
LIGHT NOVEL
アルデがやっぱり持ち帰っていた晩餐会の折り詰めをテーブルに広げて……
わたしとしては、アルデがオフェルテさんをどう思っているのかを聞き出したいところなのですが、でもそれを聞いたら絶対に険悪な感じになる自覚があります……
すでに、わたしの内心をアルデに悟られている節もありますし……なんだかちょっと、アルデはビクついているというか……
っていうか!
アルデはわたしの不機嫌には敏感なのに、どうしてわたしの本心は理解できないのですか!? いやまぁ理解されても困っちゃいますけれども!?
などと考えていたら、ちょっと酔っ払った感じでヒナカさんが言い始めました。
「よぉし! こういうときはやっぱり恋バナよね!」
「はい……?」
唐突なヒナカさんのその申し出に、わたしは首を傾げざるを得ません。
そもそも、いったい何が『こういうとき』なのでしょうか……?
だからわたしが尋ねると……ヒナカさんは身を乗り出して言ってきます。
「こういうみんなでお泊まりみたいなシチュでは、恋バナをするのがお決まりなのよ!」
「そうなのですか……?」
魔族にそんな風習があるとは知りませんでしたが、とはいえ確かに、侍女からも似たような話は聞いたことがあります。
でも今このシチュエーションは、どこか違和感があるような……
だからわたしが侍女からの説明を思い出していると、アルデが悲鳴に近い声を上げていました。
「いや待て待て……!? ヒナカはいったい何を言い出してるんだ……!」
「だから恋バナって言ってるんだけど?」
「それを本人の目の前でいうヤツがいるかよ!?」
はっ!? そ、そうでした!
アルデが指摘したことにより、わたしは違和感の正体に気づきます。
少なくとも侍女から聞いた話では、好きな相手の目の前で恋バナするなんてことにはなっていません! なぜならそんなことをしたら、秘めたる思いが本人にバレてしまうのですから……!
だというのにヒナカさんは、ニマァッとした笑みをアルデに向けました!

「あれあれ〜? アルデってば、恋バナで自分のことを話されると思っているのカナ〜?」
「え……? そ、そうだが……」
「ということはアルデは、わたし達三人に自分は好かれていると、そう思っているんだね!」
「えっ!? い、いやそれは……!」
「もしかしたら違うかもしれないのに〜? アルデってば、とんだ自惚れ屋さんだねぇ〜?」
「イ、イヤだって!? お、お前らは……その……なんというか……」
珍しく真っ赤になってトーンダウンするアルデに、ヒナカさんはきっぱりハッキリ言いました。
「ま、その通りなんだけど」
「ならなんでオレが責められたんだ!?」
「だってぇ〜、それを自分の口からいうのは、ねぇ……?」
「くっ……! だ、だとしてもだ!」
アルデは顔をしかめながらも言いました。
「本人の前で恋バナをするヤツがどこにいるんだよ! 魔族圏ではそうなのか!?」
「いや違うけど」
「じゃあやっぱりオレの指摘が正しいじゃん!?」
「でもほらぁ、わたし達、自分の気持ちはアルデに伝えてるわけだし? むしろ、わたし達がどれほどアルデを想っているのか、もっと知ってほしいというか?」
「くっ……!?」
「だから今日は、本人を目の前にして恋バナ大会なのでーす!」
そんなことを言うヒナカさんですが……その頬はほんのり赤くなっています……! やっぱり恥ずかしいのではないですか!?
そのヒナカさんは、スプーンをマイクのように持って、ぽけーっとしていたソマさんに向けました!
「ではお姉ちゃんから行ってみよー!」
「ふぇっ!? な、なんで!?」
「いやなんとなく?」
「ヒナカが言い出したんだから、ヒナカからやってよ……!?」
「ええ……? そ、それは……その……本人を目の前に一番手は、ちょっと恥ずかしいというか……」
「わたしも恥ずかしいけど!?」
「お姉ちゃんの場合、その羞恥がいいんでしょう?」
「ひどい誤解だよ!?」
それでも押し問答するヒナカさんの勢いにソマさんが負けた、というよりも……
ヒナカさんの言うとおり、ソマさんは妙に嬉しそうな感じになってきて、だから結局おずおずと話し始めました!
「え、えっと……わたしがアルデさんを好きになったのは……!?」
「い、いや待ってくれソマ!?」
アルデが再び制止の声を上げます!
「やっぱ本人の前でそういう話をするのは、よくないと思うぞ……!?」
「え……なんでですか……?」
「なんでって……そりゃお前も嫌がってるから……」
「い、嫌ではないですよ! わたしのアルデさんへの気持ちは本物ですから……!」
「だ、だからそういう話は……」
「ただちょっと、やっぱりどうしても恥ずかしいというだけで……」
「であればなおさら話さなくても……!」
「いえ聞いてください! この恥ずかしさが癖になりそうですので!?」
「なおさら話すなよ!?」
しかし問答無用でソマさんは話し始めました! 真っ赤になりながらも嬉々として!!
「わ、わたしは……! やっぱりアルデさんの力強いのに優しいところが大好きで……! だというのにわたしの扱いは雑だということはわたしだけが特別扱いなのでしょうか!? いずれにしてもこのギャップがたまらないのです! それを確信したのはやはり、人面樹から颯爽と助けてくれたときで……救出直後に放り投げられたあのとき! 救出時の安堵を感じさせぬ早業に、空中で為す術のなくなったわたしは……自由落下と共に恋に落ちたという訳なのです!!」
「………………」
「ああ!? そのドン引きな視線も堪りません!!」
いっそ、自由落下のあとに脳天を打って天に昇ればよかったのに……とわたしは思いましたが、それはともかく。
さらに言い募ろうとするソマさんを押しのけて、ヒナカさんが話し始めます。
「わ、わたしだってお姉ちゃん以上にアルデのことが好きだからね!?」
「お、おう……そうか」
一番手は
「あ、ちょっとヒナカ!? アルデさんの冷たい視線を遮らないでよ……!」
「お姉ちゃんはもう十分話したじゃん! ってか冷たい視線を遮らないでとは!?」
「だってヒナカが話せっていうから! そもそもアルデさんにドン引きされているときこそが至福でしょう!?」
「そこに共感を求められても!? だいたいドン引きエピソードを話せとは言っていない! まぁ話すとは思ってたけど!」
「どっちなの!?」
「とにかく次はわたしの番だから! 雰囲気が台無しになるからこれ以上アルデをドン引かせないで!!」
半ば無理やりソマさんを黙らせたヒナカさんは、アルデに向きなおってから……
本気で恥ずかしそうな感じで、あざといくらいに視線を逸らしました!
「え、えっと……それで、ね……? わたしはというと……」
「あ、あー……オレ、そろそろ寝ようかと……」
「ちょっと!? わたしはスルーされても喜ばないけど!?」
立ち去ろうとするアルデをすぐさま追いかけて、ヒナカさんはその袖を握り締めました!
「寝るって言うなら、寝室に侵入して耳元で囁くからね!?」
「わ、分かった分かった……! 話は聞くからそれは勘弁してくれ……!」
「ええ……? アルデってば、美少女がピロートークしてあげるっていうのに、どうして拒むの……?」
「い、いいからさっさと話せって……!」
アルデは、なぜかこちらをチラチラと見ながら元の席に着席します。わたしに止めて欲しいということでしょうか……?
で、ですが、今のわたしは……
このあと何を話せばいいのか、それを考えるだけでいっぱいいっぱいで……!?
などと焦っていると、自分の席に戻ったヒナカさんがいよいよ話し始めました……!
「最初は、強いのに面白そうな男性がいるなぁって思ってただけなんだよ? もちろんいま思えば、そのときから好意はあったんだけど……でも一緒に冒険していくうちにさ、頼り甲斐もあるし、一緒にいて楽しいし……だからわたしのことどう思っているのかな? とか考え始めたら、その気持ちがどんどん膨らんじゃって……」
「そ、そうか……」
「ねぇ……アルデ。わたしのこと、ほんとはどう思ってる?」
「どどど、どうと聞かれても!?」
「わたしのこと、好き……?」
「そ、それは……!?」
「え……じゃあ嫌いなの……?」
「き、嫌いだなんて言ってないだろ!?」
「よかったぁ……なら好き?」
「だ、だからそれは……!?」
「ねぇ……どうして好きって言ってくれないの? そのひと言が聞けるなら、わたしはなんだってしてあげられるよ? わたしのこと、好きにしていいよ?」
「い、いやだからな!?」
「ねぇ……嘘でもいいから、わたしに好きって──」
ガタン!
気づけばわたしは、椅子を蹴倒して立ち上がっていました!
「ヒナカさん! そもそもアルデはわたしの恋人なのです! その目の前で口説くのはやめてください!」
「えー……? でもここは魔族圏だし、恋人同士で口説き合うなんて当たり前──」
「わたしとアルデは人類圏の出身なんです! その妙な風習に当てはめないでください!?」
「もう……もしかしてアルデがハッキリできないのって、ティスリが怖いからじゃないの?」
「なっ──!?」
ヒナカさんにそんなことを言われて、わたしは思わず一歩後退してしまいます……!
その一瞬の隙を突いて、ヒナカさんが攻勢を強めてきました……!
「だとしたら、アルデ、かわいそ〜。いっつもティスリにオドオドしちゃって。そんなの恋人関係って言えるのかな〜?」
「そ、それは……!?」
わたしが思わず下を向いてしまうと、アルデが助け船を出してくれました……!
「だ、だから待てって! べ、別にオレはティスリに怯えてなんかいないぞ?」
ア、アルデ……! まさかわたしを庇ってくれるだなんて……!
これまで、確かにちょっと……ちょっとだけ……ほんのわずかにごく微細ながらに、アルデに八つ当たりしてしまったことがあったかもしれませんが……なのに庇ってくれるなんて……!
思ってもみなかった展開に、わたしが言葉を詰まらせていると……不満げな表情でヒナカさんがアルデに言いました!
「え〜? でもさっきから、ティスリのことを怯えた眼差しでチラチラ見てたし……」
「お、怯えてはいないって!?」
「ほんと〜に? じゃあなんでティスリを見てたの?」
「な、なんでって……そ、それは……」
っと、そこで……
わたしとアルデの視線が合いました!
だからわたしは、思わず視線を逸らしてしまいます!
な、なんでしょうかこの気持ちは……! もはや、体中をくすぐられているかのように落ちつきませんよ……!?
そんな感じでうずうずするしかないわたしに代わって、アルデが真面目な顔で答えます!
「そりゃ……ティスリが言ったとおり、オレとティスリはその……こ、こ、こ──」
「だからなんでいつもそこで言い淀むのですか!?」
思わず悲鳴を上げるわたしに、アルデは決まり悪そうに言いました!
「いやだって、やっぱ恥ずかしいじゃん……?」
「わたしとの恋人関係が恥ずかしいと!?」
「い、いや……そういうわけじゃないけど……」
はっ! い、いけません……こうやってすぐ怒るから、ヒナカさんに付け入られるんじゃないですか……!
だからわたしは文句をぐっと飲み込んでから……押し殺した声で言いました。
「す、すみません……今のはその……本心じゃないというかでして……」
「あ、ああ……分かってるって……」
アルデが本当に分かっているのかは定かではないのですが、でも……
少なくとも、わたしに怯えているわけではなさそうなので、それが分かっただけでも安堵の気持ちが広がっていきました。
そんなわたしに、ソマさんが言ってきます。
「そうしたら……ティスリさんの恋バナも聞きましょう……!」
「えっ……!?」
「恋バナというか、アルデさんへの思いの丈というか?」
「そ、それは……!?」
そんなことを切り出されてしまい、わたしはアルデに視線を向けると……
アルデは、ますます決まり悪そうな顔をしていました……!
そんなに……わたしの気持ちを聞くのが嫌なのでしょうか!?
またぞろ不安がぶり返していると……ヒナカさんがニヤリとしていますよ!?
「おやおや〜? 正妻のティスリが、どうしてそんなに躊躇っているのカナ?」
「た、躊躇っているわけでは……!?」
「ならティスリも言いなよ」
「で、ですが……こういうのはやっぱり恥ずかしいじゃないですか!? 皆さんだって恥ずかしがってましたよね!? ソマさんは喜んでいましたが!」
「わたしも恥ずかしいですよ!?」
そのソマさんの訂正は誰も取り合わず、ヒナカさんが言ってきます。
「恥ずかしかったけど、それ以上にアルデへの想いが強かったからね〜? だから言えたわけだけど、あ、もしかしてティスリって、アルデへの気持ちがわたしより弱いとか?」
「そ、そんなわけないでしょう……!? アルデの恋人は、わたしただ一人なのですから!?」
「へぇ? ならアルデのどこが好きなの? どんなところに惚れたの?」
「そ、それは……!?」
ちらりとアルデを盗み見ると……
アルデも真っ赤になりながら、視線を逸らしまくって頬を掻いていました! さすがに本人のことですし、アルデもどう助け船を出せばいいのか分からない様子!
で、で、で、であれば……
どうすればいいのですかこの状況!?
姉妹の手前、恋人恋人言ってますけど……実際は恋人のフリなわけで!?
わたしの気持ちを今ここで話したら……
もはやアルデへの告白と変わらないのでは!?
ですが状況的に……
言わざるを得ません!?
「え、えっと……わ、わたしは……その……」
もはや顔が沸騰しているかのように熱いです!
ヒナカさんは、今にもからかってきそうですし、ソマさんは固唾を飲んでこっちを見ています!
そうしてアルデは……
アルデも顔を赤くしながら……
チラチラと、こちらを盗み見てきます!
「わ、わたしは………………!」
わたしは……わたしだって……
アルデのことが……
すごく……好きで……
気づいたのは、わたしを助けてくれたあのとき──内乱のときでしたが、でも本当は、それ以前から、わたしとアルデが王城を追放されて出会ったあのときから、わたしはアルデのことが気になっていて……
だからひどい誤解をしてしまい、アルデと決闘までしたというのに、そのことすらアルデは気にした様子もなく、いつもわたしの隣にいてくれて……
だから、わたしは……
「お〜い、ティスリ? どぉしたのかな〜? やっぱり言えないのかな〜?」
ヒナカさんのその揶揄する声で我に返り、わたしはなぜか涙目になっているそれをキッとアルデに向けました!
「言葉にせずとも伝わるのが気持ちというものなのですよ!?」
あ、ああ……またやってしまいました……!
わたしはどうして、こう……
素直になれないのですか!?
ということで、勝ち誇ったヒナカさんの声が聞こえてきます。
「そんな理想論だけじゃ、恋愛はやっていけないぞ〜?」
そのヒナカさんをなだめるソマさんの声も!
「ま、まぁまぁヒナカ……でも確かに、ティスリさんの気持ちはもの凄く伝わってきましたよ?」
「伝わってしまったのですか!?」
わたしは驚いてアルデを見ると……
アルデは……
「ま、まぁ……その、なんだ……お前の気持ちはよっく分かったぞ、うん……」
いやあれ、絶対に分かってませんよね!?
まず間違いなく「恋人のフリだからなぁ、思いの丈と言われても困るだろうさ」などと考えてるに違いありません!
間違いなく絶対に!
だからわたしは、アルデに──
「ア、アルデ……!」
「なんだよ……?」
「わ、わたしは……!」
「……?」
恋人のフリとして伝えたわけではありませんからね!?
──と言いたかったのに。
その言葉がどうしても出ないうちに……
やがてヒナカさんがノロケ話を再開して、ソマさんが勝手に悶え始めて……
結局のところ、わたしの想いはアルデに一ミリも伝わらないのでした……
(はぁ……わたしの気持ちがアルデに伝わるなんて、この先あるのでしょうか……)
もしかしたら……
ないかもしれません……!
人知れず落ち込むわたしを捨て置いて、その後も恋バナは勝手に続いてくのでした……

(番外編5に続く!)
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