみた声を上げる。
「いやそもそもなんでドレスを着込んでるんですかティスリさん!? 今日はただの平日ですよね!?」
おおソマ……ナイスだ!
これでティスリがなんの記念日なのか説明すれば──
──首の皮一枚でオレの命が繋ぎ止められる!
ということでオレは、固唾を飲んでティスリの次の説明を待っていると、ティスリは……
説明の代わりに、すっと指輪を取り出した。
「アルデ、これを……」
そしてその指輪をオレに渡してきた!
(……??? ………………??!?)
もはやオレの頭ん中は疑問符でいっぱいだ!
だがオレだけではなく、ソマもヒナカも、ティスリのその意図を測りかねたのか、不可解そうにオレ達を見つめるばかりで……
だからオレは、決死の思いで声を絞り出す……!
「えっと……これは………………守護の指輪?」
するとティスリは、可愛らしくコクンと頷く!
「ええ、そうですよ」
「えっと……どゆこと……?」
「ほらわたし、先日、神威竜に自身の指輪をあげたので、指輪を失ってしまったじゃないですか」
「あ、ああ……そういえば、そうだったな……」
「だから新しいのを作りました」
「そ、そうか……えっと……」
相変わらずティスリの意図が分からず、オレは指輪をつまんでオロオロするしかない。
しばらく指輪とティスリを見比べていたのだが……やがてティスリが、すっと左手をオレの目前に差し出してきた……!
「ということで……アルデからわたしに、その指輪をはめてもらえませんか? わたしの左手薬指に……」
「……は?」
そう言われても、やはり意味が分からずオレが間抜けた声を出すと……
ティスリは、ちょっとむくれた感じで言い募る。
「だって、以前は結局、守護の指輪を姉妹にアルデからはめたでしょう? なのにわたしにはそんなことをしてくれなかったじゃないですか。そもそもわたしはアルデの恋人なのですから、だったら、姉妹のときとは圧倒的に差を付けたシチュエーションで指輪をはめてもらわないと道理が通りませんよね?」
その説明を聞いても、オレは何がなんだかさっぱりだったのだが……
ヒナカは理解できたのか、目を真ん丸くして叫んでいた。
「な、な、何ソレ!? つまりこんな大がかりなことして、教会を貸し切って、ドレスアップまでしたのは……わたし達への当てつけってこと!?」
そのヒナカの話を聞いてもやっぱり分からんので、オレはソマを見た。
「当てつけって……?」
「い、いえあの……わたし達が初めて守護の指輪を頂いたとき、宿屋の食堂で、アルデさんにはめてもらったじゃないですか? ティスリさんはそのときのことをずっと気にされていたから、もっとグレードアップしたシチュエーションで指輪をはめてもらおうと、この場を用意したという話で……」
うん。
さっぱり分からん。
だが……
なんだかむしょーに……
馬鹿らしくなってきたぞ!?
「つまり何か!? 指輪をはめるためだけにこんなご大層な儀式をやったってことか!?」
思わず出た本音に、お淑やかさを演じていたティスリがいよいよムッとしだした!
「はめるためだけとはなんですか!? そもそも守護の指輪は、これくらいの儀式をしたっておかしくはないほどの意味合いがあるのですよ!?」
「い、いやまぁ……そりゃあすげぇ魔法だとは思うが……」
「魔法の話ではなく意味合いの話です!」
「ああもう……分かった分かった」
いったいなんの意味合いを重要視しているのか、オレにはさっぱり分からなかったが……
(はぁ……ビビって損した……)
いずれにしても、オレはティスリの左手を取った。
それだけで、ティスリの肩が跳ね上がり、だんまりになる。
(まったく……女子の考えていることはまるで分からんな……いやティスリだから分からないのか?)
そんなことを考えながらも……
オレはゆっくりと、ティスリの左手薬指に守護の指輪をはめるのだった。
「ぶーぶー! こんなのヤラセだやらせー! わたし達は認めないぞーーー!!」
「ま、まぁまぁヒナカ……驚いたけど、わたし達だって同じ事してもらったし……」
「豪華さが違うじゃん!?」
とまぁ、そんな野次にまみれてのイベントだったけれども、もはやティスリには聞こえていないようだった。
「どうだ? これでいいのか?」
あっさりと終わってしまったそのイベントに、オレは拍子抜けしてティスリに聞くも……
ティスリは頬を真っ赤にして、うつむき加減に言ってきた。
「え、ええ……十分です……」
まぁ……なぜか本人は満足げだし、これでいいか。
ということでそのあとオレ達は、ティスリが予約したというレストランにいって、豪華な食事をご馳走になる。
そのご馳走にもヒナカが「披露宴かよ!?」と怒っていたが、食事にはなんの罪もないのでオレは美味しく頂くのだった。
(番外編2につづく!)
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