
LIGHT NOVEL
叙勲式までには数日の余裕があったので、その間の
そうして今日も観光を一通り終えたころ、アルデさんが大通りを歩きながら言ってきました。
「そろそろ飯時だな。今日はどうする?」
そのアルデさんの質問にはティスリさんが答えます。
「わたしは特にこだわりありませんが、アルデはどうなのですか?」
「そうだな……昨日は豪華な感じだったから、今日は逆に、魔族の庶民的な料理を食べてみたいかな」
するとヒナカが元気に手を上げます。
「はいはーい! ならなら、わたしが手料理を振る舞うよ!」
そのヒナカに、アルデさんはなぜかぎょっとした顔を向けました。
「えっ……ヒナカお前……料理できんの?」
そんなアルデさんに、ヒナカはいささかムッとします。
「いやあのアルデ、わたしをなんだと思ってるのよ。普通に作れるってば」
「なんだと言われると……例えば加減が分からず、調味料をひと瓶まるごと入れるとか?」
「どんだけ非常識だと思われてるの!?」
ヒナカが悲鳴を上げると、ティスリさんが意外そうな顔をしていました。
「え……? 調味料はひと瓶入れるのではないのですか……?」
ティスリさんの驚きとは逆に、ヒナカはニヤリと笑いました……!
「おやおや〜? まさかティスリってば……料理できないのかな?」
するとティスリさんはムッとします。
「で、できますよ……! そもそもわたしは、アルデに手料理を振る舞ったことがあるのですからね!」
「へぇ? アルデ、美味しかった?」
「へ……?」
ニヤけ顔を向けるヒナカに、アルデさんはちょっと顔を引きつらせながら答えます。
「お、美味しかったぞ……? 塩味のパンチが効いていて、隠しているのに隠れていない砂糖が絶妙で……」
「絶対まずいじゃんそれ!?」
「え……? アルデ、もしかして……まずかったのですか……?」
「い、いやいや!? まずくないって! あのときお前も後で食べただろ!?」
「ええまぁ……ちょっと塩味が強かったと記憶していますが……」
「そうそう! でもあれくらいが酒のつまみとかにはちょうどいいんだって!」
「塩をひと瓶いれて、塩味がちょっと強い程度? どんだけ量を作ったの?」
話を聞いていると……どうやらティスリさんは、お料理はそこまでお上手ではないようですね。
でもそれは当然と言えます。何しろティスリさんは王族様だったのですから。王族様が料理なんてしないでしょうし、だとしたらレシピも知らないわけで、塩加減を間違えてもやむを得ないと言えます。
そんなことを考えていたら、ヒナカが話を続けます。
「とにかく、
「そうか? 面倒じゃないのか?」
「ぜんぜん! 好きな人に手料理を振る舞うんだからね!」
「お、おう……そ、そうか……」
ヒナカのその物言いに、ティスリさんをさらにムッとさせてしまったようで……
だからかとんでもないことを言い出しました……!
「ならば、わたしも作りますよ」
するといよいよ、アルデさんはのけぞります……!
「ええ!? い、いやいいって!?」
そんなアルデさんを、ティスリさんはギロリと睨みました……!
「なぜです?」
「なぜって!?」
「ヒナカさんの手料理は食べられるのに、わたしのは食べられないと?」
「タチの悪い絡み酒のようだな!?」
「か、絡んでなんていませんよ!」
「い、いやほら……そんなにたくさん作られても、食べるのに困るというか……」
「アルデは普段からたくさん食べているでしょう!?」
そんなご立腹のティスリさんに、ヒナカがトコトコと近づいていき……
そっと耳打ちをしました。
「いやだから、ティスリの料理はまずいから──」
「まずくありませんが!?」
あああ……比類なき魔法の才能をお持ちで他国の王族様で、オマケに魂を抜かれるほどに美少女であらせられるお方を相手に、どうしてヒナカは毎回挑発できるのですか……!?
わたしが冷や汗を流していると……アルデさんがぽんっと手を叩きます。
「よし分かった!」
「えっと……何が?」
首を傾げるヒナカに、アルデさんがキッパリと言いました。
「そうしたらティスリは、オレと一緒に料理しようぜ!」
「えっ……?」
「ええ!?」
アルデさんのその発言に、ティスリさんはぽっと頬を染めて、ヒナカは不服そうに声を上げます。
「ちょ、ちょっとアルデ! ならわたしとも一緒に作ってよ!」
「いや……オレは魔族圏の味付けは知らないし、お前は一人で作れるんだろ?」
「一人で作れると言ったのは嘘デス! わたしも塩ひと瓶入れかねません!」
「そんなことしたら食べないからな……?」
「ティスリのは食べたのに!?」
すると今度はティスリさんが、得意げな顔をヒナカに向けました!
「ふふん、料理ができてしまえることが仇になりましたね、ヒナカさん? 女性は、ちょっと不器用なほうが可愛げがあるのですよ」
「完全無欠なティスリがそれ言う!?」
抗議するヒナカを無視して、ティスリさんは頬を赤らめたままアルデさんを見上げます……!
「で、ではアルデ……今夜は、至らないわたしをぜひご指導してください……」
「お、おう……分かった……」
その言い回しですと、なんだか料理とは違うご指導を受けそうですね!?
わたしが思わず鼻血を出しそうになっていると、いよいよヒナカがムキになってしまいます……!
「もう! ティスリばっかりひいきして!」
そんなヒナカに、ティスリさんは勝ち誇った顔を向けました!
「それは当然でしょう? アルデの恋人はわたし、なのですから」
「ぐぬぬ……なら………………こうなったら料理対決だよ!」
「……はい?」
「……え?」
首を傾げるティスリさんとアルデさんに向かって、ヒナカはびしぃっと指を差しました!
「わたしとティスリのどっちの料理が美味しいか、アルデが審査してよ!」
その話に、アルデさんは露骨にイヤな顔をします!
「え、ええ……? なんでそんなことするんだよ。そもそも、ティスリの料理はオレが手伝うんだから意味ないだろ?」
「だからアルデは、最低限の手伝いしかしないこと! 例えば、食べ物じゃなくなるようなら口出ししていいけど──」
「そこまで酷いモノは作りませんが!?」
「──とにかく! 手伝いは最小限にとどめてよね! それで公正な審査をして! じゃないとわたし、泣いちゃうから!?」
いったいどんな脅し文句なのか意味が分かりませんでしたが、それでもアルデさんは渋々といった感じで頷きます。
「はぁ……分かった分かった。そもそも料理を作ってくれるわけだしな。でも、オレがどんな審査をしても文句言うなよ?」
「もちろんだよ! アルデも、ティスリを手伝いすぎないでよね!」
ああ……なるほど……料理対決というのは建前というか抑止的な意味合いなのでしょう。
こうしておけば、アルデさんの手伝いは最小限にとどめられて、だから料理中、ティスリさんとイチャつくことも少なくなると……
まぁ……わたしとしては、アルデさんとティスリさんが仲良しなのはやぶさかではないのですが(それで感じられる切なさが堪らないので)……でも……
「あ、あのぅ……」
これまでずっと、ヒナカとティスリさんの勢いに押されてなんの発言もできなかったわたしは、話がまとまったところでおずおずと手を上げました。
「わたしも……混ぜてほしいのですが……」
料理対決には興味ないのですが、でも、ここでわたしの存在感も示しておかないと、アルデさんに忘れ去られてしまうかもしれませんし……!
そうしたら、罵られることもなくなってしまいます!
ということでわたしは立候補したのですが、するとアルデさんがこちらを向いてくれて……
心底、驚いた顔になりました!
「え……? ソマも料理できるのか?」
ああ!? そうやって変な誤解をされるのも堪りません!
「で、できますよ……そもそも両親は共働きですし、わたし達、小さな頃から家事手伝いをしてきましたので」
「そうか……でもなんか、それこそ人が食べられない料理を作りそうな……」
「な、なんでですか!?」
「オレ、激辛系はちょっと苦手なんだよな」
「どうしてわたしが激辛を作ると?」
「知ってるか? 辛さって味覚じゃなくて痛覚で感じるんだってよ?」
「いや何を誤解されているのですか!?」
ああ!?
アルデさんとの親交を深めれば深めるほど、わたしはどんどん誤解されているような……!?
そんな状況に、わたしは……
有頂天になるのでした!
* * *
と、いうことで……
わたしとヒナカ、そしてティスリさんとアルデさんも、旅館客室に設置されている広々としたアイランドキッチンに立っていました。
宿泊施設にキッチンが付いているなんて珍しいですが、そこはスイートルームといったところでしょうか。三人がそれぞれの料理を作れるほどに広さもあります。
そんなキッチンで、エプロンを着けたヒナカが全員に向かって言いました。
「料理の制限時間は一時間ね。もし制限時間内に終わらなかったら、作りかけでも料理を出すこと。手際の良さも重要だからね」
その説明に全員が頷きます。
ちなみに品数は、四人前を一人一品ずつとしました。本来なら、それぞれが同じメニューを作ったほうが審査しやすいのでしょうけれども、夕食も兼ねていますから、それぞれ別のメニューを作ります。
「と・こ・ろ・で……」
料理対決の説明を終えるや否や、ヒナカは片手を頭の後ろに回して、ミレーヌおば──いえお姉さん直伝の『うっふん』ポーズをキメました!

「わたしのエプロン姿、どうどう?」
そんなヒナカに向かって、アルデさんはぽかんとしながらも言いました。
「どう……って……なんか、ヒラヒラしすぎて料理の邪魔になるんじゃね?」
「そういうことを聞いてるんじゃない!?」
「……?」
アルデさんが首を傾げていると、その隣のティスリさんがアルデさんの袖を引っ張っていました。
「あの……アルデ……わたしのはどうですか?」
「えーと………………なんかキレイすぎて……」
「キレイすぎて!?」
「汚したらもったいない感じだな」
「エプロンの評価を聞いているわけではありません!?」
「その点、この中ではソマが最もいいな」
「ええ!?」
またしても出遅れたわたしだというのに、アルデさんがわたしに優しく微笑みかけてくれました!
「動きやすそうだし、汚れても黒だから目立ちにくいしな」
「あ、ありがとうございますアルデさん!?」
「ちょっとお姉ちゃん!? アルデはエプロンの批評をしているだけだかんね!?」
「そうですよソマさん! 誰が一番似合っているかなんて言ってませんからね!?」
「いや……エプロンって作業着なんだし、似合ってるとかどうでもよくね……?」
「あ、ああ……まさかアルデさんに褒められるなんて……」
「いやお姉ちゃん……なんか落ち込んでない……?」
「喜んでるけど!?」
なぜかあらぬ誤解をしてくるヒナカでしたが、その後、アルデさんがいかに場違いな感想を言ったのか、ティスリさんが滔々と説明をしだして──
「わ、分かったから!? みんな似合ってるから! だからそろそろ料理しようぜ、な? 腹も減ってるし……」
──ティスリさんをなだめすかして、ようやく料理がスタートするのでした。
わたしとヒナカは魔族圏の家庭料理ということで、メニューが被らないようあらかじめ決めておきました。逆にティスリさんは、人類圏の定番メニューを作ってくれるとのこと。
そのティスリさんとアルデさんは、向こうのキッチンカウンターで何やら切羽詰まった会話をしていました。
「ま、待て待て! 包丁を使うときは猫の手にしないと危ないだろ?」
「猫の手?」
「ほら、こうやって指先を内側に曲げて野菜を押さえるんだよ」
「ふむ……なるほど。ですがそもそも、なぜ包丁なんて危ない刃物を使うんですか?」
「は……? なぜと言われても、包丁がないと切れないからだが……」
「このように魔法で切り刻めばいいでしょう?」
「うん……それができるのはお前だけだが?」
そんな二人を横目で見ていたヒナカは頬を膨らませます。
「くっそー……! あの二人、結局イチャついちゃって……!」
「い、イチャついてるかな……?」
わたしの目には、ティスリさんの器用な魔法発現に、アルデさんがドン引きしているようにしか見えませんが……
「お姉ちゃん! わたし達もやるよ!」
「えっと……何を?」
わたしの理解を待ってはくれず、ヒナカは大声を出しました。
「あっつー! アルデ、指先をヤケドしちゃったよぉ……舐めて?」
「は? イヤだよ……」
「なんでよ!? こんな美少女の指を舐められるなんてご褒美でしょ!」
「誰の意見だソレは?」
「ミレーヌお──姉ちゃん?」
「だから誰?」
などと言い合っていたら、ティスリさんの
「──って、ええ!?」
だからわたしは悲鳴を上げますが、ティスリさんはキョトンとした顔をこちらに向けてきます!
「急に悲鳴を上げて、どうしたのですかソマさん」
「いいい、いやだって!? 今のって完全治癒魔法だったのでは!?」
「ええ、そうですが」
「そうですが!? 本来なら、教会付きの魔法士百名が交代制で不眠不休で、祈りのような呪文詠唱を一週間かけて行う大規模魔法ですよ!?」
「それは魔法士の魔力が足りないからでしょう? 魔力があれば、すぐにでも発現できますよ」
「意味が分かりません!?」
こ、これまでの冒険で……アルデさんは元より、わたし達姉妹もまったく怪我の一つもなかったから、回復魔法の出番なんて一度もなかったわけですが……
だからティスリさんが回復魔法を使うところも初めて見たわけで、でもよくよく考えてみれば、ティスリさんほどの天才だったら、どんな魔法でも使えるのは当然というか……
いやでも、超優秀な百人の魔法士が総出で一週間ですよ!?
ティスリさんの魔力量はどうなっているのですか!?
もちろん分かっていたことではありますが……改めてこんな超常現象を見せつけられると、回復魔法専門のわたしの存在意義って……
わたしが人知れず落ち込んでいると、それを気にした様子もなく、ティスリさんはヒナカに言っていました。
「というかヒナカさん。ヤケドなんてしてないじゃないですか」
「わたしはアルデにヤケドしたのさっ、てへぺろ♪」
「………………あとで治療費を請求しますからね?」
「破産しちゃうケド!?」
そんな軽口(ですよね……?)を言い合いながらも、料理はなんとか進行していきます。
「アルデ……本当に塩はひと瓶入れなくていいのですか?」
「ああ、大丈夫だって。塩ってメチャクチャしょっぱいから。それに今回は味を調える程度だしな。ちょっと舐めてみ?」
「料理中に食べるなんて行儀が悪くないですか?」
「大丈夫だって。これも味見の一種だし」
「そう言えば、以前にもそんなことを言ってましたね。では…………ふむ、確かに想像以上にしょっぱいです。これでは、ひと瓶も入れては食べられたものではなくなりますね……」
「だろ。だから加減が重要なんだよ」
「でも以前、アルデはわたしの料理を食べてくれましたが……」
「あ、ああ……実はあのときはな、宿屋の女将さんに味付けを直してもらってたんだ……」
「そうでしたか……ご迷惑をおかけしたようですみません……」
「い、いやいいって! ああいうのは気遣いが嬉しいというかなんというか……」
「もしかして、わたしに気を使ってくれていたのですか?」
「ま、まぁ……せっかく看病してくれたんだし……」
「そ、そうですか……」
「な、なんだよ……オレが気遣いしちゃいけないってのか……?」
「いえ、そういうわけでは……むしろ当時からそんな気遣いをしてくれていただなんて……嬉しいというか……」
「へ……?」
「………………」
「………………」

「ちょっとぉ!? いちいちいい雰囲気にならないでくれる!?」
そうして、またヒナカが二人の間に割って入っていました。
アルデさんとティスリさんがなんのことを話しているのか、その詳細までは分かりませんでしたが……でも二人っきりで長旅をしてきたという話ですし、いろんな思い出があるんでしょうね……
はぁ……いいなぁ……
アルデさんに踏まれたいわたしとしても、そういう素敵な思い出が羨ましくないといえば嘘になるわけで……でもその羨望が心地よくもあり……
最近のわたしは混乱していることは分かっているのですが、その気持ちを落ち着けることは自分ではできなくて、歯がゆさを感じるしかないのでした……
その歯がゆさもまたイイのですけれども……
そんなことを感じながらも、ようやく料理が完成します。
そのタイミングで、ヒナカが終了を宣言しました。
「よぉしそこまで! タイムア〜〜〜ップ! それぞれテーブルに運んで、アルデの審査に入るよ!」
「なぁ……オレは料理に詳しくないから、審査のしようがないんだが……」
「厳密な優劣というよりも、アルデの好みで選べばいいんだよ! あと優勝者は、後日、アルデと一緒に料理できる権利を手に入れられます」
「聞いてないぞ!?」
などと言い合いながらも料理を食卓に運んでいき……
いよいよ、アルデさんの審査が始まります……!
あとヒナカが、なぜかスプーンをマイク代わりにして実況を始めました。
「さぁ! まずはティスリの料理から! これは……ジャガイモと豚肉の煮込みモノ?」
人類圏の料理に詳しくないヒナカが、マイク代わりのスプーンを向けると、ティスリさんはこくりと頷きました。
「ええ、そうです。王城にいた頃、侍女達が『男性が好む料理のアンケート』なるものを記録していたのを思い出したのです。その結果、もっとも人気のあった料理がこの『肉じゃが』でした」
「うむむ……まさか王宮の市場調査を持ち出してくるなんて……」
「いえ、ただの内輪アンケートですが……」
そんな話をしているさなか、アルデさんが肉じゃがを口にパクリと入れました。
それを見守っていたティスリさんが、モグモグしているアルデさんに向かって、ちょっと心配そうに尋ねます。
「ア、アルデ……どうですか……?」
「うん、旨いぞ。故郷の味って感じで、懐かしいな!」
「そ、そうですか……今回は、ちゃんとした料理になったようでよかったです……」
そもそもティスリさんは、なんでも器用に、しかもたった一度でこなしそうですからね……レシピさえ知っていれば、どんな料理でも再現可能なのでしょう。
「はい次々! わたしの料理ね!」
またぞろいい雰囲気になってきたティスリさん達の間に入って、ヒナカが自分の料理を差し出しました。
ヒナカが作ったのはチキンカツレツでした。家庭料理の中でも上級者向けの一品です。鶏肉の厚みを均一に整えなければ火の通りにムラが出ますし、包み込んだ香草バターも、形をちゃんと整えないと揚げている途中で漏れ出してしまいます。
ヒナカが料理上手なのは知っていますが……普段は面倒がって、こういった手の込んだ料理はしないくせに、今日は間違いなく優勝を狙ってきてますね……!
そんなカツレツを食べたことがないのか、アルデさんは興味深げに眺めています。
「おお……トンカツとはちょっと違う感じだな」
「トンカツってのは分からないけど……中に香草バターを包み込んでいるから、切ると肉汁と一緒にじゅわっと溢れ出してくるんだよ」
「まじか……! それは旨そうだ……!」
そうしてアルデさんは、慎重な感じでカツレツを切り分けて……一口ほおばります!
「うん、旨い! 噛んだ瞬間に香草バターの旨味が一気に広がるな……!」
「ウフフ〜、すごいでしょう? 家庭料理とはいっても、これを作れるのは、普段からちゃんと料理して腕を磨いておかないとできないことなんだぞ〜?」
などと言いながらヒナカは、どちらかというとティスリさんに不敵な笑みを浮かべています……! ティスリさんはぶすっとしていますし……
ああ……この二人、どうして常に張り合うのでしょうか……!? ヒナカも、ティスリさんには絶対に敵わないのだから、大人しく二番手に甘んじて、そのおこぼれを頂いたほうが建設的だと思うのですが……
わたしだったら、アルデさんの衣服を頂くだけでも満足なのに……
などと考えていたら、いよいよアルデさんがわたしの料理に手を伸ばしていました……!
「ソマのはまた大胆な料理だな?」
「あ、はい……アルデさん、こういうのがお好きかと思って……」
「おお、ドンピシャだ。こういうのは大好物だぞ」
わたしの作った料理はいわゆるケバブです。香辛料に漬け込んだ肉と野菜を串に刺し、強火で香ばしく焼き上げたシンプルな串焼きとしました。
今回の料理対決では、たぶん一番簡単なほうでしょうか……ですが決して手を抜いたわけではなく、こういう『お肉ドーン!』みたいな料理をアルデさんは好むかと思ったのでそうしたのですが、それは正解だったようです。
アルデさんは串の一本を思いっきりほおばってから頷いてくれました……!
「うん! これも旨いな! ただ焼いているだけじゃなくて、絶妙な肉汁だ……!」
「あ、ありがとうございます。でもそれは、旅館で高級食材を頂けたからですが……」
「いやいや、肉の焼ける工程をちゃんと管理しないと、せっかくの食材も台無しだからな。ソマもいい腕してると思うぞ」
「ありがとうございます……!」
ああ……アルデさんに褒めて頂ける日がくるなんて……
これはこれで、なんだかとっても嬉しくて……ちょっぴり涙が出てきそうです……!
「いやお姉ちゃん、泣くほど悲しまなくてもよくない?」
「嬉し泣きだよ!?」
どうも最近のヒナカには、何か多大な誤解をされている気がします。いずれきちんと正さなくてはですが……
とはいえ今は、料理対決の結果発表を聞く方が先決です!
選考結果を考えてか腕組みをするアルデさんに、ヒナカが前のめりになって聞いていました!
「それでそれで!? アルデはどれを一番気に入った!?」
「う、う〜ん……そうだなぁ……どれも甲乙付けがたいほど旨かったんだが……全員合格じゃダメなのか?」
「合格じゃなくて順位を付けてほしいの!」
「うう〜ん……」
思い悩むアルデさんに、拳を握り締めるヒナカに……さらにティスリさんはというと、祈るような感じで両手を組んでアルデさんを見つめています。
ティスリさんの、あんな不安げな顔を見るのは初めてかもしれませんね……ちょっとした余興のはずですが、そこまで真剣な眼差しを見ていると……それに当てられて、わたしも緊張してきます……!
とはいえやっぱり、ティスリさんはアルデさんの恋人でもありますから、ここはどう考えてもティスリさん一択でしょうけれども……
などとわたしが考えていたというのに。
アルデさんの出した答えは、意外そのものでした。
「じゃあ……あえてというならば、ソマかな?」
アルデさんのその言葉に、わたしを含めて全員が──
「「「え……?」」」
──という声を漏らしていました。
呆然とするわたしたちに、アルデさんが決まり悪そうに話を続けます。
「ほんと、全員が甲乙付けがたいほど旨かったんだぞ? でもあえてというから……だとしたらソマかなと……」
「ななな、なんで!? なんでお姉ちゃんなの!?」
「そ、そうですよアルデ! 納得のいく理由を聞かせてください……!」
わたしはいまだ呆然とするしかありませんでしたが、ヒナカとティスリさんは大いに慌ててアルデさんに言いました。
するとアルデさんは頬を掻きながら……まるで言い訳をするかのように話しました。
「なんでかというと……その、なんだ……いちばんオレの好みに合っていたというか……」
「……!!」
たったそれだけの説明で理解できたのか、ティスリさんは悔しそうにつぶやきました。
「くっ……なるほど……言われてみればアルデは、大きなお肉を丸かじり、みたいな単純明快なものを好みそうです……!」
さらに、今度はヒナカが涙目になってわたしを見てきます……!
「うう……そんな……お姉ちゃんの作戦勝ちってわけ!?」
だからわたしは慌てて二人に言い訳をしました!
「さ、作戦だなんて……そんなこと考えてないよ……! わたしはただ、アルデさんが喜んでくれそうなお料理を選んだだけで……」
「お姉ちゃん! それじゃあわたしが『自分の腕を見せつけるためにあえて小難しい料理を選んだ』とでも言いたいわけ!? っていうか実はそうだと白状するけど!?」
「ひと言もいってないよっていうか白状した!?」
「ソマさん! であればわたしが『料理初心者だから簡単なものしか作れないけど男性の胃袋を掴むというメニューなら間違いないはず』と考えていたことを理解していたと!?」
「み、微塵も考えてませんそんなこと!?」
怒る二人をなんとかなだめすかしていると、アルデさんが止めに入ってくれます……!
「いやだから、対決なんてやるからそうなるんだろ。オレは最初から『全員旨い』と言ってるじゃんか」
「くっ……そうですが……」
「うっ……そうだけど……」
しかしそれでも納得がいかないのか、ヒナカもティスリさんもわたしをじぃぃぃっと見てきます……!
「まさか、ソマさんが選ばれるとは思いも寄りませんでした……」
「そうだね……お姉ちゃんはむしろ、選ばれないほうが喜ぶのに……」
「だから完全に誤解だからねそれ!?」
別にわたしがいちばんじゃなくてもいいですが、そもそもアルデさんに選ばれなければ、罵られたり貶されたりもされないじゃないですか!
わたしはにわかに不満を募らせていると、アルデさんが、優しく微笑みかけてくれました……!
「いずれにしても、今回はソマの優勝ってことで。今度、肉の焼き方を教えてくれ」
「は、はひっ……! わ、分かりました……!」
ああ……まさか……
アルデさんと一緒に料理をすることになるなんて……!?
だからわたしはすっかり有頂天になってしまい……
思わず口走っていました!
「そ、それはまさか……街の郊外にある一軒家の小さなキッチンで、休日に二人で寄り添いながら『お〜いソマ、何か手伝おうか?』とか『もう、アルデさんはリビングでくつろいでいてくださいよ』とか言い合いながら、次第に、エプロン姿のわたしの後ろ姿にムラムラしたアルデさんがわたしを羽交い締めにしたと思ったらバッグから──」
「ちょちょちょ、ちょっとお姉ちゃん!? いきなり何を言い出すの!?」
「アルデはそんなことしませんよ!? っていうかそのシチュエーション自体があり得ないでしょう!?」
「………………やっぱ、ソマから教わらなくていいや、料理は……」
「ああ!? アルデさんの言葉はやっぱり切れ味が違います!?」
「もはや、オレにどうしろと……?」
などと言い合いながらも、わたし達は食事を始めるのでした。
ああ……でもなんでしょう……
今日は、アルデさんにエプロン姿を褒められて、そのうえ、好みの料理とまで言って頂けて……
なんだか普段とは違う、不思議な幸せを感じるしかないのでした……!

(番外編4につづく!)
Copyright(C) disolo Co., Ltd. All rights reserved.