第10巻 番外編

LIGHT NOVEL

番外編2ユイナスの噂話

ヒナカわたし達が帝都にやってきた当日、ティスリの叙勲式不参加を確認してからは帝都観光に繰り出して、その日の夜。

夜もだいぶ更けたというのに、わたしもお姉ちゃんもそしてティスリも、アルデの部屋から出て行こうとはしなかった……!

「いやあのお前ら……そろそろ寝ないの?」

ちょっと呆れてそう言ってくるアルデに、わたしはサムズアップを繰り出した!

サムズアップ・ヒナカ

「何言ってるのよアルデ! 夜はこれからだよ!」

「ええ……? 今日は観光で散々歩いたし、疲れてないのか?」

「ぜんぜんへっちゃらだから! むしろ元気が有り余ってるから! ねぇお姉ちゃん?」

「ええ……! なんだかテンションが上がってむしろ寝られそうにありません……!」

「そ、そうか……ティスリも寝ないの?」

「この姉妹がここにいるのに、恋人であるわたしが寝るわけないでしょう?」

「そ、そういうもんか……?」

ティスリにジロリと睨まれてたじろぐアルデを眺めながら、寝込みというか寝しなにアルデを襲うのは無理かとわたしは諦める。

ティスリは夕食時にお酒を呑んでいなかったし……わたし達が散々進めても頑なに拒んでいたのは、この状況を予見していたということか。さすがはティスリといったところね。

アルデを襲えないのなら、せめて実りのある会話をしたいところだけど……このまま雑談していても楽しいんだけど、何か重要なことを聞き忘れているような……?

ということでわたしが考えていると、お姉ちゃんが言っていた。

「アルデさん、もしよろしければ妹さんのお話を聞かせてくれませんか?」

そう言えば『アルデには妹がいる』という新事実が発覚したのだった! わたしとしたことが、帝都観光をしているうちにスッカリ忘れてた!

「あ、そうだ! それそれ妹ちゃん! わたしも聞きたい!」

わたしもそう言うと、アルデは首を傾げていた。

「ユイナスのことを? なんでそんな話が聞きたいんだ?」

「もう……アルデはまったく分かってないなぁ……なぜってそりゃ──」

──今後、わたし達姉妹がアルデのハーレムメンバーになったら、妹ちゃんだって家族になるんだし、だから仲良くするためにも事前情報は非常に重要、ということをアルデに説明しようと思ったら。

ティスリが「おほん!」と咳払いをしてわたしの台詞を遮った!

「あなた方はユイナスさんと会うこともないのですし、別に聞く必要もないでしょう!?」

一方的にそんなことを決めつけるティスリに、わたしは負けじと言い返す!

「なんでよ!? わたし達がアルデのハーレ──」

「そんなことはあり得ませんから安心してください!」

「あり得ないってなんでよ!? 一人の男を一人の女が占有するなんて不公平じゃん!?」

「そもそもわたし達は人類なのですから、そんな異文化に染まる必要もなければ理解もできないのです! 故にあり得ないのです!」

「じゃあ人類圏にもハーレム文化を広めてよ! ティスリってば王女サマなんでしょ!?」

「むしろ厳禁にしますよ!!」

などとわたし達が言い合いをしているその横で……

アルデがお姉ちゃんに問いかけていた!

「えーと……どゆこと?」

「あ、はい……もしわたし達姉妹がアルデさんのハーレ──」

「ソマさん! それ以上言ってはダメですってば!?」

そのお姉ちゃんの台詞も遮って、ティスリがさらに言葉を続けた。

「分かりました! ではユイナスさんについてはわたしから説明しましょう!」

その隣のアルデが「いやなんで?」と相変わらず首を傾げているが、ティスリはお構いなしに説明を始める。

っていうかティスリがその妹ちゃんと面識があって、しかもアルデの代わりに説明できるほど懇意にしているとか……なんかちょっとジェラシーなんですけど!?

「ユイナスさんをひと言で表現するなら……彼女はまさに、地上に舞い降りた天使なのです!」

「……へ?」

なぜかアルデが素っ頓狂な声をあげるも、しかしティスリは気づかなかったようで話を続ける。

「ユイナスさんは……天真爛漫で天衣無縫てんいむほう、まさに天使というにふさわしい少女なのです! ユイナスさんが微笑むだけで、わたしの気持ちは天にも昇るというもの!」

「……いやお前、微笑みかけられたことあったか?」

「ユイナスさんが存在するだけで、周囲の人々の心は一瞬で浄化され、陽だまりのような温かさに包まれることでしょう!」

「むしろ……周囲の人々はアイツのワガママに振り回されるだけでは?」

「さらに! 兄を始めとする家族を一途に想い、健気に寄り添い続けるその純真さは、どんな美しい宝石をも凌駕する至高の輝きを放っているのです!」

「鬱陶しいだけだって。いつになったら兄離れするのかオレは心配でならないのだが……」

いやなんで、ティスリとアルデの評価が正反対なの……?

わたしが眉をひそめていると、同じく混乱している様子のお姉ちゃんが二人に向かって聞いていた。

「あ、あの……つまり、どういうことなのでしょうか……?」

その疑問に、ティスリは意気揚々と、逆にアルデはげんなりした様子でそれぞれ答えた。

「ですからユイナスさんは素晴らしい妹さんなのです!」

「アイツはただのワガママ娘だよ……」

うん、ますます分からん。

わたしとお姉ちゃんで顔を見合わせていると、アルデが驚いた感じでティスリに言っていた。

「っていうかティスリ……もしかして何かの冗談か?」

するとティスリは、ぽかんとした顔をアルデに向ける。

「冗談とはなんのことですか? わたしは至極真面目に、ユイナスさんの魅力を余すことなく姉妹に伝えただけですが」

「いやお前……だとしたら……アタマ大丈夫?」

「だ、大丈夫ですよ! アルデこそなんでそんな不可解な顔つきなのですか……!?」

「いやだって………………あ、だとしたら……だからか……」

「な、なんですか? その不審な独白は……はっきり言ってください……!」

「いやだってお前、一向にめげないから」

「ど、どういう意味ですか……!?」

「どうって、ユイナスにあんな嫌われているのに──」

「き、嫌われてませんよ!? ………………い、いやまぁ確かに、スキー場ではユイナスさんを怒らせてしまいましたし、魔族圏にきた今となっては……うう……」

んん……!?

あのティスリが……

しょぼんとしているぞ!?

しかもアルデ……いま超重要なこと言ってなかった!?

だからわたしは身を乗り出した!

「なになに!? ティスリと妹ちゃんって仲が悪いの!?」

「わ、悪くありませんよ!?」

「ティスリには聞いてない! アルデから見てどうなの!?」

「えーっとな……」

アルデは気まずそうに頬を掻いていたが……やがて意を決したかのように話し始める。

「なんだかちょっと、ティスリの思い込みが心配になってきたから、この際ハッキリと言うが──」

「思い込みなんてしてませんよ!?」

「──思い込んでるヤツはみんなそう言うんだよ。とにかくだな」

そうしてアルデは、ハッキリと言った!

「仲が悪いというか、ティスリはユイナスに好意を持っているんだろうけど……ユイナスのほうが一方的にティスリを嫌っている感じだな」

「な──!?」

アルデのその台詞で、ティスリの頭上に『ががが〜〜〜ん!』という音が現れた──気がした!

「ちょ、ちょっと待ってくださいアルデ!? わたしは確かに、かつて、あと現在進行中で……ユイナスさんを怒らせるようなことをしてしまったかもしれませんが、でも心が広いユイナスさんはきっと──」

「ティスリ……現実を見よう。な?」

「生温かい視線で諭そうとしないでください!?」

おおう……ティスリがあんなに狼狽うろたえているだなんて……! わたし、いまひっじょーに珍しい現象を見ているのかも!?

ということはティスリのウィークポイントって、もしかして妹ちゃんってわけ!?

だとしたらわたし達が妹ちゃんと仲良くなれれば……

ティスリを制することができるかも!

図らずも見えてきたその可能性に、わたしはいよいよ興奮してきた!

「ねぇねぇ! なんだってティスリってば、そんなに嫌われちゃったの!?」

「嫌われてませんが!?」

今にも泣きそうなティスリは捨て置いてアルデを見ると……困った様子で話を続けた。

「それはオレが聞きたいくらいだが……」

「兄であるアルデも分からないの?」

「まぁな。ティスリはオレのこようぬ──いやその……こ、恋人だし」

「こようぬ?」

「いやそうじゃなくて……こ、恋人……」

「アルデ、いつもそこで言い淀むよね?」

「き、気のせいだ!」

アルデは、涙目かつジト目になってるティスリに怯えながらも話を続ける。

涙目ジト目ティスリ

「とにかくオレとしても、ユイナスには態度を改めてほしいと思っているんだが、叱ったところで反省するヤツでもないしなぁ……」

ふむ……どうやら妹ちゃんの本質は、アルデが言っているほうが正しいようだね。まぁ兄妹であれば粗が見えやすい、ということもあるだろうけど、だとしてもティスリの言っていることとあまりに乖離が大きいし……

やっぱり同じ事を考えていたのか、お姉ちゃんがアルデに聞いていた。

「もしかして妹さんは……アルデさんとも仲が悪いのですか?」

「え、オレ……?」

そう問われたアルデは、いっときぽかんとしていたが……

「考えたこともなかったが、言われてみればオレと一緒のときは当たりが強いわけでもなく、むしろ上機嫌だったような……」

などとアルデがつぶやいていると、やがてティスリがすっと立ち上がり……

部屋の隅に向かったと思ったら……

そこで膝を抱え始めた。

「お、お〜い……ティスリ?」

一人用だというのにめっちゃ広いリビングなので、ティスリが返事をしてきても聞こえないと思ったのだけれど……

ティスリは、わざわざ通信魔法で言ってきた!

(別に……いいんです……どうせ、わたしだけが嫌われているわけですし……)

わざわざ部屋の隅で膝を抱えて、だというのに通信魔法で話しかけてくるって……どう考えてもかまってちゃんじゃん!?

しかしアルデは、ティスリのそんな思惑にはまるで気づかず……隅で縮こまるティスリに向かって声を掛けてしまう!

「い、いや……そんなことないって……!」

(確かにユイナスさんは、アルデと二人だけのときは上機嫌ですもんね……わたしが合流した途端に、機嫌が悪くなりますし……)

「そ、それは……何もティスリだけじゃないだろ? ミアんときだってそうだったし、そもそも学校に通ってたころは──」

……ん?

ミア?

ティスリをなだめながら腰を上げたアルデを、わたしはギロリと睨む。

「ねぇアルデ?」

「ん、なんだ?」

「ミアって誰?」

「……え?」

「どう聞いても女性の名前だよね!?」

「ま、まぁ……そうだが……」

アルデってば……

まさか……

ティスリの他にもまだオンナがいるの!?

「ミアって……誰よそのオンナ! わたし達の知らないところでまたオンナを作ったの!?」

「妙な言い回しするなよ!? ただの幼馴染………………だってば……」

「急に勢いをなくした語気が絶妙に怪しい!」

「あ、怪しくないって!? だいたいお前達はハーレム希望なんだろ!? だったら別にいいじゃん!?」

「開き直った!」

「いや違くて!?」

そりゃハーレムはいいけど……いいけどさ!?

で、でも……

わたし達の知らない女性とアルデが関わっているのって……

なんだかすごく……すごく……

イライラするんですけど!?

わたしがいささか戸惑っていると、いつの間にかこっちに戻っていたティスリがアルデを睨んでいた!

「そぉですか……アルデはミアさんもハーレムに加えたいと……」

「ひと言もいってねぇ!?」

「わたしが国に帰ったら……ハーレム以前に浮気をした男性は、禁固千年の刑に処しますからね!?」

「罪が重すぎじゃね!?」

「そう感じるのはアルデが後ろめたいからでしょう!?」

「いやもうメチャクチャなんだが!?」

新たなオンナの疑惑に、わたしとティスリが苛立っていると……

お姉ちゃんが一人だけ、頬を赤らめていた!

「ああ……こうしてアルデさんは、どんどんハーレムを拡大していき……わたしは会いたくても会えないもどかしさに枕を涙で濡らして……ツラいですぅ……ふふふ……」

「お前は喜んでるじゃん!?」

「いいんですアルデさん……わたしはそれで……わたしのことを忘れないでいてくれるなら……」

「忘れないから妙な妄想をやめろ!?」

うん、相変わらずお姉ちゃんは恋愛の燃費がよさそうだね……

図らずもドン引きしてしまったため、わたしもティスリもアルデを糾弾するトーンが収まってしまうと……

お姉ちゃんが素に戻って聞いていた。

「ところで、今の話を総合して考えるとですね……」

「いやあの……急に素に戻るのやめてくんない……?」

「す、すみません! 真面目なわたしではアルデさんがなじれませんよね!?」

「なじってないってかこのノリもやめてくれ!?」

アルデは、またお姉ちゃんのハートに燃料投下してしまったので、お姉ちゃんの代わりにわたしが言った。

「妹ちゃんの話に戻すけど、つまりはあれでしょ。それっていわゆる小姑問題じゃない?」

「小姑問題?」

眉をひそめるアルデに、わたしはさらに説明を続ける。

「少なくとも、アルデと妹ちゃんは仲良しなんでしょう?」

「仲良しっていうか……まぁ普通だと思うけど」

「そうなの? でも普通だとしても、小姑問題はよく起こるって聞くし。ようは、これまで仲のよかった血縁関係が変わるのを嫌がる兄弟姉妹って、案外多いらしいのよ」

「へぇ……そうなのか。でもユイナスは、そんな感じに見えないけどなぁ……ティスリはどう思う?」

アルデがティスリに話を向けると……

ティスリは、かんっっっぜんに呆れ顔になっていた。

「アルデ………………節穴という言葉を知っていますか?」

「へ? 知ってるけど……」

「………………自分のことが一番分からないとは、よく言ったものですね」

「なんだよ? 謎掛けか?」

ティスリのその反応からして、どうやら妹ちゃんは……

アルデのことが大好きっぽいな……!

ということでわたしは、腕組みをして考える。

(う〜ん……だとしたら……妹ちゃんを引き入れて、ティスリを牽制するのは……難しいか?)

つまりはアレでしょ、アルデに言い寄る女は無条件で敵視してしまう感じなんでしょ?

だとしたらわたしやお姉ちゃんも、ティスリと同様に嫌われてしまう可能性が高い。

仮に、アルデとのハーレム関係は伏せておくにしても……そういうコって察しが良さそうだし、いつまでも誤魔化すことはできないだろう。

いやでもアルデの肉親なら察しはめっちゃ悪いとか? けどティスリの気持ちは察しているようだし……

「ねぇお姉ちゃん、妹ちゃんのことは──」

アルデとティスリが未だにああだこうだ言い合っているので、考えあぐねたわたしがお姉ちゃんを見ると……

お姉ちゃんは……

まだ息を切らしていた!

恍惚のソマ

「あ、あの……お姉ちゃん……? ちょっと、お〜い……?」

わたしが肩を揺すって、お姉ちゃんはようやく我に返る。

「はっ!? あ、ごめんヒナカ、なに……? わたし今、妹さんに拘束されて鞭を打たれるところなんだけど……」

「うちの姉はついにダメかもしれん……」

「なんでよ!?」

もはや現実と妄想の区別が曖昧になってるし、そもそも妹ちゃんでもいけるクチなのかよ……!?

もはやわたしが二の句を失っていると、ティスリがアルデに言っていた。

「と、とにかく! わたしは今後も、ユイナスさんとは親交を深めるべく最大限の努力を──」

「なら、国に帰ったらどうする?」

「そ、それは………………ど、どうすればいいのですかアルデ!?」

むー……

また二人の世界に入ってイチャついてる!

だから、もはや廃人と化しているお姉ちゃんは捨て置いて、わたしはアルデとティスリの間に割って入った!

「それでアルデ、具体的には、妹ちゃんってどういう感じなの? ティスリはどんなふうに嫌われているの?」

「だから嫌われてませんってば!?」

そんなことを言い合いながら、気づけば夜も更けていき──

──結局、どうやって妹ちゃんと仲良くなれるのか、その方法を考え出すことはできなかったけど、まぁいっか。

そもそも直近で、妹ちゃんと会えるわけでもないしね。

わたし達がアルデの故郷にいって、ご両親に紹介されることになるまでに考えればいっか♪

(番外編3につづく!)

上に戻る